第百二十五話 住宅地の用意
キンタに住宅地を建てたい、と言うようなことを説明するとノーモーションで承諾された。
寧ろそこら中にテントがあって困っていた、とのことで。
「ユウならその辺もちゃんと考えてくれていると信じていたよ!
やるならさっさとやってくれ!もう、ばーっとはやく!」
なんて無茶なことまで言う始末だ。
まあ、そこまで無茶じゃないが、今回は村人達にも手伝って貰うからな。
さて、材料は兎も角として人材はタダではない。
よって家を建てる費用について考えねばならないのだけど、それはもう案がある。
「シゲミチ君、ちょっとこっち来たまえ」
「ユウさんがそう言って呼ぶ時って面倒な事言うんだよなあ……」
実際そうなのだが、この手の仕事はキンタじゃ無理だからな。
多少仕事が増えるがこれも村のため、頑張って欲しい。
「そう難しい話じゃないよ。俺がこれから建てる家の管理についてだから」
そこまで言うとさらに嫌そうな顔になる。
だから面倒じゃないって!
シゲミチにお願いしたのは村営住宅についてだ。
家の建築にかかる人件費は村の費用から作業員達に支払われる。
それを補填するのは住人。
家に住む者から毎月いくらかずつ分割でそれを返済して貰うわけだ。
つまりは家賃と言うことになるわけだが、従って自分で家を建てて引っ越せばその義務は無くなる。
それを引き継ぐのはその後入居した住人というわけだ。
お金を稼ぐ方法はいくらでもある。
というか、いざとなったらダンジョンに行けば(肉体的には)安全に稼ぐことだってできるわけだ。
家賃の取りっぱぐれもないし、支払いが終われば家賃収入はそっくり村の利益となる。
そしてその村の利益は村に還元され、村の施設が充実していくと。
村の規模がもう少し大きくなったら町にする事も考えている。
その頃には税金制度を設けて少しずつ全体から貰うようにシフトしていけば良いだろう。
税金と聞くと嫌な気分にならんでもないが、施設を作ったり、整備をしたり、補修をしたりと言う部分に使う金の調達は必要だからな……。
シゲミチには職人への支払いと、大家さんの仕事をして貰えばそれでいいのだ。
なんなら誰か管理人を村の金で雇っても良いと伝えて置いたので、表情は多少明るくなった。
と、いうわけで許可も下りたので下準備にやってきました。
新たに住宅地にするのは村の中心からやや離れた所の土地である。
畑も作りたいので、その分を残して遠慮無く平らにしていく。
スマホを使ってサクサクと均し、村に繋がる道も作っていく。
俺が作る予定の建物は所謂アパートだ。
木造二階建てのアパートをワンルーム、1DK、2DKと三種建てる予定だ。
ワンルームは単身者専用物件、1DKは夫婦専用、2DKは三人以上の家族専用と分けて建て、家賃は一律にする。
広い部屋に住んで家賃が同じというのは不公平な気がせんでも無いが、そう言うものだと強引に思わせる作戦だ。
文句があるならダンジョンで稼いで家を建てれば良いのだからな!
俺が建てるのは2DKで、残りは大工と妖怪……に頼もうと思ったのだが、あいつらがそこまで言うことを聞くとは思えなかったので、ウサ族の男達を呼んでこようと思う。
ウサ族なら手先は器用だし、家を建てるのにも慣れている。
大工達と交流して互いに得るものもあるはずだ。
ウサ族への報酬は俺が別途出すことにすれば村への負担も減るしな。
となれば、後は資材調達だな。
◆◇◆
今日は女神の森()ではなく、別の森に来ている。
理由は特にないが、変わったものが見つかれば嬉しいなくらいの簡単な理由だ。
その変わったものが見つかった時のためにルーちゃんを連れてきているが、勿論ナーちゃんとマルリさんも付いて来ている。
その魔獣は特に居なかったようで、3人仲良く森で遊んでいるわけだが、まあピクニックと思えば悪くあるまい。
「じゃ、俺は俺の仕事をするか」
もうスマホをブチ投げるという真似はしない。
あれをやるのはストレスが溜まっている時だけだ。
周囲の木をスマホで捉え「収納」ボタンをタップする。
これだけで木が「木材」等の素材として保存されるんだから楽勝だ。
「そうそう、はじめっからそうやって使えば良いのよ」
現場監督のように偉そうに見ているのは奴だ。
置いていくとうるさいから連れてきたが、手伝いもせずだらだらと俺が働く様子を見ている。
ったく、汗水垂らして働く俺を前によくもまあ、茶なんか飲めるもんだ。
「なによ!スマホ弄って汗水なんて垂れるわけないでしょ!文句言わずにやりなさい!」
「急に心読むな!」
畜生、暇だからってたまに心を読むのは辞めて欲しいぜ。
……まてよ。
はあ、しかしアレだなー、こうして楽に作業できるってのはほんと助かる。
考えてみればこれをもたらしたのは女神様であるパンのおかげだよなあ。
一見だらしなくて口うるさい従姉妹の姉みたいなパンだけど、見た目はまあ可愛いし、実は俺のことを気にかけてるのか知らないけど、困っていれば助けてくれるし。
今日森に来たのだって心配してきてくれたんだろうな。
ああ、俺は幸せだなあ、可愛い女神様と可愛い子供、幸せすぎて腹筋が痛いよ。
見る間にパンの顔が赤くなっていくのがわかった。
途中から耐えきれなくなったのか、子供達の方に向かったのを見るにずっと心を読んでいたに違いない。
はっはっは、心を読むとろくな目に遭わないと理解した事だろう!
……しかし我ながら恥ずかしいことを考えてしまったな……。
きっと俺の顔も耳まで真っ赤になっていることだろう。
「……ねえ」
「うわっ!びっくりした!急に戻ってくんな!」
声に驚き振り返ると赤い顔をしたパンが立っていた。
行動が突然でほんと心臓に悪い。
「あのさ……あんたさ……」
またこのパターンでしめる気か、良いだろう。甘んじて受け入れてやる。
「ああ、なんだよ」
「うん、気づいてないみたいだから言うね……」
「おう!」
「もう木が一本も残ってないわよ……」
「あっ!」
その日一つの森が消えた……。