第百三十七話 ふぁーすとえんかうんと
潮風を頬に受け……丘を降りていくとさっそく見えてきました集落が!
遠浅気味なのか、長く桟橋がかかり、その上に家が立ち並んでいる。
遠目にも人影がチョロチョロと確認出来、今までの集落同様50人は軽くいそうな雰囲気だ。
「とうとう来たな、海の集落だ」
「ふふん、良いところでしょう」
「別にお前が作ったわけじゃなかろうに……」
「なによ!うちの子達の仕事はあたしの手柄じゃないの!」
ジャイアニズム全開だわこの女神様……。
取り敢えず交流でもしてみようと、集落に近づいていくと、俺達に気付いたのか何人かがこちらに向かってやってきた。
男女……なんだろうな。片方は明らかに美人さんだし、片方は恐らくイケメンなんだろう。
ヒゲミミ村で慣れていたから良かったけど、やっぱこのいい加減な世界……疲れる……。
「お前らは……人か?魔獣ではないのか?」
声をかけてきたイケメン、やだ……とってもイケボ……。
青みがかった緑色の肌には細かい鱗が生えていて、頭には2本の角が見える。
俺知ってる!これドラゴニュートってやつだ!
「ああ、俺達は君達と仲良くなるため、自分達の土地からここまで旅をしてきたんだ」
「む、言葉が通じるようね。ねえ、ブレイクこれはやっぱり人なのかしら?」
やや失礼な感じのこの女性、サラサラとした桃色の髪の毛は柔らかそうで麗しく、その声はやたらと透き通っていて美しい。
清楚系キャラの声優なんかやったらいい感じなんじゃないかな……。
やや尖った耳であろう部分はモフモフとしており、背中からは立派な翼が生えている。
俺知ってる!これ鳥人族だ!
さっきから雲の数を数えるのに夢中なふりをしている女神からわかる。
ここもやっぱりダイスロールでいい加減に決めたんだろう。
「俺達はここに来る前にも別の土地に行ってきたんだ。マルリさん、ちょっとおいで」
「む、なんじゃ……おお、またもや不思議な姿の人達じゃのう」
「彼女はマルリさん、俺達とは別の土地に住んでいる人で、女性だよ」
「何?女は皆翼があるものだと思っていたが……そういうお前は男なのか?女なのか?どっちだ?」
ブレイクと呼ばれたドラゴニュートが俺の顔や背中をしげしげと眺め不思議そうにしている。
「ああ、俺は男だよ。俺達の土地は男も女も外見はそこまで変わらん。
ついてるかついてねえかだけだよ……って何いわせんだ!」
「はっはっは、成程な!脱がねばわからぬというわけか!おい、こいつ面白いぞ!悪い奴じゃ無い!」
「ったく、男共は下品で困るわね!あなた達、友好を結びに来たと行っているが、何か証拠はあるの?」
綺麗な声で詰め寄られると結構グッとくる。
しかし剣呑な空気になるのはいやなのでさっさと友好の印を見せよう。
「ああ、俺達は肉や野菜に様々な道具を友好の印に持ってきている。
君達の集落に着いたら出そうと思ってるんだ」
そう言うと、鳥人の女性は猫車をのぞき込み怪訝な顔する。
「しかし、中に乗っているのはだらしない女と子供達に魔獣だけではないか」
「ちょっと誰がだらしない女よ!」
「あ、パンさんは雲数えててねー、ほら、あっちの雲すごいねーきれいねー」
ややこしくなるのでパンを無理矢理なだめ、しょうが無いので証拠を少し見せることにする。
「俺達はちょっと変わった運搬方法を使ってるんだよ。そうだな、君達二人にはお近づきの印に菓子でもやろう」
ボックスから密かに開発していたハチミツクッキーを取り出して手渡してやる。
「む、今どこから出した?と言うかこれはなんだ?」
「変わった運搬方法って言っただろ。これは食い物だよ……ん、うめえ」
ポリポリと噛むと素朴な甘みが口に広がって本当に美味しい。
旅の途中に見かけた巨大な蜂の巣から奪った蜂蜜で試作してみたのだが、意外と行ける。
蜂蜜と小麦粉とサラダオイルだけで出来るお手軽レシピだ。
「香りは良いが……本当にこれは食い物なの……おい、ハンナ!もう口に入れたのか!?」
「ん……っふぁ……❤」
桃色の鳥人が桃色の吐息を漏らしちょっと身体に悪い表情をしている。
まったくそんな扇情的な姿は明るい時間には遠慮して貰いたい物だね!ふう……。
「ブレイク……これ……やばい……❤」
クッキーを20枚ほど袋に入れハンナと呼ばれた鳥人に差し出すとノーモーションでシュバッと受け取ってくれた。
餌付け成功だな。
その様子を疑い深そうに見ていたブレイクだったが、ハンナが2枚3枚と食べ表情を蕩けさせているのを見ているうちに我慢が出来なくなったのかとうとう口に運んだ。
「ん……っ うっま……❤」
……ドラゴニュートのトロ顔はあんまり……みたくねえな……。
パンはこういうのに興味は……うん、ハマったのか本気で雲を数え始めてる……。
いいんだ、君はそのままで居てくれ。
「はわわ……」
マルリさんがうっとりとした顔でブレイクを見つめていた。
む、婆さんそんな趣味があったのか?
「ユウ……わしにも……あれを……くれ……また食べたくなったのじゃ……」
良かった……やっぱマルリさんは花より団子だよね……。
マルリさんにもクッキー袋を渡すと、ルーちゃんナーちゃんや小春と分け合って一緒に蕩けた顔をして居た。
パンはまだ雲を数えていた。
このままだと暗くなるまでここでだらだらしかねないので、彼らの目を覚ますべく声をかける。
「で、どうですかね?俺はこう言うのを色々持ってきたんですわ。
あ、何か裏があるのでは?と疑われるのもいやなので先に言っとくと、俺が欲しいのは魚とか貝だからね。
あと、君達と仲良くなりたいってのも本当だよ」
突然俺がしゃべり出したもんだから、なんだこいつって顔をされたが、間もなく我に返ったようでごにょごにょと相談をはじめた。
「そうか、まあお前達から悪意は感じないし、そこの魔獣もお前の言うことを聞いているようだし」
「魔獣じゃないからね、俺はクロベエ、ユウの息子だよ」
「うお、しゃべった!?こう言う人間もいるのか?」
「ああ、クロベエは俺から産まれたわけじゃねえから。息子みたいなもんってこったよ」
「そうそう、俺の母ちゃんはちゃんと居るよ。ユウは俺を育ててくれた父ちゃんってだけ」
「むう、知恵もあるようだし、問題は無いか」
「そうね、まずは広場にみんなを集めて意見を聞きましょうか」
そして俺達はガタゴトガタゴト海の集落に案内されていくのだった。
そしてパンはまだ雲を数えていた。