もとめるもの
「せんせ、助けて」
首の後ろから、シャツの襟の内側に指が差し込まれる。
「君の先生じゃない」
かすれた声で呟くと、彼女はくすくすと笑いをもらす。濃紺の、冬の制服から、白い手首や膝、ふくらはぎが見えている。
「助けてよ」
笑う声には、まるで懇願の要素などない。
彼女を振り払って、準備室の裏手の小屋に向かう。彼女はついてこない。小さな子豚たちのうちの一頭を抱き上げると、勢いよく暴れられた。
豚の臓器はひとに似ているという。
吸血鬼、と呼ばれもする、嗜好としてひとの血を飲みたがる連中のために、ここではひとの代わりに、豚を提供する。
ここ以外でも、ときどき、こちらのことをただの嗜好食としか見ていない彼や彼女たちの視線が、背中を這い回る感触がある。
まちなかで、道端で、移動中の電車やバスの中で。
こちらはうつむき、彼や彼女たちが、その気にならないことを祈る。
「せんせ、ねえ、どうしていつも、私の目を見ないの?」
可愛らしく首を傾げて、彼女がこちらを待っている。
差し出された手に、子豚を渡す。ひやり、と指先が触れて、思わず手を振り払う。
「やだ、せんせったら」
細い首に、真っ黒な髪が絹のようにきらめいている。
明るい、血の色をした唇と指先。
こちらの怯えに、とうに気づいている彼女は、ことさらゆっくりと近づいてきて、大丈夫かと問いかけるのだ。
私は、彼女たちにいつか。