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第百十二話 シゲミチ外に向かう

なんてデタラメな集落だ――


 俺の第一印象はそれだった。


 ユウさんから貰った手紙には「新たな土地」「始まりの村とは違う」と書かれていたが、どうせ変わった野菜がある程度だろう、とタカをくくっていた。


 それがどうだ、謎の小部屋を経由して?やってきた場所は今まで感じたことがないくらい暑く、ようやくそこを抜けたと思えばまだ洞窟内で、広々としたその空洞内に集落が存在していた。


 そしてそこに住む人達ときたら、クロベエのような耳を生やした少女たちに、ダンさんのようなヒゲを生やしたちっさいおじさん達。


 見た目では分からないが、どちらも大人と子供が混在しているらしいじゃないか。


 流石に其れには頭を抱えてしまった。

 住人名簿を作る時一体どんな苦労をするか。

 ユウさんが俺を呼んだのがわかる気がする。

 絶対自分じゃやりたくないから呼んだんだ……ちくしょう!


「シゲミチ?疲れた顔してるけど大丈夫か?そろそろ外に出るらしいぞ」


 ザックが心配そうに声をかけてきた。

 新しい土地ならば、新しい技術があるかもしれないとザックを連れてきたが、ユウさんが喜んでいたので其れは正解だったんだろう。


 あの集落には今まで見たことがない近接用の専用武器があるようだし、あの暑さを考えれば村周辺で採れないような変わった素材があるかもしれないしね。


 素材に関しては俺もたのしみなんだよね。


 洞窟内の暑さからして、環境はかなり違う事がわかった。

 ユウさんによればあれは転移装置で、遠い距離を一瞬で移動する魔導具らしい。

 ということは、これから出る外はさらに暑いはずだ。


 暑い所に生息する生物……、魔獣はごめんだが虫や植物には大いに興味があるね。

 悩んでたのを忘れそうだ!うおおお!楽しむぞ!



 ゴオオオオオオオオオオオオ……


 何だか涼しくなってきたな、とは思っていたんだ。


 出口が見えて思わず駆け出しちゃった自分が恥ずかしい……なんだよこれ。


 目の前に広がるのは真っ白で何も見えない景色。

 それに何だかさっきから異常に寒い!


 ガチガチと口が震えて歯の根が合わない。

 みればザックやシズクもつらそうな顔をしているし、モリーなんかヒカリの毛に埋まって動こうとしない。


 呆然としていると、案内役のクロベエが口を開いた。


「これはフブキと言うやつだよ。これが出てるうちは出ないほうが良い。

 けど、もうすぐ止むから暫くここで待とっか」


 いやいや、いやいやいや!帰ろうよ!帰ろうよ!寒いよ!


「そ、そそそそうだシゲゲゲミミチさん!ユウウウウさササんがおおおおっしゃってててましししたわわわ!

 ここここまったととととききははあけけけけろろろととと」


 シズクがなにか言ってるが、震えてるためかうまく喋れていない。 

 そういや確かに何か渡してくれたな……開けてみるか……。


 渡されていた大きめの袋を開けてみると、モコモコとした服が入っていた。 

 どうやら俺達が寒がるのを予想していてくれたようだ。

 ありがたく素早く着ると、大分寒さが和らいできた。


「はあ……生き返るな……」

「死ぬかと思いましたわ……」


 ユウさん……あんた最高だよ……。

 俺達のためにこんないいものを……。


 クロベエは「もう直ぐ止む」と自信ありげに言っていたが、どうも止む様子がない。

 仕方がないので、洞窟に吹き込む白い物を調べてみることにした。


 それは冷たくて、触れていると溶けてしまう。

 しかし、手で集めて固めるとすぐには溶けること無くそのままの形になった。

 

 口に入れてみたが、なんの味もなく水になって消えてしまった。


「それはユキだよ、シゲミチ」


 クロベエがその正体を教えてくれた。

 

 なんでも寒い時に雨の代わりに降るものらしいが、寒い時というのがわからない。

 生まれてからこの方、洞窟内のように暑いと感じたのは鍛冶屋くらいだし、

 こんな寒さは初めてだ。


 寒いなあって思ったのは水遊びをした後くらいだよ……。


 暫くこのユキをいじって暇をつぶしていたが、フブキが止む様子はなかったので今日はそのまま戻ることにした。


 クロベエは頼りになるのかならないのかわからないな……。


  ◆◇◆


 オンセンシセツに戻ると、ユウさんが笑顔で迎えてくれた。


 フブキで外に出られなかったので、また明日行くと伝えると、そうかそうかと嬉しそうにしていた。

 何がそんなに嬉しいのかわからなかったが、寒さの余韻のせいでまだ脱いでいなかった防寒具を見ていたから、自分の用意が役立ったのが嬉しかったのかもしれないね。


 そしてユウさんの勧めでオンセンに入ることとなった。

 

 ザック達が村に作った風呂見たいなものらしいが、お湯が特別製らしい。

 たしかに、なんだか嗅ぎ慣れない妙な香りがする……。


「来たか、小僧と同士よ!」


 服を脱ぎ、浴室らしき場所に向かうと男前な声を上げるモルモルが待ち構えていた。

 小僧とは俺のことで、同士はザックの事なのだろう。

 ザックはモルモルのもとで修行したと言っていたからな……。


 モルモルからオンセンの流儀とやらを教えてもらい、それにならって身体を洗い湯に浸かる。


 ……ううむこれはこれは……。


 信じられない程の寒さですっかりやられた身体に染み渡る。

 

 普通のお湯とは違う、何か身体に効いている感じがする。

 妙な香りに顔をしかめていたザックも気持ち良さげな顔をしているし、オンセン凄いなこりゃ……。


「はあああん!お肌に染み渡りますわあ!!!」

「シズク?凄いわよこれ!プルプルよ!お肌がプルプルですわあ!」


 壁を隔てた向こう側から女子達、と言って良いのかわからないが、シズクとモリーの声が響いてくる。

 

 肌にいいとかそんなことも言ってたっけ。


 あの装置を使えばここまで直ぐ来られそうだし、噂が広まれば村の人も来たがるかもしれないね。

 ここが村になれば村と村の交流が始まって、今までより凄いことが起こるのかもしれないなあ……。


 しかし……このオンセン……出るタイミングがわからなくなるな……。

 


 

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