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隠遁勇者の隠し事  作者: 涼松 魚名
第1章 実は勇者が〇〇です
1/36

Prologue 1st

ご覧いただきありがとうございます。

『隠遁勇者の隠し事』はじめました。

本編に入る前に少し長いプロローグと幕間があるので少しご辛抱ください。


概ね3日に一度の更新予定です。

このペースでも3ヶ月以上は持つと思うので苦しくなるまでは定期で上げていきますので合わせてよろしくお願いします。





 宵の月が見守る中逃げていた。

 逃げる逃げる。

 内訳は子供5人と大人が2人。

 全員がフードをかぶり女子供だった。


 場所はリフィルリア国とギリューヌ国との境にあるマスラフトの樹海だ。

 街道から少し離れた森の中、モンスターも出現率が高い森を恐怖が悲惨を包んだ様な表情の女子供らが逃げていた。


 眼鏡をかけた妙齢の女性は乳児を抱え、もう一人のセミロングで小柄な女性は3歳くらいの子供を背中に乗せている。

 あとの子供は5歳くらいの女の子、7歳くらいの男の子、9歳くらいの女の子だ。

 全員がフードをかぶり、一様に月明かりの中、逃げていた。


「ぁっ!」


 5歳の女の子が大木の根に足をとられて転ぶ。

 妙齢の女性が振り返って空いた手で女の子を抱き起こした。


「大丈夫? ルーシェ!?」


 ルーシェと呼ばれた女の子は少し安心した表情を浮かべてからうなずいた。

 5歳の子でも自分らの状況を的確に把握している証拠だ。


 女の子が立ち上がるとまた走り出した。


 さて、彼女たちは何に追われているのか。彼女達が走り去ってから十数分後、答えはおのずと現れた。


 銀色の甲冑を着込んだ兵士、いや騎士と形容すればいいのだろう。

 腰には剣を携え足跡を折っている様子だった。

 人数は同様の甲冑を着込んだ騎士が5名。

 一般兵士が15名。

 とても、女子供を保護するために割く人員数とは思えなかった。

 何よりも表情からして違うのだ。

 懸命な仕事を全うするためのそれではなく、狩りを楽しむ人間の下種な表情が見て取れる。


 大の大人と子供連れの進行速度が同等なわけがない。

 彼女らが追いつかれるのはもはや明白だった。



 ものの30分後、ウサギは亀を視界に捕らえた。


 眼鏡をかけた女性の表情が恐怖から悲壮に変わっていく。

 そして、その女性はある種の覚悟を決めたようだった。

 眼鏡をかけた女性は9歳の女の子に抱いていた乳児を預ける。


「エレノア、セルスを頼みます。マール、子供達をお願いしますね」


 走りながらもこんなやり取りをする眼鏡の女性にエレノアと呼ばれた9歳の女の子は目を見開き、マールと呼ばれたセミロングの女性は涙を流す。


「リエラ先生!!」


 先生と呼ばれるには少し若いとは思うが、リエラ先生と呼ばれた女性は恐怖の中、子供らに向けて小さく微笑んだ。


「後を頼みますよ。もう少し走れば后妃様が仰っていたセツゲツカ領です。そこの領主様を頼るのですよ」


 もう、マールはリエラの顔を正視することすらできずにただ、頷き、子供らを促して走るのみだった。

 その場に残ったリエラはフードを取って両手を広げて騎士達に制止しようとした。


「止まりなさい!!」


 女性が出すような声ではない。

 おそらく彼女の人生で出した最大の音量なのだろう。

 先頭を走る兵士が下種な笑いを浮かべながら、彼女の髪を乱暴に掴み、押し倒したのだ。


「!? ぃやっ!」


「こんな所で名高いクリストフ教授のあられもない姿を拝めるとはな!!」


「ギリューヌの兵士が・・・・・・・・・!! 恥を知りなさい!!」


「はは、森で一体誰が見てるってんだよ!! イシウス枢機卿も言っていたそうだぜ。最大限残酷にってな。犯した後に子供らの死体拝ませてやるよ」


「!!!?」


 兵士がリエラの薄い服を破り捨てる。もう既に複数で押さえつけられているリエラには抵抗する手段もない。


「おいおい、俺達の分も残しておけよ。それが一番上玉なんだからよ!」


「いやっ! やめて」


リエラの言葉を聞き入れる兵士も騎士もこの場にはいなかった。


 ・・・・・・・・・兵士と騎士は、だが。


 リエラの上に乗って乱暴していた男の顔面に剣の塚が突き刺さる。


「んがっ!!」


 周囲にいた兵士には蹴りと拳打が満遍なく叩き込まれて男たちが吹き飛んだ。


 リエラと兵士、騎士たちの間に距離が開くとその間に一人の男が立っていた。


「間に合わなかったか。本当に申し訳ありません。ですが、もう大丈夫ですよ」


 月の逆光で男の顔までは見えなかったがその男は細い撓った剣を片手にやさしく笑っていた。

 そして、下着も開けているリエラに自分の着ていた外套を脱いで渡した。


「少し待っていてください」


 突如現れた男のやさしく流暢な言葉にリエラは彼を味方と判断した。

 詳細は分からないが少なくとも眼前の兵士騎士よりは信頼できるからだ。


「私よりも先に逃げたの子供達を助けてください!!」


「大丈夫です。先には部下がいます。この程度の輩に手は出させません」


 段々と男の姿が見えてくる。中肉中背、少し長めの黒髪、ワイシャツの上に軽革ベストを着込んだ軽装だ。


 軽装ではあるが、兵士達を前にして緊張している様子はない。

 兵士達が唖然としていると後ろから甲冑を着込んだ騎士が出張ってきた。


「こんな森の中で我が皇国の氾濫分子に出会えるとはな。手配書で見たことのない顔だ」


「氾濫分子とは物騒な。ですが、氾濫分子のほうが腐敗貴族よりはよぼどマシかと」


「なにっ!! 我々、ギリューヌ近衛騎士を愚弄するか」


 肩に剣を担いだ男はポンポンと剣で肩をたたいてから声を硬くする。


「婦人が乱暴されているのを見逃すのが騎士か。恥を知れ。この場所からは既にリフィルリア皇国セツゲツカ領だ。貴様ら騎士団に越境の権限はない。・・・・・・・・・難民はその限りではないがな。それが理解できるのならば、即刻立ち去れ」


 この男のほうが正論だった。騎士も苦虫をかんだような表情をする。


「・・・・・・・・・くっ。・・・・・・・・・ふはは、大方田舎貴族の嫡男だろう? 貴様が何を言おうが構わぬ。こちらは枢機卿の勅命を受けている。王家の転覆を目論んだ女狐どもを即刻処分しろとな! 大人しく渡せば命だけは助けてやるぞ!!」


 その言葉にリエラが一歩下がりこの男との距離をとった。だが、その男はリエラに向けて笑うだけだった。


「大丈夫です。・・・・・・・・・冗談が下手だな。大人しく渡してもお前たちは俺を殺そうとするな。越境の事実を広めるわけにはいかないからな。こっちこそ、大人しく引けば目の前で起こったことを忘れてやってもいい!!」


「・・・・・・・・・交渉決裂だな。・・・・・・・・・仕方がない。・・・・・・・・・殺せ」


 兵士達が剣を抜き放つ。その様子に男はウンザリした様子だった。


「・・・・・・・・・本当・・・・・・・・・共が」


 リエラはもう死んだと思った。自分もこの男もだ。しかし、兵士を前にしたこの男は強かった。


 剣を抜く前に柄で相手の鳩尾を貫き、相手に足を絡めて重心を崩してその場に転ばす。

 そのままけりを入れて頭部を揺らして昏倒させた。


 剣も特徴的で片方にしか刃がついていない剣だ。

 それを返して峰の側で敵をたたき伏せていく。

 この場所にいるのは選ばれた兵士のはずなのに彼の剣と打ち合うこともできずに、ただただ倒れていく。


 兵士15人。わずか1分足らずで男は全員を殺すことなく昏倒させていた。


「・・・・・・・・・ほう。随分と戦上手だな。だが、貴様くらいの腕の人間、騎士団にはいくらでもいる」


「・・・・・・・・・助けて・・・・・・・・・」


 骨を折られた兵士が騎士に助けを求める。だが、騎士は冷たい視線を送ってから兵士に剣を突き立てた。


「・・・・・・・・・骨の髄まで腐っているな。幻滅したぞギリューヌ騎士団」


「抜かせ。どの道、今回の作戦で使った兵士は処分するつもりだったのだ。そういう意味ではお前に感謝するよ。手間が省けた」


「そうですか」


「お前も随分やるが、俺達騎士の全員が選びぬかれた魔法騎士だ。剣だけのお前では勝てぬは道理よ。まぁ、許してやるつもりはないがな」


 男はぽりぽりと頭を掻いてから


「魔法騎士様。それはそれは・・・・・・・・・さぞ高名な方なのですね。冥土の土産にご高名を頂戴してもよろしいか?」


 時間稼ぎと思われたかもしれないが、騎士は悪い気はしなかったのだろう。


「ほう? 随分と殊勝な心がけだな。俺は枢機卿ヴァーデンス・イシウスの次男魔法騎士ハインド・イシウス」


「やはり枢機卿の嫡男でいらっしゃいましたか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ならば、交渉材料にうってつけですね」


 男が笑う。

 リエラにはその笑みが下種な笑いとは違い、妖艶に美しくすら見えた。


「何を・・・・・・・・・ぅかっっ!!」


 イシウスが言葉をつむぐ暇などなかった。顔面にお得意の柄の一撃。この一撃でイシウスの歯が飛び散った。

 あまりの速さに周囲にいた騎士ですらも反応ができないほどだった。倒れたイシウスの口に男が懐から取り出したナイフを差し込む。


「お前達の魔法は喋れなければ使えないだろう? 正確に呪文を詠唱しないと発現はしないからな」


「!!」


「残りの魔法騎士のお歴々、枢機卿の次男坊の命が惜しければ武器を捨てろ。敵意を向けても殺す、魔法の詠唱を始めても殺す」


 この台詞を男は笑いながら言ったのだ。

 戦闘に身を置く者からすれば狂気とすら取れるものだった。

 しかも、人質は枢機卿の息子。

 彼が死ねば自分らに責任を取らされかねない。

 任務の失敗のほうがマシと判断するのにそう時間はかからなかった。


 騎士たちが武器を捨てた。






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