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12 エマージェンシー/スクランブル・・・でもわたしに仕事はありません。

 ダームズ連合王国宗主国、ダームズ王国首都ダームゼル。

 まともに行軍するなら2週間近くかかる行程で、早くても1週間、それくらいをかけて非戦闘員の避難猶予をを与えるのが慣例です。

 守らない国もありますが、生産者や非戦闘員を巻き込んでも、後の統治を考慮すると利する意味があまりないのです。

 中には期間中に敵に渡すくらいならと、経路の田畑等を焼いて水源を殺す破滅的方策をとる場合もあるそうですが、勝機があるなら双方にとって損失です。

 田畑水源の回復は簡単ではなく期間もかかります。

 ですが、ある種異様な光景が続きました。

 誰も避難してないのです。

 交戦国に対して通常は必要のない侵攻宣言までしたにも関わらず。

 農作業者は何も知らされず、ただ脅えるだけです。

 田畑・牧場、いえ、粗末な家屋を含め村全体が住民の誰の物ではなく、農作業以外の教育は厳禁とされる正に農奴、全てが農作業奴隷なのです。

 1週間我慢しての行軍、数か所の町村でその光景を何もせず見続けました、セレナもイリーシャも限界に達します。

「イリーシャ、聞いてはいましたが、もう限界です」

「私もです。

 前のレイブギンを含め酷い貴族は数知れず見てきましたが、国家としてラーシアシス教国以上の嫌悪感は初めてです。

 陛下に許可を、フルブレイドに協力を仰ぎましょう。

 いえ、既にフルブレイドは憤り、フヅキとキャプテン・エクシード抑えている事でしょう」

「…フヅキは真っ先にキレるタイプでしょう?」

「ええ、それ以上に配下や親しい者を巻き込む事を極端に嫌うタイプでもあります」

「そうだな、彼女がキレていたら、後の事等一切考えないで単独で蹂躙するか暗殺して回るかで、戦うべき相手などもう存在しないでしょう」


 ええ、その通りですとも。

 フェブリー・エイプリルは勿論、他の操縦兵からスタッフまで爆発寸前です。

 困りました事にわたしの心情も同じなのです。

 表情を変えないエクシード機長とて内心は同じなのです。

「エクシード機長、全員に魔導具通信を御願いします」

「了解しました。全員に魔導具通信を開いてください」

「了解です。…よろしいのですか?」

 最近正式通信情報処理オペレーター班配属になったアムは指示通りにしながら、少し不安そうです。

 先刻まで爆発寸前仲間でしたけれど。

「ええ。あなたが心配するような事にはなりませんよ。

 こちらFB‐01機長タクティカルキャプテンエクシードより緊急通信です。

 会長より皆さんにお話があるそうで。騒がず傾注して下さい。

 会長、どうぞ」

「…皆さん、アジテーションじみた行為は本意ではないのですが緊急なので御容赦下さい。

 フルブレイドはどこかに所属するわけでもなく、軍隊でもなければ傭兵でもなく、基本的に依頼を受けて活動する性格の組織ではありません。

 金銭目的の営利組織ですらありません。

 悪の組織であるつもりはありませんが、正義を気取るつもりもありません。

 わたし個人でいえばテロリストと呼ばれても反論できませんし、気にもしません。

 再三申し上げていますが皆さんは、そんなわたしの私兵です。

 皆さんの義憤は理解しておりますが、個人的に義憤で戦う事を、命をかける事を、わたしは美徳とは考えてはいません。

 できるだけ安全にわたしの役に立っていて欲しいと思っています。

 平民の私兵集団なので、決して不参加を許さない組織ではありません。

 今回は衆目を浴びる可能性が高く、個人的に恨まれる可能性もあります。

 むしろ不参加を推奨します。その間の給料も保証します。

 ただ、皆さんに抜け駆けと思われるのは癪なので、ohH(オーエイチ)のわたしとエクシード機長が義勇兵として向かう事はお伝えしておきます。

 10分以内にFB‐01及びFB‐02より離れて頂けるよう、お願いします。以上です」

 ふう、とため息が出てしまいます。

 こういうのは向いていません。

「相変わらずアジるのが上手いね。カイチョは」

「そうでしょうか?上手く皆さんを説得できたなら良いのですけれど」

「?説得?降りる方にですか?あれで皆さんが降りると思っているですか?」

 直接の付き合いの短いアムにそんな事を言われました。

「あれ?」とエクシード機長を見ます。

「…致命的に向いていませんね。想像通りの逆効果です」

 真正面から見据えながらのエクシード機長の指摘です。

「逆…効…果…?」

 思わずorzな感じに崩れてしまいます。

「改修で指揮所兼操縦室とペイロードが広くなったといっても、今回は兵員輸送が主目的です。

 甲殻戦機は残る軍団の護衛に付けます。いざとなれば不自然でも空間接続で呼びます」

「零型は私なら自力で飛んで付いて行けますよ? 

 不自然なら機体の上面に張り付くフリでもしてますよ?

 4型も1機か2機なら吊り下げて飛べるんじゃないですか?」

「…吊り下げは却下です。テストなしでは機体同士の干渉具合のデータがありませんし、操縦兵の負担が予測できません。

 首都ダームゼル決戦に甲殻戦機を持ち込む事も避けた方が良いと思われます。

 2重3重の保険があるのですから実戦で危険を冒す必要もないでしょう。

 1重目の保険であるエイプリルは道中街道の妨害排除役です。やり過ぎないように」

「了解します」

「…わたしは…?」

最後の手段(ラストリゾート)が何を言っているのですか?ここで待機です」


 侵攻軍と合流、着陸したフルブレイド級2機に、甲殻戦機と入れ替わりに簡易補助シートが展開された格納庫に侵攻軍兵が乗り込んで行きます。

「FB‐01とFB‐02で2機合わせても800人、空間接続でサバ読んでも千人という所ですが大丈夫ですか?」

「何を言っているの?1万率いて1万が決戦の場に到達する方が本来おかしいのよ?

 800もいたら十分レイブギン連邦王国軍としての体裁も保てるわ」

 イリーシャの言葉に最後はハイヒューマン同士の決着なので、そこにそんなに軍勢は要らない事を思い出します。

 戦争ですから損耗もあって当たり前でしょうし。

「むしろ1機で400人運べる本来スペックの方が私達にとってさえ驚きです」

 それもそうですよね。セレナはあまり興味なさそうでしたけれど。

「しかも1週間覚悟の距離を1時間とかけず空を一飛びにです。

 何故誰も発達させようとしなかったのでしょう?」

「小国が傾く位は原価が高価で、同レベル素材は現状はわたしにしか用意できません。

 運用もコツが要りますし、魔力的に事実上わたし達#ohH__オーエイチ__#にしか恒常運用できませんし、チャージでも2時間飛行の為に30㎝の魔力結晶を使用したカートリッジにハイヒューマンが何人かで1日がかりになりますので現実的ではないからでしょう。

 わたし達もこれ以上建造するつもりはありません。

 FB‐02も改良試験用の予備のつもりでしたし」

「それは…無理ね…30㎝の魔力結晶は大都市の対魔物結界年間用です」

 渋い表情のイリーシャは知っています。

 わたしが魔石から錬金できる事も、魔力結晶を相場の半額で大量に売捌こうとして、軍事物資なので行政から規制がかりました事を。

 他所での販売も自重している事も。

「そろそろ行きましょう。

 護衛にユーシアとフェブリーを含んだ甲殻戦機20機と、露払いにエイプリルが先行します」

 ユーシアとフェブリーはエイプリルに触発されたのをエクシード機長の「隠し札を隠したまま戦力にできる」を免罪符に2型を融通して貰って訓練していたのです。

 さすが魔法使いohH(オーエイチ)と、魔法に秀でた種族の隠れohE(オーイー)は、エイプリルの挙動をまねてすぐに頭抜けて3トップに立ちました。

 さすがに2型で飛翔はできませんし、性格的に隊を率いたり指示には向かないのでFB‐01機長タクティカルキャプテンの直接指示で個別にスタンドアローンでの運用になりますが、他の操縦兵の良い見本にはなる様で全体の底上げになっていたりします。

 零型のエイプリルは普通のハイヒューマンには別次元に見えてしまうのです。

 …わたしが乗った時は鈍かったのですけれど?


 零型が、モロに飛ぶのを自粛しているだけの飛ぶような、エイプリルにとっては軽い駆け足で先行します。

『正面に3、脇に伏兵のつもりの2名のハイヒューマンを確認、排除しますね?』

「零型は大丈夫ですか?」

 FB‐01機長タクティカルキャプテンの心配はohEやohHオーハイエルフ・ヒューマンにとって甲殻戦機は枷である事なのです。

『もう零型は私の肉体と変わりませんよ。

 場合によっては、特に近接戦闘では肉体以上かもしれませんね。最悪飛べますし』

「そこまで言うなら任せます」

『了解します [マルチプルロックオン] [シーオー2バインド]斉射』

 複数目標必中追尾スキル=マルチプルロックオンで見えない二酸化炭素拘束魔法=シーオー2バインドを纏わり付かせます。

 それでなくともオリジナルの初見の魔法は対処しにくいのに、マップで必中スキルで遠距離から気体魔法で拘束は酷いです。

 気体なので物理的拘束力はありませんが、息もできない状態で本人にディスペルできるわけもありません。

 魔法の武器ならある程度散らせるかもしれませんが窒息の方が早そうです。

 5人とも何をされたか解からず倒れました。

『多分、ハイヒューマンは水中とかの潜水時間なんかは常人より長いと思いますが、必要酸素量自体は常人より格段に多いはずです。運動量が格段に多いですから。

 まだリザで蘇生すると思いますよ?拘束して治してあげて下さい。

 次正面に5、遠目に森の中に左右に3ずつ確認。感知範囲外と思ってますね、排除しますよ?』

「もう好きにして下さい。

 [空間接続]治癒室、誰か回収して下さい」

「エイプリルは、やり過ぎないように、を殺し過ぎないように、と判断したのかもしれません」

 最初から速度を落とさず駆け足で進む零型に正面5人は散開包囲すると見せかけて同時に突進攻撃スキル…に対して零型は盾を構えたまま[縮地]。

 端左右は空振って中央三人はタイミングをずらされた上に盾に捌かれて左方向に纏めて吹き飛ばされます。[縮地]は直線上に障害物があるとぶつかるのです。

 零型もさすがに不動ではないものの嘘みたいな小型推進器官バーニア捌きで方向修正、木をこれまた嘘みたいなバーニア捌きで躱して森の右三人に盾を翳して突撃します慌てた三人は対物耐衝撃スキルで同格以上の3mの質量に三人がかりで耐えようと踏ん張ります。

 零型がフラっと右に逸れて木立の隙間姿を見せた途端、ホーミングジャベリンが背後から飛んで来ますが…これはわたしも分かりました、誘いです、踏ん張る内の一人の足元の地面を盾先の刃で抄くって崩し変則の内股でしょうか、ホーミングジャベリンに向けて投げつけます。

 投げ技を隙と見た剣使いと斧使いが連撃スキルを放ちますが、バーニア捌きで投げで崩れかけた態勢を舞う様に回転、盾でスキルを潰して剣使いを回し蹴り。

 体格差で延髄か側頭部に直撃。

 立った人間が縦に2回転しながら吹き飛ぶのを初めて見ました。

 剣使い巻き添えで木と挟まれ気絶?

 ホーミングジャベリンの的にした剣使いに向かいますが、森の中でバーニア捌きで変幻自在に操り襲い来る甲殻巨人に脅え竦んでしまい盾の一振りで吹き飛ばし沈黙。

 元々パワーではそこらのハイヒューマンとは比べられません。

 ちなみにフェブリー・エイプリルをはじめとした希望者のみ、身長に近い大型縦割れアーモンドのようなあの盾の縁が刃物になっています。

「彼女は魔法使いではなく格闘家なのですか?」

「格闘家はバーニアも盾も使わないと思います。盾使い?でしょうか?」

「私は見るのも聞くのも初めてです」

「面で制圧できる有効な技術らしいですよ?あの盾なら点も線も有効ですね。

 わたしもフィクションで見ただけなので実在しているのは初めて見ました」

「彼女は何をしているのですか?」

「迎撃して来るハイヒューマンの制圧ですが、本物の天才の考える事は量りかねます。

 もう好きにして下さい、を好みで対処して良いと判断したのかもしれません」

「そうですね。彼女…エイプリルの心配はないでしょう。考えるのはやめましょう」

「ええ、きっと、悩みと疑問が尽きません」


 その頃。

 本隊に襲撃してきたハイヒューマン12と軍勢2万が蹴散らされていました。

 戻って来たFB‐02が全幅100m全長40mの黒い三角形威容で低く浮遊して威圧

 二刀流と相性が悪くない、あの刃物盾と刃槍を持った2型のフェブリーと、通常盾と刃槍を持ったやはり2型のユーシア、他4型8機が9200の軍勢を守りながら。

 ストライカー装甲車も威嚇とヒューマンの軍勢には有効でした。


 

 ダームズ連合王国宗主国、ダームズ王国首都ダームゼル。

 城壁正門前のダームズ軍勢2万5千中央の例によって豪華な一団。

 その城壁正門前、1㎞。

 セレナ、イリーシャが仁王立ち。

 FB‐01は着陸して800の軍勢を後部ハッチから離れた背後に降ろしながら。

 ダームズのハイヒューマンが揃うのを待っていました。

 …想定より早過ぎる上に、監視も飛び越えて空からいきなり巨大な黒い三角形が威容で威圧して軍勢が降りてきたのです。

 準備できてなくて当然。そこを狙うのが戦争ではないでしょうか?

 もう攻めてもいいのではないでしょうか?

 ダームズのハイヒューマンは三十数名との事前情報ですが、現在28名を撃破したとの報告です。

 目の前にハイヒューマンは5名。

 あと何人いるのでしょう?

 エイプリル達が無力化した捕虜を並べると騒ぎが始まって2名が怒り出します。

「降りた」「私も」と正門前から離脱。

 レベルも雰囲気も上位2名の男女ですが、離れて観戦のようです。

 残ったの3名は装備と態度的に降りられない養殖貴族でしょう。

「この! [フレアフィールド]」

 内1人の魔法使いが、いきなり炎系長距離範囲攻撃魔法を魔力の限りを尽くして放ちました。

 みんな、なんとなくそんな気がしていたのでしょう。

 吹き荒れる業炎に慌てる者はいません。

 意外と広範囲内のFB‐01はもちろん、業炎内で仁王立ちの2人も銀髪金髪一本とて焦さず表情すら変えていません。

 平気のはずですが一応わたしもFB‐01に魔法遮断シールドを張りましたし。

「ただの形式といえど、名乗りもないのですね。

 その位置ですと高貴な方々まで巻き添えになりますが、仕方がありません」

 イリーシャは丁寧な言葉に反して笑います。

 途端。

 まさに瞬間。

 周囲十数名を巻き添えにしたセレナの瞬殺でした。

 降伏を告げる権限の席次も暫くは分からない状態でした。

「御見事です!見届けました。私はもちろん降伏します」

「同じく降伏だ。勝てるわけねえだろうが。

 あいつら本物の馬鹿だと思っていたが、俺もまだまだ甘くみてたな。

 上手くすれば取りいれるかと思ってたが無理だ。

 寛大な沙汰を御願いしますって所だ」

 フルブレイドは無理ですが、レイブギンはそんな事ないと思いますよ?

 今回も占拠運営団の苦労が偲ばれます。


 


 そして国境を越えて隣国の村町を荒らしていた甲魔獣か甲魔獣騎は、やはり例の縦長カニでした。レベルも90まで上がっています。

 ついに甲魔獣騎化して人が操る個体も出てきました。

 エイプリルとユーシアの[シーオー2バインド]で捕獲しましたが、やはりまだ乗員は切り離すと心神喪失して死亡します。

 …この縦長蟹、ストーリーに関わるのですが、こんな所にも出没していたのですね。

 その隣国ですが、ダームズとは敵対関係ですが自国通貨より連合通貨の方が強かったそうで敗戦による連合通貨の暴落に対して、通貨の発行元の権力者側は対応で誤りクーデターにより瓦解して降伏してきました。

 ダームズの酷さは周辺国に知れ渡っていましたが急速に支配領域を広げるレイブギンの悪い噂はあまり流れていないようです。

 …単に急速過ぎて、仕切れていないだけの気もしますが。

 ともかく連合通貨の方が強かった周辺国は、ダームズ連合王国は受け入れられなくてもレイブギンならという空気が流れだし、和平か条件付きの降伏を求めて来たそうです。

 現在のレイブギン連邦王国にこれ以上の…といいますか既にオーバーフロー気味の王国政府は化かし合い交渉の余裕などなく、全部2ケ月の期限付き停戦で対応しました。

 交渉の席に付きたいなら2ケ月くらいは経済を保たせてみなさい、という話でもあります。

 現在のガースギースの2/3近くを支配下にしてしまいましたレイブギンは、支配下通貨を潰してレイブギン通貨を大量増産中です

 連邦通貨にしようと言う意見もあったそうですが、その頃にはレイブギン通貨が暴騰を始めていましたし、余裕もなくレイブギン王国である事も変わらないのでそのままです。

 …ガースギースの2/3近くの通貨をレイブギンが製造供給しているのです。

 コントロールは難しいでしょうが。

「…とか、形式上軍事的最高位ではあるけど書類に判子を押すか押さないかだけを考えるだけの仕事ですよ、って言ってたやつが私に意見を求めるのよ!

 私は軍事事務畑だって言ってるのに」

「私も軍事畑ですが、あからさまな傀儡政権よりは健全ではないですか?」

 ガースギースの2/3の君主が時々、ゼーナさんに愚痴を垂れに指揮所までやってきます。

 送り迎えは通信を受けたゼーナさんかわたしですが。

「お金なんて1軍団規模の経理しか分かんないですよ、政治経済とか判子を押すのも悩むのに」

「放り出さずに悩むから、私には陛下が希望に思えますよ」

「悩むのでしたら小規模なら取り敢えずやってみる、というのはいかがですか?

 政治に間違いはあっても正解はないと何かで聞きましたよ?」

「どういう意味?」

 わたしから意見があるとは思っていなかったのでしょうか、怪訝な陛下です。

「正解がないのは国民全員が正解と判断する事はありませんし、歴史的な結果論として有能だった人の政策が今通用しないように、良策はきっと短期的なモノなのでしょう。

 間違いを積み重ねてその都度謝りながら教訓にして、責任者の首を含めてマシな選択を残すのが政治ではないですか?と、わたしは解釈しています」

「!」

 あまり表情を変えないゼーナさん以外は全員…実はイリーシャとユーシアとフェブリーも今日はいます、が驚愕の表情です。

 …どういう意味でしょうか?

「当たり前みたいに言いますが、どこの国の当たり前なのですか?」

「あれ?…あ、そうでした。遠い国の話でした」

「会長、もうよろしいのでは?

 さすがにギアスやクエストというわけにもいきませんが、陛下にとって会長が不審人物なのは面倒です」

「別に良いのですが、不審人物である事に変わりはないじゃないですか。

 むしろ不審人物度はアップですよ?」

「どこから来たか言わない不審人物と、説明の難しい所から来た不審人物は違います。

 不審人物が同席を承知で、陛下は私に会いに来るのです。

 私の顔を立てると思ってもらえませんか?」

「ゼーナさんがそういうのでしたら構いませんよ」


「…誰か私の首を挿げ替える選択をしてくれないでしょうか?」

「物騒な事を言わないで下さい」

「そうです、そんな事を言うと簡単に死ねない身体にしちゃいますよ?」

「比喩表現です!」

「だとしても赤の他人の前任者の存在は邪魔なものです」


 色々ありまして、結局簡単に死ねない身体になってもらいました。

 具体的にはLv300並のLv45です。


 




「セレナ配下の諜報からの情報です。

 降伏してきた中に、ディルマ連邦という国があるのですが、勇者召喚の儀式をやったと言うのですよ。

 …フヅキが現われた頃に」

 テレス陛下からの通信にポンと手を打ちます。

 失伝して送還は不可の死に設定なので後回しにして忘れていました。

 …フルブレイドにも諜報はあった方が良いかもしれません。




 調査の名目で紹介してらった神殿の遺跡の様な建物に案内されました。

 ゼーナさんと2人で赴くと老人が一人待っていました。

 一通り簡単な挨拶を終わらせて本題です。

「何故、何を呼ぶ為に召喚儀式を行ったのですか?」

「…昔の仲間を呼べるかと思ってな、異邦人なんだ。

 50年前に亡くなった魂が日本とやらに還っていれば、そろそろ転生してもいい頃合いかと思ったんだ。

 召喚儀式はあの日以外、無理だったろうしな」

「…呼ばれる方は迷惑だと思いませんか?」

「…ま、駄目元だしな。

 あんな召喚儀式で呼ばれるやつは潜在能力が馬鹿みたいに高い化け物なんだよ。

 戦乱の世の方が生き心地が良いらしいぜ?本人がそう言ってた。

 やつとやつの嫁の遺髪を触媒に使ったから、そうそう他人は呼ばれんさ」

 …呼ばれているのですが、ここに。

「その方の事を御聞きしても?」

「シズマとノイン。フヅキ…一歳の娘を人質に取られて殺された。

 日本とやらから因縁があるノブヒコってやつににな」

 うーん?

「ふむ、シズマとノインそれとフヅキにノブヒコですか」

「あん?思ってた反応と違うな。

 てっきりフヅキの娘かと思ってたんだがな。Lv2の異邦人娘?」

「会長?」

「わたしは母を知りません。血縁といえるのもいません。

 現在父と言えるのは日本に師匠…ジンは『俺はお前の親ノブヒコを殺したから、お前は俺を殺せるようになれ』って無茶苦茶で厳しい人ですが、養い親で師匠ですから、わたしの内で親か祖父です。

 親扱いを絶対に受付けませんが師匠と呼んでいます。

 ノブヒコは師匠が殺してわたしを引き取ったそうです。

 ノブヒコは父といっても、物心が付いたくらいの時に『あの人が父だった』と教えらえてぼんやり思い出していたくらいで。人類の敵とまで言われた人物だそうです。

 そして、わたしも本名はフヅキです」 

 老人は目を見開き、わたしをじっくり観察します。

「ジンは融合の時に向こうに残った。

 ノブヒコと面識がないはずだ。 

 フヅキの事は生まれた事すら知らないはず」

 ピンときました。

 でもズレています。

 ジン。このゲームの二作目の最年長のパーティメンバー。

 融合前から始まる、向こうに残って惑星的危機を救う物語のパーティメンバーです。

 言われてみれば似ているかもしれません。

 ゲームのジンは幾分若い印象ですが。

 人物像を細かく擦り合わせますが、ジンは外見も性格も一致します。

 言動が今一つ、整合性が取れません。

「金髪と黒髪で随分印象が違うが顔立ちはノイン似ている。

 一応血統鑑定魔法を受けてみてはどうだ?」

「そういう魔法、あるのですね」

「受けるなら、これも頼む。結晶封印(クリスタルシール)したシズマとノインの遺髪と血液だ」


 

 ラーグスリーグに戻って血統鑑定の結果、わたしはシズマとノインの一親等と鑑定されました。

「3人目の父、遺伝的両親が50年前に死亡しているのが確認されたのですが、なんの感慨もありませんね。

 正直、親と言われたら、師匠しか思い当りません」

「育ててこそ親なのだと思いますね。

 ノブヒコが親なのだと思っていたのでしょう?」

「それも接した覚えがないので実感はないのですよ。

 さておき、時間的矛盾と言動の整合性が合わない話が山盛りなので、この件は保留したいと思います。

 わたし達の目的とは外れていますし」

「そうですか。

 ではとりあえず報告です。

 5型が25機完成しました。

 零型をマイルドに制限した簡易量産を目指した仕様ですので、古参の操縦兵には今一つ機種転換に乗り気ではないようですが、元々熟練が使ってもデータとしてはあまり有意義ではありませんしフェブリーとユーシア、後は予備兵から補充になります。

 合わせて技術的なフィードバックで2・3・4型の改修も順次進めています。

 2・3型は飛翔するという訳にはいかないようですが。

 零型もエイプリルの意見を中心にレイブギンと甲魔獣騎のラボの成果を元にハイエンド試作改修を進めています」

「…零型はそういう先行試作が役割ですが、もうわたしの機体じゃありませんね」

「拗ねないで下さい。5型を用意しますから。

 クアッドPTですがルーベルに接触したようなので、そろそろブライスゲール帝国に侵攻するかと」

 ルーベルは多くのルートでラスボスになるイシスフィアの師匠です。

「でしたらそちらは静観ですね。

 あまり気持ちの良い展開ではありませんが、クアッドPTが余程下手をしない限り非戦闘員に被害は出ないはずです」


 

  甘かったです

 謎の縦長蟹種甲魔獣、ガイブの実験をこちら側で邪魔したせいでしょうか、反対側のブライスゲール帝国と縁のある公国で隠れて実験して大量に用意したようです。

 公国の首都はわたし達に情報が入った時点で滅亡。

 クリージ王国の侵攻軍に向かっているとの事です。

「緊急招集をかけます」


 エクシード機長・フェブリー・ユーシア・エイプリルで移動中に指揮所兼操縦室でブリフィーングです。

「縦長蟹種甲魔獣、ガイブは現存の甲魔獣でも甲魔獣騎でもありません。

 融合前の魔導文明ではない、在来の古代文明で作られた、細胞複製…わたし達の所で言うクローン技術に近い技術…を合成甲魔獣騎やホムンクルス技術を混ぜ合わせたもののようです」

「フヅキさん、それ初耳です」

「わたしも皆さんの研究成果を元に現段階で推測しただけなのです。

 物語でガイブが技術的にどういった産物かまでは詳しく語られていません。

 少なくとも大型の30m級ボス個体は自己複製で3m4m級を多分、喰らった生物を糧に無限に生み出します。

 大型のボス個体はクアッドPTが倒す事になっていますが、この数は厳しいでしょう」

「Lv90級が500を越えています。

 ハイヒューマンが10や20では犠牲も出ますし、ある程度知恵があるなら全滅の可能性も有り得ますね」

「フルブレイドなら対応できます。

 ohEやohHオーハイエルフ・ヒューマンという保険も、わたしの祝福と呪いという最後の手段(ラストリゾート)もあります。

 協力して下さい。御願いします」

「カイチョはなんで反対されると思っているのですか?」

「そうですね。ohH(オーエイチ)の私達はまず命の危険はありませんのに、それだけ勝算を示しての戦闘に反対しませんよ。

 私達もノーマライズは使えるのですから操縦兵にも犠牲は出しません」

「私もフヅキさんの零型を預かっているのです。

 最初に思い切りやりますよ?」

 甲殻戦機で最前線に立つフェブリー・ユーシア・エイプリルは頼もしいです。

 甲殻戦機にもノーマライズは使えるのですが破損もデータの内なので使いません。

 本当は操縦兵の負担もデータの内なのですが今回は数が数なので最初から使います。

「私達も入ってみるまでは実際は傭兵団みたいなものと思ってましたが、戦死者0でこれまでの戦果を残している方が驚きでした」

 通信情報処理オペレーター席には今日はベルと交代要員のとキャルです。

 アムは今日、FB‐02の係です。

 この3人、通信オペレーター係ということもありまして、本名をもじってABCで偽名といいますか、呼びやすいコードネームで呼ばせてもらっています。

「みなさん、ありがとうございます」

 実はわたしが最年少なのです。敬意は忘れてはいけません。

「ではエイプリル、先行するならそろそろ準備して下さい」

「了解です。やりますよー」


 

 少なくとも密集して範囲魔法を避けるくらいの知恵はあるようです。

 5㎞ほどに広がってクリージ王国の侵攻軍に向かって進みます

 ですが。

 滑空するように降下する1機、零型。

「いきなさい!遠隔発動体!」

 盾の内側から射出された4本の投短槍と見えます遠隔発動体が4方に散って、横に楕円の群れの真ん中に直径3㎞程の円魔法陣を形成します。

「[シーオー2フィールド]」

 鍵言葉(キィワード)にで円魔法陣内の大気が二酸化炭素に満たされます。


「FB‐02は左こちらは右側に甲殻戦機隊降下」

 エクシード戦術指揮官タクティカルキャプテンの号令で40機の甲殻戦機が降下して行きますけれど…。

「これだから本物の天才は…」

「中央部約350体が無力化!凄いです!」

「これが零型の新装備ですか、ohEの実力ですか?」

 はしゃぐベルとキャルですが。

「まだ戦闘は始まったばかりです、はしゃがないで。

 あれは新装備です」

「エイプリルがその気になれば生身の自力でもできますが。

 魔力結晶のカートリッジを遠隔発動体につめて展開する事で、機体性能で広範囲の結界内に魔法を満たす事が可能になるのです。

 本物の天才の実行力に根差した発想はもうなんと言って良いか…」

「零型より通信です。

 この装備は実戦では改良の余地があるそうです」

「ほう、なんと?」

「…遠隔発動体の回収が面倒だそうです」

 エイプリルなら遠隔操作も余裕でしょうが見せる必要のない戦力情報は見せません。

「…ついでに死体回収もさせなさい。死体情報も渡すのは惜しいですから」

 350体の死体回収って、鬼ですこの上司。


 仮に遠隔発動体が失敗してもそれぞれがキチンと仕事をすれば、しんどいでしょうが無理のある作戦ではなかったのです。

 フェブリーとユーシアは勿論、他の者にも余裕がありました。


「またわたしに仕事はありませんでした」

 切札とかラストリゾートとかいわれて使われないのはエリクサーの気分に似ているかも知れません。

 …わたしもエリクサー症候群寄りですけれども。

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