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その2 宿敵との戦い、そして終末

「……でも、勝算はゼロじゃない」

 俺は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

 この理不尽なゲームに勝ち抜く唯一の作戦、希望が俺にはあった。

「奴はじきここまで来る……」

 俺は手元にあるスマートフォンを見る。

 画面には周辺の建物の地図が映し出されていた。体育館向かいにある第三校舎内には一際大きな丸がついている。

「……タケシ。お前の敵はとってやるからな」

 俺がもっている携帯は元々、タケシのものだった。

 彼の能力は火属性で、一度見た相手の持つ生命力を携帯に登録することができる。それさえできれば、位置と相手に対するかなり詳細な情報を明らかにできた。

 この明らかに補助系の能力は、単独の戦闘を強行すれば、武器をどこかで調達し、相手の弱点を見極めた上での奇襲しかなく、極めて不利なのは明白だった。

 しかし、集団戦ならこれほど強い味方はいない。

 だから最初に「組もう」とタケシが俺を誘ったとき、俺は快諾したのだ。

 このゲームでは死体は一日経つと消え、戦闘が行われ建物が破壊されても一日後には自動的に元に戻るが、参加者の武器は形さえ残っていれば、ずっと放置され、そのまま他者が使うことができる。

 しかし、強いプレイヤーはあまり他者の武器を使わない。

 なぜかといえば、単純に自分の武器を使うよりずっと弱くなるからだ。

 しかも、他者の武器を使うには、水属性なら水属性の力が使えることが条件となるし、もし使えたとしても、本来の能力者ではない以上、武器との一体化も不可能で、能力もせいぜい半分程度しか使えない。

 タケシのスマートフォンを、本来の持ち主のタケシが使えば、数値で相手の体調や知能指数まで丸裸にできたり、三次元の画像としてターゲットの詳細な周囲のイメージが見れたり、一日一回だけ自分と仲間をこの世界内の好きな場所に移動させることができた。

 でも、今の俺では、火属性の銃弾を使い、スマートフォンを動かして、何とか位置だけを確認することができるだけである。

「位置がわかるだけでも上々だ。……あと少しで勝負が決まる」

 ソウイチがこっちにやってきた。

 いよいよ、決戦のときがきたようだ。

 俺は頭をあげて体育館二階から、第三校舎を見る。

 校舎と体育館の間には微妙に距離があるが、三つある校舎はすべて燃やし尽くされていた。

 その第三校舎から炎の塊が現れた。

 あれこそがソウイチだった。

 校舎を紅蓮の炎で燃やし尽くした後、体育館へとやってくる。

 校舎の向こうを見れば、林や寮のエリアは焦土と化していた。

 俺はタケシの携帯のおかげで、ソウイチ以外に生存者がいないと確認済みだが、あいつはそうじゃない。

 あと何人生き残りがいるのか、少ないということはわかっても正確な数字はわからないだろう。

 しかし、ソウイチはわからないまま、残っているプレイヤーを駆逐する気だ。

 絶対の自信がなければ、こんな無謀な状態で、能力を無駄遣いする焦土作戦とれるはずもない。

 あいつは位置把握能力なんてないが、あったとしても別に必要ないだろう。

 冷酷にじっくりとこの世界を燃やし尽くせばいいのだから。

 そんな化け物が、ゆっくりと体育館へと歩いてくる。

 でも俺は確信していた。

 あいつは強いがゆえに、弱点をもっている。

 自分が獲物になる、など想像すらしていないのだ。

「……お前は俺みたいに弱くねーから、位置把握もひつようねーし、仲間ももたなかった。でもな、俺は違うぜ。仲間の遺志を継ぐ! 生き残る!」

俺は、一発だけとなった”黄金色の銃弾”を見る。

 ……この一発ですべてを終えてやる。

 俺は、祈るような気持ちでそれを薬室に押し込むとカーテンを巻き付けた身体で、ライフルを構えた。

 スコープにははっきりとソウイチの心臓部が見える。

「これで終わりだ……」

 この一発は、火炎弾、氷結弾、真空弾、石化弾、計四発を混合した弾丸だった。

 俺は二つだけ武器との融合能力をもっている。

 その一つが「弾丸融合」だ。異なるタイプの弾丸の性質を、俺の指先を通じることで、融合させることができる。

 たとえば、氷結弾と火炎弾を組み合わせて水蒸気爆発させるとか、石化弾と真空弾を合わせることで物質の硬化即粉砕するとか。

 そして俺は四元素を一発の弾丸に融合し、”対象の能力を停止させる弾丸”を作ることができるうえに、一度実証済みの能力だった。

 弾丸の絶対数が限られているため、二度目は出し惜しみしていたのだが、今こそ使うのにふさわしい。

 ソウイチが必中の射程距離に入り、俺は引き金を絞りつつ、残るもう一つの特性、「必中の第六感」を発動させる。

 この力は、銃についてずぶの素人な俺に、銃についての適切な運用法を知識としてではなく第六感として与えてくれる能力だ。

 だから、弾丸融合の詳細も、銃の整備についても、狙撃の基礎についても”なんとなく”わかる。

 俺は銃のリズムを感じ、リラックスしながらベストタイミングを待つ。

 瞬間、ソウイチが止まった。

 まとった炎から顔が見え、眼が合った気がした。

「くっ……!」 

 俺は恐怖に奥歯を強く噛みながら、引き金を引いた。

 刹那、銃の反動、眼前のガラスが割れる音、破片がカーテンの鎧に降り注ぎ、そして、よろめくソウイチの姿。

 しかし、ソウイチは平然とした顔で、俺への視線を外すさないどころか、大きく地を蹴ると一気にダッシュしてこっちに向かってきた。

 その後ろには空気の焦げる色。

「……なんで、あいつ、炎が消えないんだ!」

 俺は呪詛をはきながら、そのまままっすぐに”跳んだ”。

「ツバサ! 俺に力を貸してくれ!」

 俺はツバサの残した”俊足のスポーツシューズ”に生き残りをかけた。

 空気属性の俊足シューズは、本来の能力者ツバサが使えば、空中移動、真空波キック、足音を立てない隠密行動を可能にした。

 空手をやっていたというツバサに最適な靴だったが、俺には俊足能力しか活かすことができない。

 ライフル銃を持ったまま、地に飛び降りると、俺は考える間もなく走り出す。

 後ろに巨大な殺気と熱気を感じた。

 命がけで走ると、周囲の風景はすぐに溶け、風が俺の周囲を覆う。

「なぜだ、なぜだ、なぜだ……」

 だが、俺の脳裏に浮かぶのは疑問ばかりだ。

 一度実証したはずだ……。

 ツバサを殺した女の子のことを俺は思い出した。

 彼女は水の力そのものに特化していて、奇跡的にツバサと知り合いだったそうだ。

 しかし、不幸なことにその女の子はツバサを一方的に好きになって振られ、恨みをもっていたという。

 彼女を単独で振り切るのは無理だと判断したツバサはため、俺たちー俺とタケシ、そしてアカネーと同盟を申し込んだのだった。

 しかし、結局は、純粋な水の力に三人がかりでも対抗しきれず、ツバサを守りきることはできなかった。

 最後の最後で、やっと彼女の能力を俺の弾丸で停止できただけだった。

 あの女の子の能力はすぐに使えなくなったが、脱力した俺は使いものにならなかった。だから、アカネが、俺に変わってあの女の子にトドメを刺したのだった。

 後ろにソウイチが見えなるのを確認した俺は、焦土と化した林地区に来ていた。

 そして元は小屋だったであろう崩落したコンクリート壁の影に隠れる。

「戦わないといけない。でも……」

 俺は胸元にしまったダガーを、ポシェットに入れたワイヤーでライフル銃に縛りつけた、

 即席銃剣バヨネットの出来上がりだ。

「アカネが使えば命中必殺だったダガーだ。俺でも当てれば、あいつの炎を突破して、大ダメージを追わせることができる、かな」

 俺の声は震えていた。

 俺はアカネの最後を思い出す。 

 アカネは俺が最初に隣合った女の子だった。

 俺のライフル銃と自分の武器のダガーを見比べて、綺麗な顔に不安いっぱいだった様は、6日経った今でもよく覚えている。

 とても優しげな顔で、実際、彼女は優しかった。

 でも、彼女は俺たちを守るために、嫌いな殺人を犯し、そして、眼前に現れた絶望ーソウイチーに立ち向かったのだ。

 俺たちが警戒する間もなく、ソウイチの殺意はアカネをとらえようとした。

 彼女は怖いはずだったのに、逃げ出すことなく、俺たちに「逃げて!」と叫んんで、命中必殺のダガーでソウイチに切りつけた。

 でも、奴の炎はアカネの勇気を吹き飛ばし、燃やしつくした。

 結果、彼女のダガーは俺の場所まで吹き飛び、俺は彼女が生きて燃える様を見るはめになった。

 このとき俺は無意識のままダガーを手にとって呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 だからタケシが一日一回だけ使えるという場所移動スキルで、俺を移動させてくれなければ、俺は確実に死んでいただろう。

 そんな命の恩人のタケシも数時間後、奇襲を受けたとき、俺の力及ばずに殺され、俺は再び一人ぼっちになった。

 そんな辛い思い出が次々によみがえると、俺は唇を噛んだ。

 状況は明らかにこちらが圧倒的に不利だった。

 ソウイチには能力の停止が起こらず、弾丸は切れ。

 頼みの俊足シューズと、命中必殺のダガーも、弾丸にこもったエネルギーで動いているため、稼働には不安がある。

 シューズの稼働はもって数分、ダガーも能力を使った大ダメージ攻撃は一発だけが限度だろう。

 俺が現状に大きくため息をついたとき、上空から熱気を感じた。

「きやがったぁぁぁ!」

 ソウイチが、俺の場所を踏みつけようとしていた。

「があああああ!」

 俺は俊足シューズで何とか避けると、ソウイチを見据えた。

 隠れていた壁は破壊され、地面はえぐれている。

「きさま、おれになにをした……」

 距離をとるのが精一杯の俺に、しかし、ソウイチはとても苦しそうに言った。

「ち、ちから、ちから……」

 まとった炎がさっと取り払われる。

 そこには、服もなく、苦しげにうめく獣のような少年の姿があった。

「おれは、いきのこる。いのちをもやす……」

 言葉がたとたどしい。

 ひょっとして、こいつの能力は、パワーと引換えに知性を失う類の能力なのか?

「ほのおでない。おまえ、なにした?」

 戸惑う言葉を聞いて、俺は内心、ほっとする。

 どうやらあまりに膨大な力のせいで、能力の停止が遅れただけだったようだ。

 ……なら、勝算はぐっと上がる。

「うわあああああああああ!」

 俺は勇んで、バヨネットを叩きつけるべく突撃する。

 しかしーー。

「そんなこうげき……」

 ソウイチは俺の顔面をただ殴っただけだ。

 炎はない拳が俺の顔をえぐった。

 その圧倒的な力に、俺は情けない叫びをあげて、地面に倒れた。

 こいつ、すごい筋力だ。

 ……っていうか、なんで気づかなかったんだ?!

 こいつは、上空から飛び込んできたんだ。

 肉体強化されている可能性をなぜ考えなかった。

 俺は自分自身の不甲斐なさに歯ぎしりした。

「おれ、ほのおうしなった。でもげんき。おまえ、ころせる」

 そして、俺の上に馬乗りになると、俺の顔をぶん殴り始めた。

 歯は何本もぬけ、肌は破け、血はあふれる。

 一発一発がとても重かった。

 このままだと確実に死ぬ。

「ひくしょおおおおお!」

 俺は決死の覚悟で叫ぶと、まだ握っていたライフルの床尾をソウイチの頭にたたき込んだ。

「……ん?」

 緊張感のない声とともにソウイチが止まる。

「おかしい、ちからでない」

 俺はソウイチの言葉を気にかける余裕もなく、上半身を起こすと、力いっぱい叫ぶ。

「うわあああああああああああああああ!」

 そして、銃の真ん中を両手で握りしめ、命中必殺のダガーをソウイチの腹に突き刺した。

「……あ」

 ソウイチの腹から血があふれ出す。

 俺はダガーの刃を通じて、生暖かい感触を感じながら、さらにダガーを深く突き刺した。

「おれ、ちから……なくなった……なんで……」

 それがソウイチの最後の言葉だった。

 倒れこんだ彼の目に生気はなかった。

「アカネ、かたきはとったぞ……」

 俺は顔から流れ出る血を拭うと、ぼーっとした頭で立ち上がろうとして、倒れた。

 その瞬間、世界にラッパでファンファーレの音が響きわたる。

『ゲームは終わった。そこの君は勝ったのだ』

 世界に響きわたる声に、俺は倒れ込み、両手を地面に広げた。

 上に広がるのは雲ひとつない青空だった。

 この世界がただのゲームの舞台だなんて、今だに俺は信じられない。

 あまりにもリアルすぎるが、あの青空は俺のいた世界のものじゃないのだ。

「帰れる、のか……」

『約束は約束だ。煉獄でも君の逆転勝利に盛り上がった』

「……逆転ね。っていうか、なんだよ、盛り上がったって。まるで人の殺し合いを楽しんでいるなんてよ」

『神とサタンが珍しく相席できる貴重な出し物でな。君の活躍は好評だったよ』

「ふん。天国と地獄の管理人はどっちもクソ野郎ってのはよくわかった」

『……口を慎めよ、人間。元の世界に戻りたければ、な』

「ふん……」

 ここにきて、俺は真の敵を認識してしまった。

 だが、奴らをぶっ殺せる力などない。

 しかも、俺にはアカネを、タケシを、ツバサを、記憶する義務があった。

 生き残ったと実感し、俺は七日ぶりの空腹感を感じる一方で、死に去った仲間のことを思うと、頬に自然と涙がこぼれるのだった。

 そして、俺は誓う。

 いつか絶対、神とサタンに復讐してやろう、と。

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