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氷が乾いた音を立てた。
ぼんやりとしていた意識が、現実へと引き戻される。
あれからどれくらい経ったのだろう。
恋人のために用意したグラスの氷は、もう大分溶けている。
その横に指輪と鍵が置かれていた。
現実を認めたくなくてじっと見つめる。
それでも、そこにあるという事実が変わることは無かった。
「ごめん」
いつもは、必要以上に目を見つめてくるくせに。
アイツの視線は、何故か床に向けられたまま。
そんな様子に、俺は何だか嫌な予感を覚えた。
そんな俺に構うことなく、アイツは言葉を紡ぎ続ける。
「もう終わりにしたいんだ」
「え……」
「一緒に居ると幸せなはずなのに何か苦しい」
「どういう…」
「これ、返す。あと、これも」
お気に入りやって言ってたローテーブルの上に、俺の家の鍵と、あの時お揃いで買った指輪が置かれる。
「さよなら。……大好きだよ」
こちらを見ず、去っていく恋人。
言いたいことは沢山あるのに、喉が詰まって言葉にならない。
遠くなっていく背中を追って手を伸ばした。
その手は、何も掴むことは出来ず、力なく落ちていく。
指に嵌まった指輪が、テーブルの上のそれと同じように、冷たく光った。
幸せなはずなのにって、何だよそれ。
はずじゃなくて幸せだっただろ?
俺は、2人でいるだけで幸せだった。
苦しいなんて言うなよ。
まるで俺たちの関係が、ダメだったみたいだろ。
真実の愛だって、お前が教えてくれたくせに。
大好きなんだったら、側にいてくれよ。
俺は、傷ついたって構わないのだから…
薬指からそっと指輪をはずす。
アイツの指輪と共に、引き出しの奥へとしまう。
いつかまた、一緒に輝けるまでここで待っててな。
もう、氷の音は聞こえない。




