第百五話 カレーの日
昨日のカレー試食会は大盛況だった、がそれに至るまで少々問題が起きてしまった。
各自パンを持ってきて貰うという条件を出したが、それはドワーフ達を困らせることとなってしまった。
失念していたが、ここにはサツマイモ見たいなマサモと肉と葉野菜しかない。
困った顔でイモを手に並んでいるドワーフ達を見てそれに気づくこととなったわけだが、流石にサツマイモでカレーを食って頂くのはどうかと思ったので急遽大量の丸パンを量産する羽目になった。
と、言っても時間はさほどかからない。生産キットでちゃちゃっと機械的に操作するだけで山ほどのパンが作れてしまうからな。
はじめからこれをしなかった理由は二つある。
一つ目は在庫の問題。いくら大量に備蓄してあるとは言えボックス内の材料は有限だ。無から有は作ることが出来ない(一部例外はあるけど)
家に帰ればウサ族やモルモル達に任せてある畑から補給することは出来るが、ぶっちゃけめんどくさい。
二つ目は簡単な話、きちんと窯で焼いた方が圧倒的に美味しいのだ。
生産キットでは様々な料理を作ることも出来るが、そのどれもが無難な感じなのである。
まあ、こんなもんだろうという具合なので不味くは無いのだが、ウサ男なんかに焼いて貰った方がずっと美味しい。
今回の主役はあくまでもカレーなのでその辺は妥協しても構わないっちゃそうなんだけどね。
というわけで、パン作るマンと化した俺は終始パンの生産に追われる羽目になった……。
カレーは大好評でパンにも特に不満が出ることが無く、カレーに良く合う食べ物として認知されたようだった。
誤算だったのは甘いカレーの方が受けたことだ。
元々マサモを食べて暮らしていたせいもあるのか、先に空になったのはマッシュマサモ入りのお子様向けカレーの方で、普通のカレーは1/3ほど残ったまま会は終わりを迎えた
「甘い方が残ると思ったんだが、これはちょっと誤算だったな」
「見てたらオッサンの方が甘いのを好んで、ねこ耳のが辛いのを好む傾向があったわよ」
こいつただ喰ってるだけかと思ったが、そういう所はきちんと見てたのね。
そう言われてみればマルリさんも辛い方が好みの様だったし、男女で味の好みが違うのかも知れないな。
「しかしあんたも上手いことやるわね」
「ん?一体何の話かな?」
「カレーに合う食べ物だってパンを広めちゃったでしょ。でも原料のミーンはこの地じゃ育てるのが難しい。
てことは始まりの村で作ったのを買うしかないわけじゃないの」
「ああ、そうだね。これでまた一つ、互いに交易する理由が増えた。現状でも十分乗り気みたいだけど、パンが食えるとなれば寄り興味を持ってくれるはずさ」
「始まりの村の人達が興味を持つかどうかってのはあるけど、それはシゲミチだっけ?キンタの側近が来てからね」
側近て。
でもまあ、彼も今や副村長みたいなもんだし誰よりも村の人達に詳しい存在だ。
この集落を視察して村に必要な物があればピックアップしてもらい、それを主軸に市場の構想をすれば良いだろうな。
さて、今後やることは色々とあるわけだが、真っ先に我々が考えなければいけないのが残ったカレーの処理だ。
もう少し量が少なければ我々で片付けてしまえば良いし、もう少し量があればプチ試食会でも開けば十分ハケたと思うんだけど、この量は実に半端だ。
かといってしまっておくのもなんだかな……。
「あ!良いこと考えたわ!」
「はい、パンくん」
「なんかチンパンジーか何か見たいに呼んでない!?まあいいや、うどんよ!カレーうどんにすべきだわ!」
ドキッとした。まさかバレかけるなんて……。まあいいや、カレーうどんか。悪くないな。
タレを入れて水増しすれば確かにきっかり全員分賄えそうだな。
「珍しく良い案を出すじゃ無いか!ここの名物メニューがまた一つ増えたし褒めて使わす」
「何よ偉そうに!じゃ、私はウサ男にレシピ伝えてくるからあんたもちゃんと用意するのよ」
はて、俺の用意とは一体。
首をかしげていると厨房へ去りゆくパンの声が遠くから聞こえてくる。
「分かってないって顔してるわね!麺よ麺!あんたはうどんを錬成なさい!」
無責任にそう言い放つと素早く厨房に潜り込みバタンと扉を閉めよった。
「錬成って俺はうどんの錬金術師かよ!」
流石に人数分うどんを作るのは嫌だ。はあ、また製造キットのお世話になるとするか……。
◆◇◆
ユウの奴、きっとまた製造キットに頼るーとか考えてるわね。
無難な物しか出来ないのが不満だ~なんてぼやいていたけど、それが自分のせいだとは夢にも思わないでしょうね。
前も言ったけど製造キットはあいつの知識を元にカタログが作られている。そして出来上がる物もその影響を少なからず受けている。
それが料理となるとよりそれは強く出る。
作ったことがある料理を製造しようとすると、その時の記憶が寄り強く影響するわけで、うどんやパンなんかが無難な具合になるのは間違い無く自業自得。
あいつ、自分で自分のことを器用貧乏の広く浅くマン!とか威張って言ってたけど正にその通りね。
大抵のことは器用にこなすけど、そのどれもがプロ級とは言えないし。
とは言え、それに助けられることが多いのだからいい拾いものしたもんだわ……。