第百十三話 湯上がりモルモル肌
めちゃくちゃ寒かったと言う顔でシゲミチ達が帰ってきた。
はっはっは!驚いたようで何よりだ。
別に寒い思いをさせたかった訳じゃあ無いぞ。
常春の村が当たり前では無いことを、世界は広いと言うことを思い知って貰いたかっただけだ。
転送門を使ってここまで移動させた時点で物理的な広さに関しては台無しだが、その辺は後で地図でも見せてやれば納得することだろう。
ああそうか地図か。
今までスマホのオートマッピングで作られた地図を見てたから気にしてなかったが、紙の地図というのは存在しないよな。
この手の中世っぽい異世界では大抵地図は高級品だったり、国防上アホほど隠蔽されてたりする超貴重な代物だが、現在この脳天気な世界には「敵国」という物は存在しないし(そもそも国がねえよ)
「魔王軍」という物も当然存在しない。言ってしまえばルーちゃんが魔王みたいなもんだが、あんなに可愛らしい魔王が災厄を振りまくわけも無い。
書き写すのは面倒くさいし、後で馬鹿騙して印刷してもらお。
それをシゲミチにみせたら手動コピーしてくれることだろうさ。
半端な地図を見て「空白を埋めてえ!」と冒険心に目覚める奴も出るかも知れない。
この村が落ち着いたら試してみるかね。
と、そろそろシゲミチ達が温泉から上がる頃だな。
温泉で暖まったとは言え、寒い場所から来たんだ、カレーの辛さでぽかぽかになって貰おう。
「いやあ、ユウさん。温泉やばいっすわ。見て下さいよシゲミチを、すっかり間が抜けた顔になってますよ」
呆れた顔のザックに言われシゲミチの顔を見ると確かに溶けきっている。
キンタの所でもアホほど働いていたんだろう、有った時は疲れが溜まりきった顔をしていた。
それをそのまま視察に行かせた俺も鬼っちゃ鬼だが、それはこの際置いといて……。
目の下にこびりついていたクマはすっかり消え去り、出会った頃のような無垢な少年に戻っている。
シズクやモリーもまたうっとりとした顔をしていて、向かい合って互いの肌や髪を褒め合っている。
なるほど、女の子同士の会話ってあんな感じなのか……。
俺の周りにも女性はいるが、パンやルーちゃんナーちゃんにヒカリだ。
ルーちゃんナーちゃんはお子様だからしょうがないとして、パンとヒカリがそんな女子力高い会話をしてるのは見たこと無いぞ。
大抵、魔獣の旨い部位の話とかしてるし……。
さて、別の意味で辛い物喰わせたくなってきたぞ。
シャキッとせい、シャキッと!
ウサ男に命じ、辛さを普段よりちょっぴり上げて貰った。
◆◇◆
「うまっ!これなにこれ!うまっ」
「舌がビリビリするのに止まらんなこれ!」
「凄い香りだと思いましたが、なんて繊細な味なの!」
「何時ものより辛いが旨いのう!旨いのう!」
「内側がピリピリしますわー!」
皆それぞれの感想でカレーを気に入ったと述べている。
マルリさんがしれっと混じっているが今更気にしないのだ。
もう俺の娘みたいな物だからな。
ご飯の一つや二つ、温泉フライングの一つや二つさして問題では無いのだ。
「マルリさん、美味しいかい?」
「旨いのじゃ!ユウ、お主の考える料理は凄いのう!旨いのう!}
「はっはっは、可愛いなあマルリさんは!今度また違うの作りましょうね」
「やったー!嬉しいのう!嬉しいのう!」
「ちょっとユウ、マルリさん心まで幼女化してってない?」
「それの何が悪いのか、俺には分からんが女神的にはNOなの?」
「別にそういうわけじゃ無いけど……。あんたほんと幼女には甘いわよね」
幼女に甘いのでは無い、可愛い幼女に甘いのだ。
そしてマルリさんはけして幼女じゃ無い。
つまり俺は可愛い女性に甘いのだ。
そしてシゲミチはカレーを3皿、ザックは4皿、シズクは2皿、モリーは5皿、マルリさんは8皿平らげ、漸くお昼ご飯の時間が幕を閉じた。
「外も見せたし、温泉にも入れた、そして飯も食わせたし……お前ら後なんかすることあるっけ?」
「酷いですよユウさん!村づくりのために俺達を呼びだしたの忘れたんですか!」
「はっはっは、冗談だよ。マルリさん、シゲミチとシズクを連れて集落を散歩して貰えませんか?」
「む?いいぞよ、ただその、良かったらでいいんじゃが、またクロベエかヒカリを貸してもらえんか?」
「ああ、構いませんよ。あいつらも暇だろうし、声をかけたら乗せてくれますよ」
やったあ!と喜ぶマルリさん。
うーん、ほんと幼女化が進行している気がするが、気にすることでは無いな。
シゲミチ達にはマルリさんと共に集落を歩いたり人と話したりして気になる所を新たな視点で纏めて貰う。
また、話した中で村づくりの助けになりそうな人が居ればピックアップして貰いたい……んだけど……
(俺も未だにどのヒゲが誰でどのケモ耳幼女が誰なのかわかんねえんだよな……マルリさんは分かるけど)
まっ、なんとかなるだろう。
「で、ザックとモリーは適当にブラブラして鍛冶屋冷やかしてこい」
「なんか雑じゃないっすかねえ!?」
「雑ですわー!?」
「いやいや、鍛冶屋も結構な数居るんだぞ?あちこち冷やかしつつ、煽てて鉱物の話や武器の話を聞きだしてこい」
「確かに興味はあるけど……、ダンさんもそうだけど、技術って中々他人に漏らすようなもんじゃあないですよ?」
「まあ確かに……。俺の友人だって言えばなんとかなりそうだが、しょうがないな秘密兵器を持たせてやるよ」
ボックスから秘蔵の小瓶入り麦焼酎を10本取りだしザックに手渡した。
マサモの酒で焼酎の存在を思い出しミーンで作った試作品だ。
試作品とは言え製作キットが作ったものだから”それなり”には旨い。
「いいか、ヒゲや猫耳がうだうだ言うようならこのビンちらつかせて見ろ。
それでも反応が悪いようなら蓋を開けりゃ一発よ。手のひら返して何でも言うこと聞くぞ」
「……その話だけ聞くと恐ろしいんですが……」
「一体どんな毒がは言ってるんですのー!?」
「飲み過ぎなきゃ毒にはならないよ、ってか酒だよ酒。あいつら酒に弱いからさ、酒を代価にすりゃ大喜びで話をしてくれるさ」
「なんて扱いやすい人達なんだ……」
「ですの……」
酒瓶が入った鞄を提げて少年少女が旅立っていった。
扱いやすい人間だと呆れた顔をしていたが、村の連中だって肉でイチコロだったろうがよ……。