第百七話 モルモルモルモル……
少し違うモルモルが居る、最初に気づいたのはザックだった。
モル助の弟子の中で一番を名乗れるほど水道設備に詳しくなったザックは新たに生まれたモルモル達の教育係もしていたらしい。
村のモルモルが新たに生まれたモルモル達を連れ紹介にやってきた際、どうも1匹違和感を覚える個体がいることに気づいたそうだ。
「それが、どうも微妙に色がちがくって……」
最初はここまで色が濃くはなかったらしい。
それがザックのもとに研修に通う毎にどんどん濃くなっていく。
10日くらい経過して成体となったモルモルが喋れるようになるとその声に驚いた。
「モルモルって渋い声じゃないですか?それがこいつ、可愛らしい声で……」
思わず何故そんな声なのか聞いてしまったらしいが、聞かれた方も其れはわからないと。
しかし、声だけではなく口調まで他のモルモルとは違うことが気になってシゲミチに相談をした。
「口調を聞いて直ぐにピンと来たんですよ。こいつは誰か女性と関わってたって」
仕事が終わったのかシゲミチがやってきて会話に混じった。
丁度いい、シゲミチからも詳しく聞こう。
「それで、ザックと二人モリーに聞いたんです。お前、普段何処で遊んでいるんだ?と」
村人たちはすっかりモルモルに慣れてしまい、普段からモルモル達がウロウロしていても気にならなくなったそうで、今ではモルモル達も悠々と村をお散歩しているらしい。
はじめこそ、モルモルの巣的な場所でお行儀よく寝ていたモルモル達だったが、数が増え、そこが手狭になると適当に住処を見つけてはそこで寝るようになったとか。
正直これは俺の誤算だな。
村人達がモルモルを友好的に受け入れてくれているから良かったが、これでこっそり導入してたら偉い騒ぎになっただろうな……。
賢くして喋れるようになっているのが良かったのだろう。
……ちょっとまってくれ。
女神汁の影響は遺伝せず、知恵があるのはその影響を受けたモルモル、指導者となる王冠を付けたモルモルだけだ。
モリーがここまで利発になるわけがないし、そもそも翻訳リング無しに喋れるわけがない。
何かが起きている。
「なあ、シゲミチ、ザック。村のモルモルって……皆喋れるのか……?」
「え?小さいやつは喋れませんが、成体になると喋れるようになるみたいですね」
「そうだな、今まで何匹か鍛えてきましたが、皆その過程で言葉を話すようになってましたよ」
間違いなくあの村にも何か、パンがやらかしたモノが存在する。
そしてそれから加護が滲み出て女神汁か何かを形成し、モルモル達を進化させている……。
喋れるようになるまで進化するって、冷静に考えたら凄まじい加護だぞ?一体何があの村にあるんだ?
奴が帰ってきたらじっくりと記憶を探ってもらわなければいけないな。
取り敢えず奴が帰ってくるまで謎は置いておくことにして、互いに情報共有をすることにした。
こちらからはドワーフの集落の現状と特産品の紹介、あちらからは村の状況。
村の話は面白かった。俺達が旅に出てから密かに一ヶ月は経っている。
その間起きた変化はまず先程聞いたモルモルの大繁殖だ。
増えたと言っても自制心を持つモルモル達は爆発的に増えるということはなく、村に必要なだけ増えたら増殖を止めたらしい。
特徴からメスのモルモルと表現したが奴らに性別はなく、増えたい時に適当に分裂をして増えるそうだ。
そして増えたモルモル達は上下水道の浄化の他、ゴミの処理や街の清掃等にも一役買っていて今では掛け替えのない街の清掃者としてチヤホヤされているらしい。
いいよなモルモル。俺も日本に帰る時1匹持って帰りたいもの。
次に聞かされたのは人口の増加。
予想はしていたけど以前より更に人口が増して村の規模はかなり大きくなったそうだ。
これはダンジョンと魔道具の噂が大いに影響をしているようで、生活をより良くしたいと欲を出した人々がこぞって集落ごと村に押し寄せてきたとのことだ。
欲がない人たちだと思っていたが、奴が作った世界だからな。
美味しいものを見た瞬間、知った瞬間欲が出てくるというのはしょうがないことだろう。
何より欲と言うものがあれば良くも悪くもそれを満たすために行動を起こすようになる。
村の人達は自立への道を順調に歩み始めているんじゃないかな。
「後これはリットちゃんからのお願いなんですが……」
言いにくそうにシゲミチが伝えたそれはリットの強運を知らしめる言葉だった。
「ユウさんの家にあった食べ物を冷やす魔道具を村にも欲しい!とのことですが、可能ですか?」
魔導冷蔵庫、大型の魔石が必要なため現状量産には向かないと判断して村には卸さなかった物だが、ドワーフの所に行って事情が変わった。
そう、先日見つけたアイスモルモルを使えば簡易式ながらも量産可能なのである。
しかしまたモルモルか。肉の集落からモルモルの集落に生まれ変わりつつあるな……。
「と、シゲミチ、ザック腹減っただろ。そろそろ飯にしようじゃないか」
「そうでした、ごはんですよと呼ばれて来たんでした」
忘れてた忘れてたと笑うシゲミチ、君はもっと大切な事を忘れている。
自己紹介をするタイミングを逃し、困った顔をした少女がシゲミチの後ろに佇んでいた。