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第百三話 はんばーぐかれー

 米が無い。なんてこった、すっかり忘れてた……。


 異世界転移者共がこぞって解決策を探る憎い穀物、米!


 俺としたことがすっかり無いことに慣れすぎていた……。


 元々朝は適当にコーヒーとパンで済ませちゃうし、昼こそご飯を食べることはあったけど、夜は大体飲んでしまっていた。


 さらに言えば飯に合うオカズと言う物と今だ出会っていない。佃煮とか、塩辛とか、たらことか……、その手の「ええい、飯をだせ!白米だぞ!白米!」といった塩辛い物と遭遇していないのもあってご飯の存在を忘れていたぞ……。


 畜生、思い出したら急激に米を食いたくなってきた。ここが済んだら米探しの旅に出るしか無いな。


 

 その前に試食会をどう切り抜けるかだ。


 ナンを焼いて貰うか?いや、ウサ男に作って貰ったカレーは所謂おうちカレーに近いカレーだ。あまりナンに合うような味をしていない気がする……。それにドワーフの人数を考えればアホほど焼く必要があるだろう。


 ここは学校給食よろしくパンで喰って貰うしかねえな。女神じゃ無くて食べる方のパンで!


 パンで食べることに寄る大きな利点がある。


 それはパンをセルフサービスにするのだ。パンコーナーからご自由にお持ち下さい、ではないぞ。

 家からそれぞれ持ってこい、そういうセルフサービスだ。

 そうなるとサービスじゃ無いか……パンはセルフで!これだ。


 マルリさんには取りあえずうちのパンで試食して貰うとして、ハンバーグを焼かねばな。


「マルリさん、今からさっきのアレが美味しくなりますよ」


「一体アレがどうなるのか想像もつかぬが楽しみじゃのう」


 踏み台に立ち、俺に掴まりながらフライパンをのぞき込むマルリさんは尻尾をめちゃくちゃフリフリしている。

 ここまで強烈なフリフリを見たのはクロベエが俺の葉っぱ小屋を壊しかけたとき以来では無かろうか。


「じゃ、焼きますよ」


 たねをフライパンに落とすとジュワーっといい音が腹を鳴らす。植物性の油はまだ作っていないため、獣脂をその代わりにしているが、そのせいで余計に胃袋をくすぐる。


 その香りはマルリさんにも覿面に効いているようで、隣からも盛大にお腹の音がぐうぐうと聞こえてくる。


 さて、そろそろ頃合いかな。ハンバーグをひっくり返すと、うっすらと良い具合に焼き目がつき、ジュワジュワと油が踊っている。


「ここでちょっとお水を入れます。少し跳ねるので離れてて下さいね」


 油の奴は想像の斜め上を行く跳ね方をするからね。マルリさんの可愛い顔に飛んだら大変だ!


 水を注ぎ蓋をすると、ジュワアアアアアといい音が聞こえてくる。ああ、この音たまらない。音も料理の味の一つだってなんかで読んだけどほんとそうだよな。


 まあ、そのせいで自炊してると作り終わった段階で食欲が満たされる事もしばしばあるのだが。


「では、仕上げです。またひっくり返して一気に強火で水分を飛ばす!」


「おお、景気が良い音がするのう!」


「ここでマルリさんにお仕事です。この串を真ん中に刺して貰えますか?」


「ん?こうかの」


 プスりと竹串が刺さると透明な油がじわっと滲み出てきた。やったぜ、一発クリアだ!


「上出来です!さあ、完成ですよ!今日はカレーをかけて食べてみましょうねえ」


「おお、さっきの辛い奴じゃな。わしは刺激的な方をかけてみたいぞ」


 ほほう、意外なことにそちらがお好みでしたか。まあ中身はおばあちゃんだしな。っておばあちゃん弐そんな刺激平気なのかな……まあいいか……。


 お皿にハンバーグを盛り付け、ウサ山にカレーをかけて貰う。ご飯があればなあ……。


 悔しいが仕方ない。パンを入れたバスケットと共にテーブルに置き、マルリさんとリリ、そしてウサ山の4人でプレ試食会の始まりだ。


「じゃあ、いただきます!」


「「いただきます!」」


「おお、食べる前の挨拶かの?いただきますじゃ」


 ハンバーグにスプーンを突き立てるとじゅわっと肉汁がしみ出してくる。そのままカレーと共に口に運ぶと……うめえ、な……。


 やはりハンバーグとカレーの相性は抜群だぜ。揚げ物と合わせるのも好きなんだけど、やっぱハンバーグだわ。


 パンとの相性はまあ、普通だな。知ってる感じがするのは成功と言って良いだろう。


「なんじゃこれは、なんじゃこれは!美味しいのう!美味しいのう!」

「あんな極悪な野菜が……こんなに美味しいお肉になるんですねえ……」

「ユウ様、このハンバーグのレシピも後ほど教えて下さいね」


 それぞれがそれぞれの感想を述べつつ、夢中になってハンバーグカレーと戦っている。

 リリィは少し勘違いをしている節があるが、面倒なので修正はしないでおく。


 タマネギ刻ませた後はウサ男の手伝いをさせてたからな。挽肉と混ぜる辺りは見てなかったと思うし。


 マルリさんにここまで受けたのならばドワーフ達にも満足して貰えそうだな。


「うさ男、念のために200杯分は作っておいてくれな。辛いの100杯、甘いの100杯でいいからさ」


「ですな、これなら十分ハケそうですし、残ったとしても翌日食べれば良いでしょうし」


「ああ、二日目のカレーという奴は絶品だぞ。なんたって味が染みるからな」


 ただ、二日目のカレーについて、この土地は多少問題がある。この土地の気温の高さだ。

 ウェルシュ菌とやらの悪さによってカレーが傷み食べられなくなる恐れがあるわけだが、ここで気になるのがこの世界にそれらの菌が居るのかどうか。


 もしもそう言った物が存在しない世界で、食中毒は文字通り毒を喰った際にのみ起きるーというのであれば常温放置をしても平気だろうが、肉や野菜が腐るあたり流石にそううまい話は無いだろう。


 ま、余ったら冷蔵庫に入れりゃ良いか。この施設にはデカい魔導冷蔵庫を設置してあるからな!


 

 その手の悩み知らずでまったくイージーな異世界だぜ。


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