昼下がりの氷の王子
真昼の陽が、枝葉のすき間からこぼれる。
まだ夏の気配を少し残した光が、中庭の石畳に淡い模様を描いていた。
風がかすかに吹き抜け、遠くの談笑が揺れて届く。
授業の合間にくつろぐ学生たちの笑い声が、ところどころで弾けた。
ミラはカミーユとエララと並んで石のベンチに座り、アイスティーをゆっくり口へ運んだ。
三人のお気に入りの場所。
人混みから少しだけ離れたこの一角で、週末の予定についてあれこれ話していたとき──
カミーユがそっとミラの腕を小さく突いた。
「見て、あれ」
カミーユが顎で示した方向へ視線を向ける。
歩道のそば。
アドリアン・ヴェイルが立っていた。
いつも通りの落ち着いた佇まい。
その正面に、小さく包まれた箱を差し出す一年生らしき女の子がいた。
贈り物。
声は届かない距離。
けれど、緊張で指先を落ち着かせられず、
期待するようにアドリアンを見上げるその表情が、場面の意味をはっきり示していた。
エララが小さく舌を鳴らす。
「……ああ、かわいそう」
理由は聞くまでもない。
アドリアンは視線を向けたまま、贈り物に触れもしなかった。
受け取らない。
反応もしない。
ほんの一瞬だけ少女を見つめて──そのまま横をすり抜け、言葉ひとつ残さず歩き去った。
中庭の空気が、一拍だけ固まる。
誰かの小さな息すい、抑えきれなかった苦笑、控えめな囁き。
「うわ……ひどい」
カミーユが目を見開いた。
「氷みたい」
エララは、胸に箱を抱えたまま俯く少女を見つめる。
「ほんとに、心あるの?」
ミラは眉を上げ、アイスティーをひと口。
「せめて一言くらい返してもよかったのに。あれ、きれいな贈り物だったのに」
カミーユがにやりと笑う。
「じゃあミラが試してみる? 反応引き出せるかも」
ミラは肩をすくめる。
「もし私がアドリアンに贈り物を投げ始めたら、頭を疑って」
エララがくすっと笑い、首を振る。
「何が起きても表情変えないタイプだと思ってたけど、本当に変わらない」
ミラは短く息を吐き、去っていくアドリアンの背中を見送った。
揺れない歩幅。
他人の好意が世界から切り離されたような横顔。
午後の光を浴びながら、彼の心はどこまでも静かだった。




