第十話 建造キットその3
せっかく完成したと思ったら竈がなかった。
ならば外で煮炊きすればいいのでは?……と思ったが、それは何か悔しい。せっかくおうちができたんだし、全部家の中で済ませたいじゃ無いか!そもそもお外で煮炊きは雨が降ったら詰むじゃ無いか!ってわけで、悔しいけれど作り直すことにした。
「くそー!立て直しかよー! 壊すボタンとかあったっけ……あったあった」
「撤去」ボタンを押そうとすると、飛んできたパンちゃんに真顔で止められた。
「ちょっと!?なにやってるのよ?」
「なにって……作るの失敗したから壊そうと……」
「ばかねー 足せばいいじゃないの。増築するたび撤去する気なの?そんな面倒なことしなくても後から足せるのよ?ばかねー ほんとばかねー」
またしてもこれだ。大事なことは言わない、失敗しなければ覚えないの精神。
「ぐぎぎぎぎ……」
さらなる失敗を事前に防ぐべく、今度はちゃんと竈の材料を調べる。また何か足りないだの、場所が無いだののミスをすると鬼の首を取ったかのように弄られるかんな!
ネットの智恵を借り、竈についてざっくりと調べていく。当初は和風のを考えていたけれど、建物の雰囲気は洋風だ。それに和風の竈はちょっと違うと思ったので、レンガを使った洋風の物を創ることにした。
レンガの素材は泥で何とかなりそうだったので、それが回収できそうな泉に向かう。
開拓ツールで水辺の泥を陸に上げ、スマホをかざしてアイテムボックスへ格納していく。どういう仕組みかわからないが、ボックス内で他のものに干渉しないらしいので助かる。
せっせとボックスに泥を入れ、背後から様子を伺っていたパンちゃんにしたり顔を向けてやる。
ふふん。どうだい? あんたのお望み通り開拓ツールをつかってやってるぞ。予め資材を調達するこの姿、すでにアプリマスターと言っても過言じゃないだろう?
「はーーー…なるほどねー やっぱ馬鹿なのね」
「はい!?」
「開発ツールで泥を上げてから回収してるけど、初めから泥だけ指定してボックスにいれたらいいんじゃないの?水面上にスマホをかざせばそれで済む話しじゃ無いの。なんでわざわざワンクッション置くのよ……」
……ぐぬぬ!
悔しいので無視を決め込み当初の手順通り泥を集めていく。女神が『ちょっとー!』とか『きいてるー?』とか『無視しないでー!』とか『うわーん!』とか言ってるが俺には何も聞えない。自前のノイズキャンセリングが働いてるんだい!
後から増築できると知ったので、ついでに家の周りをさらに宅地として均していく。こうしておけばまた何かの時に作業が楽になるし、何より今から作るキッチンを配置するスペースを取るためだ。
ノートを開き、元の絵に足す形でもう一部屋、6畳くらいの部屋を加え、レンガ式の竈と煙突を描きこんでクラフトを開始する。
思惑通り元の部屋にもう一部屋くっつくようにキッチンが追加された。
部屋とキッチンの間にはドアをつけなかった。竈の熱がこちらにも来るよう、暖房代わりになればという思惑だ。今は温暖な季節のようだが、冬になったらたまったもんじゃないしね。
鍋を二つ乗せられるように作ったのでスープを作りながらフライパンで炒め物まで出来ちゃうぞ。我ながら良いキッチンになったと思う。
「寝床は明日ベッドを作るとして、今日は毛皮でもしいて寝よう」
「ゆう ねるとき おれにくっついていいよ」
「うんうん、ていうかくっつくのはお前だろ。俺を潰さないでね」
「ゆう 私は そろそろかえるわね」
「あんたまだいたのか!」
「呼び出しておいてひどい!」
ぷりぷりと怒りながら女神は去っていったが、どうせまた肉の時間になれば来る気がする……。
漸く静かになった我が家。そっと目を閉じると一気に眠りの海に飲み込まれていった。
◇◆◇
壁がある生活とはいいものだ。温暖な季節とはいえ風は気になる。壁のおかげでその影響もうけずぐっすり眠れ、疲れもバッチリ取れた……気がする。
朝食を済ませ森へ向かった。肉を手に入れ3日分の携帯食の寿命が延びたが、それも頼りには出来ない。
朝から肉を食べるのは地味に辛いので携帯食はありがたいが、もう何回か朝を迎えればそれも食べられなくなってしまう。そうなる前に他の食料も見つけておきたいところだな。
明後日には野菜を手に入れるため集落に向かうが、『近場』と言ってはいたけれど、そこまでどれくらいの時間がかかるかは聞いていない。
あの女神様が言うことだ。また何か面倒な事がおきないとも限らないので、念のために今日の内に肉以外の食糧を手に入れておきたい。
とはいえ、まずは魔石の確保を済ませる必要がある。スマホ大事!無いと俺死ぬ!そのために効率が良いヒッグホッグを狩ることになるわけだが、ついでに肉が増えてしまうのはまあ、しょうがないことだろう。
あれだけの死闘を繰り広げた相手、ヒッグホッグだが、今の俺にはスマホ投げという必殺技がある。もはや奴は敵では無く、肉と魔石をくれる優しい豚さんだ。
そんなわけで、さっさか森に入り、ちゃっちゃか探知をしてもらい、無防備にウロウロしていたヒッグホッグを2匹見つけてさっくりと狩っておいた。例のアレで肉は腐らないし、何度も言うが魔石は大事だ。明日も同じくらい狩れば行商に向かっても余裕で持つだろう。
NIKUと魔石の用事は済んだ!さあ、今日の本題、肉以外の食糧探しだ。
甘酸っぱいラッツの実もいくつかいただいたが、これはおやつだ。腹にたまる食材、せめてキノコや山菜が欲しいところ。
よく見れば朽木の周りにチラホラとキノコが見つかるが、カメラを通すと大半が毒判定を受ける。
食べるとびっくりするほど胃が震える イドウダケ
触っただけで手が腫れる モッグダケ
吸うと酩酊状態になる胞子を出す フルフル
モッグダケは見るからにシイタケのような見た目で旨そうだったので危なかった。
有名な毒キノコにカエンタケという恐ろしいものがある。非常に死亡率が高い猛毒のキノコで、手にその汁がついただけでかぶれ、万が一目に入ったら失明の恐れもあるという恐ろしいキノコだ。
地球にすらそんな恐ろしいモンスターのようなキノコが存在するのだ。異世界なのだから警戒するに越したことはない。
「偉そうに言ってるけど植物に関しては気楽に摘んでるわよね」
「出たな妖怪 教えたがり!」
「なによ!」
「パンちゃんさん……女神さまがそんな気楽に降りてくるもんじゃあありませんよ……」
「いいのかなあ、そんなこと言っちゃって……。おいしいキノコと山菜……知ってるんだけどなあ……」
「ぐっ ぐぐ……」
「ぐうの音も出ない感じ?(ぐう)」
――その時俺は女神の腹の音、奇跡の音を聞いたのだ。
「自分でぐうと鳴らしてたら世話ねーわ」
「……もーーーーー!仕方ないじゃない!お昼の事考えたらおなかがすいたんだから!」
意外なことに真っ赤になって照れている。こいつこんなリアクションもするんだ……全然甘酸っぱい気持ちにはならないけど……。
やり返すチャンスとおもったが、あんまり弄っていじけられると暫く面倒なのを身をもって知ってしまっているので、ほどほどに弄って話題を変えた。ほどほどにね。
「で、食えるキノコについてなんだけど……」
「あ、ああ!待ってね…… ええと……うん!みつけた!こっちよ!」
突如駆け出す女神を追いかける。なにこいつトリュフ見つけた豚さんかなにかかよ。
「キノコは逃げないヨォー」
「何言ってんの!逃げるわよ!ほら!あそこ歩いてるわ!はい!いつものやって!」
お前こそ何言ってんだこいつ……と……、指す方向をみてみればキノコが歩いていた。
「歩いてる…」
「言ったじゃないの!ほら!逃げるわよ!はやく!やって!」
やって!って。
くろべえをけしかけてみるが、
「きのこはおいしくないからやだ」
そう言って毛繕いをはじめてしまった。
仕方がないのでスマホを投げる。キノコの真ん中を貫きそこから綺麗にまっぷたつだ。
「こんなに簡単にモンスターを倒せていいものだろうか……」
「自分で無茶なことして何言ってんのよ……」
取りあえずスマホで鑑定する。
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魔獣:ムックル 無毒 可食
キノコ系モンスターで無毒。
朽木を食べ生活をしている穏やかな性格で非常に美味。
そのため人間や他の魔物から襲われることも多く、警戒心が強い。
何処に行っても敵しか居ないがめっちゃ美味いので仕方ないよね……
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「なんだかとってもかわいそうなことをした気がする…」
「でもめっちゃ美味しいのよ?めっちゃ!歩くうま味成分だし!」
そういわれ喉がゴクリとなった。なったが……同族以外心を許せる者が居ない孤独な種族……か。やっぱ割り切っても気の毒なのは気の毒だな。
「あ!ほらほら!あっちにもいるわよ!はやくやって!次はあっち!もー!逃げちゃう!はやく!」
……神は人以上に無常なのである。すまん、ムックル!俺は神の名においてお前達を食うぞ!