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第九十九話 女神の帰還

そろそろ夕方かと言う頃、凄まじく疲れた顔でパンが帰ってきた。


 クロベエに様子を聞くと、幾度となく逃げようとしてはヒカリに捕まり渋々ながらもきちんと仕事をしてくれたようだ。


「おつかれ!流石に今日は頑張ってくれると信じていたからな、ウサ男にレシピを渡して上手くて辛い鍋を用意して貰って居るぞ。先ずは風呂に入ってから飲みながら喰いながら報告してくれな」


 仕事をする者に俺は優しい。後からブチブチと恨みの言葉を投げつけられないよう、きちんとフォローの仕込みをして置いたのだ。


 何か言おうと思って居たのだろう、凄まじい形相で俺ににじり寄っていたパンだったが、俺が精一杯の作り笑顔で言った労いの言葉に驚いた顔をすると、コロリと騙されて温泉施設に向かっていった。


 鼻歌と共に施設に消えたのを確認し、ちょれえなと思わず口に出す。


 実際、労いの気持ちはあるし、感謝の気持ちだって有るからな。ただ単にぐだぐだ言われるのが嫌だっただけだ。


「さて、俺も仕事はこの辺にして温泉に行くか。クロベエ、ルーちゃんとナーちゃんを探しに行ってきてくれ。温泉に入ってご飯にしよう」


「おっけー。でも俺は温泉には入らないからね。No風呂!Noお湯!」


 どっからそんなセリフ覚えてきたんだこいつは。どうせパンだろうな。今日一緒に行動して変な口調がうつったに違いない。後でヒカリから事情聴取しなくては。


 温泉に浸かり身体の芯から放たれるため息を天に放ち疲れを湯に溶かしていると女湯から賑やかな声が聞こえてくる。


「ママーおかえりー!今日は頑張ったって聞いたよ。偉いねー」

「うむ、母上が多数の標本を採ったと聞きましたぞ。父上も喜ばれることでしょうな」


「うわーん、ありがとう貴方たちー!かわいい!かわいいかわいい!」


 ……どっちが子供かわからないなあれは。ルーちゃんナーちゃんが可愛いのは同意だが、子供から偉いねーされてどうすんだ。


 ……いや、俺もされたい、労って欲しい!


「ユウ殿、聞きましたぞ。ラーメン屋という物を考えているとか。昼に召し上がっていただいたラーメンは女神様から教えて頂いた料理ですが、なるほど確かにこの地に適している。

 其れに気づかれるとはユウ殿、流石ですな。ユウ殿のような方に仕えられてウサ族を代表して……」


「あー、ウサ男か。いいからいいから……、俺もウサ族には感謝してるから気にすんな」


「勿体ないお言葉!今夜の食事も期待していて下さいね!では、私は最後の準備がある故先に!」


 ……俺にはウサ族からの労いかよ……。そこはせめてウサ族はウサ族でもランとかララとかそっちの方々に来て欲しかった!ユウ殿、お体を流しましょう、とかいってさ!てか何でいきなり温泉に入りに来てんだよ!調理中じゃ無いのかよ!


「ユウ殿、お体を……」


「来ると思ったよ!モルモルが!あ、でもモルモルに洗って貰うの好きだから頼む!」


「命に代えても!」


「代えなくて良いから!重いよ!はあ、なんだかどっと疲れたな」


「疲れ?それはいけない。では本日はフルコースで……」


「ちょ、モル山!ちょ、そこは!モル!アーッ!」


 ……モルモルの超絶テクを堪能し、すっかり疲れがほぐれた俺がロビーに戻ると先に上がって待ちくたびれたパンが何杯目か分からない生中ですっかり言い具合に酔っ払っていた。


「おそーいわよ!ユウ!珍しく長湯なんかしちゃってさ!皆ご飯待ってるんだからさっさとしないさいよね」


「わりいわりい、いや俺も結構疲れてんだな、つい長湯しちゃったよ」


 文句を言いつつも生中が注がれたジョッキを手渡してくるパン。たまにこう言うマメなとこ見せるんだよな。


 もう少しだらしないのが直って、裏切ってサボるクセが無くなって、大雑把な性格がなんとかなれば立派な女神様になれるだろうに……。


「リリ、ウサ男に夕食を出して良いと伝えてきてくれ」


「かしこまりましたユウ様。そして残念ながら私はミミです。リリとの見分け方ポイントは胸元のほくろですよ」


「毛に覆われていてみえねえよ!ちくしょう!」


 うふふっと悪戯っぽく笑うとミミが厨房に飛んでいった。まったく、ウサ族は俺のケモ属性レベルをさらなる段階へ上げる危険な存在だな……。


「ルーちゃん、ナーちゃん。今日のご飯はちょっと辛いからね、一応ルーちゃんナーちゃん用の辛くない鍋も用意してあるから、辛いの味見して無理ならそっち食べてな」


「はーい!でも辛いのも楽しみだよ!」

「うむ、姉上同様チャレンジしたく思います!」


 そういうと思ってはじめから「君たちは子供用を食べなよ」とは言わなかったんだ。子供を子供扱いすると拗ねるからな。


 今日のは辛さを控えめにして貰ってはいるが、きっと後悔するぞー。


 そして間もなく赤い鍋と普通の鍋が運ばれてきた。


 メイドのムムが蓋を開けると湯気がふわりと立ち上り、食欲を誘う香りが当りに漂う。


「では、皆様ごゆっくり。あと、私はメメです。お尻にあるハート型の痣が特徴ですよ」


 だからみえねーっつってんだよ!ていうか心を読んだのか?読んだんだな?そんなスキル持ってるのかよ!


 人差し指を顔の前に立て、内緒❤のポーズをすると、ぴょこぴょこ跳ねて厨房に消えていった。


「さあ、食べよう食べよう!食べて飲んだら今日の成果を語り合おう!」


 ウサ族謎の誘惑を断ち切るようにやけくそ気味に夕食を宣言し、楽しい時間がはじまった。


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