表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

とある友人の批評空間

「なぁ…凛、一言言わせてもらいたいんだが…」


冬将軍が戦場の最前線で指揮を取り活躍している1月の下旬、僕達は四畳半という狭い畳敷きの中央に置かれてある相当な年季の入っている卓袱台で向かい合っている。親友の天川悠一は肩まで伸びている黒髪を鬱陶しそうにかき分けながら呆れたように僕を見つめた。


「お前はホモなのか?」


「それは違うよ!!」


思わずどこかの超高校級の幸運を持っている高校生が矛盾を指摘するときに言いそうな台詞が出てしまった。


「なんてこと言うんだ悠一!!そんなわけないだろ!?僕は正真正銘のノンケだよ!」


まったく!僕は全く普通に女の子が大好きな思春期真っ只中の少年だよ!公園とかに落ちてある18歳未満の人が見ちゃいけない本を周りにだれもいないことを確認してから家に持ち帰るくらい健全だ!


「……中盤まではよかったぞ。実の兄が父親を殺してしまい、仇をうつために旅立つ。兄を探す道中で様々な仲間と出会い、そして主人公を暗殺しようとする謎の集団……王道なバトルものだが主人公が旅の道中の様々な出会いや闘いで肉体的にも精神的にも成長していく描写もしっかり描かれてるしな……まぁ時代設定が今から1万年後の宇宙世紀の時代という設定がガ●ダ●と似通っているはまぁ百歩譲っていいとしても……せっかく熱いバトル展開になってるのに濃厚なホモ展開になるんだ……普通に戦わせろ……」

 

 「わかってないな~悠一は。いいかい?今の時代単なる王道なバトルものはもう売れないんだよ。努力・友情・勝利の時代はもう終わったの!今は努力・友情・恋愛だよ!」


 「努力・友情・ホモの間違いじゃないか?」

 

 おいおい、そんな蔑むような目で見られると興奮するじゃないか……フフ…。


 「……まぁとにかくこのまま提出するのはまずいぞ。最後の濃厚な絡みの部分を削除して書き直してこい。いくらなんでも一般の作品を扱ってるレーベルに18禁要素はまずいだろ」


 「そうかなぁ……ちょっとの絡みくらい大丈夫だと思うんだけどなぁ……」


 僕は手元にある約120枚もある原稿用紙に目を向ける。構想からプロットを作成し、それを基に書き起こして完成まで2か月かかったかなりの自信作だったんだけどなぁ……。

 

 「ん…もう6時だな……どうするんだ凛は、夕飯は食べていくか?」

 

 そう言われて僕は少しひびの入っている煤けた漆喰の壁にかけてある鳩時計を見た。ああ、もうこんな時間かぁ……。どうしようかな、家にはあの傍若無人の妹しかいないし……。

 

 「うん、食べてくよ。せっかくだから久しぶりに悠一の激辛野菜炒め食べたいな~」

 

 悠一の作るのはただの野菜炒めじゃない、世界中からかき集めた様々なスパイスを絶妙なバランスで混ぜ合わせた特製のスパイスを使い料理するのだ!……でもなぜか最近になって炒める野菜はキャベツだけという謎料理に仕上がっていたんだけど…。理由と聞くと「需給調整で多く余ってるから」と言われた。悠一の実家は農家を営んでいて、中でもキャベツは大豊作だったらしく、市場に出すときの卸売価格が下落することがあるから出荷量を減らしたために大量のキャベツが溜まってしまったらしい。でもさすがに段ボール40箱に入っているのは多すぎでしょ…。


 「ああ、今作るから待っていろ」


 悠一はそう言って立ち上がり台所へ向かっていった。最近の食生活は両親が共働きで家に帰るのが毎日深夜になるから大抵は宅配か外食で済ませていたから正直悠一の料理は栄養面でもかなりありがたいんだよね。ピザとか近所のファミレスでおろしハンバーグ定食だとか炭水化物ばかりだったからなぁ……どうでもいいけど家の近所のファミレスにあるおろし定食って名前ついてるのに一つまみくらいの大根おろししか乗ってないのかな……あれじゃおろしがおまけじゃないか、ただのハンバーグ定食だよあんなの。一口で食べ終わっちゃうよおろし。


 「………それにしても、この部屋って本当に汚い部屋だねぇ……」


 僕は改めて自分の周りを見渡した。相変わらず大量のキャベツ以外に生活に必要な日用品とPC以外何も置いていない。それも仕方ないことなのかな。僕と同じ中学三年生の悠一は僕も通うことになる竹生島高等学校の試験に合格したんだけど、突然「家にいると集中してプログラミングできないから一人暮らしする」と宣言して実家を飛び出したと僕は聞いた。確か悠一って5人兄弟の末っ子で上の四人全員が姉だったんだ。

そのあと母親の妹が管理しているこのボロアパート「しゅらら荘」に転がり込んだんだ。一人暮らしに反対だったらしい両親も大量の食品…キャベツを送ってるのをみるとやはりちゃんと自炊しているか心配しているんだろうな。


「あ、そうだ。もう『魔道戦士あぎり』が放送している時間じゃないか!テレビつけようっと」


毎日夕方の6時に某日本放送協会で放送されている子供向けアニメなんだけど毎回敵の組織にやられて触手に責められるシーンや攻撃されるたびに服が破けて裸同然になることから大きいお友達にも人気のアニメなんだ。


 『…次のニュースです。先日株式会社フルムーンから発売が開始されたアダルトゲーム「七つの海よりお前の輝き〜第二章〜」が僅か三日で売上本数約100万本を突破しました。これは前作の第一章の売上80万本を超えておりアダルトゲームの歴史において過去最高の売上になります…』


テレビをつけるとちょうど夕方のニュースが始まっていた。


「ほう、さすがエロゲー界の帝王(エンペラー)と呼ばれるだけはあるな」


悠一は炒めたキャベツを盛り付けた皿を両手に持っていた。香ばしい匂いとスパイス独特の刺激臭にもうお腹がペコちゃんだよ!


「そうだよねー、前作の第一章も大ヒットしてハリウッドで映画化するなんて話もあったぐらいだよね」


 「まぁアダルトゲームと言ってもこのゲームはいわゆる『泣きゲー』の要素が入っているからな、シナリオを重視した結果エロシーンがいやらしく見えずもはや芸術の域になってしまったのも要因かもしれない」


 僕は悠一の作った野菜炒めという名のキャベツ炒めを食べながら悠一を他愛のない会話を続ける。正直自分の家にいる時よりも悠一の部屋のほうがゆったりとくつろげるなぁ…。

 

 『…えー、速報です。先程午後五時頃に株式会社フルムーンより記者会見が開かれました。会見はフルムーンに所属しており、その美貌から世界中にファンがいる現役の中学生の天風天音がフルムーンを退社し、キャラクターデザイナーも休業するという発表を行いました…』


 僕は大量のキャベツを挟んでいた箸を自然に手から放してしまった。え……、今、なんとおっしゃったのかな…コノニュースキャスターハ……


 「おい、大丈夫か……死んだ魚のような目になっているぞ、おい、聞こえてるのかおい――」

  

 僕はただこの衝撃のニュースにただただ呆然とするだけだった……。

 



  

 

 


 

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ