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第百二話 マルリさんの涙

 味見役……ということでマルリさんがやってきたが、せっかくだしもう1品作るお手伝いをさせよう。

 ただし、今から作る料理はあくまでもお試しの料理で今回の試食会には出さない。


 なんたって沢山作るのが面倒な料理だからな。


 「じゃあ、マルリさんはこのギネマの皮をむいて下さい。俺は肉の用意をするので」


 マルリさんにギネマを預け、俺は製作キットで作っておいたミンサーを取り出し肉を挽いていく。

  

 ミンサー、肉を挽く道具だが、製作キットのレシピ一覧に都合良くその姿は無かった。しかし、図面を書いて読み込ませる事によりなんとか作ることが出来たわけだが、何度も言うけど俺にはそういう知識は皆無だ。


 多少PCに詳しかったり、ちょっぴり絵の技法を知っていたり、釣りの知識があったり……様々な趣味をつまみ食いして得た浅い知識、広く浅くを体現した俺そのものと言ったレベルの知識しか無い。


 今の時代、便利なものだ。[ミンサー 構造]でググってみなさい、公開されている図面が出てくるから。俺はそれを丸写しして作ることに成功したというわけだ。


 図面を書くのも面倒くさいので、そのうち女神を騙してプリントアウト機能でもつけて貰おうと思う。


 そうこうしているうちに肉が弾き終わった。マルリさんは……めっちゃ泣いている。


「ユウー……この野菜はなんじゃー、目が痛いのじゃー」


 マルリさんの手を引きシンクに連れて行って顔を洗わせる。目を痛くする成分を洗い流すのだ。


「ふう……いったいなんなのじゃ、わしが何か悪いことをしたかのう」


「ごめんよ、ギネマは剥く時気をつけないと目をやるからね……」


 さて、みじん切りだが……これこそ目をやるんだよな。包丁代わりのナイフを使うのはどうも嫌な予感がする。ウサ男……はカレーで忙しそうだな。


「そこの……ええと……リリ!ちょっときてくれ」


「はい、ユウ様。珍しく当ててくれましたね?尻尾を凝視なされたんですか?」


 違う!別にお尻を凝視したわけではないぞ。何となく雰囲気でそう思っただけだ!


「だんだんと何となくだが見分けがつくようになってきたんだよ。ええと、このギネマを細かく刻んでくれないか?最初はこの方向からこれくらいの間隔で刃を入れて……、次はこちらから同じように。最後は手前から奥に向かって刃を入れ、最後に仕上げとしてまんべんなく切る、できるな?」


「任せて下さい!」


 張り切るリリの様子を近くで見ようとしているマルリさんだったが、そこに居ては被弾するよ。

 

 マルリさんの手を引いてリリから距離を取らせ、そこで改めて観察させる。


「マルリさん、見ていて下さい。あの作業が一番目に来るんですよ」


「そんな作業を人にやらせるとは……おぬし中々酷いな」


 褒められてしまったが俺だって嫌なものは嫌なのさ。


「ユウ様ー、この野菜……恐ろしいですよー……目が……目がー」


 泣きながらも手を止めないリリ、メイドの鑑である。


 後でドワーフの鍛冶師と相談して良い包丁を作って貰わねばな。ドワーフの腕ならきっとタマネギにも勝てる名刀を打ってくれるに違いない。


「そのくらいでいいぞ、リリ。すまなかったな、辛い仕事をさせて……お前にも味見させるから許してくれ……」


 顔を洗うリリに労いの言葉を投げ、次の作業だ。


 取り出したのはパン粉、調味料、そしてレッグ・コッカの卵だ。これは前にウサ族から貰ったのを取っておいたものだが、卵を盗むからレッグ・コッカに目をつけられたのでは無いかと思っている。


 卵の敵を討ちに来たらクロベエに狩られてしまった、そう思うと哀れに思う。


 しかし旨い飯には勝てないのだ。パン粉に卵黄、挽肉、調味料、そして軽く炒めたタマネギ、をボウルに入れ、マルリさんに練って貰う。


「ほほう、これは中々……興味深い手触りじゃ」


 こねこね、こねこね、こねこね……。マルリさんが嬉しそうにたねをこねている。

 この人百歳を超えているんだよなあ。可愛いなあ。


「じゃあ次はこんな感じで丸めて下さい」


 手頃な大きさに丸めたねを見せると、ピコピコと耳を動かしながら嬉しそうに次々と丸めていった。

 年上の娘ってどうかなあ……だめかなあ……。


「で、この中には空気が入っています。それを逃がすために……こう!こうこう!」


 左手から右手、右手から左手に一人キャッチボールをしてみせる。当然それもまた嬉しそうに真似をしてくれる。


「最後に平たく潰して下さいね」


「一体何をしているのか分からんが、とても楽しいことは確かじゃよ」


 嬉しそうで何よりです。これを焼いたらもっと嬉しいことが起きますよ。

 

 いよいよ焼くぞ、と言う時にウサ山から声がかかる。味見の時間が来たらしい。


「辛い?という舌がビリビリする方と、それがない方それぞれ用意できました。ちょっと味を見て貰えますか?」


 差し出された小皿を受け取り一口食べてみる。ん……なるほど、スパイシーながらも何処か家庭の優しい味を感じる。子供には少し辛いかも知れないが、大人にはイケるかな?


 続いて恐らくは甘口の方だ。うむ、これはこれで旨い。子供向けのカレーのような味わいだが、マサモがふんわりと香り大人にも受ける味わいだ。


「マルリさん、刺激的なのとそうじゃないのがあるけど、どちらから味を見る?」


「もちろんこっちじゃ!」


 辛い方に手を伸ばし、ペロリと口へ。


「ん……んん……これは……口の中で何かがあばれておるのう……じゃが、悪くないぞ!」


 カレーが口に合ったのか、嬉しそうに甘口の方にも手を伸ばした。


「ほう、これはマサモがはいっとるのかの?さっきのも良いがこっちのもいいのう」


 マルリさんの反応も悪くないな。このまま仕上げて貰おう。


 後はたねを焼いてハンバーグを完成させ、ご飯と共にカレーをかければ異世界産ハンバーグカレーのかんせ…………


 米がねえ!

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