4 インベーダーがクーデターします。
「さて、勝ったは良いのですが、どうなさる御積りですか?軍団長」
腕を組んで虚ろな視線を天に泳がせる軍団長。
まだダンマリですか。
このまま城壁内に入ると後戻りが効かない事が増えて選択肢が減りますよ?
わたしのそんな一言で直後に城壁前に緊急設置された天幕内。
集まったのは軍団長と4人の支団長と、参謀役でしょうかエイプリルに、何故かセレナの客分に過ぎないわたし。
セレナ以外の3人の支団長も軍団長に倣って発言する気配もありません。
「わたしの知識では交戦国とはいえ首都を攻め落とすのは領軍の仕事ではありません」
「そうだったねえ」
「ですね」
「攻め落とした国の最低限の機能維持ですとか暫定でも指針策定とかも領軍の仕事ではありません」
「おや、詳しそうじゃない、やってみたら?」
能天気な事をぬかすエルフに、わたしはキレそうになります。
「馬鹿ですか?やってしまったら大問題になります!正面から王国に報告しても大問題になります!放置しても大問題になります!」
「冗談なのに…」
「笑えない冗談は今要らないです。なんでわたしがこんな…ん?
…わたし、もう要らないですよね?元々領の防衛戦の戦力だけの予定だったのですし。
思えばなんでここまで付いて来たのでしょうか?」
「ズルい!それはズルいよ!ここまで付い来てやらかしたのはみんな一緒でしょ!」
慌てたのはセレナですが、ズルくはありません。
「わたし、異邦人ですから…」この場にいる方がおかしいのです。
「私、エルフですから…」
「逃げんなってば!エイプリルもどさくさに紛れんな!」
会議は大荒れでした。最年少の下っ端の女三人だけで。
「今の所わたしが思い付くの方策といいますか、方針は三つですね。
一つは正式に報告して処断される事です。
二つ目はここに亡命するか、いっそ支配して独立する事です。
三つ目はこっそりとその辺りをチラつかせて王国と…王様と直接交渉する事です。
あ、もう一つ良いのを思い付きました。全部忘れて別の国に逃げます」
「だから逃げんなってば!死刑か本物の侵略者になるか王様を脅迫するしかないの?!」
「逃げるのが一番穏当だと思いますよ?
他に案があれば聞きますよ?
というか案を出して下さい。
本来わたしは発言権も聞く権利もこの場にいる権利もありません」
会議始めて30分、誰も案と言える発言をしていません。
脳筋しかいないのですか?いえ、だからこそこんな状態になったのですよね…。
「…その…一つ目ですが、セレナ様と多分私は死刑という事はないと思いますよ?
ハイヒューマンなので…」
ガタンッ。
それまで空気だった団長達が両手指を絡ませて『見捨てないで』オーラを放ち出しました。
鬱陶しいですね。
ふと、軍団長の表情が懇願から考え、ひらめいた、みたいな変化です。
「お嬢が軍団長って事で…ハイヒューマン=セレナ・ゲインツ軍団長がエトファム都市国家連合を攻略した…。
実際、ほとんどお嬢一人で矢面に立って、ほとんど個人的配下だけで戦闘を勝利してここまで来れたんだ。
元々いずれはお嬢を軍団長にってみんなで言ってたし公言してた。誰も文句なんか言うやつはいねえ」
うわあ、責任を丸投げですか?
「い、一人前の指揮官になってからでしょうっ!?」
「ウチの軍団に今更お嬢を一人前以下なんて言うやつがいるもんか!
絶対に俺だけで取り切れない責任だが、ハイヒューマンのお嬢なら可能性がある! 」
「ええと…その…多分、セレナ様をハイヒューマンとは他の誰も認識していません。
隠していたわけではありませんが、ほとんど広めてもいません。
領主一家が微妙な時期に死亡していますので、情報が王都まで届いているとは思えませんし、王国属ハイヒューマンとしての役を賜っていませんので立場として微妙です」
「最低でも俺よりマシだろう。一人でもが首が要るなら俺のを最初に斬っていい」
…先程は失礼な事を考えて申し訳ありません。
と、外から馬の足音と共に響く声。
「伝令!エトファム都…エトファム暫定議会より大至急の伝令です!」
「東方よりハイヒューマン=ダルビーグ・ディクスナー及びイリーシャ・ブライトン率いるレイブギン王国軍が侵攻してきました!対応を求む!」
詳しい説明を求めるエトファム側に対して「あんた達が弱過ぎるからこんな面倒な事になるのよ!対応はするからおとなしくしてなさい!」とセレナが一喝。
取り敢えず全員で侵攻軍方面に向かう事になりました。
残されると処理が不可能な仕事に直面しなければならないのを皆が感じ取っているのです。
「侵攻軍としてはあちらが本命といいますか辞令を受けた正規国軍ですから、エトファムのハイヒューマンの気配が感じとれなくなって罠を警戒しながら進軍を始めた、くらいですかね。
タイミング的にも辻褄が合います」
「ジリアス領ルートは奇策とか奇襲向けなので逆奇襲が成功したらからあんなに脆かった、と言うのもあるかもしれませんね。
それでハイヒューマンのダルビーグとイリーシャの情報はありますか?
正規侵攻軍ですからどちらかは貴族でしょう?
わたし抜けていいですか?」
手柄は国軍貴族が立てなければならないのです。
なので領軍平民が勝手に大手柄を立てられない規則が網羅されているのです。
ジリアス領軍のアレは普通に言語道断だと思いますけれど。
「だからすぐ逃げようとすんなってば!」
「何故ですか?一時雇いの単純戦力の約束です。
常識も怪しいですし、ましてや貴族との交渉にわたしは不向きといいますか…ほら?」
…わたしは貴族を狙って暗躍するテロリストらしいですよ?噂ですが。
皆程の脳筋のつもりはありませんが、お世辞にも頭脳労働向きとは思えません。
元々、ここに来る前から知性派ではなく武闘派思考の自覚があります。
「…ああ、分かっているから前面に出ろとは言わない。
だがフヅキがいないと会議を進めるどころか企画する段階で破綻するでしょうが!」
ちなみに参加者は前回と同じ、肩書を軍団長と交換したセレナ、エイプリル、団長達。
恐ろしい事に軍団長が参謀と相談はするのですが軍議、いわゆる幹部会議というプロセスをこの人達は飛ばしがちなのです。
今までどうしていたのでしょうかとエイプリルに訊ねたら、セレナの祖父であり先々代軍団長アンキリム・ゲインツ氏への絶大な信頼により、命じられたタスクを確実に遂行する事に特化した集団になっていたそうです。しかもファジーな指示をフレキシブルに、先の事も考えてフォローを前置きできる優秀な集団だったそうです。
そしてアンキリム氏亡き今、アンキリム氏ならこう指示しただろうという想定で各自判断して大きな破綻もなく機能していたそうです。
アンキリム氏を含めて、いろんな意味で恐ろしい人達です。
「それが一番納得できません。わたしは本物の身元不明の不審者で部外者ですよ?」
「今更何を。私の客分。それ以上の身元と立場が必要なら、今ならここにいる全員がフヅキを養女に引き受けて立場を今すぐにでも譲りたいでしょう?」
黙って頷く団長達。
「逃げたいのも、貴族相手が嫌なのも全員同じですよ。
話を戻して、ハイヒューマンの話です。
ダルビーグは悪い意味で、イリーシャ様は良い意味で、実家は両家共悪い意味で、貴族らしい貴族です。
悪い意味というのはフヅキの知る感じです。
イリーシャ様に関しては女性の立場が縁故の駒くらいの貴族社会に公爵家の第一子なので幼い頃は冷遇されていたそうですが、幼少から武術の才があり早くからハイヒューマンに至ったので平民から王族まで醜いモノ汚いモノを正面から見据える目を持った高潔な方で、気安い方というわけではありませんが、フヅキさん以外は誰でも知っている民衆に人気がある有名人です。
27歳、王国7人のハイヒューマン次せ…現在6人の筆頭、Lv170を超えていたと思います。ダルビーグはLv120位だったと思います」
「ダルビーグの情報が少ないですね」
「ハイヒューマンの情報は一応軍事機密です。
イリーシャ様が有名人なだけです。
貴族は広めたがりますが戦力情報は隠しますし、ハイヒューマンの弱点は縁故を盾に取られる事ですから。知られているハイヒューマンも偽名が多いと思います」
「ふむ、私達も偽名を名乗った方が良いかねえ、名付けは不得意だ」
「私もです。縁故の名前や地名を使わない方が良いとなりますと…フヅキさんが向いてるのでは?異邦人ですし」
「そうなりますか。ちなみにエイプリルさんの名前の意味は分かりますか?」
「古い言葉で四月ですね」
「フヅキとかウヅキの意味が分かる方はいますか?」
全員が首を振ります。
「ではエイプリルさんはウヅキで。わたしの故郷のごく一部の古い言葉で四月の意です。
わたしは七月なのでジュライにでもしましょうか」
「その法則だと五月は?」
「サツキですね」
「ではサツキで」
「思うのですが、偽名を使う理屈で言うと、軍団そのものがセレナの弱点ではないですか?」
一瞬の静寂、でもすぐに軍団長が…先刻までの軍団長が声を上げます。
「それは違う。俺達は軍人だ。弱点になる状況なら万一のかすり傷を与える可能性に賭けて差し違える。それも望めないなら自害する。
そもそもハイヒューマンに軍団が付くのは戦闘時以外の負担を減らす為だ。
ハイヒューマンも睡眠・食事は必要だし生理現象もある。広範囲索敵の必要もある。
いかにハイヒューマンとて1人2人では数で延々と押されては…?」
「…ええと、広範囲索敵は3人ともスキルでやってますね、わたしとエイプリルはかなり広範囲の高性能ですよ?相手の位置ももう把握しています。
数も一度にハイヒューマン1人付で3万くらいをセレナ一人で悠々と何度か退けましたね。
防衛戦はつらいですが、攻撃側や今回のように取り敢えず接触してみる場合は、タイミングをこちらで選べますしスピードがあるので3人のローテで生理現象とかは大丈夫です。
あと、言い難いのですが、このまま進軍して2・3日という所ですが、実は3人なら2時間程度です」
「…ですね。でも王国最強と言われた先代…アンキリム様は…あれ?…」
「Lv2がらみのステータス効果と、有り余るPPでの高レベルスキル大量取得を忘れましたか?最強と言っても普通のハイヒューマンとはかなり感覚が違うと思います」
「…最強の普通のハイヒューマンとは何でしょうか?」
「御爺様が普通?」
「違います。わたし達が異常なのです。
忘れていましたが、レイとサビを先行させていますので、あと10分程で着きますから空間接続で全員移動も可能と言えば可能でした」
セレナの存在を察知した2人のハイヒューマンが先行して来るのを、セレナは片膝を付いて頭を垂れて迎えます。
「私もハイヒューマン故、偽名で失礼しますが、レイブギンの民、サツキと名乗っております」
「レベルの見えないハイヒューマン?」
「貴女でも見えませんか…」
少し離れて、別のVRMMOで「隠密セット」と呼ばれていました『インジビリティ』『気配カット』『探知スキルカット』『サイレント』でエイプリルと二人で潜みます。
レイ込みで3人で立ち塞がれば素直に引いてくれるかもしれませんが、二人を鑑定して状態表示を見てセレナとエイプリルが一応話したいので最初は一人でという事になりました。
『どう思います?』
『貴族はともかく、何を対価に王国に従っているのかと疑問ではありました』
その解答が状態表示されています。
状態:レイブギン王への忠誠(Lv150魔導呪具)
クエストのような魔法で縛る魔導呪具なのでしょう。
『いけますね』
『セレナ様も余裕でしょう』
セレナは面を上げて二人と視線を交わします。
「不仕付けな質問を致します、御容赦を。
イリーシャ様は自らの意思で呪いを身に甘んじているのでしょうか?」
驚愕に目を見開く二人。
敵地で突然、偽名ではあるけれど同胞を名乗る、レベル不明の…180以上と思われる知らないハイヒューマンが単独で現われ、イリーシャの名と呪いの事を口にしたのですから
「それを聞いてどうするつもりだ?」
殺気を漲らせるダルビーグ。
「本意ではないのであれば解呪が可能です。
今一度お尋ねします。その呪いは本意なのですか」
「なっ!…くっ!」
「ぐっ!」
苦しみ始める二人。
『解呪を期待する事すらレイブギン王への忠誠に反するのかもしれません』
「HPと状態を[ノーマライズ][再生]』」
ちょっと!?ノーマライズまで使うのですか?!無茶ですよ!仕方ありません、わたしも『ノーマライズ』します。
エイプリルも同じ思考なのでしょう、同時でした。
わたし達は全耐性『吸収』のおかげでしょうか苦痛はありません。
二人もマシになったようです。
「答えはノーです…本意であるわけがないでしょう」
「では[復活][解呪][復活]」
イリーシャが血を吐きながら答えた瞬間、全身から血を吹き出しましたけれどHPをノーマライズしているのでHPは減っていませんが、保険のつもりだったのでしょう復活がアダになりました、呪いまで復活しています。
ダルビーグが再び全身から血を吹き出したイリーシャを見て脅えています。
この世界の治癒系魔法はあまり使い勝手がよくありません。
予め人数制限のある登録者にしか他人に使えません。
人数制限は魔法力や記憶力等のパラメーターに依存するようです。
そして登録した時点の状態まで治癒するのです。
怪我や病気してから登録してもあまり意味はないのです。
セレナはつい先刻イリーシャを登録したはずです。
なので部位欠損や致死失血まで復活する高位魔法のリヴァイヴでも登録以前に受けた呪いも復活するのです。年を取ってからリヴァイヴしても若返ったりはしませんが。
『セレナ、エイプリル、ノーマライズを切ってわたしに任せてもらえませんか?もう一度試します[ソウルセーブ][気絶][リムーブカース][ディスペルフィールド]』
ソウルセーブは精神系や記憶系の魔法の対抗魔法なのですが保険です。
魔導呪具といってもオーダー固定のクエストの魔法を魔導具化した物と思われます。
クエストがプレイヤーに使用可能なので解除にあまり無茶な縛りはないと思えるのです。メタですが。
気絶すれば忠誠に反する意思が途絶して呪いは発生しなくて、回復してから解呪すれば問題ないと思います。
魔法無効領域を発生するディスペルフィールドも、魔導呪具から遠隔魔法が存在した場合の保険でしたが杞憂だったようです。
『結論としては、いきなり解呪すれば良いような気がします』
「テメッ!」
イリーシャが騙されて倒れた様に見えた…見えますよね、それは確実に…ダルビーグが1対1は引き分けの原則やレベル差を忘れたのでしょうか?片膝を付いたセレナに切りかかります。
でも、ステータスは無情です。
『忠誠に反する意思は欠片もなくなったみたいですよ?
まあ貴族ですし特権を持った一族丸ごと人質みたいなものですからね』
瞬殺でした。
イリーシャを抱えてワープホールで戻り、領軍天幕で再び会議です。
「それにしても、ハイヒューマンの半分くらいが貴族なのですね。
遺伝はしないはずですよね?」
「まあハイヒューマンに至る条件がアレだとすれば、高い身体能力とか魔法力が普通に遺伝して、戦闘戦争の英才教育を早い内から受けたら確率も上がるのでしょう」
「…さて、気の重い話の続きです」
「国王を脅す…直接交渉が現実的になりましたね。
貴族のハイヒューマンはあと一人ですよ?」
「でも貴族以外のハイヒューマンをこのままにするのが可哀想になりました」
「かといって片っ端から解呪したら報復で滅ぶか、他国に支配されるか」
「このさい王様は捨て石にしてどこか平民にとってマシな国に属国にしてもらうのは?」
「一番マシな国はココだと思いますよ?」
「「はあ…」」
溜息しか出ません。
「ココを王国に任せる目も無くなりましたし、いっそエトファムに統治させますか?」
「民族主義の他民族皆奴隷な国に戻られても嫌ですし、実効支配力が無さ過ぎます。
今この国には1人しかハイヒューマンはいないのですよ?
わたしは手伝いませんよ?」
「私も微妙だな。エトファムの為にとなると違う気がする」
「もう、いっそサツキ様が女王様になって下さい」
「馬鹿な事を言うな。血統もなければ正当性もないでしょうが」
「建国王なんてみんなそうですよ。理想さえあればいいんです!」
「ジュライの言う脳筋は自覚した。肝心の能力がない。
そんな事になったらウヅキも付き合せるよ?絶対に逃がさないよ?」
「それは…困ります。無理ですね」
「ここに来て、みんなで忘れて全部放棄して逃げる案が最有力に?」
「考えたくないけど、考えざるえないかもしれない…」
「私はイチオシです」
「それは駄目です!」
力強い4人目の女性の声。ちなみに居ますよ、団長達。
「頭ごなしに駄目といわれましても…これでも脳筋が集まって知恵をしぼったのですよ、イリーシャ・ブライトン様」
拘束こそしていませんが、鑑定のステータスを常時表示にしてましたので起きていた事は知っていました。
「イリーシャで結構です…Lv2の異邦人…?」
ジョブオープンしておいたのでこの場にそぐわないと感じたのでしょう。
「ええ、御覧の通り場違いなので、わたしはこれで失礼します」
「だからすぐ逃げようとすんなってば!逃げんなら私も連れてけ!」
あ、セレナが軟化してきました。
「もちろん私も!」
「それは駄目です!この場の責任者は貴女ですか?」
「わたしを見られても違いますよ。役なし最下級の部外者です」
嘘は言ってませんよ?
「だが彼女がこの会議を仕切っているし、一番有能です。逃げ口上を助長するような言動は慎んで下さい」
「…分かりました、サツキさん。あなたが責任者ですね?」
「…建前の役職が最上位であるだけでも、それに当たるなら、その通りです。
…こうなってしまえば、この建前、要らない気がします」
余計な事に気が付いたセレナが団長達を見ますが首を横に振るだけです。
「話すと長い割に実りのない話なので、この後話すかもしれない事の後にして下さい。
サツキ様が事実上の意思決定者ですが仕切り進行はジュライなので、そのようにお願いします」
「了解しました。まず私の立場を教えて欲しい」
「被保護対象ですね。場合によっては捕虜?になります」
「拘束も武装解除もされていないのは?」
「必要がないからですね」
「…?ここは何処かきいても?」
「エトファム首都から南に半日という所でしょうか」
「…ある程度聞こえていましたが、あなた方は連合の軍勢ではないのですね?」
「そうですね。わたし達は連合に勝利してしまいまして、困っています。
条件付きで王国に委ねようかとも考えましたが、貴族の横行とハイヒューマンを魔導呪具で縛る国王のやり口を知り、断念したので本当に困っています」
「それは…本当なら困るでしょうね」
「聞いていたとは思いますが、貴女にしたように解呪もできます。して行きたいと思っています。
本当であることを証明したら協力してもらえますか?
重ねて言いますが、本気で全部放り出して逃げる1歩手前くらい困っているのです」
「サツキさんが民を想うならクーデターは必須ですね。それももう既に始まっています。
誰が後に座るかだけです」
「クーデターが既に始まっている?」
イリーシャの言葉に皆が動揺してざわつきます。
「理想を持って戦功を上げ、権力者の権力の源を握って追い詰めつつありますね?
ハイヒューマンを解呪すれば現政権は瓦解確定ですから。
既に国一つ攻め落としておいて、クーデターくらいでガタガタしないで下さい」
わたし達3人による複数ワープホールで首都ラーグスリーグの門前まで全員で戻り、エトファム首脳を交えて状況証明ツアーを終えての会議です。
ついでに最低限の政務機能維持とかも助言してもらいました。
「私個人の意見としてはジュライ殿に宰相としてサツキ殿に起ってもらうのが最善と思います」
「…では皆さん、お世話になりました、お元気で…」
「だからまた逃げようとすんなってば!逃げんなら私も連れてけってば!」
「…分かりました。私の方で適当な候補を用意しますので面接で決めて下さい。
こんなあからさまな傀儡政権はどうかとも思いますが」
「いっそイリーシャ様がやれば?公爵家でしょう?」
「いえ、やるならここで一度、血は否定しておくべきでしょう」
「貴族だって血だけを理由にわたし達が嫌がる統治とかLv50からの苦行とかを押し付けられてきたのも事実でしょう?」
「その通りです。
ですが私自身やつらの血縁である事を恥じていますし、本格的な統治など無理です」
「ハイヒューマンはあくまでも戦闘的超越者ですから力押しが効かない分野は比較して苦手になってしまうのかもしれません」
ハイヒューマンを解呪して回る事になりました。
どうなるにせよ、何かの拍子にわたし達以外の要素で解呪できた場合、恨みが王国に向いているでしょうし、そこの権力構造に係るかもしれないので。
単純に被害者ですし、救済ついでに最低限のお願いもしないといけません。
ディスペルフィールドを展開した上でレイブギン王への忠誠は本意ですか?と尋ねる事で呪いは一時的回避可能でした。
わたし達の状況を説明して、できれば即時の報復行動は自制欲しい事を伝えます。
皆さんやはり人質みたいなものも取られているようで、即時報復は危険なのでしないと請け合ってもらえたので快く解呪できました。
クズ達の保険が機能しているのが腹立たしいですが。
時を置かずして新たなハイヒューマンが王国の剣となる事を願い出ます。
王国のハイヒューマン以外は敵なので、何も知らない国民がハイヒューマンに至った場合、国内で活動する為に偶にあるそうです。
今回の申請者はサツキ。
もちろん魔導呪具を引っ張り出す為にかけた罠です。
「新たなハイヒューマン・サツキ、王の剣となる事をちか…」
あっけない、それが王様の最後の言葉でした。
魔導呪具を確認した時点で通信が来ていましたので、わたしは一言「確認したそうです」と呟くだけでハイヒューマン達が先を争うように突入して王の首を刎ねたのです。
一応この時点では統治の為にわたし達が用意した王様に、貴族達に忠誠を誓って貰う案もありましたので魔導呪具は壊さないよう回収してもらいました。
「ンな胸糞悪いモンを使わないと滅びる国は、滅びた方が良い」
使われた者の感情としてはもっともですが、脳筋な意見が後の会議の場で空気を占めたのでとりあえず封印という事になりました。
貴族達にも散ってもらう事になるのでしょう。
そこから会議は間延びしたので休憩になりました。
良かったのでしょうか?使えるものは何でも使わないと統治が…。
いえ、わたしはそんな事を考える立場にありません。
わたしはこんな事をしている暇があるのでしょうか?
ここにきて二月近く経ちますが、わたし自身の事は何も分かっていません。
「逃げんなら私も連れてけよ?」
「もちろん私もですよ?」
「…何処へ逃げましょうか?」