第百六話 一時帰還、再会
カレーに続きカレーうどんの振る舞いでドワーフ達のカレー信仰はより熱いものとなった。
本格的な特産品とすべく、ウサ男にカレー粉とその材料となったスパイス類を渡してカレー粉量産の丸投げをしておいた。
ウサ男の研究によりレシピ化した暁には此処の住人に渡し仕事とさせるのもいいだろう。
連日に及ぶ飲み会や試食会もただ無駄飯を食わせていたわけではない。
会場に集まるドワーフたちからそれぞれ話を聞き、それとなく情報収集をしていたのだ。
彼らが作れる武器は片手剣、両手剣、戦斧、槍、小剣。
また、魔鉄鋼を与えてみたところ、其れを使った小剣の製作にも成功し、魔鉄鋼の鏃の製作に着手できそうだなと感触を得た。
さしあたって作らせたのは魔鉄鋼の包丁だが。
これは形が違うものを3本5セット作ってもらい、そのうち1セットはウサ男にプレゼントしてやった。
これからも苦労をかけるからその例だと渡したら泣いて喜んでくれた。
メイドたちも何かほしそうな顔をしていたが、それはまた今度…何か其れらしいのを見つけたらな。
また、技術者同士の情報交換として一度村の鍛冶師、ダンと会う約束も取り付けた。
ダンにはまだ話していないが、悪い話ではないから断られることはないだろう。
酒は誰が作っているというわけではなく、誰でも適当に作っているそうだ。
なのでマルリさんから適当に人を選んでもらい、始まりの村の材料で酒を作って貰う予定だ。
うまく行けばここのとは別の酒ができるわけだ。
酒好きのドワーフたちにとっても悪い話ではない。
そんな具合で俺は集落で人間向けの調査と相談、パンやルーちゃんナーチャンは外でダンジョン向けの調査と相談をして日々を過ごしている。
◆◇◆
そしてすっかり忘れかけていたが、シゲミチが来る日になった…と思う。
今回は拗ねられないよう、前の日からきちんとパンにルーちゃんを借りる説明をした。
「ふうん、あの小僧を迎えに行くのね。じゃあ私も行くわよ。ちょっとダンジョンにやることあるし、あんたも久々に家や神殿……宿に顔を出してくると良いわ」
「今神殿って言ったよね!?……まあ、だいぶ調査も進んだろうし、ダンジョンに手を入れても良い頃だろうな。よし、じゃあ明日は皆で一時帰宅しよう」
「おうちー!おうちー!」
「おお、いよいよ本宅にいけるのですね」
せっかくだから一泊くらいしてから来ても良いな。シゲミチも疲れてるだろうしさ。
温泉の従業員やマルリさんに明日まで帰らないと告げ、俺達は転送門に入った。
◆◇◆
「ふう、外に出てもヒヤッとしないのはいいわねえ」
「そうか?俺は寧ろモワっとしないなあくらいにしか思わんが」
「あんたは集落でヌクヌクしてたからね!!」
「お前も途中からフィールド使ってたから一緒だろ……」
ゲートを出てそうそうそんな事をしていると、すっかりダンジョンの顔となったリリィが俺達のもとに駆けてきた。
「あ!ユウ様!それに女神様にルー様も!ユウ様、ようやく来てくださいましたね!先日から村の方が宿の方でお待ちですよ!」
あれ……今日何日だっけ……?
スマホのスケジューラーを確認すると約束した日より3日が経過していた。
大遅刻じゃねえか!
ダンジョンチームを残し、クロベエに飛び乗ってヒカリと共に宿へ急いだ。
参ったな、まだ5日くらいしか経っていない感覚だったが……。
毎日昼間から宴会まがいのことしてたせいだなこりゃ。
「「おかえりなさいませ、ユウ様」」
執事のウサールとメイド長補佐のライラが俺を出迎えてくれた。
ちなみに名前は今つけた。
「客が待っていると聞いていたが……?」
「はい、お二人はお部屋でお仕事を、お一人はモルモルに連れられユウ様のお家へ向かいました」
む?二人が仕事はわかるが、もうひとりはモルモルと家に?……ははあ、ザックも来たんだな。
モルモルに連れられ俺の家に向かうような人間なんて一人しかいない。
あいつはもうモル助の弟子みたいなもんだからな。メンテで家に入るくらい問題ではない。
「もう直ぐお昼になるな、よしライラ、俺の家までメイドを走らせザックを呼んできてくれ。
ウサールはコックに昼食の用意をさせ、用意ができる頃客人を呼んできて欲しい」
「「かしこまりましたユウ様」」
俺もすっかりご主人様業が板についてきたんじゃないの?そんな業種があるかは知らんけどさ……無いか……。
ここの所、遊んでるようでずっと働いていたようなもんだからな。のんびりとした日は久々だよ。
窓から外を見ればクロベエとヒカリが仲良く追いかけっこしている。
あいつらなんだかんだ言って仲がいいんだよな。時折2匹でどっか消えるしさ……。
……そのうち子猫連れてきそうだな……。
うつらうつらと半ば眠りかけていたらライラに肩を叩かれ起こされる。
半覚醒状態は普段より感覚が鋭いというか、様々な欲求が強く出るというか……。
なんだかライラからいい匂いがしてクラクラしてしまう。
「ユウ様?ああ、よかった。お休みの所申し訳ありません、お客様、ザック様をお連れしましたので……」
「ああ、ありがとう。そして久しぶりだなザック、やっぱりザックも来たか!」
頭に1匹のモルモルを乗せたザックがハニカミながら立っている。
「どうも、しばらくです。シゲミチの奴が他所の集落に行くって言うんで俺もついてきたんですが、まずかったですかね?」
「いや、そのうちお前も呼ぼうと思っていたから逆に助かるよ。それで、その頭の上のモルモルは?」
「ああ、こいつは村で産まれたモルモルで、勝手ながらモリーと名付けて可愛がらせていただいてます。俺の弟子なんですよ」
「はじめまして、ユウ様!わたしはモリー!ザック様の有能な一番弟子ですのよ!」
ほのかに桃色を帯びたモルモルはザックの一番弟子のモリーであると可愛らしい声で名乗った。
モルモルの……メスだと……?