第百二十二話 帰宅そして帰宅
衝撃の村誕生から1日が経ち、俺達は懐かし……くもないな、この間来たし……。
ともかく、我が家に戻ってきていた。
ついこの間もやったのであまり特別感はないが、ちゃんと帰ってきたぞ記念に水入らずでお食事会をしている。
とは言え、明日にはまたはじまりの村に向かわねばならない。
つかの間の帰宅、というわけだな。
今日のメニューは真・ハンバーグカレーだ。
パンにおねだりをしてコメを買ってきてもらったのだ。
いずれはこの世界で見つけなければいけない重要な食材、コメ。
子供たちにもその味を知っておいてもらい、重要性を身をもって味わい、より真剣に探してもらおう……なんてことはなく、ただ単に食いたかっただけだよ!文句あるか!
ごはんを初めて食べる子供たちはどんな反応をするのか気になった。
外国人にはご飯が炊ける香りが悪臭に感じる場合もあるとか、日本風に炊き上げたご飯の食感が受け入れられないとか聞くからね。
しかし、カレーが良かったのか皆嬉しそうに食べている。
「やっぱカレーはご飯よねー。カレーライスって神の食べ物だわ!私に相応しい!」
「美味しいね!うん、わたしごはんのが好きー!」
「そうじゃのう、そうじゃのう!うまいぞユウ!おかわりをくれ!」
「ち、父上!私にもください!」
「はっはっは、慌てなくてもまだ沢山あるぞ。ゆっくり食べなさい」
パンは良いとして、子供たちが喜んでいるのがとても嬉しい。
やはりカレーは鉄板の料理だな。
「じゃ、子供たちをお風呂に入れてくるから、あんたはツマミ用意しといて」
バカが子供たちを3人連れて風呂に向かった。
何様だっつーんだ!女神様か……。
既に女神の威厳というのは失われているが、まあ世話になってるしな。
今日は特別にうまいツマミを作ってやるか。
香辛料と醤油で作ったタレに小一時間ほどつけておいたヒッグ・ホッグの肉を焼く。
香ばしい香りが漂い、飯を食ったばかりだと言うのに喉が鳴るわ。
火が通ったら短冊状に切って、上からネギっぽい野菜を散らす。
生姜焼きのようで生姜焼きじゃないけどそれっぽい味がするNIKU料理の完成だ。
これはアイテムボックスに収納して冷めないようにしておく。
湯上がり直ぐ、増して食後にこれは流石に重いからな。
取り敢えず茹でた枝豆でも出しときゃ文句言わんだろ。
「はー!いいお湯だった!」
「ユウーお風呂開いたよー!」
「オンセンより狭いがここのフロもいいのう!」
「父上もごゆっくりお休み下さい」
いいタイミングで皆上がってきたな。
子供たちも皆湯気を立ててポカポカしている。
うし、俺もひとっ風呂浴びてビールだビール!
「取り敢えず食後だし、枝豆でも食っててくれな」
「おっ気が利くじゃ~ん。てことは他にあるんでしょ?
さっさと入ってきてそれも出しなさいよ」
「へいへい、じゃいってくら」
ふー。
風呂は良い。色々なものを溶かしてくれる。
疲れ、ストレス、大事なこと……全て湯に溶け込み消えていく……。
ヒゲミミ村では色々なことがあったな……。
小さいヒゲに小さい耳……そして耳……。
そのどれもが懐かしいよ……帰ってきたばかりだけど。
雪原で遊んだ日々……
温泉につかった日々……
ここではまるで夢物語のようだ……これからもチョイチョイ通うけど。
明日ははじまりの村か。
様子も見たいし、用事もあるから行くっちゃ行くんだが少々気が重い。
ナーちゃんだ。
いきなり子供が増えている、其れをどう説明するか。
……。
実はもう一人居ましたー!でいっか、あいつら単純だし。
うし!気が楽になってきた!流石風呂!最高だぜ!
上がってビールを飲もう、そうしよう!
風呂からあがるとパンが子供たち3人にマメを与えていた。
子供たちはなんだか鳥の子のようになっている。
「ん」
パンがビールを投げてくれたので、気を良くした俺はツマミを出してやる。
ボックスに入れておいたから熱々のままだぜ。
「お、うまそうじゃん!」
「ユウーわしもくいたいのじゃー!」
「ルーちゃんも!」
「私も食べたいです!」
「ちょっとだけだぞー?寝る前なんだからね?」
「やるわね、生姜焼きみたいだけどピリっとしてて美味しいわ」
「この酒うまいのう!この料理とぴったりじゃ!ユウは腕がいいのう!」
「うん、ちょっと辛いけど美味しいね!コメが食べたくなってきたよ」
「ですな、姉上。これはさっきのコメと相性が良さそうです」
だろうな。ツマミはたいてい飯にも合うからな。
本当はブタキム炒めを作りたかったんだけど、キムチがないしな。
満足したのか、子供たちはゾロゾロと歯磨きに向い、
「「「おやすみなさーい」」なのじゃ」
と、3人仲良く挨拶をして子ども部屋に入って行った。
ここからは大人の時間だ。
といっても、こいつと俺との間に変なことは起こるわけもなく、ただただ酒を飲む時間というわけだが。
既にマサモ酒のロックに切り替え、のんびりとした時間が流れている。
ヒゲミミ村の思い出を語ったり、今後の予定を話し合ったりしていたが、ふいにパンが覚悟を決めたような顔で衝撃的な言葉を言った。
「ねえ……言おう言おうと思ったままズルズルと言えないままだったんだけどさ……」
「お前にしては珍しいな、なにさ?」
「うん……あのね……ううー緊張する……」
「なんだよ、言えよ。気になるじゃんか」
「うん、私もそうかもって思ってたけど、気づいてなかった、ううん。
気付いてないふりをしていたんだと思う」
「うん……」
「あんたは気付いてたんでしょう?なのに気にしない素振りをして…ずるい人ね」
「だって……言えないだろ……この生活が崩れるかもって思ったらさ……
はは……、馬鹿だな俺も臆病になってるや……」
「ふふ……そうよね。なんだかんだ言って私だって気付いたら好きになってたし……
心の中での存在が大きくなってた……、っていうやつかな……」
「だからこそ、先に進まないといけない、そういうことか」
「うん、だから言うね」
「ああ!」
「マルリさんいつからいたの」
「それな」
カラン
溶けた氷がグラスを鳴らし俺達の夜は更けていった……。