第百二十九話 家庭とは
ウサ族達が無事に家を完成させたので、後のことはウサ次郎達に任せて帰ることにした。
食事の心配はあったが、大工共が多少の料理は出来ると言っていたので、適当に幾つか食材を預けてきた。
そのうち畑をやらせて自給自足をさせる予定だが、何か商売をさせてみるのもいいかもしれないな。
なんてことを考えながら帰る途中、キンタに声をかけられた。
「ユウ、何処行ってたんだ?奥さんが子供連れて先に帰ってたみたいだが、喧嘩でもしたのか?」
そうだ、あいつは「飽きたわ」と一言言って子供たちを連れて先に帰ったんだった。
「ああ、ただ単に俺が働いてるのを見るのに飽きたらしい」
「ああ……なるほど……なあ、酒ってやつはまだ作れないのか?」
「ん?どうした急に」
「いや……なんつうかさ、お互いに苦労してんなあって思ったらふと酒のことを思い出してな……」
「ああ……そういう……。まだ作れないが、俺が持ってるからさ、今日は飲もうか……」
おっさん二人、夜の広場に腰掛けて乾杯である。
今日飲むのはマサモ酒、ツマミはスモークリブッカです。
「はあ……うめえなこれ……けど、ちょっとカアっとくるな」
「だろ?前に飲ませたのより強いからな。やりすぎると明日辛いぞ」
思えばキンタにはつらい日々を送らせてしまったからな。
もう少し早くねぎらってやるべきだったな。
「ほら、これも美味いから食ってみ」
「お、肉か?干し肉とはまたちょっと違う……うめえなんだこれ!」
「下味をつけた肉をな、煙で燻したんだよ」
「いぶした?わからんが、なるほど煙か。へえ、煙でこんな味がねえ」
「桜みたいな木を見つけたからさ、今度はそれでやってみましょ」
「お、いいねえ。桜のチップは定番だしな」
「でもこれも美味しいわね、いくらでもマサモが飲めちゃう」
「だなあ、ユウ、これほんと美味いよ。マサモとか言うのと凄く合うぜ」
「うし、今日は男二人とことん飲もうぜ」
「「「おー!」」」
ん?
「ほらほら、ぐっとあけてぐっと!」
「へへ、すまねえな おっとっと……」
「うーん、俺の気のせいじゃなければ貴方はパンさん?」
「私の気のせいじゃなければそうですね、パンですよ」
「いやいや、なにしれっと混じってんだよ!子供たちはどうした?」
「あ!!そうだ!あんた馬鹿!馬鹿!馬鹿!じゃなくって、馬鹿よ!」
「なんだよ!馬鹿しか言ってねえじゃねえか!」
「あのほら、ご飯よ!ご飯も作らないで何処ほっつき歩いてんの!
探しに来てみればキンタと飲んでるしさ、しょうがないじゃない!
お酒あったら飲んじゃうでしょ!」
「お前はカブトムシかなんかかよ……」
なんてやり取りをキンタが複雑な顔をして眺めていた。
「なによ?」
「なんだよ?」
「ん?ああ、わりい。いやさ、ユウんとこ、奥さんじゃなくてユウが飯作ってんだなあって。
なんだか俺ばっかり忙しくてなんだよ!って思ってたのが馬鹿らしくなってきたぜ……。
ん、今日はありがとうな、ユウ!お前はそのなんだ、いつか俺が酒を奢ってやるよ……」
なんだかわからない内に何だかわからない同情をして何だかわからない内にキンタは帰っていった。
「……」
「……」
「……帰ろっか……」
「ええ……」
微妙に気まずい感じで家まで二人並んで歩き、扉を開けると子供たちの声が飛びかかってきた。
「ユウー!おなかすいたよー!」
「父上ー!待ってましたぞ~!」
「そうじゃー!父上わしは腹がへったのじゃー!」
いつの間にマルリさんの父親になったのかは知らんが、まあいいだろう。
「よし!急いでご飯にするから待っててくれ!」
食パンを4斤取り出し、中身をごっそりくり抜く。
くり抜いたパンを一口サイズのさいの目に切ったらパンの中に戻し、ボックスから出した熱々のシチューを入れる。
そして女神秘蔵のとろけるチーズを上に乗せたら魔導オーブンにイン!
軽く焦げ目がついたら即取り出して……
「おあがりよ!」
「わあ!なにこれ!パンまるごとだ!なにこれ!」
「ジュクジュクいってますよ!ジュクジュク!」
「熱い!熱いのじゃ!熱い!」
「ふーふーして食べな!」
「んふ、私の、チーズを、あち、取ったのはゆるさ、あっち!でも、おい、あっづ!」
「一通り食ってから喋れ!何言ってるかわかんねえ!」
これぞパングラタンだ。
とっくに店を畳んでしまったが、昔行きつけだった喫茶店で出していた看板メニューだ。
本当はシチューじゃなくてホワイトソースにマカロニを入れて作るんだけど、これはこれでうまかろう。
ちなみに俺は酒を呑むので、自分用のは作っていない。
ニコニコと団欒の様子を眺めているだけでお腹が膨れてくるってわけよ。
あーしかし、グラタンかあ。
そろそろ乳製品や海産物、それに米もほしいよなあ。
パンに頼めば買ってきてくれるけど、それはちょっと違うしな。
なんか知らんが、都合がいいことにマルリさんがくっついてきてるし、近いうちにシズクを呼んでこっちで村長会議をやっちまおう。
んで、色々片付いたらまたちょっとの間旅に出て目当てのものがある集落を探すことにしよう。
場所はどうせパンが知ってるだろうし、今なら喜んで教えてくれるはずだ。
うし、そうと決まればやることリストを作ろう。
そして其れが埋まったら……旅だ!
何だか久々にワクワクすっぞ!