第3ピース:公園
私たちは今、私の家から荷物を運ぶ為に雨の降るなかを私の家を目指して歩き続けた。
長い時間雨が降り続けている空は、未だに厚い雨雲で覆われており、住宅街に挟まれた道路は、雨量に比例して、いたるところに水溜まりができていた。
「ねえ、奈乃葉ちゃん」
「んー、なにナナ?」
私は、今まで忙しくて聞けなかった、この質問を思いきって聞いてみた。
「記憶が無くなる前の私ってどんな感じだったの?」「…………んーー」
しばらく奈乃葉ちゃんは考えて頭の中で出た結論は至って単純のようだった。
「バカだった」
「……………へ?」
多分このときの、私のような顔を、ハトが豆鉄砲を食らったような顔というのだろう。
「いや、もちろん頭の意味じゃないよ、実際頭良かったし、ただ行動に移すと後先なんてお構い無し、わたしがセンパイ達にいじめられてたときだってナナは身をていして庇ってくれたわ、下手したら自分がいじめられるかもしれないのに」記憶を無くす前の私は相当な勇敢者だったようだ。
「後、こんなこともあったなー、確か私達が小学五年生位だったかな、この先の公園に、一匹の柴犬の子犬が、段ボールの中に捨てられてたの、その子犬はそのまま放っておいたら、後二、三日で死んじゃうのが分かる位目に見えて弱りきっていた、その時も確かこんな天気だったわ、どうにか助けてやりたかったけどうちの親は犬が苦手でナナがお姉さんと住んでたアパートはペットを飼ってはいけない決まりだったの、その時あなたどうしたと思う?」
私は、その時の自分がとった行動を全く予測できなかった。
「自分のアパートの大家さんに飼わせてくださいって頼みに行ったのよ、当時自分が欲しいからとちょくちょくと貯めていた自転車代の入った貯金箱を手にしてね、もちろんそんなことで規則が変わらないことは目に見えていた当然の結果だった、けど諦めずに何度も何度も頼んでたの最後には土下座までしてたわ、まあ最後には結局大家さんも折れてくれたけどね」
その話を聞いた私はその時の自分に会ってみたいと思った。
自分に会いたいと思うとは、奇妙な話だ……
「ほら、ここがその時の公園よ」
雨が降っているなかさすがに遊んでいる子どもはいないみたいだ。
その公園にあるブランコにもシーソーにも回転球にも人影はまったく見られなかった。
(………や…めて)
「……!?」
不意に頭に何かが流れ込んできた。
(おね…が…い………にはてを……出さないで)
「誰……あなた?」
私は、完全に正常な思考回路を失い、周りが見えなくなっていた。
(わた…しは……ど……う……なっても………………には……)
「何言ってるの?」
(わたし………の…………を……あげ………る…………だから……)
「いや、何なの?誰よあなた、私の頭で何言ってるの?やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめてやめて、やめて、お願いだから、やめてよッ!」
もう自分が泣いているのか立っているのかも分からない。
(………に…げ……て)
「やだ、あなたは私のなんなの、記憶のない私に何の用なの?いや、変な物を流し込まないで」
「……どうし…たの?……どうしたのナナ?」
「……!?」
はっと我に帰った私は、あわてて辺りを見回した。
周りには奈乃葉ちゃん以外の人影は何処にも見当たらない。
「どうかしたの?ひどいなら病院に行った方が……」奈乃葉ちゃんが、私の具合を心配している様子が、ひしひしと感じられた。
「……いや、大丈夫だよ、心配かけてごめんね奈乃葉ちゃん」
これは嘘ではなく、実際に今はなんてことはなく、さっきの頭に流れ込んできた言葉も、今はまったくなくなっていた。
「んーならいいけど、少しでも具合悪くなったら、いつでも遠慮なく声かけてね。」
「うん、ありがとう……」それにしてもさっきの声はなんなんだろう?
あの夢と関係あるのかな、いずれにしてもこの二つの謎が解けるのは、まだまだ先になりそうだ。