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第二章 未知の迷宮(アンダーエリア) End

 穴の中に入ったオルカたちは、小さな一室に出た。


 オルカたち五人を受け入れるには十分過ぎる広さだったが、それでも今までの空間とは比較的面積が小さく、天井も近い部屋だ。


 空間全体の色は今までどおりの薄茶色だが、今までの内壁のように幾何学模様は走っていなかった。


 古代人の趣味なのか、それとも何らかの意味があるのかは未だ謎だが、あまねく迷宮(アンダーエリア)の内壁には何かしらの幾何学模様が必ず刻まれており、そのデザインも指紋のように千差万別だ。それが無いというだけで、この部屋が今までの場所よりも重要性を秘めていることがなんとなく感じられた。


「何かしら、ここ?」


 シスカに肩を貸しているマキーナが、もっともなことを口走った。


「模様が無い……ってことは、何か特別な意味のある部屋なんじゃないかい? 俺たちが今まで見てきた迷宮じゃ大体そうだっただろぉ?」 


 今度は、オルカに肩を貸して立っていたパルカロがそう口を挟む。


「あそこに、何か、ある」


 唯一誰にも肩を貸していないセザンが、部屋の中央を指差して言った。


 見ると、そこには腰ほどの高さを持った――四角柱状の物体が突き出ていた。


 置かれているというより、床と一体になって生えているようなその物体は、何かの台座のように見えなくもなかった。


 そしてその台座の上には、赤い葉のような形をした小さな「何か」がくっついている。だが遠く離れたここからだとその全容がうまく視認できない。


「……シスカ、悪いけど少し降りててもらえる? 私が調べてみるわ」

 

 そう告げてから、マキーナは一度シスカを下ろした。


 一本足で着地したシスカは「あ……お姉様……」と名残惜しそうな声を出す。


 マキーナは脇に差してある『ファントムエッジ』の柄に片手を添えながら、台座へ向けて音も無くゆっくりと接近。その姿勢からは、静かながらも色濃い殺気がにじみ出ているようで、どんな不測の事態が起ころうとも、いつでもその要因を一刀の下に断じてしまえそうに見えた。


 さすがはゴールドクラス。考え無しに怪しい場所へ突っ込んでいった自分とは心構えが違う。


 そうして徐々に距離を詰め、マキーナはようやく台座まで到着した。短い距離だったが、緊張感のせいか異様に長く感じられた。


 彼女は今なお柄に片手を添え置きながら、台座の上を覗き込む。


 そして、空いている方の手で、台座に乗った「赤い葉のような何か」の端へそっと指をなぞらせる。


 さらに台座から微かに浮き出た「何か」の両端を、親指と人差し指で摘む。どうやらその「何か」は、台座に空いた窪みにはまっているようだ。


 マキーナは一度後ろを振り返り、セザンとアイコンタクトを取る。おそらく、万が一何らかの罠が作動した時、即座にシールドを展開させるための打ち合わせだろう。


 それを終えると、マキーナは再び「何か」を摘む手に意識を向けて、




 それを「カチンッ」と一気に台座から引き抜いた。




 セザンだけでなく、全員が息を飲んだ。


 しかし、罠らしきものは何も作動しなかった。


 その代わり――台座のさらに奥の壁が「ぐにゅにゅにゅにゅ……」と生き物のようにうねりを生じさせながら穴を広げ、新たなる通路を先へ作った。


「……キモい」


 シスカがそうこぼした。


 自分も同感だった。硬質的な壁が一転、ウネウネと生物的に動く様は悪い意味で生々しい。こういう場面を見る度「迷宮って実は生き物なんじゃないのか」と思ってしまう。


 マキーナが戻って来る。その足取りはいつもどおりの、きびきびと規則正しいものに戻っていた。


「これがあそこにはまってた物よ」


 彼女はそう言って、台座から外した物を皆に見せた。


 その形は葉ではなく、正確には「赤い火」を形どった紋章だった。薄さは硬貨並み、大きさは手の中に余裕で収まるほど。中心部に小さな穴が空いている。


「なんか……冒険者バッチに似てるわね」


 シスカが呟く。


 言われてみれば、どちらも「火」をモチーフにしているという共通点がある。


 「火」とは、文明の象徴にして原初。かつて動物の一種でしかなかったヒトは、ある日偶然見つけた小さな火から文明を作り始め、あらゆるモノをその中へ取り込んでいき、やがてあまねく生命体の頂点に君臨したと言われている。


 そして、迷宮からあらゆるパーツを掘り出し、文明を発展させる手伝いをする冒険者もまた「火」のような存在。冒険者バッチの形にはそういった意味合いが込められているのだ。


「今度どこかで鑑定してもらいましょう。言い値で買い取ってくれるかもしれないわ」


 マキーナはそう言って紋章を懐へ納めると、再びシスカに肩を貸した。シスカも頬を微かに染めながらそれを受ける。


「それで、どうするよリーダー? この先に進んでみるかい?」


 パルカロがおとがいでクイッと奥の穴を示しつつ、尋ねた。


 それを聞くと、マキーナは逡巡するような表情で自分と、肩を貸しているシスカへ目をやった。


 もしかすると、自分たち二人の状態を気にしているのかもしれない。


 オルカとシスカは軽くアイコンタクトしてから、


「「――ボク(あたい)は大丈夫です」」


 同時に言葉を重ねた。


 マキーナは思案顔となるが、やがて表情を緩め、


「それじゃあ、もう少しだけ進んでみましょうか」


 











 再び、マキーナの一言で進行は始まった。


 先ほど開いた穴は、人三人が並んで通れる程度の幅の一本道だった。


 マキーナ、パルカロともに手負いの人員を抱えているため、唯一手の空いているセザンが率先して先頭を引き受けてくれた。彼ならば、いざとなったらシールドで守ってくれるだろうから、妥当な人選かもしれない。


 天井から発せられる光は、普通の通路のソレよりも中途半端に明度が低い。長居すると目を悪くしそうだ。


 オルカは片手に巨大アルネタイトの入った袋をぶら下げていた。自分の胴体ほどの大きさで一キロ弱程度という事実に未だ驚きを隠せない。


 そうして一本道をしばらく進むと、今まで通ったどの場所よりも明るく、そして広大な空間に出た。


 円柱状にくり抜いたようなその大きな部屋は、壁、床ともに純白で彩られており、天井から降り注ぐ白い光も相まって神々しさすら感じる。


 五人は部屋の奥へ進んだ。


 奥は行き止まりだが、その代わりに短い円柱が一本伸びていた。 

 また台座かと一瞬思ったが、今度は違うようだった。

 円柱の表面は天井と並行ではなく、木を綺麗に切り倒した跡のような斜面。そしてその上には、小さなドーム型の突起が一つ浮き上がっていた。


 オルカは、この円柱に大いに見覚えがあった。アイアンクラスの自分に分かるのだ。自分よりもランクが上な他の四人も気づいているのは言わずもがなだろう。


「――『階層間移動装置』のスイッチね」


 シスカが円柱に目を向け、当然のことのように答えてみせた。


 『階層間移動装置』とは、迷宮の階層間を上下移動するための機械だ。オルカが一年間潜っていた「蟻塚」にもこれはあった。


 スイッチを押すとその部屋に乗り場が現れ、一つ下か上の階層まで運んでくれる。


 それがあるということはつまり、ここが現階層の最奥部ということだろう。


「降りてみますか、お姉様?」

「ダメよシスカ。未踏査迷宮の調査で新しく進めるのは原則一日一階層まで。何より、あなたは足をケガしてるし、オル君に至っては疲れきってる上にエフェクターも故障しているのよ? この状態でもう一階層はあまりにも無謀だわ。残念だけど、今日はここが引き際ね」


 マキーナは多少気を緩めるように肩を落とすと、


「これから出口まで行くのだけど、セザン、悪いけどまた先頭を任されてくれるかしら? あなたの『コンバットシールド』なら攻撃も防御も自由自在。うってつけだと思うのだけど……いい?」

「構わない」


 セザンは言葉少なに頷く。


 それに対し、マキーナが「ありがとう」と返した。


 こうして五人はセザンを先頭にし、再び元来た方向へ歩みを緩やかに進め始めた。


「そういや――床になんか書いてあるな」


 元来た一本道に入る穴の近くまで到達したところで、後ろを振り返っていたパルカロがふと口にした。

 

 見ると、円く広がった床の中心には、奇妙な文字の羅列がでかでかと描かれていた。


 しかしそれは、自分たちが普段使っている言語とは全く違う、理解不能な文字。


 ――古代語。


 世界に星の数ほどある迷宮やゴーレムを造ったとされている、古代人が使っていたとされている言語だ。


 先史文明が滅亡してから数千年の歴史を経て、科学技術を発達させたと言われる現文明でもまだ謎の多い言語であり、多くの考古学者や言語学者がこれの解読に躍起になっているそうだ。しかし、あまりめぼしい成果は出ていない様子。


 あまりに大きく書かれていたので、迷宮の壁を彩る幾何学模様と同じものだと早とちりしていた――まあ、読めない時点で模様と大差ないのだが。


「――「えれべーたーるーむ」って書いてあるわね」


 マキーナがそうサラリと答えてみせた。


 それに対し、パルカロは若干呆れ返った様子で、


「おいおい冗談キツいぜ隊長殿? あんたの実力には確かに一目も二目も三目も置いているが、唯一、「ソレ」だけは信じられないぞ。前頭葉の肥大したおっさん方でも読めない文字を「読める」だなんてさ」

「だから前から言ってるでしょ? 私はホントに読めるって。現に今ここに書いてある文字だって読めたもの。これは間違いなく「えれべーたーるーむ」ですっ」


 マキーナがふんす、と鼻を鳴らして豪語した。


 彼女の言っている意味を、幼馴染であるオルカはすでに関知していた。


 マキーナは――古代語を読むことができるのだという。


 本人曰く、生まれつき身につけていたというスキルだそうで、よく小さい頃「へへーん、わたし「こだいごー」が読めるんだよ? すごいでしょー」と得意げに胸を張っていたのを思い出す。


 子供の頃は素直に「マキちゃんすごーい!」と賞賛していたが、今でこそ言うと半信半疑だ。高名な学者たちでも理解できない言語を、十才にも満たない小さな少女が読めるというのだから。


 その考えは、どうやら他のパーティメンバーも同じだったようで、


「……無理がある、かも」とセザン。

「お姉様……以前から何度も言うようですが、流石にそれはナンセンスかも、ですわ」とシスカ。


 マキーナは頬を膨らませながら、


「なっ……何よぉ二人とも? あなたたちまで信じられないっていうのっ? 特にシスカ、あなただけは味方だと思ってたのにっ」

「へっ? い、いやその、別にお姉様を信用していないというわけではなくて、その、えっと…………」


 上手い言葉が思いつかないのか、シスカの口調は尻すぼみになってしまう。


「ふんだっ、いいものいいもの。みんながなんて言おうと、私が古代語を読めるのは本当なんですからねっ」


 すっかり不貞腐れ、ぷいっとそっぽを向くマキーナ。


 それから出口へ戻るまでの間、彼女は不機嫌なままだった。









 ◇◇◇◇◇◇









 接近とともに両開きの扉がひとりでに開き、五人はその向こう側へ足を進めた。


 そして訪れたのはオレンジ色の日差しと向かい風、そしてそれが運んでくる土の匂いだった。


 数時間ぶりの外の世界。


 ようやく天然の光と空気を拝むことができ、オルカは清々しい気分となる。


「もう夕方になってんだなぁ」

 

 パルカロがのんびりした口調で言う。


 この山岳から見える太陽は、今朝のさんさんとした様子とはうってかわってオレンジ色に輝いており、水平線の向こうに爪先を突っ込んでいた。


 もうそんな時間だったなんて。それほど長い間潜っていたとは思わなかった。


 周囲にはすでに大勢の冒険者がいて、ぞろぞろと人波を作っていた。きっと自分たちよりも早くに出てきた者たちだろう。


 だが、どういうわけか皆渋い顔をしていた。探索による疲れなのか、はたまた別の理由なのか。


 その時、唸るような駆動音と轍を作る音とが同時に近づいてきた。


 やがて急な下り坂から姿を現したのは、一台の大型石車。朝乗ったものと一緒のタイプだ。


 停車すると、その端に開かれた入口から冒険者たちが次々と吸い込まれていく。


 あっという間に満席となった大型石車は、一度旋回して向きを変えると、再び下り坂へと走り去っていった。


 思わず気後れした。そういえば、迷宮に入る前に石車酔いをしたことをすっかり忘却していた。次は大丈夫だろうか。


 しかし、そのことは一旦頭の片隅に置いておく。


「ありがとうございます。もう大丈夫です」


 オルカは今なお自分に肩を貸してくれていたパルカロの方を向き、そう告げる。


「もういいのかい?」

「はい。もう普通に歩けそうです」


 その言葉を聞くと彼はこくんと首肯し、ゆっくりと肩から下ろしてくれた。


 少しよろけそうになるが、さしたる問題もなく両足で大地を踏みしめられた。


 『瘋眼(ディファレントゾーン)』の副作用によってガクガクと震えていたふくらはぎは、すでに落ち着きを取り戻していた。


 おそらく、長い間使っていなかったことが思いのほか響いたのだろう。


 今度からできる範囲で少しづつ慣らしていこう。焦らずじっくり。心を使う修行ゆえに無理は禁物と師父も言っていた。


「あ、あの……」


 その時、ためらうような弱々しい女の子の声が横合いから聞こえてきた。


 マキーナではない。


 だとするならば、声の主はただ一人。


 振り向くと、そこにはマキーナに肩を借りているシスカの姿。


「クロップフェールさん?」


 わずかにこうべを垂れている彼女の表情は、いつもの強気でエネルギーに満ちたものではなかった。悄然としていて、何かに迷うような表情。


「その……」

 

 二度目の逡巡。


 だが、やがてシスカは瞳に確かな意思の色を宿らせると、オルカを真っ直ぐ見つめ、曇りのない声色で言った。




「――ごめんなさいっ」




 飾らない、明確な謝罪。


 それが彼女の発した言葉だった。


「え……ど、どうしたんですか、突然?」

「だって…………あたい、これまであんたに散々ひどいこと言ってきた。「お前が言うな」ってレベルの事まで、あんたに偉そうに威張り散らしてた。酷い奴よねあたいって。ごめん、今まで本当に」

「へっ? いや、別に酷いなんてことは」

「それと――」


 オルカのフォローを遮るように前置きすると、シスカは再び開口し、真っ直ぐ言葉を放った。




「――助けてくれてありがとね、オルカ」




 次に飛び出したのは、うってかわって感謝の言。


「あんたがいなかったら……あたいは絶対に死んでた。あたいが今こうして五体満足で息していられるのは、全部オルカが助けてくれたおかげよ。だから――本当にありがとう」


 それを口に出したシスカの双眸はとても潤んでおり、頬は微熱を帯びたようにうっすらと紅い。


 勝気な笑みでも、怒った顔でもない。とてもしおらしい表情。


 そんな初めて見る彼女の顔に、オルカは内心ドキリとする。


 だが、すぐにもう一つの引っかかりを見つけ、首をかしげた。


 ――「オルカ」?


 彼女は「ぽんっ」とこれ以上ないほど顔を真っ赤にすると、


「そ、そそそれじゃ、あたい、あっちに行ってるからっ!」


 シスカはひどく慌てた様子でマキーナの肩から脱出し、片足でぴょんぴょん跳ねながら逃げるように立ち去る。

 だが、途中ですっ転んでしまった。

 

「あ、あのー、肩貸しましょうか?」

「い、いいわよ! 大丈夫だから!」

「でもクロップフェールさん、足は……」

「大丈夫ったら大丈夫なのっ! それじゃっ!」


 シスカはタコのような真っ赤な顔で自分を一睨みすると、立ち上がって再び一本足で跳ねて遠ざかっていった。


 「うふふ……」と、傍らにいたマキーナが微笑ましげに笑いつつ、


「オル君、すっかりシスカと仲良くなったんだね」 

「へ? 別にそんなことはないですよ。確かに怒鳴られてはないですけど、仲良くってほどじゃないと思います」

「……そう思ってるのはきっとオル君だけだよー?」


 マキーナがいたずらっぽく口端を歪め、オルカへ視線を向ける。その眼差しには責めるような色がほんの少しだけ含まれているような気がした。


 オルカがそんな幼馴染のとる意味深な発言と態度に困惑していると、


「――無事でしたか、ミス・クラムデリア!」


 後ろから声がかかった。


 そちらを見やると、安堵の笑みを浮かべたスターマンがこちらを見つめていた。


 彼はマキーナに目を向けると、恭しく一礼した。


 たかが一礼、されど一礼。とても洗練された一礼だった。さすがは貴族というべきか。


「いやはや、また貴女に御会いできるとは! お久しぶりです!」

「こちらこそ。いつかの宴の席以来ですわね、ミスター・レッグルヴェルゼ。ご令兄お二人はお元気で?」

「……相変わらずでございます!」


 スターマンと対するマキーナの立ち振る舞いは気品に溢れていて、令嬢然としたものだった。


 そういえば、彼女も今は貴族の子なのだ。ならばその繋がりで彼と面識があっても何ら不思議はない。


「他の皆様も、よくぞ無事で帰って来ました! 今夜はゆっくりとお休みください!」


 スターマンは、今度は自分たち全員を見回し、ねぎらいの言葉をかけてくれた。


 彼からは、良い意味で貴族らしさが感じられない。表現するならば「行儀の良い庶民」といった雰囲気を感じる。その親近感も、街の人々に好かれる要因なのかもしれない。オルカも彼を好意的に思っていた。


「ところで、その…………大変不躾な質問かもしれませんが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 スターマンはもじもじした様子で訊いてきた。


 「どうしました?」と首をかしげるマキーナ。


 するとスターマンはためらいがちに、


「今回の迷宮探索で……何かいいものは見つかりましたか?」

「いいもの、とは古代の遺品などのことでしょうか?」

「はい、ミス・クラムデリア。実はお恥ずかしながら、先ほど迷宮から出てきた冒険者の皆様にも同じ質問をしたのです。ですが全員「何も見つからなかった」と渋い顔で申されて……」


 なんと。冒険者たちの表情が冴えなかったのはそれが理由だったのか。


 マキーナは口に手を当ててクスクスと上品に微笑んだ。


「本当に遺品が好きなのですね、ミスター・レッグルヴェルゼ」

「はい、それはもう! 死ぬ時は古代の遺品や古文書の山に埋もれて死にたいと常々思っております!」 


 マキーナとオルカはやや引き気味に苦笑した。そこまで好きなのか。


「それで、その……何か見つかった物は……?」

「二つほど。一つはあのアルネタイトです」


 マキーナはオルカの持つ袋に入った特大アルネタイトを指差した。


「これはすごい! このサイズからして、これはラージゴーレムの中にあったものではありませんか? ミス・クラムデリア、やはり貴女のパーティがこれを?」

「残念ながら違いますわ。確かにこのアルネタイトはラージゴーレムのものに間違いありませんが、それを倒したのは私たちではありません。功労者は今ソレを持っている彼――オルカ・ホロンコーンです。彼はそのラージゴーレムを独力で倒してみせたのです」


 スターマンは大きく見開かれた瞳に自分の顔を映すと、途端に笑みを浮かべて賞賛してきた。


「なんと! あの危険なラージゴーレムをお一人で!? しかもそれでまだアイアンクラスだとは! もしかすると将来はクリスタルクラスになるのも夢ではないかもしれませんね!」

「い、いやそんな! クリスタルだなんて恐れ多い! それにあれは運が良かったといいますか、ほとんどまぐれみたいなもので……」 

「いえいえ、そんなことは――」


 何度もあーでもない、こーでもないと言い合う二人。


「――そして、もう一つはなんでしょうか?」


 しばらくするとスターマンは話題を切り替え、マキーナにそう訊いた。


「これです」


 彼女は懐へ手を入れ――迷宮内で見つけた紋章を取り出し、スターマンに手渡した。


 紋章を見たスターマンの体と表情が硬直――したかと思った次の瞬間、


「う……うおおおおぉぉぉぉーーーー!!」


 突然耳をつんざくような雄叫びを上げた。


 オルカたちを含む、周囲の冒険者たちが一斉にビクッとする。


「ミッ、ミス・クラムデリア!! こっ、ここここれをどこで!?」

「え、えっと……今日、『階層間移動装置』まで到着できたのですが、その手前の部屋で…………それほど凄いものなのですか?」

「ええ、凄いです!! とても!! あ、あの、ミス・クラムデリア!? その、お願いがあるのですが…………こっ、これを僕に貸してはいただけませんかっ!?」

「え? 貸す、ですか?」

「はいっ!! もちろん、未踏査迷宮の探索期間が終わるまでには必ずお返しします!! それまでの間、これを調べさせて欲しいのです!! い、嫌……でしょうか?」


 嫌、という言葉を自分で言って、ひどく悲しそうな表情になるスターマン。


 そのリアクションだけでも、彼の考古学に対する愛が十分伝わってくるようで、なんだか微笑ましかった。


 マキーナもそう思ったのか、表情を緩めていた。


「――いいかしら、みんな?」


 マキーナはパーティメンバー全員に目を向け、そう訊いた。


 パルカロとセザン、そして少し離れた所に立っているシスカの三人全員がコクリと頷きを見せた。


「だそうです。他のメンバーの反対が無いのであれば、私は構いませんわ」

「ほ、本当ですかっ!? ありがとうございます!! ありがとうございます!!」


 スターマンは紋章を大事そうに抱きしめながら、泣きそうな顔で何度も何度も頭を下げた。

 

 まるで新しい玩具を買ってもらって喜んでいる子供のような彼を見て、マキーナたちは皆笑顔となった。


「そろそろ二台目の大型石車が参ります! 次の探索日は二日後となりますので、それまでこの街でゆっくりしていってください!」


 ツヤツヤとした表情をしたスターマンの言葉に合わせたようなタイミングで、坂道から再び大型石車が姿を現した。


 スターマンに手を振られながら、オルカたち五人は大型石車へと向かった。


 なんとか乗ることができ、車体が駆動音を上げて走り出す。


 流れ始める景色を見ながら、オルカはあることを思い出した――シスカと二人きりの時に見つけた、あの人面太陽のオブジェのことを。


 あれも――レッグルヴェルゼさんに見せれば良かったかな?






 ――こうして、一日目の探索が終了した。

読んで下さった皆様、ありがとうございます!


陽気のせいで体がだるい……完全に五月病です。


まぁ、何はともあれ、これで第二章は終了です。

第三章の更新日は未定ですが、近いうちにやっちゃおうと思います。

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