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9 会長なのに仕事がありません。

 

 まず飛空魔導器改め、魔導飛空母機・フルブレイドの初陣です。

 飛空魔導器の仕様書から起こした形状は全翼機でB-2スピリットに似ています。

 全幅100m全長40m全高10mの横に長い三角形が空を飛ぶのです。

 B-2の倍くらい大型です。

 限界までレベルを上げた竜種や巨鳥種の甲魔獣の甲殻を使用した全翼機体は鋭く、フルブレイドの名の通り機体全体が刃物です。

 推進器官等も同様の素材から使用して、最高級の浮遊魔導器等を複数使用しています。

 巡航速度時速600km、最高速度は800kmもちろんガースギースにはジェットもアフターバーナーも存在しませんから魔力を馬鹿食いします。

 一人でも操縦は可能ですが搭乗者の必要最低魔法力もLv120並。

 甲殻戦機の技術を利用していますので機体自体にレベルやステータスが発生していて、竜種や巨鳥種の一部のスキルが使用可能です。

 もちろん稼ぎ修行は試しました。Lv600相当の310です。

 甲魔竜を超えました。

 搭載貨物重量は20t。現在、身長4m弱、400㎏の甲殻戦機11機を積んで余裕の広々。

 戦闘力は魔力を帯びた最高級刃物が時速600kmで飛んでいるのです。

 移動だけなら体当たりだけで無敵です。

 一応機体と搭乗者のスキルと魔法が使えますので細かい攻撃もできます

 貯蔵魔力で2時間飛べますが、超えるとチートハイヒューマンにしか飛ばせません。

 攻撃もできません。貯蔵もハイヒューマンでないと厳しいですが。

「発進して下さい」

「了解、浮遊推進機関最大」

 機長席のゼーナさん…エクシード機長が発令して右側操縦席のフェブリーが答えます。

 わたしは左操縦席で機長席でも操縦できます。

「おお」と多数の歓声が上がります。

 ユーシア、エイプリル、セレナにイリーシャまで付いてきました。

 補助シートも一杯です。

 …いいのでしょうか、レイブギンは。

 ヴァンムジン帝都まで二千kmを超えます。

 弾道軌道で3時間半という所でしょうか。

「高度は500を維持してください」

「了解、高度500を維持」

 最終設計・建造から関わっている飛空魔導器の経験者、エクシード機長は気圧強度的には問題ないはずですが、戦時に未知の高度試験はやめておきましょう、と反対したので1000mまでと規定しています。

 既存の飛空魔導器は高度限界が1000mなのです。

 考えてみれば地球と同じの保証はない所か、違う可能性の方が高い気がします。

 約4時間の旅です。

 ストレージに収納して空間接続で持って行くのは気付きませんでした。

 …わたしも舞い上がっていたかもしれません。


 

 ヴァンムジン帝国側ハイヒューマン3人に反乱軍甲魔獣騎30

 想定していたより早く手前で。

 初めて受けたかもしれない深手を負ったハイヒューマンが追い打ちを受けて倒れました

「降下ハッチ開け!搭載機2型3型全機降下。エンゲージ(遭遇)オープン(戦闘)コンバット(開始)

 戦術目標は変更ありません。主目標・甲魔獣騎とハイヒューマンも邪魔するようであれば構いません、撃破して下さい」

「了解、降下ハッチ開きます!」 

「搭載機2型3型全機降下!戦術目標に変更はありません!」

 フェブリーが操作・復唱。

 フルブレイド内で特に役を割り振られていませんが、一応訓練を受けて副操縦席に座っているわたしがオペレーター役になるかと思いますので降下指示を出しました。

 エクシード機長の遭遇戦闘開始宣言で甲殻戦機2型3型5機ずつが降下していきます。

「会長はもしもの場合に備えて下さい」

「了解です」

 わたしは席を立ち、後はエクシード機長の直接指揮になります。

「フルブレイドは戦速維持旋回。

 甲殻戦機隊、どうせ見られています。

 左右に包囲散開ツーマンセルで一体に当たって下さい!」

「了解、戦速維持旋回」

 ホバリング…静止浮遊も出来るし魔力消耗も少ないのですが、動き出す時速度があった方が良いそうです。魔力消耗といっても問題になりませんが。

「帝都から打って出て早期に奇襲による決戦を狙ったのでしょうが、戦力が帝国にも我々にも想定外だったようですね」

 なるほどです。

 2型3型にモスグリーンとデザートの色の差以外ははありません。

 2期ロット3期ロットというだけですが、問題なく3期改修部を2期に反映できています。

 甲殻戦機は甲魔獣騎より1m程小型です。

 甲魔獣騎にある大きな尻尾はなくて、無駄に張り出した甲殻…装甲も少なく隙間も少ないです。

 背部の大き目の推進器官が比較的特徴的でしょうか?

 腰や各所にも目立ちませんが、小型推進器官が設置してあります。

 大型の尻尾の分、前傾姿勢で胴体や足が太く恐竜か怪獣を思わせる甲魔獣騎より、甲殻戦機は人型に近いのです。

 わたしの想像が正しいなら人型に近い方が正解なのですが。

 甲魔獣的に平面甲殻が少ない甲魔獣騎の方が生物的ですが、大型魔物的には甲殻戦機の方が生物的な印象です。

「甲殻戦機隊、ツーマンセル解除です。

 等距離包囲陣で突撃、殲滅しなさい」

「えっ!」

 慎重戦術から接敵もしない内に積極戦術への変更に操縦兵と、黙って干渉しない約束の同乗者の半分が重なって声を上げます。

「すぐに結果は出ると思いますよ」

 それでも甲殻戦機隊は指示通り長い盾を椀部に固定して刃槍を構えて突撃します。


 火器の出現まで槍は長い間、戦場で最高の手持ち武器と呼ばれていました。

 単純に剣より遠くに届くからです。

 そして歴史上戦場で剣や刀でも効果的な攻撃は突きなのです。

 単純な槍は軽いので非力な者でも、最低限戦場で戦力になる為の訓練期間が短く済みます。

 力が強い者でもパイクのような4mから7mの槍や総金属の重く打撃力上げて使えます。

 7mパイクを多数並べる様な戦術もありますし似た戦術として、有名なファランクスという戦術は槍と盾と投槍です。

 刀剣よりも投擲にも向いています。形状的にも単価的にも。

 戦術戦略的に実際的使用者の多い槍術も洗練されて実利的強者の武器でもありました。

 初心者から巧者まで間口が広い、多数対多数の戦場で有利な武器なのです。

 …と強弁するわたしの、偏見が混じっているかもしれない意見で押し切って、正武装は槍に決定しましたのですが剣士の操縦兵やフェブリーとかセレナが苦い表情をしました。

「サブは好きにさせますし、害になる妙な拘りはドブに捨てて下さい。

 セレナの長い大剣も刃の付いた太い槍みたいなものですよ?

 重いので普通は使い熟せません…?」

「それで良いのではないでしょうか?パワーに余裕はありますし、甲殻素材なら」

 ゼーナさんの一言で甲殻戦機の身長程の刃のある槍、刃槍(ハソウ)を制作する事になりました。

 超長剣よりはネーミングセンスがあると思います。


 甲魔獣騎に比して圧倒的速度で甲殻戦機は刃槍で突撃、盾で体当たりして擦れ違います。

 力負けして甲魔獣騎は吹き飛ばされます。自重は半分程度でしょうがパワーと速度に圧倒的な差があります。

 その一撃だけで動かなくなった甲魔獣騎もいます。

 盾は防ぐだけではありません。点や線ではなく面で攻撃できる、立派な武器です。

 傷を与えたり出血を誘うには向きませんが、パワーと速度、当たり判定で甲魔獣騎では躱す事も耐える事も不可能な攻撃になります。

 対ハイヒューマンを想定しているので格闘戦を意識して関節部装甲を刃物状にしていますから、肘や膝で殺傷するのも可能ですが、当たり判定で押し切るのが正解でしょう。

 そういう訓練を甲魔獣相手にしてきたのです。

 操縦兵の皆さんにはLv2は使用していません。

 ですが機体は素材の段階で無茶していますから、今更少しはと試した所、急に育ってピーキーになって扱い辛くなったそうです。

 操縦兵の皆さんから弄ったなら戻してくれと整備に苦情が殺到しました。

 ごめんなさい、戻せません。

 頑張って操縦兵の皆さんが育って下さい。


 残り甲魔獣騎3体まで10分とかけず味方の損耗損傷なし。

「帝国の戦力が想定外に弱かったのです。

 エクシード機長、南西…フルブレイドの探知レンジにも入りました。

 甲魔獣騎10体とハイヒューマン?1人」

「甲殻戦機隊全機、歩行速度で南西へ移動です。

 目標は甲魔獣騎10体とハイヒューマン1人以上。

 残存甲魔獣騎は帝国ハイヒューマンの反応を見て対処して下さい。

 フルブレイドは合わせて旋回移動です」

「了解、合わせて旋回移動。

 …さすがフルブレイドの探知スキル、50km先まで探知とか」

「フルブレイドの巡航速度ですと相手が止まっていても5分で接触しますよ?

 恐らくフルブレイドの速度は最高クラス、ですが素材となった竜種や巨鳥種の甲魔獣も近い速度は出せるかもしれません。

 互いに接近した場合、探知レンジ50kmは広いとは言えないかもしれませんよ?

 今の所、全て切り落としていますが」

 フェブリーの軽口をエクシード機長が窘めますが、異常なスペックは理解しているのです。

 残存甲魔獣騎は遠巻きにこちらに合わせて移動を始めます。援軍と合流するつもりでしょうか?

「そこまで援軍のハイヒューマンをアテにしているのでしょうか?」

 帝国のハイヒューマンはわたし達の介入から様子見のようです。

 彼らにしてみれば異様な甲魔獣にいいようにされて、似た異様な小型別種に助けられたか、第三勢力の侵攻かとも考えられる集団が歩行速度ではあるものの突然後退を始めたのですから。

「半場あてずっぽうですが、推測されるハイヒューマンは半年前の情報でLv174の槍使いのストークス。

 帝国寄りの有名人ですが死亡したとは聞いていませんし、彼が帝都側に付いていればここまで酷い事にはならなかったと推測します。

 3型隊は停止して迎撃態勢、2型隊は散開してハイヒューマンを中心に遠距離包囲して下さい。

 ストークスだとすれば、逃げに徹されると面倒です。

 ここなら帝国のハイヒューマンが介入してくれるかもしれません」

「介入してくるとして、どちらが希望ですか?

 あ、レベル鑑定範囲に入りました、Lv175、ストークスの可能性が高くなりました」

 フェブリーが悪い表情でエクシード機長に訊ねて報告します。

「どちらでも良いのですよ。戦場に事故は起こるものなのですよ」

 対してエクシード機長はフラットな表情で答えますがイリーシャが苦い表情です。

「心得ていますよ。

 ここで我々ジュライ・パーティが帝国を倒し切っても意味はありません。

 二人とも事故死するような事態は避けます」

 同乗者達がプッと吹きました。わたし自身、本意ではないとはいえ失礼です。

「エクシード機長、その名称はやめて下さいと言ったはずです」

「名称がないと不便ですし単純な方が良いですよ?」

「もうチーム・フルブレイドとかで良いのではないですか?」

「お?それいいね。私も賛成」

 フェブリーが賛成してくれますが、貴女は長期契約とは言え、3か月の兼業冒険者でしたはずでは?

 まあ3か月パーティもありますか。ここまで関わったわけですし投票権はありますね。

「では、皆に訊いて致命的反対意見がない限り、チーム・フルブレイドで。

 そろそろです。

 陣形は良好です。

 間もなくエンゲージです」


 先陣を切って突進系広範囲攻撃ソニックタービュランスで飛び込んできたのは、やはりストークスです。

 1機が直撃3機が巻き込まれ弾き飛ばされます。

 甲殻戦機隊の実戦、初ダメージです。

 「3-5、DL1」

 「3-6、DL1」

 「3-9、DL1」

 「3-2、DL3」

 データリンクもなければ電子的セルフチェックもないので、操縦兵の感覚を通信魔導期具で報告してきます。

「3-2は2-1と交代して、ついでに甲殻戦機も始末して行って下さい」

 例えば4つ目の報告は3型隊2番機がダメージレベル3と言う意味です。

 DL0がダメージを受けた感覚がない、1が動作に違和感がない、3は再生範囲内の軽傷。

 6からは部位欠損ありで、10が通信だけはできます状態です。

 通信魔法が妨害や遮断されると報告もできません。

 わたし達やフルブレイドは鑑定できますが。

 …ダメージ報告の意味がないかもしれません。

 甲殻戦機の操縦は胸から腹の体内のシートに座り、手で握る意思を伝える魔導器でイメージを伝えます。

 機体の感覚も伝わってきますが視覚は基本マジックミラー甲殻装甲越しの肉眼と頭部の感覚魔導器からのモニター映像です。

 ハイヒューマン相手になると操縦兵の肉眼が役に立たないのでマップ映像と望遠映像を材料に推測で先読み操作を強いられます。

 機体自体のステータスはLv140の表示以上、具体的にはLv175のストークス並みにありますから操縦兵的には瞬間移動するつもりで操縦します。

 酷い操作性です。

 それでも訓練に耐えて来た彼らはさすがです。

 来ると読めば、端に刃の付いた盾の刃()を向けます。

 身長が倍以上違うのですから、多少遅れてもそれで攻撃を阻害できます

 範囲攻撃で巻き込まれない間隔を維持して5機で連携して連鎖するように突進系スキルで着実なダメージを与えていきます。

 包囲組もストークスに隙を見せないように着実に甲魔獣騎を狩ります。

「3-6、3-9は2-5,2-7と交代です。2・3体はサンプル用に原型を留めて下さい」

 後4体で10体を切ります、それから包囲を縮めて下さい」

 エクシード機長も強気の指揮です。

「…わたしは本当に何もしていません…わたし要らない子?」

「大将と切札は使わない、見せないに越した事はないのですよ?

 そんな局面になったら私の失策です。

 開き直るわけではありませんが、大抵の戦争は想定外と失策の積み重ねです。

 会長が要らない子のはずはありません」

 エクシード機長の言葉で周りの視線が生暖かくなりました。うざいです。

「そしてレイブギンの顔殿、そろそろ出番です」

 時々、わざとこういう事いいますね、エクシード機長(このひと)

「勘弁して下さい。せめてヴァルキ…は恥ずかし過ぎる…じ、ジョーカーで…」


 ストークスが倒れたらあっという間でした。

「では行ってらっしゃいませ、レイブギンのジョーカーの殿とレイブギンの筆頭殿」

「レイブギンのは要りません」

「もう筆頭はやめて下さい、事実無根です。

 セレナ様、レイブギンの顔がレイブギンのジョーカーでなくてどうするの!」

「ぐっ…」

 事実無根、そんなモノになった覚えはないと言いたいのしょうが、渋々ながら実務がない平民の神輿代りの顔ぐらいなら、と引き受けてしまった事実はあるのです。

 顔の意味がどんどん大きくなって苦しそうです。

 イリーシャにしても無根ではなく、事実の時はあったでしょうに。

 今でもステータス的に5レベル分くらい格上のセレナといい勝負しますし。

 自力でLv171にまでなった地力は本物なのです。

 セレナの言う血肉になっている部分が多いのでしょう。

 先刻の戦闘で操縦兵の皆さんもハイヒューマンLv103~105に成りましたが、甲殻戦機は手応えはあってもまだまだ使い熟せていないと悔しげでした。

 きっと甲殻戦機を血肉したいのでしょう。向上心が高いです。



 ヴァンムジン帝都、城壁大門前500mにて。

 イリーシャ達の前に立ち塞がるのはハイヒューマン男女二人。

 Lv135長剣使いと143ハルバート使い。

 大門付近には軍勢の中央で貴族らしい戦装束で騎乗したLv102ハイヒューマン女性が1人前に出ています。調査では23歳だったと思います。

 馬はハイヒューマンにとって重しじゃないですか?

 サビと雀達を派遣して見守っているのですが想定外(・・・)のハイヒューマンにそんな事を思います。

 コインと飛燕もいます。

「レイブギンより侵攻に参りました。

 偽名で失礼しますが、レイブギンの剣サツキと名乗っております」

「同じくレイブギンの槍、イリーシャ・ブライトン推参に御座います」

 …思えば要所要所でちゃんとレイブギンの剣を名乗っていますよね、セレナ。

 馴染ませて伸びるとはいえ、レベルが限界なのは皆さんも辛いそうなので公称レベルは190までにしています。

「レイブギン王国・公爵家のハイヒューマン筆頭が凶戦姫と同じと名乗るのか?」

「家は粛清されましたし、レイブギンが変わった今こそ、初めてレイブギンの槍を名乗りました。現在筆頭にふさわしいレイブギンの剣と共に」

「馬鹿にしているのか?易い挑発だな」

「挑発等と生温い事は申しません。

 分かっているはずですが、今一度申し上げます。

 侵攻しに、()して()いりましたと。

 降伏なさいますか?無残を晒しますか?」

 言葉を交わした男は貴族のハイヒューマンなのでしょう。

 渋い表情で黙り込みます。さすがに勝てる気がしないのでしょう。

「降伏したいのは山々なのですが…」

 ハルバート使いの女性の方が後方に視線を向けます。

「ならん!」

 軍勢の中央のハイヒューマンが一喝して馬をこちらに向けて歩ませます。

「…こうおっしゃるので無理です」

「ハイヒューマンに成られていらしたのですね皇帝陛下。

 初めまして」

 ギアスかクエストでも使われているのかと、鑑定してみますが男性の方が、状態:ヴァンムジン皇帝への忠誠(Lv150魔導呪具)でした。

「ふん、養殖だがな。

 降伏だけはならんぞ?

 降伏するくらいなら我首を先に刎ねよ!」

『その言葉はマズイです!男の方!』

 少し苦しいのでしょうが男は突進攻撃スキルを皇帝向け…背中からイリーシャに貫かれました。一撃です。そもそものレベル地力と養殖では比べるまでもなく、ましてチートなパラメーターまで付いていて出し抜ける要素が欠片もありません。

 セレナも反応したようですがイリーシャの方が速いと判断したのでしょう。

 ハルバート使いは一瞬驚いたみたいですが理解に至ったようです。

「…今のを、首を刎ねるのも忠誠と解釈したのね。間違ってはいないかも」

「…皇帝ではなくなるというとは、こういう事なのだ。

 クズ共を片っ端から、そうでない者も大勢呪いで縛った。

 今を逃すと死は与えられない。

 死より辛い永遠の苦しみはいくらでもある。

 やりかえされるだけだ。

 降伏だけは絶対にならんのだ」

 …レイブギンもそうですが、お手軽な割にこの手の魔法としてはファジーに曖昧で広義に取れる命令を高いレベルで強制できているのが、ひどくアンバランスに思えていましたけれどリスクはあるのですね、軽く思えますが。

「…だそうなので、一戦、お願いします」

 ハルバート使いは気負う事もなく、不思議な殺気をイリーシャに向けます。

 魔法ではない忠誠も得る事が出来る人なのですね。

 セレナは空気を読んで下がります。

「その忠誠、決して忘れない。感謝する」

 皇帝も戦意を高めます。

「私のは友情って言うんですよ、皇帝陛下」

「ここは恰好を付ける場面だろう?」

「友情の方がかっこいいです」

 呑気にみえる会話ですが、息を合わせて。

 イリーシャに一瞬の掠り傷を負わせ、一閃でまとめて苦しむ間もなく絶命しました。



「ここは終わりましたね」

 エクシード機長、今はゼーナさんでいいのかな?がお茶を淹れてくれました。

 一応着陸して他の皆が手伝いに出るので二人で留守番です。

「ありがとうございます。ゼーナさん」

「別にずっとゼーナで良いのですよ?」

「飛行中はけじめが必要ですよ。

 未熟者が指示を請う為にお願いしたのですから。

 元々人を使う立場でもなければ先頭に立つ能力もないですし、向いてもいないです。

 ズルして見返りを用意できるので偉そうな事を言っているだけですね」

「自分でそう思えるなら今はそれで十分ですよ。

 立場が人を育てる場合もあるのです。

 実際はそうでないケースがほとんどですが、言うほど向いてもいないとは思いませんよ?

 リーダーが無能なだけの組織はフォローが効きますが、有能であっても馬鹿なリーダーの組織はどうにもなりませんから

 目的を持って資材資金を用意できて、説明同意を得て他人を信用信頼して余計な口を挟まないで頼れる。

 これだけで普通に立派なリーダーに見えますよ?」

「それはゼーナさんは勿論、皆さんが有能なので口を挟む余地がないのですよ。

 お金に飽かして人材を集めただけですね」

「それでも面接では随分篩に掛けていますね。

 レベルで測れる事ではありません」

「その辺りもズルしていますよ?」

「そのズルができるのが会長で良かったと思いますね。

 大半の人はロクな使い方をしないと思いますよ?」

「わたしは異世界の人ですから価値観が違うのですよ。

 買い被りは後がつらいので勘弁して下さい」

「買い被りがつらいは私もです。

 当たり前ですが私も甲殻戦機の降下部隊の戦術運用指揮は初めてです」

「…そういえば、いつの間にゼーナさんがやるのが当然みたいになっていました。

 当たり前みたいにこなしてにいるので忘れていました。

 すみません」

「これまではそれで良いと思いますし、戦術面の指揮はまだ良いのですが、今回の初陣でも私もいくつか無視してはいけない考え違いの指摘を受けて反省しています。

 それでも戦闘時には迷わず指示通り動いてくれます。

 開発や他のスタッフを含めて、彼らも私から相談しても有益です。

 向上心で反省・相談できる有能な人達と部下です。

 ズルができるのが会長で、私は本当に恵まれていると思います」


 


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