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隠遁勇者の隠し事  作者: 涼松 魚名
第1章 実は勇者が〇〇です
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第1話 「初戦から敗戦」 1st




 シュトローエン・グラム伯爵。

 本名スズカ・クロタキ

 年齢26歳。

 8年前に勇者として聖星宗教国イヴァレイに認定され、3年前に魔王を倒している。

 通称「東の勇者」「黒の勇者」等と呼ばれている英雄だ。

 黒の勇者と呼ばれるだけあって瞳も髪も黒い。綺麗とすら思える。

 この世界、ゼフィラでは黒髪、黒目は珍しく、極東の島国にそういう民族がいるとは聞いたことがあるが、グラムに聞くとその民族とは違うらしい。



 勇者といっても数年前の話だ。

 魔王軍もなくなった世界で悠々と暮らしているのだろうと思っていたのだが随分とイメージが違っていた。




 グラムに救われてから一週間目の朝、リエラは早朝に外から物音がするので目を覚ました。

 物音がする方向、窓から外をのぞくと昼間とは違うラフな格好でロー、シリル、ゼスリスと戦闘形式の特訓をしているグラムだった。


 ロー達3人は息も絶え絶えだがグラムにあっては汗を掻いていても随分余裕そうに見える。

 時折、講釈を踏まえながら3人に稽古をつけていたのだ。

 リエラは子供たちを起こさぬように部屋着からラフな格好に着替えると、ゆっくり部屋を出て早朝の中庭に降りていく。

 リエラがやってきたのに気づいたのかグラムはシリルの短刀を模した木刀を左手に持った木刀で押さえながらリエラに余裕を見せる。


「おはようございます。お早いですねリエラ女史」


 よそ見をしてても真横からくるローの攻撃を体捌きで避けシリルの攻撃を受けきる。

 決してシリルの攻撃がぬるいわけでもロー達の攻撃が遅いわけでもない。


「3人掛り相手によそ見とは随分余裕なのですね。勇者といえども足をすくわれますよ?」


「これは手痛い。だが、そろそろ時間か。少し早いがこのくらいにしようかロー、シリル、ゼス」


 3人が頷くと戦闘モードを解除する。肩から力が抜けるが、疲労は簡単には抜けなさそうだった。

 随分と激しく肩で息をしている。

 一方グラムに至っては疲れなどどこ吹く風だ。


「伊達に勇者ではないのですね。この3人だって只者ではないでしょうに」


「そうですよ。ローはイヴァレイの筆頭騎士でしたし、シリルは南のジャハルンに名を馳せる義賊でした。ゼスもガルヴェイラの次席宮廷魔導師ですよ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんと言いました? イヴァレイの筆頭騎士にジャハルンの義賊、ガルヴェイラの次席宮廷魔導師!? それは

   『疾風の聖騎士ハイウインドパラディンロー・セス・アマデウス卿』

   『残響サウンドウォーカーのシリル・ガード』

   『陣紡マジックエディターのゼスリスティス・ジェルウェイ』

のことですか!!?」


 随分と流暢にまくし立てる。

 グラムはホウと感心するが当人達は恥ずかしいのかとたんに慌て出す。


「お止めくださいリエラ様、ローやゼスは高名でしょうが、私にとっては悪名なのですから」


「何を言うんですか! 義賊なんて呼ばれているのはゼフィラでもあなただけですよ。貧しい領民の為に悪名をかぶるなど。それにシリル・ガードの悪い噂など聞いたことがありません」


「本当、お止めください。若気の至りなのです」


 顔を真っ赤にするシリル。だが、リエラのテンションは下がらない。


「それにローさんが疾風の聖騎士だなんて!! イヴァレイの誇り高き四聖騎士の一角など式典の時にしか会えないような方です」


「あぁー、そんな大したものではありません。私たちは本当に何も知らなかっただけなんです。グラム様に出会わなければ私などは本当にただの世間知らずなんですから」


「それに鎖国を敷いている魔法大国ガルヴェイラの次席宮廷魔導師! 通称、陣紡ぎ(マジックエディター)! 天才と言われた魔法使いの最高峰ですよ! 何度共同研究を持ちかけようと思ったことか」


「・・・・・・・・・ただの公僕です。家族のために従ってただけです。・・・・・・・・・恥ずかしいです」


 グラムは顎に手を置きリエラの知識に少し関心を示していた。グラムは勇者だから世界中を旅してきた。

 しかし、この世界の一般人はそう簡単に旅行などしないし、行こうとは思わない。

 当然知識も入ってこないのだ。


「リエラ女史、随分お詳しいですね。有名人とは言え、他国の著名人のあだ名や本名など中々知る者はいないと思うんですがね」


「あ、失礼しました。・・・・・・・・・・・・・・・・・・私が傍にいればいいなって思っていた人たちばかりなんで」


「?? 傍にいればいいな?」


「勇者とか、聖騎士とか、義賊とか宮廷魔術師とかはずっと私たちみたいな弱い人間の味方にはなってくれないと思っていましたから。苦しいとき、守ってくれる人に憧れていました」


「耳が痛い。そう思わないか? ロー」


「ええ。前は何も見えていなかったですからね」

「身近な人間も守れないものが英雄にはなれないと気づくのに随分と遠回りしました」

「英雄なんて大した価値ないんです」


 自嘲的な笑いだったが、グラムはどこか満足そうにしていた。


「はは。いいこと言うなぁゼス。とどのつまりそういうことですよ。リエラ女史。私たちは皆はみだしものなんです。・・・・・・・・・それでも・・・・・・・・・」


 グラムがゆっくりとリエラの頬に手を当てようとしたのかと思ったが、それは違った。グラムは突如リエラに投げ飛ばされた棒手裏剣のような暗器を掴みとっていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・こういうことをする輩よりはマシなつもりですよ」






読んでいただき恐悦至極でございます。

やっとこさ1話に入ることができました。

今年いっぱい分のストックはあるので定期的に更新予定です。


次は11日更新ですのでよろしくお願いします。

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