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第百八話 シズクとモリー

 視線でシゲミチに合図を送ると、しまった!と言った感じの顔で背後の少女を思い出す。


「ああ!えっと、これ、いや、彼、いや!彼女はシズクと言いまして、俺と共にキンタさん、いえ、村長のサポートをしています」


「はじめまして、ユウさん。シズクですわ。面白い事をやっている集落があると聞き、始まりの村に入れて貰いましたの」


 シズクと紹介された少女はデータによるとシゲミチと同じ15歳。赤毛ボブで、村から東にある集落から揃って移住して来たとのこと。


 元々村に興味があったシズクは、集落の長が村に移住しようと発言すると、大喜びで家族を説得し、共に村へとやってきたらしい。


 そして何よりも興味があった「村という仕組み」それを動かしている村長の元へと彼女は向かった。

 そこに居たシゲミチにキンタに合わせてくれと理由を話すと、それらの仕事は自分がやっている、良かったら君も自分の手伝いをしてみないか?


 トントン拍子に話が進んであっという間にシゲミチの弟子となったらしい。


「俺が居ない間にそんなことが……。しかしすまんな、折角の弟子を借りるようなことになってしまって」


「いえいえ!確かにシズクが居なくなると少し忙しくなりますが、最近はキンタさんも仕事を覚えてきたのでなんとかなりますよ」


 今日一番驚いた報告がそれだった。

 キンタが?執務を?している?はじめから微塵も期待してなかったのに?

 ……人は変われば変わるものだな……。


 どことなく寂しくなった所で、先程の話題を思い出す。


「それで、先程の話、モリーについてだが……っと、ご飯が来たな。食べながら話そう」


 今日のメニューはカツ丼だった。

 

パンがあるなら、ということでカツ丼のレシピを渡しておいたのだが、上手いこと自分のものに出来たようだな。


 ここのシェフはウサ男の師匠であるウサ松である。彼にも「頑張るように」と魔鉄鋼製の包丁セットをプレゼントしたが、地面にめり込むのではないかというレベルで深々と礼をされた。


 めり込まなくていいから、これからも美味しい料理を頼むよ、と気軽に声をかけたつもりだが、変に気合をいれなければいいな。


「この!料理は!肉と卵が!肉が!美味しいですわ~!」


 シズクが美味しさをなんとか言葉で表現しようとするが、結果的に美味しいで済ませている。

 どことなくポンコツの香りがするけど……、シゲミチの弟子ならきっと大丈夫だよね?


「で、モリーだけど、もしかしてシズクと何か関係があるのかな?」


「え?ええ、そうです。そのモルモル、モリーは私の友達なのです」


「友達?」


 シズクの話は納得に値するものだった。


 シゲミチの弟子となったはいいものの、多忙のあまり友達という存在を得られないでいたシズク。

 日曜日は休みということで家で寂しく過ごしていたらしいのだが、そこにやってきたのは手のひらより小さなモルモルだった。


 それは小さいなりに頑張ってシズクの家を掃除して周り、ホコリまみれになりつつも見事な仕事ぶりだったという。


「こんなにちっちゃいモルモルが…って思ったら健気に思ってしまいまして、洗ってあげることにしましたの」


 その時彼女が使ったのはマーサとリットが売っている石鹸。

 二人が石鹸を売っているという話は初耳だったが、香草や花の香りがする泡立ちが良い石鹸を作って売っているらしい。

 うん、これは確実にパンが1枚噛んでいるな。


 シズクがお気に入りのローズ石鹸で洗ってあげると、とても嬉しそうにしていたため、その日以来家に訪れるようになったモルモルを毎日、毎日ローズ石鹸で洗っていたらしい。


「ところが、ある日の事ですの。洗ってあげようとしたら手が滑ってしまって……」


 シズクの手を離れた石鹸は宙を舞う。モリーはそれを取ろうとしたのだろうか、ぴょいっと飛び上がると其れを包み込んでしまう。


 幼いモルモルに「つかむ」という難しいことは出来ない。そのまま吸収してしまって、しょんぼりとしていたらしい。


「なんだか、悲しげな感じでこちらを見てましたので、良いんですのよと声をかけましたわ。

 そのせいでしょうか?妙に癖になってしまったようで、その日以来石鹸を強請るようになったのです」


 洗ってくれと強請るのではなく、食べたいと強請るようになったらしい。


 石鹸は少々値が張る物なのでまるごとは無理。

 それでも強請る姿に負けてしまって毎日少しずつ、少しずつ食べさせていたらしい。


「仕方がないことですわ。だってあれはとても美味しいものでしたもの」


 と、モリーがうっとりとしたような顔で言う。知恵がつくと表情も豊かになるのだな。

 シズクから影響をうけたのであろうモリーの口調はシズクそのままで、声も少し似てるのでややこしい。


「それで……、気づいたらモリーは淡いバラ色になっていて……石鹸の色が移ったのでしょうね。

 香りもモルモルなのにとてもいいし……」


 俺は知っているぞ、いかつい顔なのにいい香りがする屈強なモルモルを。

 どっかの馬鹿が石鹸だかシャンプーだかを食わせたせいでそうなったんだ。


「つまり、シズクの影響で色がつき、言葉が移り、女子らしい思考をするようになったと」


「恐らくはそうですわ。いつの間にかモリーという名前をつけられてて少々悔しかったのですが、モリーが幸せそうなら私はそれで満足ですの」

 

「わたしもザック様と一緒にいられてしあわせですわー!」


 ザックの頭の上で嬉しそうに跳ねるモリー。


 

 始まりの村最初の異種カップルか。応援するぞザック!

 ……おいおい冗談だよこっち睨むな!思考を読むな!


 そして穏やかに和やかに打ち合わせは進んでいくのであった。

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