第百十五話 報告書
シズクです。
マルリさんなる年齢不詳の方の案内でシゲミチさんと集落を視察しています。
ヒゲの人やミミの人達と会うたび挨拶をして、少しでも住人の把握をする努力をして居ますが、正直無理かなって思い始めてますの。
ミミの人達、女性の方々はまだマシですの。
皆子供に見えるのは困りますが、流石に顔つきは皆様それぞれ違いますし、お耳や尻尾の色や模様も様々ですので、暫く居れば顔も覚えられそうです。
でもヒゲの人、男性の方々は無理ですの。
失礼かと思いつつも、すがる思いでマルリさんにコツを尋ねてみたところ、
「目元……後はヒゲの生え方かのう」
と、おっしゃっていました。
丁度良く現れたヒゲの人にマルリさんは片手を上げ
「サムリ、鍛冶の調子はどうかの」
と、声をかけていました。流石に集落の人同士であれば互いの見分けがつくのだなあと関心しましたが、
「ばあちゃん、俺はゴムリだっつーの。鍛冶屋じゃなくて狩人だっつーの」
と、返されていて何も言えなくなりましたわ。
老化による記憶違いなのか、ただ純粋に見分けがつかないのかは存じませんが、前者であればいいなと心より思いました。
シゲミチさんに「これどうやって管理しましょう」と聞いてみましたが、眉をひそめて苦笑いをするばかり。
これは一度ユウさんにお話をして何か策を頂いた方が良いかも知れません。
出ないと私、名札をつけさせてしまいかねませんから。
◇◆◇
シゲミチです。
マルリさんの案内でシズクを連れ集落を回っていますがお手上げです。
女性の方々は見分けがつくのですが、男性の方々は無理です。
しっかりとしたヒゲ、それが顔を覆い尽くしているため判別のヒントになるのは目元くらい。
目元も正直みな同じに見えるため、真剣にどうしたら良いのか分かりません。
シズクがマルリさんに見分け方のコツを聞いた時は「でかした」と思いましたが、マルリさんが人違いをして居るのを見て全てを諦めました。
ユウさんは魔法で人の名前を見分けることが出来るそうです。
何とかそう言う魔導具を作って貰わないとこれはちょっと大変なことになりそうです。
俺は一週間で帰るのでまだ平気ですが、シズクは今後暫く滞在する事になるので考えるだけで気の毒になってきます……。
住人の見分け方に難はありますが、ここが村になりうちの村とやり取りが始まれば互いの生活がかなり上昇するなと感じました。
ダンさんなんかがしばしば愚痴っている鉱石不足。
うちの村周辺でもいくらかは取れますが、この土地では安定して採掘出来るほか、その質も高いようで見たことが無い大きな武器が沢山作られていました。
話を聞くと、酒と交換で分けているが、あまり壊れる物じゃ無いから困っているとのことだったので、村と村が繋がって交流が始まれば鍛冶屋さんも喜ぶのでは無いかと思います。
こちらの集落には弓矢が無いと聞きましたし、そうなればダンさんもこちらに新たな客が産まれて助かりそうですね。
そして何よりその酒。
うちの村では未だ作ることが出来ない酒がこの集落には存在しています。
ユウさんが言うには、前に村で振る舞った物よりも『強い」ものだそうです。
強いの意味がわから無かったので聞いてみたところ、原液のままコップで3杯も飲めば明日の朝起きるのが辛くなるレベル、と言っていました。
それは最早毒なのでは無いでしょうか……。
◇◆◇
ザックです。
モリーを頭に乗せ、集落をウロウロして居ます。
やはり気になるのは鍛冶屋なんだけど、ヒゲの人達はダンさんの鍛冶とはまた違った感じで凄まじいです。
大きな塊をガンガンと叩き、見たことも無いくらい刃が長いナイフを作っていました。
ヒゲの人に「すげえナイフだな」と言ったところ、「ナイフじゃねえショートソードだ』と笑われました。
ショートと言うことは長いのもあるのか、と聞いたところ、何か気をよくしたのか置くから色々な武器を持ってきてくれました。
ショートソードよりさらに長く大きなロングソード、見慣れた斧より大きく凶悪なバトルアックス。
色々と出してくれましたが、中でも気になったロングソードの使い方を聞くと目をそらしながら
「実はロングソードは俺達の身長だと振り回せねえんだなこれが」
と、身も蓋もないことを言ってました。
「浪漫だよ、浪漫。デケエ武器にはそれが有るだろ?」
と、言っていたので、無言で固く握手を交わしました。
ユウさんなら上手い使い方を知ってそうだし、帰ったら聞いてみようと思います。
◇◆◇
モリーですわ!
ザック様とヒゲの話が長すぎて途中で寝ちゃいましたわ!
目を覚ますとオンセンに帰ってましたわ!
明日から本気を出しますの!
◇◆◇
これは報告書と言うより日記だな……。
いや、日記と言うかなんというか……。
帰宅したシゲミチ達に「報告書を書いてくれ」と伝えた所、どう書けば良いのかと聞かれたので
「今日話したり聞いたりしたことをそのまま書いたらいいさ」
と、いい加減に答えたらこんな具合に書いたノートを提出されたというわけだ。
まあ、別に何処に出すわけじゃ無く、俺と情報共有することが目的のものだ。
取りあえず彼らが何を見て何を感じ、どう困ったかが分かったので良しとしよう。
ドワーフの見分け方なー。
馬鹿を煽てて名前と年齢が頭上に見えるようになる眼鏡でも作って貰うか?
シズクはキリッとした美少女だし、赤フレームの眼鏡なんかきっと似合うよな。
そしてロングソード。
あんな長えの普通はそのまま使わないんだよな実は。
ここで作ってるロングソードは所謂馬上で使う細くて長い奴だ。
何処かで騎乗出来る魔獣なんかを手名付けて繁殖させれば使い道はあるかもしれんが、騎馬戦なんかする予定も無いし、ダンジョンで馬をパカパカ走らせるのもなんか違うしな。
いっそのこと、それは諦めて両手剣的な意味合いでのロングソードを作って貰った方が良いだろう。
それならガタイが良い狩人なんかが喜んで使いそうだし、戦い方に幅が出て楽しくなりそうだ。
以外と賄賂の酒を減らさず帰ってこれたようだし、明日またじっくり探索させることにしよう。
……眼鏡は早めに作らせた方がいいか、シズクのために……。