〜 30分前 ― ミラ視点 〜
〜 30分前 ― ミラ視点 〜
月が眩しすぎた。
ミラは眠れずに転がっていたはずなのに、気づいた時にはもう立ち上がっていた。
冷たい床に素足が触れ、手にはいつの間にかカメラがある。
考えてから動いたわけではない。
身体が先に動き、意識はそのあと追いついた。
画面をちらりと見た時には、もう深夜近かった。
そして次の瞬間には、外にいた。
淡い翡翠色の光が、校庭の向こうをふわりと漂っていく。
妖精の羽を思わせる蛾──導かれるような軌跡。
写真を撮りたかっただけなのか、それとも目を離せなかっただけなのか、理由はうまく言えなかった。
気づけば、整えられた生け垣の境界を越えていた。
足元で落ち葉がぱり、と鳴り、湿った苔と古い木の匂いが息のように漂う。
一歩ごとに、世界が後ろへ消えていく感覚があった。
闇に呑まれるみたいに、静けさが深まっていく。
光が変わる。
輪郭が柔らかく溶け、夢の縁へとにじんでいく。
樹々は教会の柱のようにそびえ、その幹にはかすかな銀色の脈が走っていた。
まるで森そのものが、光の神経系を宿しているみたいだった。
足元では、青白い菌糸が星座のように光を灯す。
上空では、蛍よりもゆっくりした微光の粒が漂っていた。
どこかへ向かっているのだろうか、そんな意志さえ感じさせる。
森が生きている。
育つだけではない──聴いている。
ミラはレンズを合わせ、巨大な根の間に生えた一房の菌へ視線を細めた。
青白い光。繊細なひだ。薄い霧のように光を吐き出している。
心拍が速まる。
息を殺し、膝をつき、手を安定させ──
──カシャ。
シャッターが落ちると同時に、菌が反応した。
青白い胞子がふわりと舞い上がる。
ミラは息を呑み、後ずさった。
遅かった。
煌めく粒子は生きもののように周囲を巡り、視界が揺らぐ。
森が歪む。
引き伸ばされる。
──違う。
伸びているのは森ではない。
縮んでいるのは、自分。
眩暈が一気に押し寄せ、四肢から重力が消える。
動かそうとしても、身体が思うように反応しない。
樹々が──
伸びていく……ように見えた。
違う。
伸びているのではない。
縮んでいるのは、自分だ。




