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2 彷徨ってテロリストになります。


 翌日。

 わたし達は森を奥に進んでいました。

 まだわたしを人前に出すには教育が必要。

 すぐ戦力になるはずなので、わたしが当分生活できるように資金稼ぎ。

 そしてセレナ達の当初の目的、修行exp稼ぎ。

 セレナはハイヒューマンへの高みに一縷の望みをかけている事案があるそうです。

「嘘みたいに早いね」

 セレナの言葉通りサクサク進みます。

 わたしがスキル[ノーマライズ]で『HP』『MP』『SP』『疲労度』を3人で平均化した上でパッシヴスキルの各種[超自然回復]が秒間2000以上回復するのです。

 HPが5桁の大台に突入したわたしが居る以上、HP3桁の二人にダメージが入るのは秒間1万以上の場合だけなのです。

 三人とも使える二倍速で走れるスキル[疾走]で雑魚の相手をせず走り抜け、気になる位追ってくる魔物が溜まったら範囲攻撃で一掃。

 この繰り返しで想定の三倍以上の進攻速度なのだです。

「いっそ、わたしが使えるスキルレベルを上げて5倍速になりました疾走もノーマライズできないでしょうか?」

 ノーマライズでは無理でしたがシェアリングというスキルで出来ました。

 雑魚を完全に置いてけぼりにして進みます。


 でも。

 すぐに種族的限界に達しました。Lv52と81.

 魔物が90Lvを超える甲魔獣と呼ばれる甲殻を纏った魔物クラスになるとLv81のエイプリルの最強集中魔法でもダメ-ジが全く入りません。

 この甲魔獣、ゲームでは中盤以降に有益な素材になるので全回集です。

 Lv10にした[鑑定]で見えるようになった二人のステータスを見つつ、わたしが瀕死にしてトドメを任せても経験値は1しか入りません。

 二人ともNEXT EXPまで1万以上

「そもそも、いくら広くてもこの森に90Lvを超えるクラスが1万匹以上いるかも怪しいですね…これがハイヒューマンへの壁ですか…」

「フヅキは簡単に勝てるのにな」

「でもわたしもハイヒューマンには成れそうもありません

 …ハイヒューマンの強さが必要なのですか?それならわたしがこっそりと御手伝いしましょうか?」

 今もわたしはLv2の異邦人ヒューマン女性のままです。でも種族的限界がハイヒューマンにもゲーム的に通用するならMAXLv200のステータスを超えています。

 と言うか、ゲームシステム的に999が上限のはずのステータスの大半が5桁を超えています。

「いや、強さは勿論必要だけどハイヒューマンの称号が最も必要なんだ」

「…セレナ様、フヅキさん、可能性の提案というか賭け…いえ動物実験をすれば…でも最終的には賭けは賭け…そうか先に私がやれば…?」

「なんだ?取り敢えず言ってみなさい」

「フヅキさん、Lv2の祝福Lv2の呪いはスキル(・・・)なのですよね?」

「はい。そうですね」

「スキルならスキルレベルを上げて他者に効果を与えられませんか?フヅキさんは任意でスキルレベルを上げる事が可能ですよね?」

「あっ。そうです、というかノーマライズが有効なら…だから動物実験、ですね。

 …v2の祝福Lv2の呪いはLv10まで上げられました。

 何故か同時にしか上げられませんでしたが。

 他者に効果を付与できそうですが、先にノーマライズできないか、から動物実験ですね」


 結果。

 動物実験を経て「私は称号は関係ありませんから」との言葉によりエイプリルさんを先にLv2の祝福Lv2の呪いをノーマライズに成功。

 十秒毎にレベルダウンしてLv2で固定されました。

 少し弱めの魔物でステータスアップ。甲魔獣に挑戦、勝利。何度か繰り返しノーマライズを切って、甲魔獣に何度か勝利。

 Lv140 ハイエルフ

 …となりました。


「ハイエルフってエイプリル、伝説の古代種だったの?」

「そんなわけないですよね?セレナ様は私の幼少の頃の姿を知ってますよね?18歳です!ハイエルフなんて聞いた事もないです!」

「えっと、ハイエルフって、ハイヒューマンみたいに基本種?みたいのから成るわけじゃないの?」

「聞いた事もありません」

「ないわね。エルフ至高主義領域じゃヒューマンを(デミ)エルフとか劣等(レッサー)エルフとか呼んだりするらしいけど、ハイエルフは伝説上の古代種ね。

 エイプリルは多分、唯一存命のハイエルフね」

「…多分、ハードルが高すぎて近代では誰も成れなかっただけで、能力での区分けだと思いますよ?」

「…はあ、唯一存命とか嫌ですねえ。目立ちたくないですねえ」

「次は私の番だけど、一緒にノーマライズして最後の稼ぎを加減したら?」

「それです!フヅキさんお願いします!」

「了解です」

 滞りなく稼ぎは進み、Lv500相当のステータスのLv190ハイヒューマンと、Lv600相当のステータスのLv81エルフが誕生しました。

 ちなみにハイヒューマンもハイエルフもやはり総合的な上限は200Lvでした。

 モンスターでも最高は2週目以降の隠しダンジョンの裏ボスLv350でしたし。




「では王都へ[空間接続(ワープホール)]」

 エイプリルの声で目の前の森の風景から直径2m程の円形に切り取られて、空が見えます。

 行った事がある場所まで空間を繋げる空間接続(ワープホール)の魔法。

 元のステータスでは二度使うと何も出来なくなる為、帰る時しか使えなかったとの事。

「向こうは3m位上空だから気を付けてね」

 何かとの衝突の確率を下げる、マナーの様な処置との事です。

 街門をエイプリルの身分証で抜けて、服飾店へ。

 誰かが変に気を利かせたのでしょうか、ストレージに今身に着けている物が全部3セット入っていましたし、『清潔』なる便利魔法で過ごしていました。

 ですが目立たないようにと無難で簡素な服と下着を3セットと外套を買い、着替えさせられてれて冒険者ギルドへ。

 Lv2では仕事はないのでは?と疑問を呈した所、結構な高額担保金があれば一番簡単で汎用性が高い身分証が手に入るのだそうです。

 ちなみにこの世界、高度な魔導文明が惑星的危機を乗り越える為に中世ヨーロッパ的ファンタジー世界に強引に部分融合した世界。

 ゲーム知識の設定とエイプリル達の話に大きな差はないと思います。

 受け付けにはパソコンみたいなのが普通にあります。

 ゴロツキと言っていいのが2・3人居るけれど、エイプリルとセレナが睨みを効かせた中、手出しはしないですよね?

 新規の正規カードを渡されて指示通り端末にかざすと、申請した名前フヅキとLv2、ジョブ異邦人と文字が浮かびました。

 事前に一般的には数値的なステータスの概念はないと聞いていましたけれど、受付さんもジョブの異邦人以外は特に気にした様子もありませんでした。

 無事、身分証をGETしました。



「多大な御世話になっておいて申し訳ないが、早い内に身内の厄介事を片付けないと迷惑を被る範囲が広がってしまうので片付けに地元領に戻ります。

 一月はかからないと思う」」

「困った時はいつでも通信してね。

 ジリアス領へ」

 エイプリルとセレナが空間接続ワープホールの向こうへ去りました。


 セレナの祖父は平民のハイヒューマンで領軍の軍団長だったのですが先月亡くなったそうです。

 両親も既に亡く、自分の仕事目線で子を教育するのが通例のこの世界。

 セレナの祖父は領軍の軍団長目線でセレナを教育しました。

 13歳から兵役に付き、若くして兵士としては筆頭といえる立場になったそうです。

 長としての教えを受けた祖父の後任を含めた部下達もセレナに好意的で、今は若過ぎて軍団長は無理でも、それなりの立場で下積みすれば、いつかは部下になっても良いとすら言われたそうです。

 でも、無能領主の馬鹿三男が軍団長は自分がやると言い出しました。

 ハイヒューマンは希少なので領主の係累が軍団長なのは珍しい事ではありません。

 むしろハイヒューマンが領軍に居て、軍団長をやっている方が珍しいでしょう。

 でも、この一本道RPG+シミュレーション風味のこの世界。

 RPGらしく魔物がいて、シミュレーションらしく国家間の戦乱が続いているのです。

 兵士は常に何かと戦っています。

 無能ならまだしも馬鹿指揮官は本当に困るのです。

「軍団長なんて、頭が良いのを二・三人位つかまえて参謀に据えたら仕事の半分以上は終りでではないですか?戦略士と戦術士と兵士では必要なスキルと知識が違うのですから」

「その頭が良いのを自分により頭が良いからクビにして、優秀だった後任軍団長と目立つ筆頭兵士を停職処分にしたから馬鹿なのよ」

「蔑にされていると感じて取り巻きだけで横暴を通すから凄く空気が悪い。

 皆が不安で三男をどうにかしようと模索してるわ。

 私の模索の結果がハイヒューマンとなり皆の手札になる事。

 私の意思だけでは動きません。

 皆の知恵の肥しになるつもりなので、本当はエイプリルもこれ以上巻き込みたくないのだけど…」

「このまま森に置いていきますよ?」


「さて、どうしましょう?」

 海辺のベンチに座り、考えてみます。

 誰がここに呼んだのでしょう?

 設定通りなら、技術を持った勢力はディルマ連邦しかないはずです。それも失伝していて召喚オンリーで送還は無理。スト-リー上、死に設定なのです。

 何をさせたいのでしょう?

 ゲームクリア?ディルマ連邦の隣、スタートの地のクリージ王国は遠過ぎます。フラグ回収が間に合うか怪しいです。主人公の特性設定上、わたしではグランドルートは無理っぽいですし。

 帰る為の手段を探す糸口もありません。


 セレナ事情に手を貸すのも不透明で複雑過ぎて逆に邪魔になりそうです。

 戦力が欲しいなら今更遠慮しないでしょう。

「それにしても」

 メニューのマップに敵意を示す黄色のシンボルマーク。

 なんで?どこで恨まれたのでしょう?

 あ、ハイヒューマンクラスの二人の護衛から離れた様にみえたのでしょうか?

 [Lv2の呪い]せいですか…。

 エイプリルに教えてもらって甲魔獣の魔石から[錬金]した魔力結晶は王都でしか買い取れる現金を用意できない可能性があるとの事なので先に売却を済ましてから対処しましょうか。

 魔法で変装してコンクリートに見える立派な二階建ての魔導具店に入ってみますが他にお客さんはいません。

 [鑑定]で見る限りカウンターに一人座るLv15剣士でLv14商人が店長さんです。

 そこそこの鑑定スキルも持っています。わたしはカンストしてますが。

「買い取りを御願いします」と魔力結晶をカウンターに置きました。

「ふむ、大金貨10枚だな」平然と嘘を吐きました。くう、『Lv2の呪い』…。

 [センス・ライ]スキルも嘘だと判定しています。百倍以上の価値があるはずです。

「これの価値を解かってもらえなかったのは残念です」とゆっくり手を伸ばします。

「ん?ちょっと、よく見せてくれ」と待ったをかける。

 さすが商人です。ここで適正金額を提示すれば嘘がなかった事になります。

「…大金貨50枚」また平然と嘘を吐きました。

 この店は駄目のようです。

「残念です」

 そのまま魔力結晶を掴みますが手首を掴まれます。

「待て!お前はそれの価値を解かっているのか?」

「貴方より知っているので、残念です、と申し上げました」

「小娘!どこで盗んできた?」

「盗んでません。わたしを見てお使いだとは思わないのですか?」

「そんな公爵の年収みたいな物を小娘レベルにお使いさせる馬鹿はいない!」

「…なるほど。それもそうですね。でも、貴方はそれを大金貨10枚で騙し取ろうとしたのですね。.

 では、このまま治安隊まで一緒に行きましょう。

 わたしはあなたを詐欺師と判定し、あなたはわたしを盗人と決め付けて拘束しています。

 実はまだあるのでわたしはお金持ちですから、お金を払って尋問魔導具を使って貰いましょう」

 もう1つを見せてマップ反応を見てみます。黄色から赤、殺意に変わりました。

 瞬間、剣が奔り、わたしの首を狙っていますがワザと当たってから刃を撮んで止めます。

「なっ!」

 薄皮一枚

「強盗未遂ですね。

 返り討ちにして殺したらギルドカードがどうなるか見物ですね」

 正式ギルドカードという実は非常に高額の担保を要求される魔導具、ハイスペックで面白い機能があるのです。

 魔物や強盗等を討伐したらレベルや殺意の有無と共に履歴が記録されるのです。

 討伐依頼に際し討伐証明の為に全力を出せないのでは問題なので世界的な組織であるギルドが開発・量産したのだそうです。

 探知マップの敵意判定魔法はギルドカード準拠なので、彼は『強盗Lv15剣士・Lv14商人』と表示され日時も記録に残るからわたし的には問題はないのです。

「オーナーの意向でやっている。俺を殺したら敵対したと見做してアサシンを使ってでも殺しに来る」

 刃を撮まれたままピクリとも動かせない剣を手放し後退、スロウナイフを構える店長。

 なんか、いかにも三下、って感じのセリフが憐みを感じます。

 とは言え、わたしに人を手にかける事が出来るのでしょうか?

 異世界物の物語の一つの壁の鉄板です。

「じゃあ、違う方法を試してみましょう[クエスト]適正価格で通常取引してください」

「お?おう」店長がスロウナイフを下げた。

 このクエストの魔法、ゲームのイベントでは12人がかりの儀式魔法でひとつの使命を強制する呪いをかけるといった効果ですが、プレイヤー的には戦闘時専用で敵をコマンド操作できる効果だけなのですが。

「そのスロウナイフは良さそうですね。在庫はどのくらい有りますか?」

 物理無効の幽霊くらいは余裕で対処できそうなエンチャントされています。

「…600」

「多いですね」

「商売上の秘密だ」

 あっさりクエストにかかった事も驚きですが、通常取引という言葉でハードルが下がったという事でしょうか?商売上の秘密を喋るのは通常取引から外れているのでしょう。

「では全部買い占めます」

 魔力結晶をカウンターに置きます。

 ここの店にそんな数の高品質武器があるのは良くない気がします。

「…釣りが出せない」

 売りたくないのか、汗を垂らしながら首を横に振る店長。

「じゃあ魔石で。ストレージがあるのですぐ持っていきます」

 大き目の魔石を出して、配達がとか言い訳されないように先に釘を刺したら、観念したかの様にお釣りの大金貨50枚を出し、倉庫へ案内する、と裏手の倉庫へ。

 収納してしまうと他にほとんど何も残りませんでした。

 他に大量の武器等はないようなので次です。

「[クエスト]オーナーさんに会わせて。高額顧客として普通に」

一瞬目を剥いた店長ですけれど、そこまで無理なシチュエーションでもないのでしょうか、「…わかった。2時間後に会う事になっている。その時でいいいか?」

「それでいいです」



「お前、それ…」

 店長が脅えます。

 わたしの傍らには従魔の首輪をしたLv80のグレイウルフ。

 四足で立って身長160㎝のわたしと同じ高さの灰色狼、本来Lv20位の魔獣。

 そしてわたしのフードの中で隠れてLv8程度の存在感を放つ15㎝位のモモンガ。

 レイとサビ。二匹共森で従魔獣と使い魔契約して、離れるにあたり解約しておいたのですが、再契約に心良く応じてくれました。

 ちなみに二匹共、本当のステータスは百倍くらいなのでレイの従魔の首輪は本物ですが役に立っていません。街に入る為の飾りなのです。

レベルの存在感は大きく見せるのは非常に困難ですが、小さく見せる分にはそう難しくないとの事。 

 達人とか相手は、練習次第だそうです。

「さすがにレイを連れて入るつもりはありません。レイ、おとなしく待っていて下さい」

 門番が2人から8人に増えた大きな倉庫…というには立派な建物の前で伏せて欠伸をするレイ。

 店長が先導して中に入る…と中は屋敷?の応接室?ここの家屋の標準を知らないけれども。

「失礼します」

「サバスか、物騒なのを連れた客人がいるようだが?」

 表面的に見えるだけでも十人の戦闘職が左右に控える部屋中央の主の席で、よく肥えたb…三十…豚の年齢は分かりません。カンストした鑑定によると三十歳のようです。

「新規の大口顧客が是非オーナーにお会いしたいと…」

「貴方がこの犯罪者の上司って事でいいのですよね?」

 わたしの発言に剣呑な視線をわたしから店長に向ける豚。

「この小娘、妙な術を使います!使われる前にさっさと始末を!」

 店長が叫びました。

 ふむ、オーナーに会わせる事でクエストは終わったのですね。

 豚は戦闘職達を一瞥、応じてマジックミサイル、ライトニングジャベリン、ファイアーボ-ル等の魔法と矢が飛んできます。

 タイムラグがなかったのは事前に詠唱して待機させていたのでしょう。

 それにキチンと属性で効きが悪い可能性も考慮しているようです。

 さすがここで生まれ育った人達です。

 …属性耐性等を全部『吸収』にまでポテンシャルポイントPPを振って上げていますから無意味ですが。

 魔法力も差がありすぎるのでダメージ無しで一方的に魔法の魔力を吸い上げて消えます。

 …これ、毒耐性とかも『吸収』にしているのですが、どうなるのでしょう?

 おっと、矢だけは避けましょう。当たった所でどうもなりはしませんが。

 今更感はありますが、これ以上異常を晒しても良くない気がします。

「[シールド]」即時ドーム状の白い半透明な盾がわたしを囲います。

 わたしのは詠唱待機ではありません。『詠唱短縮』をMAXレベルに上げたら最上位の戦略MAP魔法でも1秒とかからなくなっただけです。魔法力も関係あるかもしれませんが。

 実は魔法名(キイワード)も必要ありません。これは上位魔法職は知っているはずですが。

 前衛職が剣や槍で飛びかかってきますが無視して10m先の豚に向かって歩き出します。

 奥から追加の兵隊(・・)が飛び出して来ます。マーカーも赤一色。

「正規の兵隊(・・)さんですね。どういう事か説明して頂けますか?伯爵(・・)

「どうもこうも遊びは終り、ということさ。貴族と知っていてこんな真似をするとは、馬鹿なのか?」

 構わず歩みを進める。知っていたのではなく先刻の鑑定で知ったのですが。

「常識を知らないという意味ではそうなのかも知れません。

 ですが集団での暴行・殺人未遂は確定しました。

 返り討ちにして伯爵を殺したらギルドカードがどうなるか見物ですね」

「そんなもの、お前を始末すれば私の権力でどうとでもなる。

 王国の法では貴族に害意を持った時点で死刑だ。

 誰の差し金か知らんが貴族を甞めているのか?」

 …あー、個人の意思でこの事態は常識的にないのね。だから誰か差し金(・・・)が居ると…。

「えー、わたしの後には某高位貴族の…」

「はは、何を言い出すかと思えば!ありえん!

 貴族がこの程度の事に指一本動かすなど、常識を知らんにも程がある!」

「その割に身体は後ずさっているようですが?」

 まあ、Lvの存在感云々以前に20名を超える前衛職と魔法職の波状攻撃を全くものともせず歩み寄るわたしは、結構ホラーかもしれません。

「ここの事は考えなくていい!全力で潰せ!」

 …多分現時点で建物の事なんか気にしてる人はいないと思うのですけれど。

「[クエスト]罪無き平民を何人殺したか、殺害を指示したか答えなさい」

「ふん、罪無き平民などいるものか。生まれた時点で罪を背負っているのが平民というものだろうが」

 …クエストは確かに効いています、これでも。

「…[クエスト]良く知らないまたは見たこともない平民を何人殺したか、殺害を指示したか答えなさい」

「蚊を潰した数も害虫駆除を命じた数も覚えてはいない」

 …クエストは確かに効いています。

「[クエスト]あなたにとって、良く知らないまたは見たこともない平民は蚊とか害虫なの?答えなさい」

「今更、なにを当たり前の事を…」

「ちょっと借りますよ」

 果敢に切り込んで来る兵士の、ちょっと良さげな剣を摘まみ盗って剣先を伯爵に向けて。

「[再生] [激痛付与] [シールド] [マジックシールド]」

 再生は伯爵に激痛付与は盗った剣に付与して伯爵のを腹を背後の石壁に串刺しにします。

 醜い豚の悲鳴を一時的に[サイレント]で遮断。

「5日は誰も干渉できません。再生と激痛付与は3日は保つでしょう。

 まあ、心は壊れるでしょうし、再生も絶対的に足りないものがあれば死ぬでしょう。

 死ななければ改めて殺しに来ます。

 ところで、貴方と貴方」   

 止まってしまった戦場で兵士二人を指差します。

「貴族ですね。親御さん共々お話があります」鑑定でそうなっています。

「このっ!」

「[ホーミングボルト]」

 スキルで[手加減]された二人をクエストで先導させて退出しました。

 魔法の手加減って…ああ、全損してから瞬間で1回復するのですね。



 6日後、侯爵頭首1名、伯爵頭首2名と係累8名の死亡が公示されました。

 侯爵家が事実上の解体となり、空いた席に歓喜した者は多いと噂は囁きます。



「割と平気なんですよね…」

 頭首は伯爵と同じようにしたけれど、忠臣と称する手下とかは目の前で瞬殺しました。

 どうにも忌避感とかがありません。

 わたしは何か欠落した人間なのでしょうか…。

 貴族観にしてもこの国では上から下までアノ価値観を受け入れている様です。

 わたしの価値観で全てを処断すると貴族の8割はいなくなりそうです。

 外国はそうでもない国もあるようですが、この国は領地経営なんかのノウハウを貴族しか持っていないのですから、やり過ぎると国家が成り立たなくなりそうです。

 と言っても身の回りで同じような事があれば自重しないと思いますが。


「フヅキさん、フヅキさん?」

 おや、エイプリルさんからの通信です。

「はい、わたしです。そちらに何か進展がありましたか?」

「そうね、進展。進展はあったわね。

 時間ある?

 迎えに行くからこっちに来てくれない?」

「ええ、いいですよ」




「王都のテロリスト。聞いた事くらいあるでしょう?」

 挨拶もそこそこにセレナの屋敷で、なんか確信的なセレナの問い掛け。

 …テロリスト。テロリストですね他所から見たら。

 政治的、宗教的思想とか特にないのですが。

「うん、まあ」

「ウチの領の領主と長男次男が死亡したわ。

 現在馬鹿三男が領主代行って事になってるのね?」

「ええっ?だって!って…」

 無能領主がアレのどれかでもおかしくないのですね。

「…代行って?」

「代替リザーブの次男までくらいは領地経営について伝えられるさ」

「普通、三男は長男次男に何かない限り余計な事は伝えられないらしいわね。

 目下勉強中の建前で領主代行ってことね」

「建前を除けると?」

「誰から何を学ぶのだ?」

「馬鹿領主への禊期間ってだけね」

「実務は各官吏がそのまま行っているが、代行は流れを理解できず言われるがまま印を押すだけでしょう」

「軍団長の時の様になるか、官吏が腐る方が早いかって感じね」

「それでも私の職分での志は果たせそうだ」

 セレナは第4団長で優秀な後任軍団長も停職を解かれたとの事。

「問題は王都がテロリストに脅える中、自分が生き残ったのは選ばれた、もしくは正しいからだと吹聴している事です。

 殺るならアレも一緒に殺って下さい」

「いえ、そんなつもりは…」

 ジト目でわたしを見る二人。いえ、隠す気もなかったのですが。

「…降りかかる火の粉を根元から根絶しただけなのですよ…」

 両手を上げて経緯を説明。


「確かにフヅキさんの価値観で全てを処断すると国が躓きそうね」

「まあ隣国では貴族的立場の者がマシではあるし、平民も多少豊からしいが、奴隷制度が公然と存在すると聞きます。私はそれを嫌悪するが、向こうはこちらの貴族の在り方を嫌悪するのでしょう」

「大陸中戦乱状態なのですよね?今まで飲み込んで嫌悪して無くなった文化はないのですか?」

「あるだろうが、戦略的勝利した国も一方的に搾取はできない」

「…ハイヒューマンですか…」

「基本的にハイヒューマンの居る戦場にハイヒューマンを配したら他の要素はあまり関係なく引き分ける。レベルや相性が多少有利でも真面に戦わせて万一…が怖いから」

「戦場を誘導して、ハイヒューマンを引き離して政治的人物や施設を支配して戦略的勝利しても、ハイヒューマンが一方的な蹂躙には最後まで抵抗するとされているからね」

「ハイヒューマンって一概に人格者なの?」

「ハイヒューマンの尊敬する祖父を持つ孫としては、そうだと言いたいが、祖父自身、人とは隔絶した戦闘に特化した身体に、精神は人で有り続けているのか、己に問い続ける毎日だったそうよ」

「セレナだってハイヒューマンでしょう?」

「私は成りたて。実感もあまりない。これから悩む事なのでしょう。

 あなた達も実質、似たようなものでしょう?」

「わたしは早速やらかしましたね。後悔してないし似た状況ならまたやらかしますけれど」

「ハイヒューマンという称号を背負って生きるのとは全然違いますよ」

「それも一端の戦果を上げてからの話だ。ハイヒューマンとって、それはつまり戦争だ。

 王の元、民の為に騎士として、というのでしょう」

 自信なさ気に、自嘲するような言葉。

「セレナ様…自信、ありませんか?」

「あの三男に任せられない。

 あの領主には期待できない。

 王、も…よくは知らないが、あの領主を許容する。

 この若輩の小娘に笑いかけてくれる皆の力になりたい。

 この若輩の小娘を気にかけてくれる皆を無駄死にさせたくない。

 私は私の周りの為だけを想い、あの日フヅキと出会った。

 ハイヒューマンとなっても、王や領主の剣にはなれそうもないわ」

「…セレナの御爺さんは何で地方領軍なの?」

「先代…先々代領主との知己と恩だったと」

「セレナの御爺さんは先々代領主の剣だったのですね」

「厳密には先々代領主の将で、その都度の要請に応じて護国の剣にもなる、守護神の二つ名に相応しい方でした」

「それなら、セレナに相応しい二つ名をあげましょう。

 セレナを想うみんなの剣。セレナを想うみんなの守護神。

 わたしの故郷の物語なら、そんなとこから始まります」

「…それはまた…小さな志の物語だな」

「大言吐いてほとんど何もできない現実の政治家より、小さな志から始まる物語の方がウけるのですよ」

「小さな志…から。確かに今はそれで十分かもしれないわね」

「フヅキさんは上手くノせますね」

 そうでしょうか?そんな事言われたことがありませんが?

「それで提案なのですが、口が堅くて信頼できる諜報要員をわたしに2・3日預けませんか?エイプリルにも手伝って欲しいです」


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