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1,『サンタクロースさ……』




 俺、松田グラハムはホームルームを終えるとすぐさま荷物をまとめて立ち上がる。俺の耳に届く全てのデートの誘いを優しく断り歩く。

 さすがにモッテモテの男は辛いが……今の俺には目的があるのでそうでもない。まったくもって有意義な気分である。

 歩いて『2‐D』へと向かう。

 例の天宮杏澄ちゃんのクラスはそこだと朱莉から聞き出した。間違いはないだろう。

 だがここで一つ問題が発生してしまった。まったくもって予想外の事態だ。


「もう帰っていたとはな……」


 実に無駄な時間であった。こんなことなら誘われたデートを受けておけばよかったと……まぁ全ては後の祭りだ。無念極まりない。

 帰るかと、つぶやいて俺は一人で下校する。

 まったくさみしいものだな……。




◇◇◇◇◇◇




 ここ、風音原の街は朝から夜まで活気あふれる街である。

 朝から夕方まで人で賑わうショッピングモールにに、夜も賑わう歓楽街。

 施設が多ければ多いほどそれだけ事件は起こる。

 そして事件が起こりやすい街ならば……それだけ事件は起こしやすい。


 風音原の歓楽街の路地裏にて女性が走る。


「―――ッ!」


 高いヒールで走っていたせいか、足をもつれさせてこけた。

 その女性の背後から迫るのは、一人の男。

 片手にナイフをチラつかせながら女性へと歩み寄る男。

 それと共に、後ずさるも簡単に追いつかれそうな女性。


「こんな昼間から盛るものではないぞ」


 そんな声と共に現れたのは、一人の青年。

 声が聞こえた方向に目を向ける男。

 夕陽もその路地には入ることはない、ただ真っ黒な路地裏、そこに現れた金髪の青年は口の端を釣り上げてニヒルに笑う。

 だが、青年が現れたところで女性の恐怖が消えるわけでもないようで、今だに怯えている。

 それもそうだろう、ナイフを持った男一人と無手の青年一人、結果は見えていた。

 だがそれも、青年が“普通”であれば、という話である。


「おっと“光り物”か……」


 青年は笑いながら足を踏み出す。

 額から一杯に汗を書いている男へとゆっくり歩み寄る青年。

 軟派な雰囲気の青年は輝く凶器を相手にまったく怯むことはない。


「おぉぉぉっ!」


 突如、叫びだした男がナイフを持って青年へと走り出す。

 今にも刺されそうな青年は笑いながら足で地面を軽く叩く。


「さて……」


 突如、青年が右を向く。


「<アクセル>」


 青年がつぶやいた直後、走る様子も見せない青年が一瞬で壁へと移動する。

 だが男は動揺する様子も見せず、ただ青年を視界に捉えて走った。


「まったく、最高に面倒なヤツだな」


 壁に背を付けたまま、青年は笑う。

 ナイフを突き出しまま走っくる男の単純な動き、鈍い動きなど青年には止まっていることと同義。

 青年は背を付けている壁からそっと背を離して、手で軽く壁を叩いた。

 今にもナイフが刺さりそうな瞬間、青年が先と同じように瞬時に動く。


「<クレイド>」


 青年は男の背後。

 そして、男が刺し損なったナイフは、壁に深く突き刺さっていた。

 いや、突き刺さるという表現は間違っているだろう―――ナイフは取り込まれている。

 まるで壁が粘土にでもなったかのように壁に刺さっているのだ。

 ナイフの刃は抜けることはない。


「やめておけ、頑張ってもせいぜい柄しか抜けんぞ」


 青年はそう言うと男を背後から蹴る。

 頭を壁にぶつけた男が倒れて、地面に寝転がった。

 完全に気絶しているのはその白目と額からわずかに流れる血をみればわかることだ。


「さてお嬢さん、大丈夫かい?」


 振り返った青年の視線の先には、先ほど怯えていた女性。

 目の前の光景に意味がわからないというように驚いている。


「あ、貴方は……?」


 そう、問う女性に青年は笑みを浮かべて身を翻し、暗い路地裏から明るい歓楽街へと歩いていく。


「魔法使いさ……」


 つぶやいた青年が振り返ると、その瞳の碧色が女性の視線を釘付けにする。

 片手を上げると、指を鳴らす。

 瞬間、女性の視界は揺らめき、意識は途切れる。

 その場で、ただ一人青年のみがただまともな状態だ。


 金髪碧眼の魔法使いは、その路地裏から出ていった。




◇◇◇◇◇◇




 彼、グラハムという青年はただ道を歩いているだけでも結構目立つ存在であった。

 金髪碧眼、さらに整った表情とはそれだけで人々の目を釘付けにするだけの要素があるのだ。

 もちろんそんな容姿の人間はいくらでもいるが、彼の持つ雰囲気そのものに人を寄せ付ける力がある……のかもしれない。

 彼は足を止めると、ふとそばにあった喫茶店を見てその中に入る。

 昔懐かしい喫茶店の扉を開けた時の音と共に、グラハムは歩いて壁際の席に腰を下ろす。

 グラハムの背後の席に、女性が腰掛ける。

 真っ黒なドレスに豊満な胸、そしてアップにした赤い髪。


「まあ、お前だろうな」


 つぶやくグラハム、口元に笑みを浮かべる女性。

 お互いがお互いの方を見ることもなく、話を続ける。


「お前は女じゃない」


「あら、私は女よ?」


「女じゃないから殺しても問題ないぞ」


「女だって言ってるじゃない……」


 呆れたようにいう女性と、あくまでも折れないグラハム。

 彼女が言うように、女性は女性以外の何者でもない。男などでは一切ない。

 それでもグラハムは女性を『女じゃない』と否定する。


「貴様が女だというなら俺だって女に“なれる”ということになる」


「なれるんじゃない?」


 ボソボソとつぶやくように言葉を紡ぐ二人。

 それでも充分二人にはお互いの言葉が届いていて、女性は笑みを浮かべている。

 一方、グラハムの表情は俯いていることもあり見えることがない。


「無理だ。生物学的に男が女になることも女が男になることも真の意味ではありえない。体の細胞やらなにやらを変えたところで“因果”に対する反逆はできん」


「相変わらずのリアリストって感じね?」


「そうでもなければ“魔法使い”なんてやってはいられんだろう」


 黒いドレスを着た女性は、浮かべる笑みを消して、その紫色の瞳を細める。

 アップした長い赤髪がわずかに揺れ、香水かなにかの匂いが漂ってくる。

 そこでグラハムはようやく振り向く。

 だが振り返ったその場には、誰もいない。


「チッ……」


 舌打ちをして、グラハムは女性が座っていたはずのテーブルの上に置かれた白い封筒を取る。

 自分のテーブルにある呼び出しボタンを押して女性店員を一人呼んだ。


「アイスコーヒーとBLTサンド」


 注文をもう一度繰り返した後去っていく店員。

 店の端に近いその席の周囲に、客はほとんど居ない。

 あたりを確認したグラハムは白い封筒を開け、その中に入っていた手紙を開く。

 視線が動いていることで読んでいることは確認できるが、その文字を読み進める内にどんどんと表情は変わっていった。

 最初の表情とは違い、今は面倒でしかたがない……という表情である。

 とりあえずは注文が来るまで、グラハムは考えるのをやめた。




◇◇◇◇◇◇




 時はすでに六時を過ぎた11月の冷たい空気は俺のきめ細かな肌を痛めつける。

 先ほどの……“あの女”と会話した時からまだ家に帰っていない俺は暗い街中を歩きながら“アレ”を探す。

 俺の“魔法使い”としてのプライド上アレの好き勝手にさせるのは非常に不本意極まりないことである。

 とりあえずは俺は俺のすることをする必要があるので、街中を歩き回っているが―――見つけた!


 走る。走る。

 ひたすらに走るのは“アレを逃がさない”ためだ。

 誰かがアレに殺されようがナニをされようが知ったことではない。もちろん見かければ助けるかもしれんが、どうでも良いことだ……。

 今の“俺”はアレをすべて抹消しなければならん、絶対にだ。


「逃がさんぞ!」


 俺は賑やかな繁華街を出て、雑居ビルと雑居ビルの間にある通路に潜り込む。


「見つけた……」


 その視線の先にいるのは女が一人。先に相手にした男のように、正気ではないのは確かだった。

 女に、少女が襲われている。

 まぁ俺の“アレを殺す”という目的の中での“人助け”は襲われている方の容姿にもよるのだが、今回は助けておかんわけにはいかんようだな。

 学生カバンを軽く放って、壁際に寄せる。

 金網に背中をつけて怯えている少女、少女に襲いかかろうとする鉄パイプを持った女。


「待てい!」


 地を蹴り、女を飛び越えて少女の前に立つ。

 絡み合わぬ俺と少女の視線、俺から見れば彼女の瞳は見えぬが、彼女からは見えるのだろう。

 まったく、一方的というのは気に入らんのだがな……。


「さて、女性に手を上げるのは俺の心情に反するが」


 振り返って女の顔を確認すると、なんかそんな心情もどうでも良かった。

 こいつがここで俺に痛めつけられるのはすべて自分が生まれ持った“顔”が悪いのだよ。

 始末にはなんの未練もない。


「<アクセル>」


 一瞬、俺は女の前に移動して身をかがめる。

 特にこれ以上“魔法”を使う必要もないので、ここからは“自力”となるわけだ。

 あえて言わせてもらおうか!


「ブサイクに用は無い!」


 拳を、女の腹に打ち込んだ。

 だがまだ終わらん。


「<バレット>」


 さらに追撃。俺の拳から放たれるのは実体無き“衝撃”そのものだ。

 その威力はアバラにヒビを入れる程度の威力にはなるだろう。

 だが“コイツ”らにはその程度関係無いだろう。

 本気で足を切り落とすぐらいの勢いは必要だ。


「やはり鬱陶しいな」


 バックステップで下がると、距離を取ってから片手を軽くスナップする。

 なんとなくだ。特にくせだとかそんな意味は無い……。 

 さて、俺は左手に意識を集中させる。


「ブレード展開」


 つぶやくと同時に、俺の左手には青い刃が現れたることとのなった。

 俺の腕に同化しているとかそういうものではない、実体無き刃……つまりわかりやすいように言えばビームサーベルである。

 さて、動けなくする程度は許して欲しいものだな?


「必殺!」


 地を蹴ると同時に俺は走り出す。すれ違いざまに、俺は左手のブレードで鉄パイプを手ギリギリの部分から切り裂く。

 これにて、長柄の脅威は無くなったわけだな?

 俺は軽く足をかえて女を転ばせると、その背中に足を置く。

 背中の軸に男の力で踏まれれば起き上がることは不可能だ。


「さて、このブスは厄介をかけてくれる」


 あえて口に出してから、足をそのままに腰を下ろす。

 後ろ首にかかる髪をかき分けて、首を見るとそこには小さなドクロの模様。

 間違いなく“ヤツら”の仕業だな……あぁ、面倒だ。


「まったく……」


 俺は溜息をついて空を見上げた。

 ロクなことにならないのは確かなようだ。

 そっと、首の後ろの模様に人差し指を当てる。


「<リリース>」


 指先がわずかに輝く。

 そして、これで女の首にあったドクロの模様は消え失せる。

 俺がこの女にすることはこれ以上無いということだ。

 すでに女は意識を失っていて俺がその女から足をどけてもなんの問題もない。


「さて……」


 俺の視線の先、先ほどこの女に追い詰められていた少女を司会に入れて笑みを浮かべる。


「天宮杏澄ちゃんだったか?」


 そう聞くと、俺が学校で出会った少女は軽く頷く。

 返事ぐらい元気よくしないものか、と思ったが別にどうでもいいことだ。重要なのはその胸のサイズと美少女かどうかという問題のみ。

 前髪で表情も顔もまったく見えないからこそ気になって仕方がない。


「俺は2―B組の松田グラハム……」


「同じ学校の、リア充男……」


「魔法使いだ」


 そう言って、片手を差し出しす俺だが、目の前の少女はその手を取ることはない。

 黙ったまま軽く一礼して顔を上げると次は俺が倒したブスを見る。

 まったく、俺だけを見ていればいいものの……。


「気絶しているだけだ。詳しいことが知りたいならそれなりの場所に移動するとしよう」


 笑みを浮かべてそう言うと、杏澄ちゃんは少しテンパったように頷く。

 フッ、うぶな反応とは良いじゃないか。

 出すなら、さっさと手を出すとしよう。そういうことは早い方がイイ物だ。



あとがき

はい、とりあえず一話でござった。

始まったばかりで話数も少ないと読んでくれる方も少ないでござるからな、まずは話数を増やすことから始めねば、ということで一話でござる。

Mr,リアジューとMs,ネクラの出会いによりようやく物語がはじまるといった感じで……とりあえずまた次話でござるな!


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