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その1

 ある日、目覚めたら俺は煉獄にいた。

 昨日まで平凡な高校生だった俺は、映画みたいな煉獄の光景を見て腰を抜かし、ゴーレムみたいな煉獄の番人を目の前にして悲鳴を上げた。

 そんな俺に煉獄の番人は言った。

”お前にはまだ生きるチャンスがある。生き返りの権利をかけてゲームに参加できるぞ。負ければ地獄に永劫追放されるが、勝てば生き返れるし、天国へのプラチナチケットも手に入る。どうだ?”

 俺はうなづくことしかできなかった。

 それから144時間後。

「……なんとか、なっていたけど。どうする、これから」

 古風なライフル銃を手に俺はため息をついた。

 使える銃弾はあと四発。

 火炎弾1、氷結弾1、真空弾1、石化弾1。

 俺は今、学校の体育館二階にある予備倉庫で息を潜めている。

 貧弱な武装を手に学校の様子を伺う俺は、いよいよ大詰めになったゲームの展開にため息をつくのだった。



 この学校に○○学園とか、××高校とか、具体的な固有名詞はない。

 ただのゲームの舞台にすぎないのだから。

 規模はやたらと大きく、校舎は三つあり、三つの寮が併設されているうえに、森や畑のエリアもある。

 この6日間で、何百人という人間が死んでいった。

 混乱していたから正確な数字はまったくわからない。

 俺は初日の惨劇を思い出す。

 罪人がひしめく煉獄の山から一気にワープしたのは、学校の教室だった。

 俺も含め、この世界に来た若い連中は初めてみるブレザーの学生服に身を包み、まるで授業を受けているかのように配置されていた。

 みんな机の上には、武器が置かれていた。

 刃物、鈍器、銃器、特殊武器……。

 全員、こういった類の、人を殺すのに特化した道具をもっていた。

 俺は考える間もなく、眼前のライフル銃とポシェット型の弾丸ケースをまず手にした。

 そして武器を手にすると何となく安心した。

 周囲を見渡すと、隣の女の子と眼が合った。

 その手には小ぶりなダガーが握られていたが、刃は金属製ではない青い石でできていた。彼女は俺の武器と自分の武器を見比べて絶句していた。

 教室に集められた皆は、一様に困惑しながら武器を見ていたと思う。

 当然だけど、誰の顔にも俺には見覚えがなかった。

 こんな状況の中で、黒板の上にあるスピーカーから低い音の声で「あーあー」と声が入る。


 ”ここの守るべきルールは、最後の一人まで生き残ること。そいつが勝ってここから出られる。死ねば地獄行き。そうなりたくなければ殺せ! 殺せ! 殺せ! さあ、ゲームは始まったぞ!”


 ……しかし。

 こんな放送があってもいまいち現実感がなかったのだ。

 俺は平凡に幸せで適度にムカつく母と父、最近微妙な仲になってきた妹、そして息がつまりつつもそこそこやっていた学校と友人に囲まれて暮らしていた。

 そのせいで、今だに、そんな平和で、適度にストレスのたまる世界が延長していたような、そんな感覚が拭えなかった。

 事実、俺以外にも、多くが戸惑い、不信感も露わに、そんなにせっぱ詰まっていない様子で最初の数十分は周囲の流れに身を任せていたと思う。

 だから最初は立ち上がる者すらいなかった。

 そのうち、自己紹介を始める人間がちらほら現れ始める。

 「これってなにかのいたずらっしょ」

 そんな誰かのひきつった笑い声が響いた瞬間だった。

 轟音。そして響きわたる少年少女の悲鳴。

 廊下を逃げ出す血塗れのまま逃げ出す人々を見た瞬間、クラスにも恐怖が伝染し、パニック状態になった。

 よくよく考えれば、こんな場所に留まり続ける理由はない。

 みな、廊下やベランダのほうへほうぼうの体で逃げ出す。

 不思議とそんな背中を狙う人間はこのときには、まだいなかった。

 俺も急いで、ポシェットを腰につけ、ライフル銃を持つと、ベランダから逃げ出す集団の後へとついていった。



 初日、弾丸は100発あった。

 火炎弾25、氷結弾25、真空弾25、石化弾25。

 今じゃ、どれも一発ずつしかないが、こうなったのもしょうがないと俺は思う。

 この地獄の六日間を生き残ることができたのだから。

 そして今、七日目を生き抜かなければならない。

 幸いにも食事と睡眠を取らなくていい身体になっていたが、性欲はあり、そのせいか何組かカップルを見かけたが、結果的にすべて悲恋となった。

 なぜなら生き残りは俺とあと一人なのだから。

 血と汗で薄汚くなったブレザーと、すっかり静かになった学校の様子を見て、俺はしみじみと実感する。

 このゲームは、近接タイプ、中距離タイプ、遠距離タイプに大別される実際の武器に、火、水、土、空気という四元素の魔術的性質が付与された武器で戦われた。

 魔術要素があるため、現実世界では有利な場面が限られるナイフも、銃に劣らない力を得ることができる。

 俺の特性は「武器・遠距離タイプ、魔術・万能攻撃型、肉体補強・ゼロに等しい」だ。

 当然だが、魔術要素で強いのは特化タイプだ。万能型はすべてをおいしく利用できる一方で、それぞれの能力の絶対値が特化タイプに大きく劣る。

 また、武器との一体化要素も重要な要素だ。

 ナイフでも剣でも銃でも、皆、肉体と一体化できるのだが、その中でも、身体が鋼鉄化するとか、高エネルギー攻撃が可能になるとか、そういうわかりやすい能力があれば、戦闘の攻防にかなり貢献できる。

 しかしながら、俺にはそういった目立った一体化はできない。

 そして、遠距離タイプは近距離タイプ、中距離タイプに接近されれば不利な戦いを強いられる。

 以上から、強いプレイヤーの多くは、「近距離あるいは中距離+特化タイプ+わかりやすい肉体一体型」で、俺みたいな特性をもつプレイヤーはもっとも劣るタイプなのだ。

 自分でもよくここまで生き残れたものだと思う。

 初めて目の前で人の頭が吹っ飛ぶ様子を見たときにはまさかこの地獄をくぐりぬけられるとは思わなかった。

 本当の”屍山血河”というものを見、逃げる途中で失禁も経験した。

 強いプレーヤーに狙われ死にかけたこともある。

 でも、それも初日に仲間を得たおかげで、なんとか最後まで生き残ることができたのだ。

 しかし、俺を狙ったプレイヤーも、仲間ももう、いない。

「タケシ、ツバサ、アカネ……」

 俺は短い間だったが、一緒に戦った仲間たちの名前をいって、そして彼らの死に様を思いだし、自然と涙がこぼれた。

「……悲しむのは生き残った後だ。俺が死ねば、みんなの最後を覚えている奴はいなくなる。俺は……帰らないと……」

 俺は再び”奴”への復讐を誓う。

 そう、奴ーソウイチーこそがすべての元凶なのだ。

 ゲーム内でたぶん最強のプレイヤー”炎の使い手”。

 火炎を操り、炎と一体化し、近寄る攻撃はすべて溶かす。

 普通の炎属性ならば、水や土、空気でも対処は可能だろう。

 しかし、ソウイチはレベルが違うのだ。

 火炎そのものが奴の武器だった。

 武器を経由して戦う奴らよりも”特化”し、その分、単独の力では強い。

 もちろん、能力の強さは力そのものの強さだけではないし、ソウイチ以外にも力そのものを武器とするプレイヤーは水、土、空気にもいた。

 しかし、そんな事実、ソウイチがすべてを蹂躙した後となっては、語るのも空しい。

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