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第十三話 はじめての遠出


 今日は集落に行く用意をする日だ。


 遠征の前にと、午前のうちにヒッグホッグを数匹と、三ツ目のオオカミ、「フォルン」をいくつか狩った。


 前にパンちゃんが「肉が臭いので魔石だけとるといい」なんていうから今まで自分で適当に処理をしていたのだが、図鑑に登録をしてなかったし、なによりしなくて良いならツールに任せようと解体ツールを使ったところ肉、毛皮、そして角と魔石に別れた。


 図鑑の説明を見ると……


 魔獣:フォルン 一応可食 無毒

 肉は臭く、よほどのことが無ければ食べない方が好ましい。

 毛皮は衣類の素材として好まれ、角も薬の材料として重宝されている。


「あの!今までずっと魔石だけ抜いてポイしてたんですが!?」


 本人が来るかと思ったがメールである。肉の気配がないとこれである。


『え?だってお肉まずいですよね?』


「あんた肉しかみてなかったんだろ!」


『だってお肉は大事ですよ?』


 ダメだこの人。 いや、神か。


 素材は交換に使えるかもしれないし、俺も使うかもしれないのできちんと回収してきた。

肉はどうしようか迷ったが、クロベエがこれはこれで食いたいというのでそれも回収した。


 まあなんにせよ無駄にならないのはありがたいな。


 というわけで、今回は肉を中心として交換をしようと思う。毛皮や角の素材は集落の雰囲気を見て使いそうなら出してみる。山菜やキノコなどもあるが、それも様子をみてだな。



 ◆◇◆



「で、なんでそんな物を作ったのかしら?」


 いつの間にか現れたパンちゃんがさっき俺が作った物を眺めている。


「ん?荷車かい?物を運ぶにきまってんじゃん」


「それはわかるけど、だってほらアイテムボックスがあるじゃないの?まさかあんたが乗るつもり?」


 馬鹿だなー!この女神!馬!鹿!だなあ!乗るって発想がまた!お!ば!か!だ!な!」


 ここぞとばかりに言ってやる。


「ばっ ばっ ばっばばっ!?」


「馬鹿だよあんた!念のために聞くけど、アイテムボックスってこの世界では一般的な道具なの?」


「え……そんなわけないでしょ……そりゃあ、空間術を使いこなせるまで文明が発達すれば作れなくはないだろうけど、今の所はそれは無理。それでもあんたに与えたレベルのストレージを再現するのは難しいんじゃない? ふふん!まさに加護の賜物よ!あんたはもっと私に感謝するがいいわ!」


「……(ちっ)だよね。じゃあさ、俺がいきなり集落に行ってさ「肉ですよ」と、ででーんとスマホから次々と肉を取り出したらどう?」


「多分気持ち悪がられるか、拝まれるか、刺されるか……」


「だよね、え?刺すの……?そんな物騒な人たちなの……」


「刺されるのは大げさだけど、そうね……なるほど迂闊だったわ」


「だからさ、荷車をクロベエにつけて運ぼうと思うんだよ」


「おれ 馬のようなまねするのか……猫なのにな、変だなー」


「後で肉やるから」


「おう!がんばる!」


 魔獣が荷を引いて現れるのを見て、それはそれで驚かれるかなって思ったけれど、そんときゃ『おとなしい珍獣ですよ!噛みませんよー』と押し切りゃいいだろ。人畜無害そうな顔してるし平気だとおもいたい。


 明日は集落から日帰りする予定でスケジュールを組み立てていたが、今日まで結構あちこち回ったのに、未だ人の気配を感じたことはないあたり到着まで1泊はかかる距離だろうと推測する。

 

 なので念のために数日分の食料と、皮を素材としたテントと寝袋を用意した。 


「出かける俺は良いが、残していく家が心配だよな。留守中、魔獣に家を壊されてたらやだな……」


 というわけで、家の防衛力も上げておく。元々掘っておいた堀をさらに広く深く掘り下げ、フォルンが迷い込んでも家まで辿り着けないようにした。家をぐるりと取り囲むように掘ったのを見て女神が腹を抱えて笑っていたが、あいつはばかだな。


 俺達の出入り用にちゃんと取外し可能な橋を作ってあるっつーの。出かける時に収納しておけばこれ以上無い護りになることだろうて。


 ……空から来られたらどうもこうもねえけど、今の所そんな器用な魔物と出会えてないので、その心配はないと思いたい。


 それともう一つ作った物がある。


 木と魔鉄鋼で作ったスマホホルダーだ。


 タダのホルダーでは無い。長い棒になっている特殊な形状をしたホルダーで、なんというか自撮り棒みたいな感じで先端にスマホをつけられるようになっているのだ。


 いざというときは先端にスマホをつけ、槍のように突き刺す。そのための形状です。

 

 パンちゃんにバレたらめんどうなので『なにその変な棒』と聞かれた時には焦ったが、ノリで『調理器具だよ』と言ったところ……

 

「あー!バームクーヘン作るやつね!小麦っぽいのもあるからいけるわね!」


 なんて犬のような顔で喜んでいたからちょろいもんだ。


 

 そんなこんなで忙しく動いていたらあっと言う間に夕方だ。今日もまた、当然のように遊びに来ていたパンちゃんが、これまた当然のように夕飯をねだるので、まあ、しょうがねえなと初の遠征に向けての宴会をすることにした。


 宴会料理ーといっても、色々と乏しい我が家では限界がある。よって、今日はリーゼとヒッグホッグの鍋にした。


 醤油が無いのが残念だが、ムックルでだしを取ったスープを塩で味をととのえた肉鍋はそれなりに悪くは無い味わいで……自賛してしまうけど中々に美味かったよ。


 ぱんちゃんが「特別よ」と取り出したプレミアムビールで乾杯し、宴会の夜は更けていった……。



◇◆◇



 ガラガラ ガラガラ ゴトゴト ゴトゴト


 荷車を引き魔獣が行く。


 街道なんて無いので荷車が揺れまくって酷いものだ。

 集落の人と仲良くなったら街道でも作ろうかなあ……。


 はじめはクロベエの背中に乗っていたが、荷車の振動が伝わってきて気持ちが悪くなったため降りて歩いている。あれだな、異世界入りした連中が受ける洗礼、馬車の揺れってやつあるじゃん。多分それより大分酷いぜこれは。


 馬でも見つけたらサスペンション付き馬車なんか開発したいところだね。


 うちの敷地からしばらく歩いたが、北海道かよ!牧場かよ!ってレベルのだだっ広い草原が広がっているだけで集落がある気配が無い。


 スマホを取り出し時計を見ると午前11時だ。出発からかれこれ3時間は経っているが、煙すら見えないのはどういうことだろう。


 この辺りの地理に詳しい者を呼ぶ呪文を唱える。


【あっ 肉だ】


「ん?肉?どこどこ?」


 女神降臨


「ねえ、集落全然見えないんだけど」


「肉は?肉!」


「……後であげるから!で、近場に集落あるんじゃないの?」


「あるわよー ほら、向こうに森が見えるじゃ無い?あの森を越えた先よ」


 森だと言われたものは遠くにうっすらと見える物のことだろうか……。思った通りこの頭が気の毒な女神様が言う『近所』というのは、一般的な思考を持つわたくしが言うところの『近所』とはやはりかけはなれた感覚で表現したものだったようだ。


 どう考えてもかなり遠くにある森を見て早くも帰りたくなってくる。


 これでさーせめてファンタジーらしい面白い景観ならいいんだが、タダの草原だよ? 遊びに行った高原の牧場って感じの日本でもその気になれば見られるような景色だよ?おもしれーわけねえじゃん!


 それでも時折角が生えたうさぎとか、良く分からん色したトカゲなんかがちょろちょろしているのが見えて、申し訳程度に異世界感を演出してくれて入るが、それ以外は普通の草原だ。この延々と続く牧歌的な景色にいい加減飽きてきた。


「あーーーー!!!!!帰りてえ!拠点に帰ってクラフトしてえ!」


「にぐるま ひくの あきたぞー!」 


 草原に一人と1匹の声がむなしく響いていく。


「肉はーーーーーー!!!!?」


 この女神はこればっかだな!もう帰れ!


 そんなこんなで草原では特に盛り上がることも無く、森の入り口に着いたのは日が暮れる頃だった。

 

 夜中に森を抜けるなんて怠いし,何より腹も減ったので森から少し離れた地点にテントを張り、そこをキャンプ地とした。



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