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彼が言った “組まないか?”

「今回の課題は二人一組で行う。

レポートと発表、両方提出してもらう。

パートナーは慎重に選びなさい。」


教壇の前で、ロバート教授が眼鏡を押し上げながら告げた。


数名の学生が、すぐに周囲をちらりと見回す。

すでに頭の中で計算を始めている。


教授は続ける。


「今から十五分、話し合ってチームを組んでいい。

ストレッチしても構わない。

十五分後、再開する」


教授が教壇を離れた瞬間、空気が一変した。

椅子が引かれる音、声が同時に弾け、

“授業モード”の静けさが、ざわめきに飲まれていく。


ロバート教授は、珍しいタイプの教授だ。

グループ課題を“学生任せ”にしない。

最後の最後まで、誰かが余ってしまうのを黙って見ているタイプではない。

早めに話し合いを促し、全員が居場所を見つけられるように誘導する。


それが、ミラは好きだった。


ミラはすでに半分立ちかけ、

カミーユを探そうと横を向いた——

ペンを指先でくるりと回しながら。


そのときだった。


一枚の小さなメモが、すっと彼女の机に滑り込んだ。


ミラは瞬きをする。


周囲をちらりと見て——そっと開いた。


《組まないか —エイドリアン》


ミラはゆっくり顔を上げた。


隣の列——

アドリアンは、何事もなかったようにノートにペンを走らせている。

まるで“学期最大の爆弾”をさらっと机に置いた張本人、みたいな顔ひとつ見せずに。


……アドリアン?

アドリアンが、私に“組もう”って言ったの?


思考が追いつく前に、スマホが震えた。


カミーユ:

MIRA 一緒に組もーーー!!!


ミラは指を止める。


Mira:

実は……もう誘われた


カミーユ:

誰に!?


ミラは数秒迷い、そして打つ。


Mira:

……アドリアン


画面に三秒、沈黙。


次の瞬間、爆発。


カミーユ:

は???

何それ???

意味わかんないんだけど???


カミーユ:

あの“単独至上主義男”? “私は一人でやる”の彼???


Mira:

多分、ただ課題を早く終わらせたいだけだよ


カミーユ:

いやいやいや、これはただの課題じゃない。これは宇宙方程式。これは運命。


ミラは両手で顔を覆う。


Mira:

誰にも言わないで…


カミーユ:

遅い


ミラのスマホが通知で爆発した。


この学期、すでに終わってる気がした。


ミラは少しだけ躊躇してから、返事を書いた。


《断りたいわけじゃないけど、私は一緒にやりたい友達もいるの。

そこを譲ってでもあなたと組む“理由”があるなら、考える》


その紙をそっとアドリアンの机へ戻す。

“どうせ適当に流されるだけだろう”——ミラはそう思っていた。


しかし、短い間のあと、

アドリアンのペン先が静かに動いた。


《君だけが、俺の足を引っ張らない》


ミラは瞬きをした。

そのまっすぐさは、予想外すぎた。

横目で彼を見る。

……そして一拍遅れて、ペンを取る。


《どんな“メリット”を求めてるのか、知りたい》


紙を返した。

今度こそ、簡単に切られると思った。


だが返ってきた答えは一言。


《どんなメリットだ?》


ミラは紙の端を軽く握ったまま、呼吸が止まる。

こんな返し——想定外だ。

つい横目で彼を見る。


視線がぶつかる。


一瞬、心臓が跳ねた。


ミラは慌てて視線を逸らし、

教科書でも壁でも何でもいい、そこに意識を向けるふりをした。


……アドリアンがこんな感じだなんて。

言葉が探せない。


返事を書くより早く、今度は別の紙が滑り込んだ。


ミラは開いた。


——ただの返事じゃない。

完全な“構成案”だった。


すでにテーマが決まっていて、論点、主張、扱うテック問題まで整理されている。


課題が発表されたばかりなのに。


この人、効率が異常だ。


ミラは一息置いて、返事を書く。


《努力はありがたい。

でも、私は人の影で頷くだけのタイプじゃない。

この授業でちゃんと学びたい。

ただの“はい”だけの相方にはならない》


アドリアンは唇をわずかに引き締め、再びペンを動かす。


《影はいらない。ついて来れる人が必要だ》


ミラはその文字を見つめた。

その“挑む”ような感じ。

ただ一緒にやるんじゃない——

“測ってる”感じ。


小さく息を吐き、また書き込む。


《あなたにも無理はしてほしくない。

でも私は話し合ってから決めるタイプ。

まず話そう。

そのあと返事する》


アドリアンはゆっくりと、その二枚目の紙を読む。

そして視線を上げる。


「……いい。授業後。」


とても短い返事。


ミラが一分後、こっそり横目で見ると——

彼の目はもうノートに戻っていた。

プロジェクト案に偽装された、ちょっとした“手紙”でした。

プライドと精度がぶつかるとき、先に折れるのはどっちなのか。

放課後、ミラは何て言うんだろうね。

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