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8,『根暗は女神をビッチと言う』

 かの有名なシェイクスピアの残した言葉で『私たちの存在は、夢と同じような儚いもの。この小さな人生は、眠りによってけりがつくものなのだから』なんてものがある。

 簡単なことだ。この意味がわからない人間はいないだろう。

 だが敢えて言うならば簡単に死ぬということ……さっきまで話していた人間も今話している人間も、すぐ隣りにいる人間も……みんな、そうだ。




◇◇◇◇◇◇




 朝は昨日とまた変わらない。

 起きればグラハムの作った朝食を食べ、そして先に学校に行ったグラハム、杏澄はPCゲーム。

 昨日のようにはなりたくないので少し早めに切り上げてマンションを降りる。

 通学途中の生徒たちに混じって自分もまた歩きで学校へと向かう。


「あっ、天宮さん!」


 そんな声が聞こえて振り向けば、そちらには西住ユーノがいた。

 ―――またか、お前のようなリア充が私に構う理由がわかりません。

 そう思いながらも、口に出さずに黙って『お、おはよう』と言うと向こうもまた『おはよう♪』と返す。

 一応した挨拶に笑顔で返す、なんて社交的な娘だろう。と思いながらも歩きだす。

 隣りを歩くユーノだが、何が目的で隣りを歩いているのだろうと疑う杏澄。


「あのね、昨日もお父さんが帰ってこなくて一人だったんだけどさぁ、晩御飯の食材無くて遊ばずに直行で帰っちゃったよ~」


 ―――私は毎日家に直行だけどな。


「え?」


 声に出ていたようだと、首を横に振るとユーノもよく聞こえていなかったのか笑顔のまま話を続ける。

 まったくもってよく杏澄相手に会話が続くものだ。杏澄と言えばユーノの話題に『うん』『そ、そうなんだ』ぐらいしか答えずあとは首を振るだけだ。

 並の人間であればすぐさま杏澄の近くから去る。

 だが、最近の杏澄はなぜだか色々な意味でついているし色々な意味でついていない。


「見つけたよ、天宮ちゃん!」


 聞き覚えのある声、そして昨日は『天宮さん』と呼んでいたはずだがいつの間にか『天宮ちゃん』になっている。

 というより“紅乃朱莉”が名を大声で呼ぶものだから注目されてしかたがないと、杏澄は肩をすくめたくなった。

 この現状、かの学ランスタンド使いに言わせれば『やれやれだぜ』と言ったところか……と、杏澄は客観的に状況を判断。


「昨日のことなんだけど」


 ―――おいおい、公衆の面前でなにを言うかこの小娘。仮面ラ○ダーやウル○ラマン、特撮においてすら正体を知った人はそいつのことを他言したりはしない。にもかかわらずここで言う普通? けど私が普通を言ってもなんの参考にもならない。なんたって交友関係などないから。

 杏澄は脳内で数多のパターンを考えたがこの状況を抜ける方法がまったくと言っていいほど思い浮かばない。

 いたしかたないと、杏澄は普通に『おはよう』と返した。


「あっ、ここじゃまずいか」


 ―――ようやく気づいたかカメ子、とりあえずその首から下げたカメラから手をはなしなさい。

 心の中はどうであれ、杏澄が直接言えるわけもなく黙ったままである。

 学園内じゃかなりの有名人である朱莉に大声で呼ばれ、さらには隣りにやってきたとなればかなりの生徒が注目するのは必然。

 しかも朱莉だけならばまだ『またやってるよ』で済むのだが、杏澄の隣りにはもう一人有名人こと西住ユーノまでがいた。


「うむ、偶然だな杏澄ちゃん」


 なぜか先に出たはずの松田グラハムが後ろからかけてきた。

 ―――なんぞこれは、テメーらは三人で喋っていてください。お願いします。

 あまりの注目のされようにスレたというかヒールったというか、とりあえずあまりの動揺に言葉遣いがわけわからなくなる杏澄。

 それでもなんとか自我を保ちながら喉まで出かかっている言葉をもう一度戻す。


「久しぶり松田くん」


 ユーノの言葉に『うむ、久しいな』と返すグラハムだが知り合いのようだ。

 前同じクラスだった、とかだろう。

 それにしても目立ちまくりである。杏澄以外は全員それなりに学園では有名人であり、この通学路を通るのはもちろん学園の生徒ばかり、ならば注目されるのは当然。

 なるべく目立たないようにしてあまりの空気っぷりにいつも“いじめの標的”にすらされないはずの杏澄が目立つ。

 人から反感を買うときだって教師が『ペア組んで』とか巫山戯たことを抜かして三人組を解体した時ぐらいのものだ。

 ―――黙っていて空気になったころ早歩きで去ろう。

 そう心に決めて黙って、ちょっとづつユーノと珠里の間にいる杏澄は歩くスピードを下げる。まずは下がってそのあとに加速して帰るのが作戦……なのだが……。


「天宮ちゃんは晩御飯どうしてるの?」


 ―――おい話題を振るんじゃねぇですよ西住殿~。

 しかもちゃっかり呼び方を変えている。


「お、お弁当……」


 そう言うと、グラハムが少し笑った。

 ―――なんか言ったら髪の毛むしる。あっ、でも男なんか触りたくない。

 そもそもそんな度胸はない。天宮杏澄は心の中だけでは強気でプライドが高いのである。

 こんな人間のことを通称逆ヤムチャと呼ぶ。ソースは杏澄。


「コンビニ弁当とかってこと?」


 頷く杏澄に、ユーノが少し苦笑。

 ―――どうせ『生活力ねぇなぁこの女』とか思ってるに違いない。でも西住に言われればそれまで……他の馬鹿女相手なら心の中でスイーツ(笑)とか言ってられるのに……。

 できる女ってすごいなぁ~と客観的ながら杏澄は思った。


「面倒だもんね、わかるよ。けど栄養偏っちゃうからお野菜もね?」


 笑顔で返してくるユーノを見て杏澄は思う。

 ―――貴女は女神か西住殿、結婚しましょう。

 なんて思っても口も喉も舌も動くことはない。それが杏澄である。


「あっ、今度晩御飯一緒に食べようよ。作りに行ってあげる」


 ―――こんな早く家に来たいとは、なんというビッチ。私を誘っているのですか西住殿。

 もうすでに杏澄の中では西住殿が定着してしまいこんな状態。

 目の前の女神にビッチなどという言葉を心の中で思うこの女、まさにクズの鏡である。


「良いかな?」


 ―――きっと私を誘っておいていざ行為に及べば大声を上げて私から根こそぎしっぽり骨の髄まで奪い取るつもりだな(金銭的な意味で)だがそうはいかない。エロゲで鍛えられているであろう私のテクで骨の髄まで搾り取るどころか骨抜きにさせてやる。

 無駄な決意を胸に秘め、首を縦に振る。

 そしてふと気づく、その日になったらグラハムどうしよう……答えはそのうち出て行くだろうからそのあとに誘おうということだ。

 その後も話は杏澄に振られ続け、結局クラスにつくまで解放されることはなかった。




◇◇◇◇◇◇




 彼、松田グラハムは珍しく黙っている。まぁ授業中なのだから当然であり、彼が数少ない黙るときの一つがこの授業中であった。

 黙っている彼は、授業中だが机の下でスマートフォンと呼ばれる類の携帯電話を弄りながら片手でノートをとっている。

 ―――ほぉ、実に興味深い。

 現代のネットワークとは面白いもので、かつて世界は平地で海の向こうに行けば崖から落ちるなんて誰が考えたか超理論があったにも関わらず、今立っている場所からまったく正反対の場所の情報まで手に入る。

 今日もまた狂った事件ばかりが目に入っていく。

 たとえばこの街の学校の一つが『テロリストに襲われた時のための想定訓練』とかいうことをしている中、正反対の場所では『テロリストに学校が襲われた』なんて現実がある。

 二つの事件があわさって通常より面白くなるがあちらから見ればこちらの訓練は大事だな、なんて思うかもしれない。そう、違った視点から物事を見るということが、いかに重要か、それをグラハムはわかっているからこそ今周辺の事件を鋭い目で見ていた。

 そして見つけた事件―――風音原市にて殺人事件。


「面白くなってきたじゃないか」


 つぶやくと、指で画面を触って記事を見ていく。

 警察の会見によると『殺人事件であるのは間違いない』のだが生憎わけがわからないようだった。

 まず“全身の血が抜かれズタズタにされている”つまりは猟奇殺人。しかしグラハムのいくつかある候補の一つで有力なのが“リョナ大好きな変態野郎”実際そうかはわからないし、もしかしたら“自分たち側”の者がなにかしらに必要で集めているのかもしれない。

 とりあえずこんな記事を杏澄が見れば“吸血鬼のしわざか! おのれ吸血鬼!”とは……言わないだろうけれど心の中では思うだろう。生憎被害者が美人だ。

 仕方がないとグラハムもこの事件の真相を解き明かしてみることにした。


 状況によっては自分が関わっていることだし、犯人がブサイクか男であれば粛清も必要だ。


「おい松田!」


 ハッ、として声の聞こえた方を見るグラハム。

 いささか考えすぎていたようだと思ったときにはすでに遅い。黒板前の教師はぷんぷん怒りながらも自分を睨んでいる。

 肩をすくめたグラハムは『人気者は辛いな』とつぶやいて女教師の顔を見た。

 すごい睨んでいる。


「で、俺がなんだって? 惚れたとか?」


「馬鹿なことを言っていないで……英訳してみろ」


「俺に英語を語ろうとは片腹痛い。俺はハーフだぞ?」


「知っているから聞いている」


「ハーフだからと言って英語がわかるとはわからんぞ、ハーフでも釧路生まれ佐世保育ちだっているだろう」


 一応言っておくがグラハムのことではない。

 だが女教師は『何言ってんだお前』とグラハムを座らせて朱莉を指して見る。けれど彼女は彼女で『新たなスクープ』の情報整理のため聞いていない。

 何度目かの女教師の声により朱莉は立ち上がる。


「この問題を英訳してみろ」


「先生、私は新聞記者になっても日本のことしか報道しないで生きていきますよ」


「ならお前の新聞は売れんな、座れ」


 女教師は密かに考える『なぜこのクラスの人間はひねくれた答えばかりなのだろうか?』と……。

 まったくである。わからないならばわからないと言えばいいもののいちいちバカみたいな言葉を並べて教師からの小言を回避していく。

 また一人の生徒を指して見るがその生徒は『言葉とはかつて統一言語で人々が作ったバベルの塔が神々の逆鱗に触れ統一言語を……エトセトラ、エトセトラ』もう教師は“激おこ”どころか“げきおこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム”だ。

 どこからか『お前は今、殴っていい』なんて幻聴まで聞こえてきて、結果教師は考えるのをやめた。




 なんの問答もなく終わらせられた授業、それぞれはまるで普通という顔でそれぞれ“友達”の元へと歩いていき話をする。

 今日もこのクラスは安泰であると、グラハムが思っていると珠里が近づいてきた。

 そしてグラハムの前の席に座ると少し顔を近づける。


「どうした、もうそんなイベントのフラグが建ったか?」


「朱莉ちゃんルートはないですよ。ファンからの待望があったら別ですけど」


 なぜギャルゲ風だが気にすることはない。エロゲ時代になんでもなかったキャラクターがギャルゲになった途端攻略対象になっていたなんてことは良くあることでありすぎて困ることで、まぁ何が言いたいと言うとそのキャラクターのエロシーンは見れないということ……ではない。

 朱莉がグラハムに近づいて話す。


「杏澄ちゃんとグラハムくんが同居してるのって言ったら不味いよね?」


「あぁ、俺は構わないが」


「杏澄ちゃんに迷惑がかかるからやめとくのですよ。とりあえず私はグラハムくんを貶めたいだけだから」


「そういう女の一人や二人いなければモテ男は務まらないな」


 モテ男、若干死語な気がしないでもないが気にしてはいけない。

 所々彼が古い思考を持っていたりするのはよくあることだ。このクラスの誰に聞いても『あぁ、松田だから』で終わるのが目に見えている。

 とりあえず朱莉は杏澄は杏澄で別に情報を整理しているがそちらはまったくもって不明だった。

 謎の空間のこともだ……。


「(グラハムくんには悪いけど私こんなすごいことに関わっているのです)」


 すべての原因はグラハムのせいだと彼女は知らない。

 ちなみに朱莉は今現在の状態では何も関わっていないので、関わっている気がしているだけだ。

 わからないのにわかっているようなことを言う天才のように、彼女は“記者”という立場だけで自分がその物事に関わっていると思い込んでいる。記者とはただ伝えるだけのメッセンジャーであり、なにかに関与すればそれは記者ではなく“広報担当”になる。

 グラハムはそれをわかってかわかるまいでかただ黙って見ているのみ。

 携帯電話を起動して、再びニュース速報を見ると先ほど見た“猟奇殺人”の死体がまた見つかったということだ。


「うむ遺体と死体の違いを答えろ」


「むむ、記者にそれを聞くとは……いい質問だね。死体とは人間以外にも使える言葉であり人間の死体は通常遺体と言います。けれどその中でも身元不明者は死体と呼ばれていて身元がわかった場合に遺体となるというわけなのです。まぁ最近は“死体”という単語が生々しすぎるとのことで身元不明者のことも遺体と言うんだけど……ってなんで突然?」


「ちょっとした確認だよ。ならばこれは俺にとって遺体となるわけだな」


 笑う彼だが、朱莉は小首をかしげてグラハムを見た。

 このわけのわからないクラスでトップクラスにわけのわからない存在であるグラハムの考えはやはりわけがわからない。

 そして、一時間後に校内放送にて一年生の一人が“猟奇事件”の被害者となったことを学園中の生徒は知ることになる。

 すべて予期してグラハムは大して驚くこともなくただ静かに笑った。




あとがき

とりあえず、物語がようやく一つの事件へと向かうというわけでござるな。

東方の二次創作の方も別サイトで再開したのは良いのでござるがこちらでもやるか悩み中でござるよ。

皆さん沢山感想くれたでござるからなぁ……まぁなんやかんやで結構な人数があっちに移動したようでござるがww


では、次回もお楽しみにしてくださればまさに僥倖!!

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