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第百二十話 停滞する時間そして

 さて、なんやかんやで2週間が経過してしまった。


 こんなに長く居る予定は無かったのだが、何だか異様に居心地がよく帰るきっかけを掴めないでいたのだ。


 だって温泉だぜ?

 それにマルリさんだぜ?


 マルリさんと子供たちを連れて雪と戯れ、ラーメンを啜る。

 家に帰れば直ぐ近所に快適な温泉施設があり、身も心も解される。

 そしてマルリさんとカレーを食べ、モフモフのケモミミを愉しむ。


 一体どうして帰れるというのだろうか?


 シゲミチ達の活躍により、村の用意はすっかり終わってしまっている。

 が、シゲミチもザックも帰ろうとは言わない。


 シゲミチは仕事の合間に坑道や雪原に通ってはツヤツヤとして帰ってくるし、ザックはザックでドワーフ達とすっかり仲良くなり、連日鍛冶屋に入り浸っている。


 ついでにシズクは連日温泉に浸かり、女神の私物で髪や体を磨いているためやたらツヤツヤとしている。


 そんな我々の幸せな生活は永遠につづくかと思えた。

 なあ、もうゴールしていいよな……ここで……。


 誰しもが口には出さなかったが、きっと皆そう思っていたに違いない。


 しかし、光があれば影もある。


 幸せを満喫する我々の影で苦しみにあえぐ者も居たのだ。


 其れが判明したのは些細なきっかけだった。


 昨日の夕方、パンがポツリと言った言葉がそのきっかけだった。


「ねえ、モロキュウ食べたいわ」


「なんだよ、唐突だな」


「それがさ、ここの酒って芋焼酎みたいでしょ?ロックでやりながらモロキュウ……いいよね……」

「いい……」


 女神はきっと誘惑スキルを使ったに違いない。

 でなければ夕方のリラックスタイムにわざわざ家まで戻るということはしなかったはずだ。


 クロベエを駆り転送装置に急ぐ。

 女神はきっと洗脳スキルを使ったに違いない。

 頭の中はもうずっとモロキュウでいっぱいになっている。

 早く……早くモロキュウを俺に……!


 しかし盲点だった。

 まさかモロキュウを食いたくて食いたくて仕方がなくなるとは。


 キウリや味噌などそうそう使わんだろうと思っていた。

 なぜ、アイテムボックスに入れて置かなかったのだろうか。


 とは言え、転送門ゲートを使えば往復30分位でなんとかなる。

 大した道のりではないのだ。


 さっさと家に行って材料を取って帰ろう。


 転送門ゲートをくぐり、外に出ると直ぐにウサ族のリリィに声をかけられた。


「あ!!ユウ様!!!やっときたーーー!」

「なんだよリリィ、俺が恋しかったのかい?」


 元が絵本にいそうなアレだとしても今はウサ耳生やしたお姉さんだ。

 俺も割りとまんざらではない。


「なに妙なこといってるんですか……。村の人が毎日毎日手紙を持ってくるんですよ……」

「手紙」


 渡された紙束を見るとシゲミチ宛、ザック宛の手紙であった。


「一週間くらいーとか言ってたくせにもう一月半は過ぎてますからね!

 私もそろそろルー様に一度戻ってきてもらって色々打ち合わせしたいのに!」


「え?今なんていいました?」


「一ヶ月半ですよ!もーーーー!」


 おかしい。前回来てから2週間くらいしか経っていないはず……

 いやまてよ、途中から日を数えるのが面倒になってたから……。


 慌ててスマホを見ると確かに月が変わり半ばになっていた。


 oh……


 こんなことしてる場合じゃねえ!


 俺は急いで家に戻るとキウリと味噌を設置型ボックスから取り出しスマホのボックスにしまう。

 そしてリリィへ笑顔で手を振ると転送門ゲートに急いだ。


 なんてこった……


 まさかそんなに時が過ぎていたとは……。


 急いだせいかクロベエに乗っていたと言うのにじっとりと汗をかいていた。

 先ずは風呂に入ってさっぱりしてからだな。



 温泉はいい。


 身も心もほぐしてくれる。

 

 温泉は良い。


 そして湯上がりのビールはなによりいい!


「「カンパーイ!」」


 ビールをぐいっと飲み干すと1日の疲れがマッハですっ飛んでいく。

 そしてすかさずモロキュウをパリっといただく。


「あーうめえな、モロキュウ。なんでたまに食いたくなるんだろうな」

「そうよねえ。シンプルなのにさ、無性に食いたくなるときってあるわよねえ」

「ユウさん、キウンバなんて美味いんですか?」

「お、ザック知らんのか、このミソという調味料をつけて食うとなめちゃくちゃうまい。

 お前も遠慮せずやってみろ!モルモルが収穫しといたの全部もってきたからな!」


「おお……、瑞々しさの後に丁度いい塩気と甘みがやってきてこれは……!」

「ザックさん、私にも!」

「ザック様!私にも!」

「おお、俺にもくれよザックー!」


 すっかりキウリパーティーが始まってしまった。

 

 モロキュウって祭りの屋台で売ってることがあるけどさ、アレなぜか子供にもそこそこ人気あるんだよな。

 およそ子供が好むようなものではないと思うのだけれども、かじってる子供をよく見かけたもんだ。

 

 ルーちゃんナーちゃん、それにマルリさんもパリパリといい音を立ててらあ。


 いやあ、キウリ取りに行ってよかったなあ。



――そして1週間後 

 

「父上、そこの紙束は何でしょうか?要らぬなら捨てろとモルモルが言うのですが」

「ええ?紙束?なんだろう俺の書いた設計図かな……ん?これは……」


 あっ


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