第十一話 はじめての製造
優秀なナビのおかげで結構な数の食材が手に入り、ホクホクとした顔で帰路についた。
ヒッグホッグ3頭にムックル4匹、それと大量の山菜達だ。
山菜達はどれもが初めて見る物で、リーゼ、ジャンニ、シラウの3種類。
リーゼは爽やかな香りがする植物で、綺麗な水場に生えている。シャキシャキとした歯ごたえと爽やかな香りを持つらしく、なんだか特徴だけ聞いているとセリを思い出すな。なるほどそれでリーゼ…ちがうか……いや、ここの女神様はどうも日本に詳しすぎるので案外違うとも言えないな。
ジャンニはみたまんまニラである。ただし香りや味はニラよりも強く、どちらかと言えばニンニクのような感じがして、長めの茎も歯ごたえがあって美味いそうだ。そのまんま刻んで餃子に入れると良さそうね。
そしてシラウはひょろ長い木だ。その木は真っ直ぐで頑丈なためそのまま加工して日用品に出来るそうだが、どう見てもくえそうには見えない。
「水にさらしてからごぼうのように食うのかな?」
現地で見かけた際になどと口に出すと、たちまち飛んで来たのは女神様のありがたいお言葉。
「ばかねー!」
はいはい、ばかねーいただきましたよ、はいはい。
いわく、木ではなく先端の若芽を食べるそうだ。タラの芽のようなものかと納得したが、それよりだいぶ美味いらしい。ふっくらとした大きめの芽を半分に割ると中はねっとりとしていてアボカドのようだという。
山菜は残しておけばまたそこから増える。なので今回はほどほどに採取した。
とはいえかなりの広さで繁っていたので結構な量がとれた。
此方に来てからまだ日が浅いとはいえ、こんなに豊かな森なのに人と遭遇していないあたりから、パンちゃんが言う『近くの集落』は俺が思っている『近く』とは異なりそれなりに距離が有るんだと思う。文明が未熟であると言うことらしいので、自動車は勿論馬車だって存在してないのでは無かろうか。
それを考えると、あれだけ便利な森が全くの手つかずであることも頷けるな。
家に戻ると直ぐにパンちゃんがソワソワしはじめた。クロベエも一緒にソワソワしてるのでしかたなく肉の時間にした。採ってきた山菜達の味見をしたいのもあるが、今はまだその時では無い。だから手早く今日の肉は焼いた肉で勘弁して貰う事にした。
……肉ばっかり食ってて頭が肉に侵され始めたようだな。
手早く肉を済ませ、まだ必死に食べている女神たちは放置してスマホを開く。
製作キットがきちんと増えていて画面がだいぶ賑やかになっていた。使い方は建造キットと概ね同じ感じのようで、作りたいものの名前を入れるか、細かい指定をして作りたい場合は絵を読みこませる感じのようだな。
試しにヤカンを作ってみる。特にどういうのが良いという指定はなかったのでヤカンと検索してみた。
すると通販ショップの商品ページのような画面が表示された。こういう仕組みなら特殊な指定がない限りはいちいち絵を描かなくても検索でいけそうだ。
無難なヤカンを選びタップすると素材欄に「金属類」と表示される。
ああそうか、金属類かあそういや鉄とかだもんなヤカン…失念してた…
うーんあの洞窟に鉄鉱石とかあるかなあとアプリを閉じようとしたが、よくみると決定ボタンが押せる。
鉄?いつ?ええ?とった覚えがないぞ!?
「ふがふーがもごもぐむしゃー」
「もーしゃむーぐ」
ぱんちゃんとクロベエが何か言ってるが食べながらなのでわからない。
「ばかねーって言ったのよ」
ちがう、そう言ったのだろうとは思ったがその次が聞きたい。『ふがふー』が『ばかねー』なのは悔しいがわかったんだよ。その後に続く言葉がなんなのか聞きてえんだ!
「ヒッグホッグ解体した時さ、ドロップアイテムとして金属片でるじゃないのよ。図鑑に書いてあったでしょ」
ええ……? あーマジだ。改めて図鑑を見ると身についた泥が魔鉄鋼と呼ばれるものに変化するとか書いてる。書いてた……肉で頭がいっぱいでスルーしていたけど、どうやらそこそこ貴重な素材らしい。
これが普通のファンタジー転生ものなんかなら、これをドワーフの親父の店に持ち込んで『こいつぁ……』とか唸らせたり『おめえにぴったりの武器を打たせてくれ』とか言われたりするんだろうが……。
「まあ、ヤカンには変えられん今は武器防具より生活用品だ」
今の俺に必要なのは魔物を斃す剣ではなく、お湯を沸かすヤカンだ。ミスリルだろうがオリハルコンだろうが、今の俺の前に現れちまった金属は等しく、容赦なくヤカンにしてやるからな!
というわけで、レアなファンタジー素材感が強い魔鉄鋼を容赦なく生け贄にしてヤカンを選択すると……即座に黒光りするヤカンが出来た。流石チートアプリ。めちゃくちゃはええな。……と、電池の消費は狼石半分くらいか。中々減るが今の俺には屁でも無いな。
次は思いついたことの実験だ。アプリに「茶」といれて検索をかける。
いくつか候補が出てきたが、可能性が高そうな野草茶というものを選んで見た。素材の用意はしていないが……これはこれでよいのだ。
「おー これは便利」
画面には当然「素材が足りません」という表示が出ているが、それと共に「必要素材:ショアの葉」とご丁寧に画像付きでガイドされていた。なるほど思ったとおりだ。何かを作りたいと思ったとき、こうすればこの世界の素材で逆引きができるわけだ。
この葉っぱなら見たことがある……というか泉の周りにしげってるやつじゃん!
早速葉を採取し、茶漉しと共に製作する。お湯を沸かして異世界初のティータイムと洒落込もう。
「お茶が美味しいネー」
「ちょっとあなた!わたしにもいれなさいよ!」
どこからか出したマイカップを手に女神がうるさい。
のんびりとした時間を過ごす中、ふと気づいたことがあった。
「ねえねえ、そう言えばログボ出なくなった気がするんだけど?」
「ああ、あれね。そんだけ便利な道具があったらもういらないでしょ?わたしも毎日やるのめんどうだったし。
あんたがスマホ開いたら「今日のログインボーナスはこちら!」とか毎日言ってたのよ?大変なんだから」
まさかの生音声だった。あほか……。
「ええ……でもほら……無料石貯めて10連回して高レア美少女のじゃロリ女神とか引きたいだろ」
「何言ってんのガチャなんてないわよ?それに……ほら、ねえ、可愛い女神様がここにいるじゃないのよURよ、UR!」
「えぇ…… じゃあのじゃろりしてくださいよ。URだってんならのじゃろりエミュくらい出来て当然でしょ」
ぬかしよるので無茶ぶりをしてやった。
「……うるさいのじゃ……」
「えっ!!なんて!?」
「…ごめんなさい……なのじゃ……」
「……」
「……」
そのまま続けられても互いに得はしないので、ここは広い心で許すことにした。大体にしてこの女神ロリじゃねーし!のじゃロリじゃなくてただの「のじゃ」じゃねえか!
……しかしまあたしかにパンちゃんが言うことにも一理ある。ログインボーナスで貰うもの以上の食糧を採取できるようになったし、そもそも水なんて最初からいらないまであった。
水や食料、魔石以外の特典も少し考えたが、なんなら食べ物に絡ませて遠まわしにねだれば女神がなんとかしてくれるだろうしな……。
女神が地球のものを取り出したり、あれこれアドバイスしてくれることについて「異世界ものってこんな楽でいいんだっけ?」と複雑に思うところはあるが、楽な方がいいに決まってるので文句など言わないのだ。いらんこといって難易度あげられるのはごめんだ。
この世界を良くする前に俺の生活を良くしていきたい!家が出来たし、道具を作る環境も出来た。
「よーし!なんだか謎のやる気が出てきたぞ!どんどん作っていくぞー!」
魔石を惜しんでなんかいられない!幸せなスローライフのためにどんどん作るぞ。