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ホラーまとめ

お隣の井田さん

作者: あじふらい

「ねえ、お隣の井田さんね、宇宙人なんだ」


ある日私はふざけて学校でそう言った。何を考えていたのかよくわからなかったが、とにかくなんとなくどうでもいい感じでふざけたかったのだろう。


女性とは古来より、井戸端会議で情報交換する定めであり、私もその例に漏れず根も葉もない噂を流しただけ。

本当は私のマンションの部屋の隣室には、誰もいない。無人である。


その次の日、私のお隣に井田さんという人が越してきた。

どこも変なところはなく、天文学的な偶然にひんやりと気分が冷えたような気がするが、私は大してその発言自体気に病むことはなかった。


彼はいたって普通の人であり、その行動にも変なところもない。引っ越し蕎麦と称した乾燥そばを茹でてすすりながら、私はスマホの通知音に耳を傾け続けていた。


大体昨日の夕食ですらうろ覚えなのに昨日話したとりとめのない話など数日も覚えていられない。


井田さんが引っ越してきてから三日後、友人の一人が私のノートを借りに来た。コピーしたら下の郵便受けに入れておいてね、と言っておく。


その次の日、私は彼女に学校で絡まれた。


「ねえ、あの時の話本当だったのね!」

「え?」

「井田さんよ!」


なんでも彼女が言うには、井田さんがノートを郵便受けに突っ込んでいる隣に来たらしい。そして、彼の名前を確認して、私の話を思い出してフッと振り返ると、井田さんの首の後ろに何か赤いランプのようなものが光って見えたのだと言う。


「電源ついてますよみたいな赤ランプ?」

「そうそうそれそれ」


それから、私は井田さんに気を配って、背後だってとったがそこには全く何もない。

友人の気のせいだったんだろう。そう思ってそれ以上は考えるのをやめた。


その一週間後、私の友人が井田さんらしき人を見かけて、彼が暗がりで何かを脱ぐような真似をしていたと言う話を聞いた。その時に脱げ落ちたのは肌色の、まるで人の皮膚のようなものだったと……。

そんなはずはない、彼はただの隣人である。昨晩は恋人とイチャコラしていたのを厚い壁の向こうでもよく聞こえた。


私は耐えられなくなって、「もう、またドッキリなんでしょ?」と言うと彼女らは「見たんだから!」と言うような反応を返してくる。私が悪いのだろうか?いやそんなわけがない。


結局その件でそれ以上友人を問い詰めることはできなかった。

だが、井田さんの話はそれで終わらなかった。


彼と出会って幾月たったかは忘れたが、ある都市伝説を見かけて驚いた。

『宇宙人の隣人イダ』と言うものだ。

仰天して中をのぞいたが、普通のものだ。根も葉もない噂である。大体井田さんは人を頭からむしゃむしゃ食わないのである。


半年過ぎたあたりだろうか?

私は井田さんの家の前に免許証が落ちているのを見つけた。その一週間前に彼女と別れたことが知れ渡っている彼の元に女子高生の私が向かうのは外聞が悪いのだが、まあいいかとチャイムを押した。


案の定彼は礼を言って来て、ついでに部屋に上がってどら焼きまで頂いてしまった。とても美味しいものであった。


それから徐々に彼と親密になっていくにつれて、どんどんボディタッチどころかそれ以上の関係を持つ。井田さんはこれで宇宙人でないことが証明された。抱かれはしなかったが、抱きしめられるたび温かい体温が、私の体にじんわり染みた。


一年過ぎたあたりで、テレビ番組で宇宙人の話になり、都市伝説の検証をしてみると言う話を耳にした。受験生であった私がそれを見かけたのだから、思わぬ程に例の都市伝説は有名なのだろうなと思った。


「何の番組?」

それを見て、彼の顔がこわばった。いや、笑いをこらえているように見えた。

「宇宙人がどうのこうのだって。馬鹿らしいよね、こういうの見て笑い飛ばすの好きなんだ」

「君も?」

「……うん。でも、やっぱりみるのやめようかな」


井田さんの温もりにふわりと包まれて、私は安心しながらドキドキして自然と口数は多くなる。


「……っていうことがあってね?そんな話をしたら井田さんが越して来たんだもん、私が井田さんと出会ったのはきっと奇跡だと……井田さん?」


高校の時の根も葉もない馬鹿話を思い出して、つるんと口をついて出るのは「井田さん」について始めた話のことだった。しかし何か違和感を感じて、上を見上げる。

彼の笑顔は、ピクリとも動いていなかった。



「井田さん?」



蝋人形に違和感を感じるのは、それが動かないからだ。筋繊維が一ミリも動かないなんて、そんな馬鹿げた話はない。だってそうでしょう?


井田さんは一ミリも、微動だにしなかった。


違和感など恋心の前では些細なことで、井田さんがあったかいという事実の元には何一つ意味を成さなかった。


「……君が、僕の噂を流していたんだね。それで地球での作業が進まなかったんだよ。責任をとってくれるよね」


井田さん。


そう呟いた声は、全く音にならなかった。

彼の温もりが急速にしぼんでいく。そして、彼の皮膚がずるりと剥け落ちていく。

下から現れたのは、なんということはない、



なんということはない、




あれ?


なんだったっけ?



私は、


「イダさんの話だったでしょ」?



何を言ってるんです。第一そのイダさんってどなたですか?


全くもう、人をからかわないでください。宇宙人が如何の斯うの?


宇宙人なんているわけないじゃないですか。ドッキリなんでしょ、知ってますよ。

カメラ仕掛けてあるんでしょ?


え?なに、お隣さん?


お隣に人が住んでたことなんて、一度もありませんよ。え?ええ、引っ越してきてから一度も。

そういえば、前に家族で住んでた時も一度もお隣さんはいませんでしたね。あなたがここに越して来てからはお隣さんができましたけど。


おかしなことを聞く人ですねえ。








井田さんったら、変な人。




読んでいただきまことにありがとうございます。ホラーは初挑戦なので、なかなか難しかったです。短いですが、楽しんでいただけたならば幸いです。

内容が薄いなどはお目こぼしいただけると幸いです。思いつきで書きましたすいません。

ホラー難しい……。

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