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第四章 英雄への一歩 ―2―


 街の人から聞いた道順を頼りにして、オルカはアンディーラをずっと南下し、そこにたどり着いた。


 まず目に映るのは、開けた土地。砂利の混じった乾いた土の地面が大きく扇状に広がりを見せている。その土地にはどういうわけか、建物が一つも見られない。


 ――かと思いきや、今いる場所から真っ直ぐ奥の方に、申し訳程度にポツリと建物が建っていた。


 一言で形容するなら、それは「巨大なキノコ」だった。


 白く太い円柱の上には、巨大な赤い半球形のかぶせ物がしてあり、その半球の周囲からは黄色い突起が生えている。建物というより、滑稽なオブジェのようにも見えた。


 街で聞いた通りの形だ――オルカは目的地へ到着した事を確信した。


 この一見コミカルなデザインの建造物が、アンディーラ指折りの危険度を誇る迷宮(アンダーエリア)だと思うと、我知らず笑みが溢れる。


 「伏魔殿」の出入り口だ。


 この更地は、まるで「伏魔殿」を中心にしてデッドスペースを広げているかのように映った。


 ――いや、「かのように」は不要な文脈か。


 この迷宮は初回調査で多数の冒険者の命を奪っている。この土地がこうもまっさらなのは、街の人々がそんな迷宮を不吉がって居を構えたがらないからだという。建物が多く過密気味なアンディーラには珍しい光景に思えた。


 オルカはさらに歩く。


 近づくたび、「伏魔殿」の円柱に備え付けられた自動扉と――その両側に控える屈強そうな男二人の姿がはっきりと見えてくる。


 歩いている途中、不意に右側に存在感を感じたオルカは思わず振り向く。


 立て看板だった。




《警告!!》


 この迷宮は冒険者協会本部によって「第一級危険地帯」に認定された迷宮です。

 オブデシアン王国迷宮法第46条に基づき、この迷宮へのゴールドクラス以下の冒険者の立ち入りを禁止しています。


 ―冒険者協会本部―




 深刻さを強調するためか、すべて血のように真っ赤な文字で書かれていた。


 「第一級危険地帯」とは、危険な迷宮に設けられる入場制限の中で一番グレードの高い制限だ。看板の通りこの烙印を押された迷宮は、ゴールドクラスから下のランクの冒険者が入ることが法律で禁止されている。


 迷宮の前に立つ二人の男は、冒険者協会が派遣した見張り役だ。彼らは入口に入ろうとする冒険者のバッチの色を確認し、入ってはいけないランクだった場合は門前払いする。シフト制による二十四時間管理なので、時間ごとに立っている人物が違う。噂だと夜間シフトはキツい分、給料はえらく弾むらしい。


 もしも彼らを傷つけたり欺いたりして無理矢理迷宮へ入ろうものなら、出てきた後に冒険者の免許たるバッチの一定期間停止、あるいは剥奪という処分が待っている。見張り役は今の二人のようにエフェクターで武装するのが基本であるため、滅多に暴力沙汰は起きないが。


 オルカは最低ランクのアイアンクラス。余裕で回れ右を食らうだろう。


 ならば、どうやって「伏魔殿」に入る?


 あの二人を叩きのめす?

 それとも、違う場所に注意を引きつけた隙に入口へ飛び込む?


 いずれも否だ。そんなリスキーなことはしない。


 自分が取るべき行動はただ一つ――正々堂々真正面から向かうことだ。


 オルカはやがて、二人の男の目の前まで近づいた。そこで一旦立ち止まる。


 彼らは二人くっついて壁のように道を塞ぐと、同じタイミングでオルカのバッチへと視線を向かわせた。


 背筋を這われるような緊迫を感じ、『ライジングストライカー』に包まれた両手を汗ばませながらも、オルカは平静を装い真顔を貫き通す。


 二人はしばらくこちらをジロジロ見て、数秒間押し黙ったかと思ったら――無言で道を開けた。


「ご苦労様です」


 一度そう頭を下げてから、オルカは入口へと向かった。









 ――うまくいった。


 オルカは階段を下りながら、計画の成功を心中で喜んだ。


 視線を胸元へ下ろし、自分のバッチを見る。


 本来ならば、そのバッチは輝きの無いねずみ色をしているはずだった。


 だが今自分の目に映る色は、まばゆい輝きを放つ――「(ゴールド)」。


 この色のバッチはゴールドクラスの証。アイアンクラスである自分が持っている訳が無いし、持つ資格も無い。


 ――これはニセモノだ。


 街の住人に話を聞いて回り「伏魔殿」について知った後、オルカはすぐに「あるモノ」を購入した。


 それは、金の塗料である。


 ここに来る前、オルカはその塗料を自分のバッチに塗った。塗り残しができぬよう、隅から隅まで入念に。そうして自分のバッチをゴールドクラスのものと偽ったのだ。


 金の塗料と一口に言っても、塗料の各メーカーによってその色合いが若干異なる。だがゴールドクラスのバッチの色合いはマキーナのそれを何度も見ているため頭に入っている。なのでそれに一番近い金色を選んだ。


 だが、それを含めても見張り役を必ずしも騙せるかと聞かれると怪しかった。なので運試しに近い心持ちで挑んだのだが、よもや通るとは嬉しい誤算だった。


 そう思う一方、後ろめたさも感じていた。


 自分が悪いことをしているという自覚は、もちろんある。


 だが、自分は早く強くならなくてはならなかった。それこそ、非常識な手段を使ってでも。


 自分が今まで出会ったことがないであろう強力で、悪辣で、意地の悪いゴーレムの坩堝。


 そいつらに立ち向かい、そして叩き潰す。


 内心、怖い気持ちが無いわけではない。むしろここがゴールドクラスとクリスタルクラスしか入れないほどの魔窟だと思うと、手足が小さく震えを見せた。


 だが、拳をギュッと握りしめてその震えを殺す。


 甘えるな。誰が震えていいと言った。誰が一瞬でも「帰りたい」なんてことを考えていいと言った。


 今からこの先へ進むんだ。それ以外の選択肢は認めないぞ。


 追い立てられるような気持ちで階段を最後まで降りきり、自動扉の前へ到着する。


 一度立ち止まり、ゴクリと喉を鳴らす。


 ゴールドクラス自体あまり見かけないので、今まで聞いた人の中でその迷宮の恐ろしさを具体的に語れる人はいなかった。「とにかく危ないらしい」「マジヤバいって話だぜ」、みんな他人の言葉を借りたような評価だった。入ったことがないのだからむべなるかなと言えるが。


 何が起こるか分からない。入った瞬間、ゴーレムの一斉射撃を浴びせられてもおかしくない。ある意味、未踏査迷宮と同じに思える。ここをくぐった時点で戦闘開始と考えた方が妥当だろう。


 ベルトをチェックする。シールド装置の電源はきちんと入っていた。『ライジングストライカー』のエネルギーも満タンだ。道具の方は文句なしのベストコンディションだった。


 今一度気合を入れ、オルカは足を進めた。


 自動扉のセンサーがこちらの存在を認め、緩慢に開く。


 オルカは呼吸を懸命に落ち着けながら、忍び足で扉へ近づき中を覗く。ゴーレムはいなかった。


 アルネタイトレーダーを使えば簡単に分かる事かもしれないが、ここは自分にとっては未知に溢れた迷宮だ。チェックする暇すら与えられず襲われることも考慮し、レーダーはあえて出さない。


 扉の中へ入ってもなお、念に念を入れた上でさらに念を重ねたような慎重な足取りで、非常にゆっくりと迷宮を進む。


 常に周囲へ気を配ることを忘れない。「気がついたら首を跳ねられてました」という最悪の結末すら念頭に置いた上で探索に臨む。シールドを一発で破るようなラージゴーレム級のパワーでもない限り、その心配はないかもしれないが。


 緩慢な進行を続け、ようやく十メートルほど先へ到達した。ここまで来るのに数時間を費やしたような錯覚に陥る。


 ――その時だった。


 「ヴォォォン……」という音を立てながら、数メートル先の床に綺麗な円形の穴が波紋のように広がった。


「……っ!」


 オルカは条件反射で身構えた。


 ポッカリと空いた穴の中の闇から飛び出したのは、予想通りゴーレムだった。


 穴はそのゴーレムを吐き出した後すぐに範囲を縮めるように閉じていき、あっという間に元の普通の床に戻った。


 ――ゴーレムというのは、このようにして迷宮から生まれるのだ。


 普通の生き物の出産にあるはずの感慨や達成感などが微塵もなく、手軽に産み落とされる。しかも回数は無限だ。


 ゴーレムという存在がどこでどう作られているのかは、今のところ判明していない。迷宮のどこかに彼らを生み出す子宮があるのだろうか。


 先ほど生まれたそのゴーレムは浮遊していた。シリコンで出来たような大きな半透明の傘の下からは無数の細い糸のようなものが伸び、波線を描きながら虚空に揺らいでいる。


 クラゲを模した姿であると一目で分かった。だが普通のクラゲよりもはるかに大きい。縦の長さは自分の胴体と同じくらいで、横幅は二メートルほど。


 そのクラゲは自分を見つけると、傘をピンク色に染め上げた。おそらく、攻撃の意思の表れだろう。オルカも身構える。


 長々と伸びた極細の触手たちが、チリチリという音を立てて帯電していく。


 火花が散るようなその音と光は急激に増えていき――やがて青白くスパーク。


「がっ――!?」


 爆発するような轟音とともに腹部へ衝撃が叩き込まれ、後ろへひっくり返された。


 だが、仰向けの状態から素早く後転しつつ立ち上がる。見ると、ベルトのエネルギーメーター残量が少し減っていた。シールドが働いたようだ。


 オルカは荒れかけた呼吸を整えながら考える。


 今の攻撃、全く見えなかった。


 おそらく、奴の攻撃方法は電流だ。電気の速さなら見えないのも納得がいく。


 人間は1アンペアの電流を流されただけで死んでしまう。シールド装置を発明したという技師にはとことん頭が下がる思いだ。


 だがこうして考えている間に、クラゲは己の触手に再び電気を集めていた。


 相手の攻撃は電気の速さで自分に向かって来る。自分が回避のために体を動かしている間にぶち当たるだろう。反射速度を上回った攻撃。そんなもの避けようがない。


 こうなったら仕方ない――オルカは歯噛みしつつ、自己の精神に特殊な暗示をかけた。


 刹那、世界が灰色に染まった。


 クラゲの傘の波打ち、触手のうねり、その周囲で弾ける電気の何もかもが、先ほどよりもずっと緩慢なものとなる。しかし、自分の体だけは普段通りの速さで動く。


 クランクルス無手術『瘋眼(ディファレントゾーン)』。体感速度を緩慢にすることで、周囲の誰よりも速く動けるようになる秘法。これなら、奴の電流を視認できるはずだ。


 だが、上腹部ごと横隔膜が硬直し、呼吸がしにくくなる。強力な能力に比例するペナルティがオルカの体を蝕む。これだからこの技は嫌いだ。


 これも勝つためだと無理矢理自分を納得させ、クラゲに注意を戻す。


 まばゆい光とともに電流を放ってくる。だが今の自分には、そのジグザグの軌道がはっきり見えるほど遅く感じる。


 最小限の動作で電流を回避しつつ、オルカはクラゲに急接近した。


「『衝拳(マキシマムストライク)四倍(ライジング:フォー)』っ!」


 強大な衝突力を得た右拳が、傘へ深々と突き刺さって食い込んだ。


 しかし「当たった」と喜ぶのもつかの間、オルカはすぐに手応えの無さを感じた。


 見ると、拳が刺さった箇所からクラゲの傘が大きく波打っていた。


 その大波は半球形のフォルムをなぞるように後方へ伝っていき、やがて一番後ろまで到達するとともに消滅した。


 ――クラゲは無傷だった。


 オルカはマズイと感じ、一度距離を取った。それから一秒とかからず、先ほど殴っていた箇所にスパークがほとばしった。


 あの傘、その並外れな柔らかさで衝撃を吸収するようだ。打撃メインな自分の戦闘スタイルとはあまり相性が良くない。


 となると、殴るタイプの攻撃ではダメだ。もっと鋭く、引き裂くような技で攻める必要がある。


 もちろん、当てはまる技はちゃんとある。クランクルス無手術はあらゆる状況に備え、あらゆる技が伝わっている。


 オルカは右手を虎の爪を模した形にした。


 クラゲは再度チリチリという音を発しだし、やがて触手の先から閃光。


 不規則な軌道を描きながら迫り来る電磁の槍をオルカは軽々と避けつつ、再びクラゲに近づいた。


「『剛爪手(アイアンネイル)四倍(ライジング:フォー)』!!」


 すれ違いざま、傘に五本の爪擊を走らせた。ゼリー状の何かをズブズブと突き抜ける感触。


 そして、ベチャベチャッという液体じみた音。


 軽く振り返って見ると、クラゲの傘はいくつも分断された見るも無残な状態となって地面に散らばっていた。触手もあちこち散らばっており、もうピクリとも動いていない。


 そして一番大きな傘の欠片を見ると、その断面からは赤い結晶――アルネタイトが覗いていた。


 結構な大きさだった。おそらく、昨日のオオトカゲから取れたものよりさらに大きい。


 だが、オルカはそっぽを向いた。


 自分は懐を温めるためにここへ来たのではない。強くなるためだ。


 その目的を再確認した瞬間、『瘋眼』を解いて一度休もうという考えを捨て去った。


 どうせならもっと自分を追い詰めよう。いい機会だ。ずっと避けてきたこの副作用を引きずりながらどこまでやれるのか、試してやろう。


 そうして死にそうなほどに自分を追い詰めながら、ここの怪物たちに立ち向かった先に本当の強さがある――そんな気がした。


 そんなオルカの声に答えるかのように、前方へ伸びる道の端々にいくつも穴が開かれた。


 そして、そこから次々と出てくる怪物(ゴーレム)たち。


 その数は、ざっと目算しても十は超えていた。


 オルカは両拳の『ライジングストライカー』の点滅灯を二つ輝かせ、その軍勢へ言い放った。


「目が覚めたなら――さっさとかかって来い」









 マキーナ・クラムデリアは、ボロボロのベンチに腰掛けながら一人涙を流していた。


「うっ……ぐすっ…………うううぅっ……っ!」


 背中を丸め、顔を両手で押さえながらひたすらむせび泣く。その手のひらはすでに水に浸した後のように濡れていた。


 涙が際限なく溢れ出て、真下の土に落ちる。何十分泣いても全く止まらない。止まってくれない。


 マキーナは現在、アンディーラの東端にあるうらぶれた小さな公園にいた。比較的人通りが少ない場所であるため、こうして泣いていても騒ぎにはならない。


「オル君、オルくんっ…………ううっ……ひぐっ…………!」


 喚きそうになるのを必死で抑えながら、大好きな男の子の名前をしきりに連呼する。


 わんわん泣くのは嫌だ。だって彼が子供じみた態度は気持ち悪いと言っていたから。


「っ……な、なにやってるんだろ、わたし…………そんな風に直そうとしたって、もう無駄なのに……」


 水面のように揺れる視界を見るともなく見ながら、マキーナは涙声で自嘲した。


 だって、もう自分は嫌われたのだから。嫌われてしまったのだから。


 彼の氷のように冷たい一言は、今でも一字一句鮮明に覚えている。


『ボクは小さい頃からずっと――――貴女が大嫌いでした』


 やり場のない悲しみが腹の奥底からせり上がって来るのを感じた時、思い出さなければよかったと後悔した。


「ふぐっ………………うっ、ううううぅぅぅぅっ…………!!」


 くぐもった嗚咽を上げ、再び涙の勢いを強めた。


 好きな人から拒絶されることが辛いというのは知識として知ってはいたが、ここまで悲しいとは思わなかった。


 嫌い、嫌い、嫌い、嫌い…………彼の放ったそのたった一句が、無数のガラスの破片のように心に食い込んでいた。


 ただただ、苦しかった。悲しかった。一瞬だが「死にたい」とまで思ってしまった。


 ――どうして、嫌われてしまったんだろう。


 自分は、パライト村を離れた後も、ずっと彼を想っていた。


 でも、彼は違ったんだ。それどころか心の中で疎んじられていたのだ。


 そう思われるようなことを、自分はしてしまったんだろうか。


 ――いや、きっとしたんだ。


 自分は幼少期、お姉ちゃんぶって彼をリードしていた。それは気弱だけど優しい彼が大好きで、そして年上として守ってあげたいと思ったからだった。


 しかし「ありがた迷惑」という言葉がある。自分が良かれと思ってやったことを、相手が必ずしも好意的に受け止ってくれるとは限らない。


 きっと自分の意識しないところで、彼に嫌われるようなこと、鼻につくことをたくさんしていたんだ。


 もしくは「あの日」に起きた――あの事件のせいなのか。


 だが、考えるだけ無駄のように思えた。起きてしまった以上、もう取り返しはつかない。


 ここでまた食い下がったら、きっと、もっと嫌われる。ストーカーという存在は、そうした執着的行動の果てに生まれるものなのだ。


 だったら、今のままでいい。どのみち嫌われているのなら、比較的好感度がマシな状態の方がいい。


「ははは…………だめだな、私」 


 再び顔を押さえて自嘲した。


 自分は壁が立ちはだかったら、まず突き進んで行くタイプだったはずなのに、彼の態度を気にして二の足を踏んでいる。


 でも、それだけ彼の事が好きだったのだ。


「――そういえばね、あたしさっきチラッと見かけたんだけど」


 楽しげに駄弁っている二人の男女が、この公園の前を通りかかる。


 手を固く繋ぎ合い、幸せそうに笑っている。とても仲良さげな感じに見えた。


 私とオル君は、もうあんな風にはなれないんだなぁ――そう考えると悲しい気持ちが再発したため、目を背けようとした時だった。


「さっき――「伏魔殿」に歩いていく冒険者を見かけたの」


 「伏魔殿」――聞いた事のある名だった。


 街の店に行った時、そこの店主との会話で話題に上がった迷宮だ。


 第一級危険地帯に指定されたという、迷宮が多く集まるアンディーラの中でも特に危険な場所の一つ。


 男女は会話を続ける。


「へえ? じゃあその冒険者ってゴールドクラスなんだ? 珍しいな」

「うん。しかもその冒険者、十六くらいの男の子だったの!」

「十六? マジ? そんな若いのにゴールドかよ? 見間違いじゃね?」

「本当だって。体格は普通くらいで、ちょっと頼りなさそうだけど優男って感じの顔だった。その男の子が『ライジングストライカー』付けて「伏魔殿」に向かってたの」


 マキーナはハッとした。


 ライジング、ストライカー…………?


「おいおい、『ライジングストライカー』って確か不良品エフェクターだろ? そんなもん装備して「伏魔殿」に入ろうなんて勇者な子供だな」

「ゴールドクラスだもん。きっとあたしたちの想像もつかない使い方があるのかもしれないよ? それよりほら、早く行こ? お店閉まっちゃうよ」


 女性のその言葉を最後に、男女は寄り添い合いながら去っていった。


 マキーナはそんな彼らをすっかり尻目にして考えを巡らせていた。


 さっきの男性の言うとおり、『ライジングストライカー』は不良品として有名だ。なので使いたがる冒険者はほとんどいない。コレクター寄りのメカマニアでもない限り価値を見出されない。


 そんなエフェクターを好きこのんで実戦に使いたがる冒険者を、マキーナは一人しか知らなかった。 


 そう――自分の大好きなあの人。


 だが、彼はゴールドクラスどころか、一番下のアイアンクラスだ。第一級危険地帯である「伏魔殿」へ入れる訳が無い。


 普通ならば、その時点で安心して思考を打ち切れるはずだった。


 だが今のマキーナには、どういうわけかそれが出来なかった。


 ――嫌な予感がした。


 気がつくと、その場から走り出していたのだった。


読んで下さった皆様、ありがとうございます!


読書って買って読むより、図書館で期限付きで借りて読む方がなぜかはかどるよね、と思う今日この頃。

この日までに読まなきゃ、って気になりますし。


雨にも負けず、風にも負けず、台風にも負けず、金欠にも負けず、これからも地道に頑張りたいです。


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