第百二十一話 村の名は
手紙からキンタや村人が生えて泣き出している。
誰しもがそんな幻想を見たことだろう。
束となった手紙の主はキンタとザックを手伝う村人、リムという少女だった。
まずはキンタの手紙だ。
うっ……、字が汚え……。まあ書けるだけマシか……
「お前がこの手紙を読んでいるということは、俺はもうダメだということだ。
日々溜まっていく仕事、積み重なる書類。
俺はもうだめかもしれない。早く帰ってきてくれ」
……2枚め
「返事がないと言うことはユウはまだ戻っていないのだろう。
なので泣き言を書いても仕方がないと思うが、書かせてもらう。
ついに俺の限界を超えた。次会う時、俺は土の下に居ることだろう」
…………3枚目
「ユウーーーーーーー!!!!早く来てくれーーーーーー!!!
俺のシゲミチを返してくれーーーーーーーーー!!!!」
シゲミチ宛じゃなくて俺宛じゃないか……。
……4枚目…あ、これ最後だ。あれ、字が綺麗だな。
「ユウさん、シゲミチくん、リットです。
とうとうお父さんがだめになりました。今は私がお手伝いをして
お母さんと二人頑張っています。
正直、お父さんがやるよりなんとかなっていますが、
遊ぶ時間が最近少なくなって悲しいです。
シゲミチくんを早く村に戻すようお願いします。
あ、そうだ!
ご褒美は何か美味しいものと、楽しいものが良いです。
大好きなユウさんと シゲミチくんへ
リット
……リットちゃん……。
リットちゃんいくつだっけ……誕生日が来てれば8歳か。
随分しっかりとしたお子様で……。
なんか商売の才能がある感じだったし、こういう仕事向いてるのかもしれないな。
しかし、おみやげか。
取り敢えずお土産は何か考えるとして、一度ここに招待してあげるのも良いな。
キンタの慰労を兼ねて……。
さて、次はザック宛か。
ザック様へ
リムです。大浴場の運営は今のところ上手く行っています。
しかし、魔導具店の在庫が枯渇しそうです。
もう暫くは大丈夫だと思いますが、近頃狩人たちの
羽振りが良くなってきているため、時間の問題です。
なるべく早く戻ってきて下さい。
リム
そういや妖怪どもが言ってたな、狩人共が大分強くなってるって。
1階層突破の連絡は聞かないからまだそこまでレベルが上ってるわけじゃないのだろうけど、魔導具が枯渇するほど儲かり始めたのは凄いな。
2通目
ザック様
在庫はあと僅かとなりました。
しかし、今回筆を執りましたのはその件ではありません。
何処からか開発中の「魔導冷蔵庫」の情報が漏れたようで、
奥様方から早く売って欲しいと催促されています。
アレはまだ成功していませんと言ったのですが、
聞く耳を持ちませんでした。
お帰りの際には其れも合わせて解決していただけるようお願いします
リム
魔導冷蔵庫、ね。
これは大丈夫だ。既にアイスモルモルを用いた簡易式冷蔵庫は完成しているし、
アイスモルモル達とも話はついている。
ザック達を送りがてら村に行って召喚すれば直ぐ出来る話だな。
手紙を読んだシゲミチとザックが青い顔をして固まっていた。
ザックはまだ良い、俺と冷蔵庫の開発を済ませていたから。
問題はシゲミチだ。
キンタのことはまあどうでもいいのだろう。
リットとマーサに迷惑をかけてしまった、これはいけない。
現在役場はキンタの家だ。
そのため、シゲミチはリットとマーサには普段からかなり世話になっている。
そんな二人に迷惑を賭けてしまった、これはいけない。
「ザック……、シゲミチ……村に……帰ろうか……」
「「ユ、ユウさぁああああん」」
と、泣いて居る暇はないぞ君達。
帰る前にやることはしっかりとやってからだ。
クロベエにまたがりカレーを食べているマルリさんを呼ぶ。
お行儀悪いが可愛いので何も言わない。
クロベエの背中にカレーがこびりついてるが些細な事だ。
「マルリさん、急ですが今日の夕方宴を開きます」
「なぬ!宴じゃと!?良いぞ!何でじゃ!?子供が生まれたか?」
「いえ、今のところその予定は…ではなくて、村を作る時が来たのです!」
雪遊びに興じてすっかり忘れていたが、村化の用意なんてとっくに終わっている。
お金の使い方だってお店やさんごっこで済ませたし、その中で新たな職についたものも居る。
名簿もなんとか作り上げた。
さっさと村化を済ませてシゲミチ達を帰さないと二度とはじまりの村にいけなくなるよ……。
◇◆◇
村の広場にヒゲと耳を集めた。
皆「今日はなんの飲み会かな」と、わくわくしている。
マルリさんとシズクを連れ俺が作ったステージに登り、演説を始めた。
2度めなので慣れたもんだぜ。
「えー、本日はお集まりいただき誠に有難うございます。
本日お集まりいただきましたのは、先日よりお話していた村、その準備が出来ましたのでそのお祝いです」
「「「うおおおお!!!酒だあああああ!!」」」
「まだだ!まだだぞ、酒はまーだ!ごほん。村についての説明は前に話したとおりです。
まず、村の代表ですがそれはマルリさんにお願いすることにしました」
「マルリじゃ。今日からわしが村長じゃよ。お主らよろしく頼むのじゃよ」
「「「うおおおおおーー!!!マルリ!村長!」」」
「で、暫くの間マルリさんをお手伝いしてくれるシズクだ」
「シズクです。短い間ですがよろしくお願いますね」
「うおおおお!!!シズク!シズク!シズク!」
謎のコールを受けてシズクが照れている。
はっはっは肉の人コールよりマシだと思え。
「という訳で、村の名前を発表します」
「村は村じゃないのか?」
「はい、それはもうやりましたのでいいです」
「じゃあなんて名前なんだー!」
今から言うつってんだろ!このヒゲめ!あれ!今茶々入れたのどのヒゲだ!
くそっ、ヒゲが多すぎてどのヒゲがさっきのヒゲがわからねえ!
っと、名前だ。
今ので忘れかけたがもう決めているんだ、取っておきのをな……。
「前に作った村は、最初の村という意味合いで『はじまりの村』と名付けました。
この村はどうしよう、そう考えた時村の特徴からつけることに決めました。
洞窟の中にある火山を背負う集落で、外は白銀の雪に覆われている。
温泉と鉱石、香辛料に恵まれた寒いのに暖かなこの集落、その名は……」
皆がゴクリとつばを飲み込む音が聞こえる。
三日三晩悩み抜いて決めたんだ、気に入らない訳がない!
「ヒゲミミ村!それがこの村の名前です!」
パンがずっこけたのが見えた。