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もしかして、私たちってお隣さん?
思ったより早く解散になり、学生たちはそれぞれ寮へ戻っていった。
偶然、ミラとアドリアンは同じ方向に歩くことになる。
静かな廊下に、二人の足音だけが淡く続いた。
ミラは横目で彼を見る。
歩き方は無駄がなく、姿勢は整っている。
白いシャツは今日も皺ひとつなく、袖は“おしゃれ”ではなく“習慣”として丁寧に折られている。
人と話すとき、ミラは自然に沈黙を埋めるタイプだ。
けれどアドリアンと並ぶと、その気配だけで言葉が喉の奥で止まる。
敵意は感じない。
ただ——少し遠い。
隣を歩いていても、別の空気の中にいるような。
それでもミラは、気まずさを長く引きずる性格ではなかった。
「……ご近所さん、みたいだね」
軽い調子でそう言うと、アドリアンは小さく頷いた。
それ以上は、何も継がない。
また静けさが戻る。
けれど、その沈黙は重くなかった。
距離は短い。
誰も無理に言葉を選ぼうとしないまま、歩みは止まる。
二人の部屋は、ちょうど向かい合わせだった。
ドアノブに手をかけながら、ミラは振り返る。
「またね」
アドリアンはほんの一瞬だけ動きを止め、それから静かに鍵を回した。
ミラは気にした様子もなく、ふっと微笑む。
こういう人もいる。
——それが、少し面白かった。




