第百二十四話 誤解
誤解を解くのにとっても苦労した。
ナーちゃんに関しては、
「生活が大分楽になったので実家から連れてきた」
と、誤魔化してマーサを軽く泣かせたが何とかなった。
「そっかそっか、良かったねえ、これからは家族皆一緒だねえ」
なんていう姿を見た時は少し胸が痛んだが、まあ良いことにしよう。
問題はマルリさんだ。
「で、こっちの子……じゃなかった女性はマルリさんといって、うちの子では無くて……」
まで言った瞬間マーサのお説教が割り込んだ。
「いいですか、ユウさん。どのような経緯であっても子供は子供です。
きちんと認知してあげればどんな素性であっても……」
始めはこのような具合で諭すように静かに静かに説教をしていたが、
「ですから、マルリさんは子供じゃ無くてですねえ」
と言ってしまったらスイッチオンだ。
「だから!認知してあげなさい!それが子供にとっての、親にとっての幸せでしょう?
パンさんを見なさい!きちんと認知して楽しそうにお茶をしているじゃないの!」
いやそれは怒られてる俺が面白くてニヤニヤしてるだけだと……。
なんて、思ったがそれを言ったら話は終わらない。
なんとか「子供じゃない」の意味を双方で違う捉え方をしていると言うことに気づいて貰おうと努力をしたが、何を言ってもねじ伏せられてしまう。
キンタ、後で旨い酒を飲もうな……。
結果的に何事かと村長室からシゲミチが降りてくるまでそれは続いた。
始めはそのシゲミチすら信じておらず、
「ユウさんからそう言うように言われたのね?」
なんてより怒りを深めていたが、通りかかったザックによる弁護で漸く疑いが晴れた。
……まだちょっと視線が冷たいあたり、完全に信じていないのかも知れない。
まあいいさ、村の用事が済んだら一度温泉に招待しようと思っていたし、ヒゲミミ村に行けば嫌でも納得してくれるだろ……。
◆◇◆
ゆっくりする空気でも無かったので、さっさとキンタハウスから撤退し広場に移動した。
数日間は村に滞在して色々と作業をするので小屋を建てるのである。
これに関しては既にキンタから承諾を受けている。
「滞在用の小屋を建てる?ああ、いいぜ!村の恩人なんだ、家くらい好きに建ててくれ。
場所は前にユウが滞在してた場所で良いと思うぜ」
なんて言ってたので、以前キャンプをはった場所に遠慮無く小屋を建てた。
図面を引くのが面倒だったので、自宅を建てる時に使った図面を流用したためほぼ同じ物だ。
ザックやモルモル達の活躍により既に下水道は配備されているので排水はそこに繋ぐ。
上水はどうしようかと思ったが、風呂を建造する際に水道もざっくり敷設していたらしいので、遠慮無くそこに繋がせて貰った。
間もなく、新たな家が建ったと聞きつけたモルモルが駆けつけ住み着いてくれたのでこれで上下水道はバッチリなのだ。
「なんだ、家と同じ作りじゃないの」
だらしなく広場の椅子で昼寝していたアレが目覚めたようだ。
手伝いもせず涎の噴水と化していたくせに言うことだけはいっちょ前だ。
「小さいながらも住みやすいからな、ここでも同じ環境にしたかったのさ」
「いいんじゃないの?何だかんだで愛着ある我が家だし、リラックスできていいじゃない」
ニコニコとそんなことを言いながら、何処からかソファを出してどっかり座った。
なんだ、珍しく褒めてんのかこれ?
あいつがあの家を気に入ってるとは思わなかったが、まあ悪い気はしない。
……次々と家具を取り出してるぞこいつ……。
なるほど、自分が快適になるためには労力を惜しまないってわけか。
それなら……。
「ちょっと村の視察してくるよ。人が増えて変わったこともあるだろうしさ」
「ん、そう?ルーちゃんナーちゃんマーちゃんはリットちゃんと遊びに行ったし、私はここでまったりしてるわ」
「ん、お前さんも疲れ取るじゃろうし、今日はゆっくり休んどくれ」
「何お爺ちゃんみたいなこと言ってんの……まあいいわ、そうさせて貰う」
ちゃっかりマルリさんも子供みたいに呼んでるが、まさか帰さない気じゃ無かろうな……。
ともあれ、こうやって家に設置しておけば勝手に内装を整えてくれることだろう。
俺から言えば直ぐに「いやよ!」とかいって拒否するのは目に見えている。
こうして話している間にも冷蔵庫を出したり、テーブルを出したり好きなように家具を設置している。
きっと帰ってくる頃には風呂まできっちり設置して湯上がりのビールを飲んでいることだろう。
心を読まれる前にそそくさと家を飛び出し、村をウロウロする。
建物自体はそこまで増えていないが、あちらこちらにテントが見える。
越してきたは良いが家を建てる余裕がないのだろうな。
テント生活も悪くは無いと思うが、衛生面を考えるとなんとかしたいところだ。
土地は有り余ってるし、キンタに話を通して開拓でもして見るかね。
畑と土地を俺が開拓し、家は大工や妖怪に建てて貰う。
大工には給料を払えば村で回るし、妖怪にはキウリでもやっとけば角はたたんだろ。
明日にでもキンタとシゲミチに相談してみることにしよう。