第百二十三話 はじまりの村リターンズ
ガタゴトガタゴト……
二頭引きの大きなワゴンに揺られ村を目指す。
以前はまったく人影が無かった森から家までの道なりも今では多くの人達とすれ違う。
"冒険者”が増えたらしい。
今のところダンジョンに入れるのは狩人のみ。
現在村にはその狩人になるためあちらこちらの集落から人々がやってくる。
やってきた人達はキンタの許可を得て村の狩人として登録され、次回からダンジョンへ行けるようになる。
今までは村の狩人は多くは無かったため、一度に来るのはせいぜい4人でその頻度も数日おきだったが、今では人数が増えたため、日に2度交代人員がやってくるようになったようだ。
狩人達もただダンジョンを目指すのでは無く、少しずつではあるが道の整備をしてくれているようで、以前より街道らしくなっていた。
暇な妖怪どもをキウリ等で釣って街道整備をさせるのも悪くは無いかもしれんな。
はじまりの村に着くと、先触れが行っていたのかキンタが入口で待っていた。
御者台に腰掛けている俺に気がつくとこちらに向かって駆けだした。
「ユウウウウウウウウウウ!!!!」
涙ながらに駆けよるキンタ。
俺も腕を広げ、それを受けと……めずに左に避ける。
ブウンという音と共にキンタの腕が空を切る。
「くそ!避けやがったな!」
「避けるだろ!何すんだよ!」
「俺のシゲミチをいつまでもいつまでも返しやがらねえで!
ここ数日ろくに寝てねえんだぞ!ユウのせいだぞ!」
「逆に考えろ、俺がシゲミチを連れてきてやったんだ、寝れるだろ?
ああ、俺の権限で報告をしたら今日は休んで良いことにするからさ、な?」
「ユウ……すまん!俺が悪かった!やはりお前は良い奴だなあ!ううっ……
シゲミチもザックも良く帰ってきてくれた……皆待ってたぞ……」
単純な奴は好きだぞ俺。
ワゴンを村に乗り入れ、村役場の前に停めた。
「よし、皆付いたよ。マーサやリットに挨拶しておこうな」
「「「はーい」」」
馬車からゾロゾロと子供達とパン、それにシゲミチ達が降りてくる。
皆降りたのを確認し、ドアを開けて声をかけた。
「こんちわー、ユウです!ユウが来ました!」
「ああああ!!やっと帰ってきたあああ!!シゲミチも居るんだよね!」
弾丸のように飛んできたのはリットだ。
この子は小さいながらもキンタの仕事を手伝い……いや、キンタに仕事を手伝わせ今日まで役場の仕事を賄っていたと聞いている。
「ああ、居るよ。ごめんなリット、それにマーサも。ちょっと手紙に行き違いがあってね、帰すのが遅くなっちゃったよ」
「そっか……そういう事ならしかたないよね。うん、帰ってきたからいいよ!」
しれっと俺のせいじゃないアピールをする。
「お土産もあるし、シゲミチと交換にお母さん連れてきてくれないかな?」
「うん、わかった!ほら、シゲミチ行くよ!」
「は、はい……!」
どっちが年上かわかんねえなこれ。
……あの様子だとしばらくの間彼の顔を見ることは無いだろうな……頑張れ……。
マーサもきっと少なからず怒っているはずだ。
ここは先手を打つ必要がある、そうお土産だ。
といっても、ヒゲミミ村の特産品で女性受けする物は特にない、ないがそれは未加工の場合だ。
「ルーちゃん、用意しておいて」
「うん、わかった!」
間もなく二階からマーサが降りてきた。
俺の顔を見ると冷たい笑顔を向ける。
やっぱりめっちゃキレてるなこれ。
キンタのアホが使い物にならねーのが悪いんだぞ!
「遅くなって申し訳なかった!マーサとリットには多大なご迷惑をおかけしてしまって!」
「あらあら、いいのよそんな……村長の妻ですから……ねえ?」
全然いいのよって顔してないぞ……。
これは『あらあら(その分のお礼は用意してるんでしょう?なら)いいのよ』という意味だ。
ここで俺は奥の手を出す。
「ご迷惑をおかけしたお詫びとして、今度村で売り出そうと思っている新商品を差し上げようと思ってるんですが、どうでしょう!」
「あらあら……あらあら……別に……ねえ?」
「まあまあ……まあまあ……今後の付き合いもありますし……ねえ?」
「うふふふふ」
「はっはっは」
和解が出来たようなので誠意を形で見せようか。
「この家には家と同じようなキッチンを作りましたよね、場所空いてますかね」
「キッチン?ええ、そこの箱をどければ……」
野菜がいくつか入った箱が置いてあったのでボックスを経由して別の場所に移す。
こうすれば重たい思いをせずに済むからな。
そしてボックスから扉が付いたやや大きめの箱を取り出して設置する。
それを見た瞬間のマーサときたら!
「まあ!これはもしかしてもしかして!」
氷が溶け春が来たかのような笑顔である。
もう、おわかりのようですな。
「ええ、魔導冷蔵庫ですよ。お詫びに設置しようと思うのですが、ちょっと仕様にクセがありましてね」
「クセ?なにかしら?」
「魔石を使った冷蔵庫はまだちょっと量産が難しいんで、簡易式のを今回売るんですよ」
「魔石を使わないと言うのなら、寧ろ大歓迎ですけれども、一体どんなクセが?」
「まあ、もう村でも慣れている人が多いとは思いますが、驚かないで下さいよ」
ルーちゃんに目配せをし、こっそりアイスモルモルを召喚して貰った。
「コイツを使うんです」
「あら、モルモルじゃないの。これでどうやって冷やすのかしら」
アイスモルモルを箱の上段にあるモルモル置き場に設置し、扉を閉じる。
一分ほど待って貰って、マーサに扉を開けるよう指示を出した。
「まあ、ヒンヤリとした空気が出てくるわ?どうしてかしら?」
「今入れたのは新しく作ったケモミミ村……じゃなかった、ヒゲミミ村周辺に住むアイスモルモルという種類のモルモルなんですよ。
アイスモルモルは周りの熱を奪って冷やす能力があるため、こうして空気を冷やせるんです。
勿論、きちんと話は通してありますので、危険はありませんし、一方通行にはなりますがこちらの言うことも伝わりますよ」
「それなら安心ね!ご飯はどうすれば良いの?」
「基本的に暖かい空気を吸収できれば満足とのことだけど、たまに余り物を上げると喜ぶと思いますよ」
一通り説明が終わると、マーサは早速嬉しそうに野菜や肉を収納していた。
この冷蔵庫は優れもので、モルモルに「もう少し冷やして」とか「冷やしすぎ」とか言えば温度調節をしてくれるのだ。
俺も何だか満足したのでリビングに戻った。
ザック達は挨拶を済ませそのまま帰ったらしく、幼女軍団とパンがリットと女子会をしていた。
「あ!ユウさん!聞きたいことが!」
リットちゃんは幼いのに好奇心旺盛だし頭も良い。
知りたいことがあればどんどん質問をしてくる辺り、将来がほんと楽しみだ。
なので俺も爽やかな笑顔でそれに答えるのさ。
「どうした?リット、知識は宝だ。聞きたいことがあればどんどん聞いてくれ!」
「うん、あのね!」
「ああ、なんだい?」
「いつの間に子供を二人も作ったの?」
リットが指さす先にはルーちゃん、そしてナーちゃんとマルリさんが楽しげにお茶を飲んでいた。