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隠遁勇者の隠し事  作者: 涼松 魚名
第1章 実は勇者が〇〇です
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   幕間「セツゲツカ領」 3rd




 同日、子供も寝静まる深夜帯。


 リエラはグラム邸の地下にあるスズカの書斎に向かって歩いていた。

 別になにか用事があるわけではない。

 もちろん、夜伽なわけがない。

 ただ、単純に話をしたと思ったのだ。



 シュトローエン・グラム伯爵ことスズカ・クロタキ


 勇者、宰相、愚者と様々な名前で呼ばれる傾奇者。

 それが世界が彼に下す評価だと思う。


 しかし、知り合ってからのスズカの行動は勇者の豪快さも、宰相の冷徹さも、愚者の狂乱さも感じることはなかった。

 そんな男に少し興味がわいたというのが大きな理由かも知れない。


 明かりが漏れる書斎の扉をリエラはノックした。


「はい」


 返事を入ってもいいという答えと解釈して開ける。


「こんばんわ」


 リエラはグラムの部屋を見渡す。

 領主の部屋なのだから豪華極まれりだと思っていたが調度品は多くはない。

 全体で30畳ほどの広さだろうか。


 奥にはベッドと机が置かれており、誰が来てもいいようにソファーも設置されている。


 ただ、この部屋で異常なのは本の多さだった。

 壁全面が本棚で覆われており、今もグラムはソファーに座りながら、酒を煽り、本を読んでいた。

 リエラを見て、その本を閉じてソファーから腰を上げる。


「ん? リエラ女史、どうしましたか? 眠れませんか? それならば香茶でも煎れましょうか?」


「そんな、お気遣いなく。私はただ卿と話をしようと思ってきただけです」


「夜分男の部屋を訪れるというのは感心しませんが・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 グラムに指摘され、一気にリエラの顔が赤くなる。


「へ? いやあの! そんなつもりは!」


「冗談ですよ。・・・・・・・・・座ってください。取って置きの紅茶を出しますので」


 そう言ってグラムは本を閉じ、席を離れて部屋の隅にあるティーポットを取りに行く。


 そして、リエラはグラムの机の上にあった読みかけの本に目がいった。

 教授であるリエラでも見たことのない文字。

 表紙は触れると非常に滑らかで、丁寧に整った文字が書かれている。


「見たことのない文字ですが・・・・・・・・・。これはどこの文字なのですか?」


 研究者の性というものだった。

 知識欲がどうにも常識に優ってしまうのだ。

 グラムにも同じ傾向があったためにくすりと笑う。


「それはゼフィラの界篤期に栄えた古代鳳凰文明で使われていた古代ヒボク文字です」


「こ、古代鳳凰文明!? 伝説の火山都市メキドスを中心に大陸に栄えたとされる! 1万1千年前の古代文明!?」


「さすがリエラ教授、博識でいらっしゃる」


「それは歴史的大発見では!? ですが、よ、読めるのですか?」


「一応。こう見えてセイリニア大学の歴史学を修めていますので、あと医学も」


 とグラムは笑顔で返してくるが、大学の修士がどうこうできる問題ではないはずだった。

 恐れ多いとわかっていてもリエラはそれを手に取って何が書いているのか分からないページを捲る。


「古代ヒボク文字・・・・・・・・・・・・・・・・・・。文字の大系も今どこの国のものとも違うように思えます」


「お、正解です。現存する言語とは体系が違うんで、それに気づかないと幾らやっても統一性を見いだせないんですよね」


「それにそんな昔の本なのに・・・・・・・・・こんなに綺麗だなんて。一体これをどこで」


「あーー、ジュスオード連邦の北部にあるジルキッタ遺跡で」


「何が書かれているのですか?」


「・・・・・・・・・何かの資料か説明書だと思うんですけどね。ちょっとわからない単語と数値が多くて」


「でも、ほんと博識でいらっしゃいますよね。この書斎にだって見たことのない本ばかり」


「この書斎の本は2階の図書室から持ってきているのでこの部屋のはもちろん、図書室のものも自由に読んでいいですよ。国外の珍しい絵本や貴重本の写本から一般的な魔道書までひと揃いありますから」


「えっ! よろしいんですか!?」


 ゼフィラでは未だに羊皮紙が使われているために図書館などはなく王立図書館なども限られた識者にしか解放されない。

 しかし、グラムの書斎の本のレパートリーはそういった国立の所蔵する図書と同量くらい存在する。


「はい。本は読まれなかれば価値はないと思っていますから。国外の珍しい童話の絵本もたくさんあるので子供たちにも読んでもらっていいですよ」


「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・、お心遣いだけ。子供たちは字が読めないですから」


「? すぐ読めるようになりますよ」


「あ、はい。私も自由な時間が増えるでしょうからこの機会に教えようと思っています」


「??? あの、明後日から子供たちには領立の初等学校に行ってもらいます。そこで字を教えてもらえるのでせいぜい2,3ヶ月もあれば簡単な絵本くらいは読めるようになりますよ?」


「・・・・・・・・・? でも、私たちにそんな費用は」


「領民はタダですよ?」


「・・・・・・・・・ですけど、アージェのような他種族のものが学校に行くなんて」


「セツゲツカ領は亜人種族の受け入れ政策をしていますから、確かに鬼人種はいませんがそれを気にする者は少ないと思いますけどね」


「あ・・・・・・・・・」


 そんな他愛ない会話で時間がどんどん過ぎていく。


 リエラは人生で初めて価値観の近い人物に会えたと感じていた。







 未だ本編がはじまらない。


 あぁ・・・スイマセン。


 ようやく次から隠遁勇者の隠し事の本編がはじまります。


 私も前振りが長かったと思います。


 次回の第1話「初戦から敗戦」は9日(月曜日)の更新予定です。



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