第百十九話 雪合戦
昨日に引き続き今日もまた雪遊びをして居ます。
何故か?
翌朝の事である。
健康的に朝風呂を決め、気分良く温泉前で体操をしていると多数の人々が押しかけてきた。
おやおや、温泉かい?もうすぐ正式オープンだから待っててくれよ、と思っていたら様子がおかしい。
一体何だね君達は、そう尋ねてみれば外へ行こうという。
寒いのを嫌い出たがらない連中が珍しいと言えば、マルリさんがという。
聞けば、昨日マルリさんが会う人会う人にソリの良さについて説いて回ったそうだ。
楽しそうだったもんね……。
というわけで、今日はゾロゾロと集落の人達を引き連れ雪遊び場に来ているわけだ。
昨日に引き続きログハウスにはウサ族が来ていて、ラーメンの無償提供をしている。
遊んでいて寒くなったらラーメンを喰いにいけるというわけだ。
常駐させる予定は無いが、やりたいドワーフが居るなら自由にやらせてやろうと思う。
集落の人達が殆どやってきているため、ソリ場だけではなく雪合戦場も賑わっている。
ここで珍しく張り切っているのが女神だ。
雪合戦に何か思い入れがあるのか知らないが、ドワーフ達を集めて講習会を開いていた。
「いい?今日やるのはフラッグ戦。相手の陣地にある旗を取れば勝ちよ。
雪が当たった物は失格となり、陣地の外に出ること。
当たったのに誤魔化してもダメだからね!」
「皆やられたらどうなるんだ?」
「その場合相手の勝ちとなるわね。相手を全部倒すか、旗を取れば勝ち。
ま、やってみればわかるわ!」
あれだけやる気に満ちあふれているパンは滅多に見ることは無い。
きっと女神学校か何かで雪合戦部かなにかに入っていたのだろう。
女神インターハイかなにかに出場し、優勝経験まであるとかそんな感じなのでは無いか?
今のあいつからは猛者の気配すら漂ってくる。
こちらを見て力こぶを作るポーズをしている。
なるほど、やってやるから見てなさい、そういうわけか。
うむ、その息や良し!
ならば見せて貰おう、女神の雪玉術とやらをな!
◇◆◇
最初の犠牲者は女神だった。
鍛冶と採掘で鍛え抜かれたドワーフの剛肩で放たれた雪玉は……
フォームは悪いが勢いもまた無く。さらに威力もなくて、つまりは俺でも避けれる酷いものだったが、女神の集中力は其れ以上に無かったのである。
さあこい!と意気込み、雪玉を手に立ち上がった女神だったが、漂うラーメンの香りにつられ、よだれを垂らしながらログハウスを見ている内に顔に一発もらってしまった。
まあ油断していただけだろうと迎えた第2回戦。
アタッカーとして優秀であろうことを伺わせるその可憐なフォームから投げられた女神の1球は
そのまま雪面に叩きつけられ、砕け散っていた。
ならば数だと沢山の雪玉を抱えフィールドに飛び出す姿は戦いの女神のごとく勇ましいものだったが、
たちまち蜂の巣となりあえなく失格となっていた。
なんだこいつ、雪合戦下手くそかよ!
「うわーんユウー、悔しいけど敵をうってよー」
余程悔しかったのか、珍しく俺に助けを求めている。
女神はどうでもいいが、雪合戦発祥の世界から来た意地はある。
雪面のムツゴロウと呼ばれた俺の姿、とくとご覧あれ!
◆◇◆
「雪ってそこまで冷たくないんだよな……」
雪上を這って移動する俺はまさしくムツゴロウの如し。
いやあ、脚と腕がとんでもないことになってますわ。
活躍はしたんですよ?
それなりにコントロールが良い方である俺は的確に相手チームをスナイプし、順調に数を減らした。
そんなもんだから、味方もすっかり俺を頼りにしてどんどん雪玉を補充してくれる。
ああ、投げたさ!
味方の期待を背負って雪玉を投げに投げて投げまくった!
敵の数が減り、籠城を始めたのを見て突撃を開始した。
ここぞとばかりに俺を狙う敵の玉!
それを華麗なステップで避けて避けて避けぬいた!
そして華麗に飛び上がり、敵陣に突入し旗を奪う。
逃げて逃げて自陣に到着!
見事勝利を飾った俺はドワーフ達を集めてレクチャーしたさ。
女神も混じって真面目に聞いていたので何だか気持ちが良くってさ、必要以上にお手本を見せてやった。
……運動は普段からやっておくべきだな。
まずはじめに肩が逝った。
「いいか、最大射程距離を覚えておくのも大切だ。
自分が何処まで投げれるか、その限界を知っておくのだ」
「師匠!師匠はどこまで投げれるんですか?」
「ふむ……ならば見せよう、俺の力を」
「「おおおおーー!!!」」
1投、2投、3投と投げれば投げるほど歓声が上がった。
そこまで遠くに投げられているわけではないが、何故か歓声が上がっていた。
調子に乗って投げた第4投、これがまずかった。
気合を入れに入れて投げたそれは前ではなく地に飛んだ。なぜか?
投げた瞬間肩が逝ったからだ。
「と…いうわけ……で……無茶な投げ方をすると……肩を壊す…気をつけろ……」
「「はい!!!」」
上手く誤魔化し雪合戦状を後にしようとした時、ふくらはぎが逝った。
普段からろくに運動をしていない俺にあの動きは毒だった。
まだこちらを見ている連中がいるため、かっこ悪い所は見せられぬと無理をして歩いた。
反対側のふくらはぎも逝った。
後ろを見ると、まだ何人か真剣な顔で見つめていたので無理をして歩いた。
まるでペンギンのようなヨチヨチとした歩みだ。
そろそろ見ていないだろうと後ろを見ると、ドワーフ共が真似をしていた。
どうやら技か何かと思ったらしい。
俺は全てを諦め、雪面を這ってログハウスを目指すことにしたのだ。
後日、這った状態で行う雪合戦ルールが生まれたのは言うまでもない。