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幼き世界に調律を  作者: 未白ひつじ
第7章
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第百三十五話 たびのはじまり

 ガタゴトガタゴト ガタゴト にゃー

 ガタゴトガタゴト ガタゴト にゃー


 俺達は大型猫車に揺られ、海へ向って道なき道をひた走っている。

 

 村長室に行き、一言「旅に出るんで、ほな」と言った時のキンタの顔ったらもう。

 くわっと目を剥いて、次にシゲミチをガッシリ掴んで痛い痛いと悲鳴を上げられていた。


 俺が居なくなるって言うより、またシゲミチを連れて行かれたらたまらないという思いでそう言う行動に走ったのだろうなあ。


「心配しなくてもシゲミチは連れてかねえよ(まだ)」


「おい、今ちっさなこえで『まだ』って言っただろ?なあ?言ったよな?」

「おいおい、気のせいだよ。まだ連れてかねえってば!」

「ほらみろ!やっぱりまだって言った!!!」


 要らんことを言ってしまったために宥めるのに時間がかかってしまった。

 シゲミチには後は任せたと伝え、困った時に開けるよう言付けて手紙も渡してきた。


 何かあった時でも彼らなら乗り越えてくれることだろう。


 

 現在走っている道は前回間違えて出発してしまった方向そのものである。

 もしもあのまま戻らず進んでいたら先に海に行っていたのかも知れないな。


 前回もそうだったが、集落間を繋ぐまともな道など存在しないので時折俺の出番がやってくる。

 なだらかな地形の場合は気にせずガタゴト進むが、あまりにも酷い場合は開拓キットで均しているのだ。


 将来的に旅に出るような物好きが現れた場合、俺が作った街道もどきは大いに役立つことだろうな。

 

 途中、綺麗な池を見つけた。

 丁度良くマルリさんのお腹が鳴ったので猫車を停め昼食の支度をする。


 車から放たれたクロベエとヒカリは小春を連れて近くの森に飛び込んでいった。

 まったく元気がいい奴らだなあ。


 ボックスから魔導コンロを取りだし、鍋を火にかける。

 湯を沸かす間に材料を細かく切っていく。


 トントントン、とトマトのような野菜を切る音にたまらずマルリさんがやってくる。


「ユウ、何を作っているんじゃ?先ほどからもう耐えられんのじゃ」


「もう少し待っててね、今日はスパゲティを作ってあげるから」


「聞いたか!ルト!ナル!すぱげっちいじゃ!」

「マルリちゃんスパゲティ好きだよねー!あたしもすき!」

「あれは旨いですからねえ……父上のは特に……」


「スパゲティかー、タバスコと粉チーズあるといいんだけどね」

「タバスコは兎も角粉チーズはまだ無理だなあ」


「今度買ってこよっか?」

「そうだな、なんかのついでに頼むよ。作る際参考になりそうだしな」


 パンは酒と食、そして楽をするための技術においては非常に協力的だ。

 気軽に日本に行って買ってくる姿を見る度なんとも言えない気持ちになり、軽くムカつきさえするのだが、煽てて上手く使えばこちらの世界で手に入れられない物をパシらせられるため我慢している。


 手早く簡易式のトマトソースを作っていく。

 予めとろとろに作っておいたトマトソースをボックスから取りだし、下ごしらえした挽肉や野菜と混ぜながら暖めるだけなので簡単だ。


 ミーンで作った生パスタも茹で上がったので完成だ。


「では、いただきます」


「「「いただきます」」のじゃ」

「はいはい、いただきますと」


 子供達が口の周りにソースをべっとりつけながら食べている。

 お行儀が悪いが、美味しそうな顔をして居るので叱らず拭き取ってやる。


「ご飯食べた後1時間くらい休んだら出発しよう。それまではこの辺りで遊んでな」


「「「はーい」」のじゃ」


 昼食後、パンはごろりと木の下で丸くなると尻をかきながらさっさと昼寝に入ってしまった。

 子供達は釣り竿を出せとせがみ、俺から受け取ると池に向っていった。

 見える範囲だし、普通の子供ではないから心配は要らないだろう。

 

 ……マルリさんだけ気をつけてみておくか。


 ガサガサという音に振り向くと、クロベエ達が獲物を咥えて帰ってきた。

 やたらと巨大なスズメにしか見えない鳥である。


「ユウー!これごはんとってきたから焼いてくれー!」

「見て下さいユウ様、小春もパンチしたのだぞ!」

「はる……ぱし!した!」


 そうかそうか、がんばったなと三匹の頭を撫でてやり製造キットで獲物を肉に変える。

 深く考えると微妙な気持ちになるが楽だから良いのだ。


 大きめの魔導コンロを取りだし、鉄板で鶏肉を焼いていく。

 しまった、マルリさんの様子を……と思ったが、ちゃっかりと小春の隣で肉の様子を見守っていた。


「もー、マルリさんはさっき食べたでしょう!」

「肉の誘惑は……ヤバいのじゃ……」


 俺に窘められ、ぺたんと耳を寝せるが、その視線から目を離さない。

 どうしたもんかと思っているとクロベエから優しげな声がかかる。


「マルリからは親しみを感じるし特別に少し分けてあげてよ」

「いいのかい?お前達のご飯なんだぞ」

「ユウ様、マルリの毛の色私と同じ、同胞だ。肉分けてやってくれ」


 やれやれしょうがねえな。


 肉を大大中小と切り分け、クロベエ、ヒカリ、小春、マルリさんの前に置いてやった。

 マルリさんはさっきパスタをたらふく食ったばかりだし、小でも十分だろう。


 旨い旨いと猫たちから上がる声を聞いていると、遠くから「ひっとおおおお!」とルーちゃんが上げた雄叫びが聞こえてきた。


 竿に獲物がかかったのか、やるじゃないか。


 間もなく、興奮気味のルーちゃんナーちゃんが獲物を連れて帰ってきた。


「ユウ!みて!これ!私が釣ったのよ!凄いでしょう!」

「姉様凄かったのですよ!こんな大きな獲物をザバりと!」

「いやあ、敵わんわ……ほんま。あ、君この子のお父さん?わし怪我したんやけど……キウリでええで?」


「……返してきなさい」



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