8 目的の為の組織がカタチになります。
「…レベル詐欺ですね…」
わたし空間接続でラーグスリーグの身内専用の家に降りた途端に言いがかりです。
「否定し難いですが、わたしは自分からLv2ですと騙した事はありませんよ?」
一応首都等の都市には空間接続等の魔法移動ができない結界があるのですが、わたし達は普通に、魔力のゴリ押しでしょうか?結界を無視出来てしまいます。
防衛意識的に問題になりそうなのですが、防衛能力をわたし達基準のするのは無理がありますから、拠点を兼ねて身内専用の家を用意しているのです。
「いらっしゃい、ようこそ…もしかして、フェブリーさんですか?」
エイプリルが察して居間に出てきますが、問題なく鑑定で名前を含めたステータスはわかっていると思いますが、もの言いは、フェブリーを知っているようです。
「…エイプリルですか?お久し振りです」
フェブリーもエイプリルを知っているようです。
「お知り合いですか?」
「ええ、5年くらい前ですか?セレナ様も一緒にパーティを組みました」
「セレナは?元気にしてる?」
一瞬昔の別れたパーティメンバーと聞いて悪感情を心配しましたが友好的です。
「はい。一応今は私はウヅキ、セレナ様はサツキと名乗っています」
「…サツキ?…あたし、その名のハイヒューマンの噂を聞いた事があるけど…?」
「多分、それですね」
「レイブギン王国に突然現れた、凶戦姫とか戦乙女とか王国の切札の?」
「あははは。面白いよね?姫ではないし、レイブギンが王国かどうかは微妙ですし戦乙女ってセレナ様が?みたいな感じですよね?」
エイプリルは楽しそうに笑いますが、セレナが不憫です。
偽名、大事ですね。
「…ハイヒューマンにまで至ったのですか?」
「結果的にはそうですね。切札というより見せ札ですが」
エイプリルはわたしを見ます。
「…エイプリルがセレナの不利になる事を言うとは思いません。
偽名をあっさりバラすくらいですから、エイプリルの判断で構いません」
「ありがと。限界近いまでの努力はされましたが、最後はズルをしました。
私もですが人類として十指、多分五指に入る強者に成りました」
「…養殖?」
「養殖で十指に入る事は出来ませんね。ズルとまでは思いませんし」
「そこのLv2の従魔、甲魔竜なら不可能ではない気がするけど?」
「甲魔竜を見せたのですか?…ディムディスの幻、の件ですか。
ですが甲魔竜でもセレナ様を含むほとんどの人には、事実上不可能なのです。
もっとクリティカルな、今の段階で秘密の手段です。
ですが最近のセレナ様は更なる研鑚で相応しくなりつつあります。」
「…派手にして誤魔化す算段とはいえ、ディムディスの件はもう伝わっているのですね」
「ここらでは眉唾な噂レベルですよ。私も大規模な幻影魔法と思ってましたし」
「なにしろフェブリーを連れてった以外、何もしてませんから。
それで、ある程度以上に信頼関係があるようですし、フェブリーにエイプリルから長期依頼を出してもらおうかと思うのですが?」
「面白いですね」
「依頼内容と報酬によりますよ?」
「依頼内容はざっくり言えば、セレナ様…というよりフヅキさんの味方をして下さい、という感じの微妙なものですし、どこまで係るかは相談が必要ですが、報酬はお金はもちろん係り方次第でお金が問題にならない破格な特典を用意できると思いますよ?」
「わたしの味方ですか?素直にセレナかエイプリルの味方で良いのでは?」
「フヅキさんは今の所セレナ様の味方でいてくれてますし、レイブギンやフヅキさん次第で私達もフヅキさんに付いてレイブギンを離れる覚悟があります。
フヅキさんの事情に味方しますよ?」
嬉しい事を言ってくれます。
「もう、全部エイプリルの判断で構いませんよ」
「ではフェブリーさん、久しぶりの再会ですし、あれから今までの事とか関係ない話も一杯したいです。
ゆっくりしていって下さい。
フヅキさんはユーシアさんから通信は受けていますよね?」
「ええ。呼び出されていますので、2研に顔を出しに行きます。
ごゆっくりしていって下さい」
わたしはユーシアの許に向けて[空間接続]を開きました。
「ジュライさんが送ってくれた半人半馬種とオーガ種モドキは明らかに組み合わせた…組立てたと言っていいモノでした」
「融合ではなく組み合わせたより組立てた、ですか?」
「予想…予測していましたよね?」
「…図星です。具体的根拠を教えて下さい」
「魔導具・魔導器による融合・接合と身体駆動の補助がなされてました。
加えて巨鳥か飛竜種と思われる甲魔獣の推進器官が取り付けてありました」
「そんな所まで…。
複製再現は可能ですか?」
「素材があれば。
ですが、人道的にあのまま再現しても乗っていた者がああなりますので」
「素材はあります。資金も提供します。
複製再現できれば搭乗者負担の軽減技術の研究の足掛かりにもなります。
人体実験が必要ならわたしが検体をします。わたしは色々丈夫ですから」
「…ジュライさん貴女は何者なのですか?」
「予測していたので対抗手段を用意しようと考える者です。
…潮時なのでそろそろ明かせる手の内は明かそうと思います。
明日一日時間を取れますか?」
「取ります」
「それとエトファムの飛空魔導器を譲って貰えるように交渉の席を作って欲しいのですが?」
「飛空魔導器?それは現在レイブギンが所有権を持っています。
レイブギンが欲しいのであれば既に持っていますね。レイブギンにも在りますし。
個人としてであれば、そちらで交渉する事になりますよ?取次はしますが」
「…そうでした。個人として欲しいかな…?
…できれば欲しいですね」
「分りました。取次の通信をします」
「仕様書を見せてもらいますね」
「一応機密なので個人に見せるのは…飛空魔導器くらいなら今更ですね」
一応ガースギースにも飛行船はあるのです。
航空力学で揚力飛行しているわけではありませんから飛行機とは呼び難いですが。
魔法で作った軽い気体を機体中に充填して浮遊魔導器で浮いて風魔法等で移動します。
大きくて遅くて脆くて高価で搭載重量が馬車2台分以下なので軽視・死蔵されますが。
輸送力としては空の魔物も居ますし、対抗力が低いのです。
転移や空間接続の魔法がありますから高レベル魔法使いによる流通ネットが確立されていますし、戦乱で遠距離交易が死んでしまっているのです。
軍事力としては100km/hも出ないので、遠隔攻撃できる普通の魔法使いにとっては小さくても30mの大きな的ですし、強風にも負けます。
ハイヒューマンが主体の戦争では出る幕がありません。
少なくとも戦乱が終わるまでは出る幕がないと思われているのです。
改造は必要なのは分かっていましたので、要求スペックと改造案を提案しました。
「これだけ高級品質素材を用意できるなら新造した方が早いですね」
2研に大型専門の6研の主要研究者を交えて相談したらあっさりそんな結論です。
ほとんど6研も吸収する形で新造計画がスタートしてしまいました。
6研は大型専門の性質上設備が大規模の割に需要がなくて冷や飯食いなのだそうです。
海洋船も海の魔物が強力で対抗力が低いので、ほとんど存在しないのだそうです。
そういえばゲームでも設定に無視されていました。
「では稼ぎ修行を始めます」
甲魔獣が多数生息する森に依頼に合意したフェブリーとユーシアを連れて修行です。
百聞は一見にしかずです。
セレナ達と同じ流れで説明と修行です。
それに途中から連絡が入って雇用に合意してくれた、飛空魔導器の運用経験のある元エトファム軍大佐の32歳の女性、ゼーナ・エクシードさんが加わります。キツい印象ですが、綺麗な方です。
航空運用知識はわたしにもないので探してもらっていたのです。
わたしは独自に甲魔獣に[Lv2の祝福と呪い]を使って限界までレベルを上げさせてから倒して素材収集です。
最高品質です。
サビと従魔達に引き続き諜報調査させて3週間、白黒傭兵団のクライアント、ディムディス王国のクズ貴族はヴァンムジン帝国の貴族と取引していたことが判明しました。
なんでヴァンムジン帝国の貴族がディムディス王国のクズ貴族を通じてヴァンムジン帝国側から傭兵団にテスターさせてダイスビル帝国を攻めていたのでしょう?
セレナ・エイプリル・イリーシャ・ユーシア・フェブリー・ゼーナさんと2研の主要スタッフ等を集めて会議です
「意味がわからないね」
「サツキ様、意味が悟られないようにするのが作戦というものです」
最近は周りも含めてセレナを女王への囲い込みが激しくイリーシャ達はセレナを様付きで呼びます。イリーシャを含め稼ぎ修行組にはサツキ/セレナの正体は伝えたのですが。
「それを読み取る為の会議です。
ディムディスの貴族はまず資金の流れを隠す為のただのパイプでしょう。
ディムディス側から攻めないのはディムディス王国自体は関係ないのでしょう。
交戦状態でもありませんし。
エイプリルとフェブリー、ギルド方はどうですか?」
ゼーナさんは最年長の大人の高級佐官らしく、落ち着いた意見と進行をしてくれます。
脳筋ばかりの集団なので知性派は凄く有難いです。
本当に助かります。よくウチになんか来てくれました。
「資金の流れを傍証する程度ですね。
乗従甲魔獣の目撃情報自体が少なくなりましたね」
「鹵獲してもそう変わったのは居ませんでした」
そう言いながらフェブリーは2研組に視線を向けます。
「現在までのサンプルは、改良の痕跡はありますが改良部が機能していません。
ジュライ様とユーシア様の不死身の検体志願のおかげで実用段階に達しているウチの方が圧倒的に先を行っていると思われます」
2研組は胸を張ります。確かな進歩をしているのです。
ユーシアまで検体志願してくれていましたので条件的には有利なはずですが。
「甲殻戦機はどの程度まで実用できそうですか?」
乗従甲魔獣とはかなり違った物になったので区別して甲殻戦機と命名されました。
「第1段階のオーダーの4m以下、Lv50ヒューマンによる2時間稼働は3時間程度。
降下能力は500mはクリア。副次効果で400mジャンプが可能です。
鑑定によるレベルは160となっており同レベル甲魔獣と同じ防御力です。
運動能力も同レベル甲魔獣と同じですが搭乗者の制御能力に依存します。
ハイヒューマンレベルのスピードを通常人は目で追う事も難しいですから。
ですが搭乗者のスキルと一部、素材となった甲魔獣のと思われるスキルが使えました。
オーダーのハイヒューマンレベルは目途も立っていません。
現在4機が稼働可能です」
「別オーダーの特殊小型化機は3m以下は厳しいです。
甲魔獣の甲殻は剛性も弾性も高過ぎるので、プレスもキャストも無理ですから、地道に削るかハイヒューマンに斬るか折るかしてもらうしかないので、ジュライ様専用を前提にしても100レベル、3m半が現状です。
「分りました。甲殻戦機で加工しては?」
「…それです!甲殻作業機とか作っていいでしょうか?」
「会長、よろしいですね?許可します。
開発の方向性は予定通り小型化でよろしいですか?」
ゼーナさんの会長呼ばわりは色々あって承諾しました。
様付やマスター呼ばわりよりマシでしょう。
「そうですね。特に別オーダーの方はレベルを気にしなくていいです。
3m以下で簡素化して量産し易さが強化以前の目標です。
あと稼働4機の訓練を甲魔獣の森にシフトしましょう」
「了解しました。
セレナとイリーシャのレイブギン組は何かありますか?」
「ナチュラルにレイブギン組に固定されている事に疑問があります」
「レイブギンの顔、切札、凶戦姫、戦乙女が今更…」
楽しそうなイリーシャです。本気なのでしょうか?
「それも納得いかない!ジュライ、一緒に逃げましょう」
「前とは逆になりましたね」
エイプリルも楽しそうです。
誰も言葉に出して女王になって下さいとは言ってないはずなのですが…。
ですが巻き込まれるのが目に見ているので本心はセレナと一緒でしょう。
「わたしは誘って巻き込もうとはしていませんよ?」
そこははっきりして置きます。
「レイブギンは安泰ですね。
他に質問はありませんか?」
2研の一人が挙手。
「どうぞ」
「資料に推測されているヴァンムジンの貴族が統治している土地は、昔エトファムの同胞が占領された地域だったと思います。うろ憶えなので裏は取ってください」
「…技術的背景が見えてきたかも知れません。
乗従甲魔獣の開発がヴァンムジン帝国皇帝の意思ではなく、貴族の独断で遺跡や支配研究者が技術的背景なら辻褄が合ってきます」
1週間後その日が来ました。
従魔達に諜報・偵察活動をさせていたので前々日の夜に行動を起こす事は分かっていましたがレイブギンは直接関係ないし何処かに味方する理由もないので動きません。
わたし的にも微妙で、その日の動き方次第なので待つしかありませんでした。
ヴァンムジン帝国がダイスビル帝国を占領。
70体の甲魔獣騎と呼称を改めた乗従甲魔獣を以てハイヒューマン12人を抱えるダイスビル帝国を下したその軍はヴァンムジン解放軍を名乗りました。
領から30体の甲魔獣騎を追加してヴァンムジン帝国帝都ヴァンムジンに進軍。
1月で20人を超えるハイヒューマンを擁する大帝国の半分を占領。
ハイヒューマンを13人下して甲魔獣騎40体を失っていました。
ゼーナさんとわたしがレイブギンで昼食となってので、セレナとイリーシャに声をかけて一緒になりました。
「レイブギンとしてはチャンスと言えばチャンスなのよね。
ダイスビルが落ちた日に停戦を継続するか反故にするかの確認を無視されたし。
後で攻める気満々の対応なのよ。
正直、セレナ様1人でも勝ちには行けるし」
「無視は責める気がある事になるのですか?
それに流石に私1人で守り切れはしないと思いますよ?」
「停戦を継続した場合、宣戦布告からになりますから大義名分が必要になります。
あまり無茶な侵攻は他国の反感を買って余計な多面戦争になります。
ヴァンムジン帝国は交戦国が現在二国、それに隣接国や潜在的な敵が多いのです。
停戦状態でないなら侵攻できますから、セレナ1人でも勝ちには行けるという事です。
むしろ後になって余裕ができてから侵攻された方が厳しいのです」
イリーシャの発言にセレナが問い、ゼーナさんが回答します。
「それでも無理のある強引な力技の話ですよ?」
「フヅキに無理のある強引な力技とか言われたくないわね」
「何でですか?いつも高い勝算を計算して勝負していますよ?
勝てればいいというわけではない事もあるのを今実感しているのですが」
「なにかあった?」
「わたし達も少し問題が発生していまして。
甲魔獣の森で甲殻戦機の訓練をさせていたのですが、レベルが上がってしまいました」
「それが問題?」
「甲殻戦機のレベルも上がったのですが、搭乗者のレベルも95とかです。
ジョブも操縦者になってしまいました」
「凄いじゃない!」「おお!」
イリーシャとセレナは良い事のように驚きますけれど。
「凄いのですが、わたしが無暗にハイヒューマンを増やさないように自重して、ヒューマン兵にも戦える様に甲殻戦機を開発しているのですよ?」
「…考えたのですが。
多分、甲魔獣騎も搭乗者もレベルが上がっていると思います」
黙考していたゼーナさんがおもむろに発言します。
「…そうですね」
「それなら、これがハイヒューマンへ至る、正道の一つとは考えられませんか?」
「正道?…チートくさいこれが?
…一応ガースギースの技術の産物で、元々存在していた道ではありますね」
「そうよ、そこはそれでいいでしょう?
皆の努力が操縦者としてハイヒューマンへ至る道。
いいじゃないか」
セレナの考えは前向きですね。
「私達はチートですが、これなら養殖程度のズルの範疇でしょう。
操縦者達の反応は?」
「皆、前向きに喜んでいます。
箝口令を敷いていますので、それは多少不満のようですが、皆軍事経験がありますから」
「箝口令は必要よね?箝口令が必要な事を喜んで正道と言うのに抵抗があります」
「新兵器・秘密兵器に携わるものに守秘義務があるのは当たり前でしょう?」
「…飲み込んで納得します。これに関して自重もやめます」
「であれば、ジュライ・パーティとして秘密兵器の初陣にしませんか?」
「ジュライ・パーティはやめて下さい。恥ずかしいです」
「偽名でしょう?」
「それでも馴染んだら恥ずかしいです」
「パーティ名は置いといて秘密兵器の初陣ですか」
「はい。イリーシャかエイプリル、なんなら依頼人を雇って甲魔獣騎の調査、可能なら討伐の指名依頼を受けて討伐します。
うまくすればハイヒューマン相手の実戦データ収集と操縦者の経験にできます」
「戦争中にリスキーなデータ収集をうまくすればって…」
「キレイ事は言いません。
私達は会長の私兵です。会長の目的の為の組織です。
今の私達の目的は甲殻戦機も完成度を上げる事、開発の為のデータ収集です」
「そうですね。わたし達は勝つ事が目的ではありませんから。
勝つだけなら、それこそわたしでもフェブリーでもゼーナさんでも単独で放り込んでも勝ちます。
レイブギンの為でも民の為でもお金の為でもなく、敵対するならハイヒューマンを討伐します。
開発の為のデータ収集の為に。わたしの目的の為に。
なので依頼人を募集しましょう。介入の建前が欲しいですから」
「なら私が依頼しましょう。個人的に私兵を送ってもおかしくない立場です。
報酬は…お金の為ではなかったわね。
適当な金額にしておくわ」
「ありがとうございます。
一応断っておきますが、全額返還するので相場を気にしないで派手な額にして下さい。
派手にやる事になるでしょう」
「ゼーナさんがありがとうって…ゼーナさんもお金を気にする立場ではないですよね?
なんでフヅキの私兵なんかをまだやっているのですか?」
「まだ契約期間内ですよ。
会長の事情と目的の説明の為に事前に了承して禁止命令魔法のギアスで会長の事情を誰にも知られるな、と禁止命令を受け入れました。
契約期間内はそれくらいは当然の事情と理解しました。報酬もありえない破格です。
貴女達は手伝ってあげたいと思いませんでしたか?
結局、仕事に差し障りのある弱点になるからと解呪されましたが、元々色々あって自由の身ですから、私は私がしたい事をします。
私は会長を手伝ってあげたいと思います」
…本当に…本当に、よくウチになんか来てくれました。
「ゼーナさん、本当にありがとうございます。
まだ本来アテにしていました初陣もまだなのに、脳筋ばかりの中、秘書みたいな仕事までさせて、本当に助かっています」
「それは、私も思います。助かっています」
「私もフヅキばかりアテにしていた身として頭が下がります」
「いえいえ、本当に私がしたい事をしていますよ?」
笑顔も綺麗な大人です。