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隠遁勇者の隠し事  作者: 涼松 魚名
第1章 実は勇者が〇〇です
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   幕間「セツゲツカ領」 2nd




 同日晩


 グラムとセズの本気の料理が炸裂した。

 リエラを筆頭にマールに子供達、それに一緒に食事にありついたホーフはぐうの音も出ないくらいの豪華な食事を堪能しきっていた。


 リエラは行儀悪いとわかりつつも、椅子の背もたれに寄りかかりおなかを擦っていた。

 そんなリエラをスズカは笑いながら一見し


「お気に召してもらたようで何よりでした」


「・・・・・・・・・すごい豪華で、いえ、宮廷の豪華な料理は飾りだけであまりおいしくないんですけども、卿とゼスさんの料理は本当にすごかったです。宮廷晩餐会でもこんなに美味しい料理は食べたことがありませんでした」


「褒めすぎです」


「そんなことありまんよ。ねぇアージェもルーシュも美味しかったでしょ?」


「・・・・・・・・・うん、美味しかったよ領主様! あの白いのが一番好きーー!」


「白いふわふわ。甘かった」


「フロマージュプリンが気に入ったか? そりゃ良かった」


 マールとホーフが賛同する。


「酷いですよグラム様!! 食事の最後にあんな美味しいの持ってくるなんて!!」


「ぁああああーーー、食べてしまいました。こんなにたくさん食べたこと人生でなかったです」


「コック冥利に尽きますね。・・・・・・・・・さて、みんな風呂に入って来い! シリル、リエラ女史達は風呂に入ったことないだろうからお前も一緒に入って教えてやってくれ。ホーフも風呂に入っていけな」


「畏まりました」


「やった! グラム卿のお屋敷のお風呂だ」


 さて、お風呂という言葉を聞いてはてなマークをつけているものが若干名。

 昨日今日この屋敷に着た者達には状況が良くつかめていなかった。


 エレノアがリエラの裾を引っ張って疑問を口にする。


「先生、お風呂ってなんですか?」


「お風呂って王族の人たちの使う水槽ですか?」


「水槽って・・・・・・・・・」


 この発言に少しグラムはげんなりした。

 さて、博識なリエラですらよく理解していないのだが、一般人にいたって言えばゼフィラに風呂という習慣はない。

 サウナを使う地域は一部ある程度だ。

 有力な王族となれば違うのだが、一般市民にいたって言えばお湯を桶に張って体を拭く程度。

 詰まるところ、リエラ達の疑問は当然ではある。


 更に言えばスズカはその常識を逆手にとってトンでも商売をしているのだが、それは別の話。


 全員がタオルを手にとってお屋敷から裏庭に続く渡り廊下を歩いていく。

 窓から月が顔をのぞく。

 今日はゼフィラの衛星で一番大きな第3星リファイアが煌いていた。


 そして、渡り廊下の奥には見たことのない文字


    お湯


と書かれた布地が垂れ下がっていた。


 リエラも見たことのないものを一見し、隣にいたシリルに尋ねる。


「・・・・・・・・・これは?」


「暖簾というものらしいです」


「のれん? 聞いたことのない言葉ですけども」


「ホウジョウの古代語ということだそうです。妙に風情があって私は好きですが。因みにここにはお湯と書かれているそうです」


「お湯・・・・・・・・・ですか?」


「お湯です。さぁ、入りましょう」


 暖簾をくぐると一般的な脱衣場があった。

 見たことのない部屋に綺麗並べられた棚に籠が入っている。

 マールはその籠を手にとって眺め首を傾げる。

 しかし、これが何かを知っている正解者の行動は早かった。


「お風呂♪」


 ホーフは一気に服を脱ぐとその籠の中に自身の服を投げ入れて、その先の庭へとウキウキしながら進んでいった。

 マールは突撃ウサギに驚きを隠せない。


「ほ、ホーフさん!?」


「せんせぇ・・・・・・・・・ホーフお姉ちゃんが裸で外に出て行ったよ!?」


「え、えぇ・・・・・・・・・。あの、シリルさん?」


 リエラがシリルを見ると、シリルにいたってもメイド服を綺麗に畳みながら服を脱いでいた。


「あ、あの!! シリルさんまで!?」


「? あ、失礼しました。説明が不十分でしたね。この籠に服を脱いで入れてください」


「し、下着もですか?」


「当然です。持って行ってもいいのはこのタオルだけです」


「そ、そりゃシリルさんみたいなグラマーな女性ならいいでしょうけども」 


「何を言っているのですか? まぁ、共感はできます。私も初めはどんな儀式が始まるのかと戦々恐々としたものですから。皆さんにわかりやすいように説明すればお風呂というのは大きな池にお湯を溜め、そのお湯につかる行為です」


「池!? 池にお湯を張るのですか!!? そんな王族でもそんなことは!!」


「いえ、池というのには少し語弊がありますし、お湯を張るわけではないんです。まぁ、詳細はあとでグラム様に聞いてください。さぁマール様、恥ずかしがってないで服を脱いでください。ここには殿方はいませんから」


 子供達は池に入れるというのでわくわくしながら服を脱いでいくがリエラとマールは未だに羞恥心は捨てられないようではあった。

 あまり時間をかけると子供達が風邪を引くので後ろからシリルがマールの服を脱がせる。


「お手伝いしますからお早く。子供達が風邪を引いてしまいますよ」


「ちょ、ちょっと待ってください! せめてもう少し心の準備を・・・・・・・・・」


「待てません」


 シリルは手馴れた手つきで無慈悲にマールの脱がしていった。



 数分後、マールは未だに羞恥心を捨てられず、体をタオルで隠しながら浴場へ行く。

 しかし、その羞恥心は露と消えた。


 一面石が敷き詰められた床、その先には体の流し場であろうお湯の流れる箇所が7つほどあり、その奥には白い湯気が昇るまさに大きな池があった。

 屋根まで完備されている。


 だが、それだけではなかった。

 もともとグラム邸は広く様々な草木が植えられている。

 その草木がライトアップされ光り輝いていた。

 そして、天上には第3星リファイアが光り輝いている。


「なんですかこれは!?」


「・・・・・・・・・す、すごいです」


 マールとリエラが驚きを口にし、それにしっかりとシリルが補足する。


「これがグラム卿自慢のお風呂です。今日はもう暗いので見えませんが天気のいい日でしたらばここからマスピレード山が見えます。庭の木々もここからの景色を計算して配置されているそうです。季節によって見える植物が様変わりします。すごく興味深いですよ」


「みんな遅いですよぉーー!!」


 すでに湯に使っているホーフがこちらに叫んでくる。もうこの世のものとは思えないといった表情だ。


「皆さん初めてだから仕方がありませんよホーフ。さぁ、皆さんにこのお風呂のルールをお教えしますね。しっかりと聞いてください」


 シリルはスズカから教わった日本流の風呂の入り方をしっかりとリエラ達にレクチャーする。


 更に10分後、リエラや、マール、子供達も全員が湯に浸かっていた。

 リエラは徐に空を眺める。

 そして庭を見た。季節は初夏。青々とした草木が覆っている。

 肩までしっかりと浸かりながらリエラが口を開く。


「・・・・・・・・・この世のものとは思えません」


 隣にいたシリルが追従する。


「その通りですね。ただの木々、ただの夜空です。ですが、この状況で見ると心が現れます」


「こんな贅沢いいのでしょうか?」


「グラム様は贅沢と思っていませんよ。このお風呂にも殆どお金はかかっていませんし」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・? え? 魔術師を雇って炎の魔法で湯にしているのではないのですか?」


「違います。説明は受けたのですが私には難しかしく、山の力を使って高い温度の水を引っ張ってきているとグラム様は仰っていました。そして、このお湯には肌を綺麗にする効果があるそうです。私も砂漠の地にいて肌荒れが酷かったのですが、綺麗に治ってしまいました」


 シリルは沁み一つない肌をポンとたたく。

 その様子を見たマールは眼を見開いてお湯に肩を沈めた。それを見て一笑してからシリルは続ける。


「このお湯は街にも供給していますし、このお湯にはお金がかかっていません」


「??? 街にも供給している?」


 その話にホーフが乗ってくる。


「そうだよ。この温泉、グラム様に引っ張ってもらって街にも公衆浴場があるんだよ。こんなに立派じゃないけども領民はみんなタダで入れるの。それに、いま領役所で温泉を売りにした観光街の建設に取り掛かっているんだよ。勿論グラム様の提案」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんと、敵いませんねぇ。私は今まで才女と呼ばれてきましたがあの方に比べれば塵芥に同じではないですか。自信がなくなってしまいます」


「・・・・・・・・・フフフ。なら、更に自信を喪失して差し上げましょう。リエラ様、エマ所長にお会いになられましたよね?」


「? はい。良くして頂きましたが」


「お若いと思いませんでしたか?」


「思いました!」


「あれはグラム様の開発した化粧品を使っているからです」


「!!!! け、化粧品?」


「石鹸というらしいですが、今年中に大量生産が開始されリーバナン商会を介して世界中に売り込む予定です。そして、それをセツゲツカの名産にして観光客を呼び寄せたいと仰っていました」


「私も使っていますよー! 本当すごいんです。肌がつるつるになるんですよ」


「化粧品を名産に・・・・・・・・・確かに魅力的かもしれません」


 リエラが話に耽っているとなぜか頭が少し重くなってきたように思える。


「あれ?」


「そろそろあがりましょう。長湯するとのぼせてしまいます。このような話は湯に浸かりながらする話ではありませんでしたね。さぁ、みんなもう上がりますよ」


 シリルに促されて全員が風呂から上がった。

 マールが腕を軽く擦りその肌の質感を確かめ、驚愕の表情を浮かべた。


「うそ・・・・・・・・・本当に綺麗になっている」


「当然ですよマール様。グラム様の石鹸を使ってこのお湯に入ったんですから。これを続ければ質感はかなり良くなります」


「・・・・・・・・・え・・・・・・・・・また入ってもいいんですか?」


「毎日入っていただきます。因みに清掃時間以外はいつでもお入りいただけますので。男性も入るので入る前に外の札をしっかりと返すこと。1時間以内にあがることさえ守ってください。みんなもわかりましたか?」


「「「「はーーーい」」」」


 子供達が元気に返事を返すの確認してからリエラ達は浴場をあとにした。







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