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エネルギー自給率を軽視してはいけない ~非合理的な思考に陥ってしまう人々

 2025年9月10日。アメリカの右派活動家で、トランプ政権とも近しい関係にあるチャーリー・カークさんが暗殺されてしまうという痛ましい事件が起こりました。この事件は非常に大きく報じられ、以前波紋を広げ続けています。そして、アメリカの左派活動家達の一部は、信じられない事に、この暗殺事件を祝福してしまったのです。

 そもそもが人道的にも考えられない反応ですが、暗殺を認める事は“暴力による言論の弾圧”や“人権無視”を肯定してしまっているのですから、彼らが掲げる思想とも相容れないはずです。

 つまり、この暗殺事件を祝福してしまった活動家達は、“自分達の思想を理解していない”事になります。

 

 ――何故、このような事になってしまっているのでしょうか?

 

 エコーチェンバーという現象があります。自分達で意見を言い合い、互いを肯定し続ける内に「自分達は正しい」と思い込み、疑う事ができなくなっていってしまうのです。そして、この過程でより過激になっていってしまい、本来の思想とはかけ離れていってしまう場合も多いようです。この状態に陥ると、本人達はその矛盾に気付かない…… または、都合よく無視をしてしまうようです。

 『サルとジェンダー フランス・ドゥ・ヴァール 紀伊国屋書店』という本で紹介されてあったエピソードなのですが(99ページ辺りから)、男女平等を訴えるフェミニズム団体(誤解されがちですが、フェミニズムは、本来は女性ばかりを優遇する思想ではありません)が、時を経るにしたがって男性差別団体に変わっていってしまったのだそうです。

 似たような話は宗教にもあります。例えば、キリスト教でもイスラム教でも本来金融ビジネスは禁止のはずですが、かなり無理のある言い訳をして実質的に認めてしまっています。

 日本の話だと、保守系の人が、「専業主婦思想は“大正時代”にアメリカから伝わって来たもので、日本のものではない」と述べているのを見た事があるのですが、専業主婦思想が伝わって来たのは明治時代のはずです。これは当時の安倍政権が女性の労働参加を促す政策を執っていたので、それを応援する為のものであったと思われますが、保守系の方々は明治時代を特別視する傾向が強いので、恐らくは大正時代と偽ったのではないかと思われます。

 このような事例は枚挙に暇がないので(出せと言われればまだまだ出ます)、どうやら人間には“信念系のど真ん中”になると合理性がなくなり、平気で矛盾点を無視してしまったり嘘や誤魔化しをする性質があるという事が言えそうです。

 これがまだ世の中にあまり悪影響を及ぼさない内容であれば、「仕方ないか」で放置してしまっても良いかもしれませんが、中には社会の存続にとってとても重要なものもあったりするのです。

 そして、近年でのその一つは、間違いなく“エネルギー自給率”でないかと思われます。

 

 現在、世界には分断化のリスクがあると言われています。

 良くも悪くも世界秩序の中心だったアメリカの影響力が弱まりつつあり、しかもアメリカ自身が“世界秩序を保つ役割”を担う事に前向きではなくなっている気配が感じ取れる点がその最も大きな要因でしょう。

 一例を挙げます。

 日米関係は地政学上、非常に重要であると言われています。

 日本はアメリカと中国の緩衝国家の役割を果たしていますが、緩衝国家が中立の場合は少なく、そして、緩衝国家が“どちら側”に付いているのかは、敵対する二国にとってとても重要になって来ます。

 もし、日本が中国側に付いたら、アメリカは非常に困った事態になり、その逆もまたしかりという事です。だからこそ、アメリカは日本が“アメリカ側の緩衝国家”となるように様々な施策を行って来ましたし、中国もなんとか日本を取り込もうとして来たのです。

 ところがアメリカ・トランプ政権になって、この状況に変化がありました。トランプ政権が日米関係軽視とも取れる政策を始めてしまったのです。

 2025年9月の段階で、関税を一律15%にする条件として、トランプ政権は日本に対し「令和の不平等条約」とも言われる酷い要求をして来ました。

 日本が米国に5500億ドル(約81兆円)を投資しなくてはならい上に、投資先の決定権はアメリカ側にあり、しかも利益の90%をアメリカが受け取るというのです。

 初め、トランプ大統領がこれを発言した時はアメリカ国内向けの誇張だろうと言われていたのですが、後にどうやら実際にそのような文章を交わしてしまったと言われるようになっています。

 実際にこの文章通りだとするのなら、これは“投資”とは呼べません。ほぼ献金のようなものでしょう。もちろん、日本人の反米感情は高まってしまいます。また、トランプ政権は台湾への軍事支援を承認しなかったとも報じられています。対中関係に対する配慮だとも言われていますが、以前からトランプ大統領は他国への軍事支援に消極的だった点を鑑みるのなら、それだけとは思えません。

 トランプ政権の“日本嫌い”は、第一次トランプ政権の前からですが、第一次政権の時はここまで日本に対して強い態度に出てはいませんでした。前述した通り、日米関係は地政学的にもとても重要ですから、説得されたのだろうと思います。

 つまり、日米関係の重要性を知っていながら、今回、トランプ大統領は、それを無視した政策を執っている事になります。

 因みに、日米関係はアメリカの対中戦略の要であるばかりではなく、東アジア一帯の秩序を保っているとも言われています。もしも崩れれば、何が起こるか分かりません。実際、中国VS他の国々といった構図でいざこざはしょっちゅう起こっています。大きく報道はされていませんが、2020年に中国とインドは山岳の係争地帯で衝突が起こしていますし、中国が人工島を建設している事は有名ですが、ベトナムも人工島を建設し、中国に対抗しています。

 もちろん、このような紛争の火種があるのはアジアだけではありません。世界中にあります。そしてそれにより秩序が保てなくなれば、世界の分断が起こってしまうリスクは十分にあるのです。

 

 ――では、その分断のリスクに備える為には何をすれば良いのでしょう?

 

 ここで僕が視聴したある動画の話をします。その動画主さんは保守系の人で、分断化リスクについて述べていました。そして、そのリスク対策についても述べていたのですが、彼は何故か「軍事力強化」しか挙げていなかったのです。

 もし仮に彼の案を採用したら、日本は瞬く間に窮地に立たされます。分断化の時代においては、これまでのように資源が自由に輸入できなくなりますが、それにはエネルギー資源も入っています。ですから、エネルギー自給率を上げる施策も必要になって来るのに、それがまるで考慮されていないからです。

 当然の話ですが、エネルギー資源がなければ社会は動かせません。どれだけ軍事力を強化したとしてもどうにもならないのです。エネルギー資源を豊富に持つ国は日本から遠く離れていますから、攻め込んで奪うといった方法も現実的ではありません。

 彼がどうしてエネルギー自給率の話題を避けたのかは容易に想像が付きます。エネルギー自給率を上げる為には、太陽光発電の話題は避けて通れないからでしょう。ご存知の方も多いでしょうが、何故か保守系の人達は太陽光発電を嫌っているのです。

 

 世界分断リスクに備える上で、エネルギー自給率を上げる事は絶対に無視できません。これまでのように資源が輸入できなくなって最も困るのがエネルギーだからです。他の資源は少なくとも原理的にはリサイクルが可能ですが、エネルギーはリサイクルができません。だから絶対に国内で生産しなくてはならないのです。

 「原子力発電に頼れば良いのではないか?」

 或いは、そのように考える人もいるかもしれませんが、原子力発電は燃料であるウラン資源を輸入に依存していますし、製造も運営も日本だけではできませんから、分断化リスクに備えるという意味で不安が残ります。

 また、分断化状態…… つまり、国際的な緊張が高まっている状態では、原子力発電のリスクは跳ね上がります。直接軍事兵器で攻撃されるリスクはもちろん、サイバー攻撃、核廃棄物を奪われ水源に投入されるリスクなどもあり、許容範囲を超えているのではないかと思われます。使用は難しいのではないでしょうか?

 更に原子力発電は建設に膨大なコストと時間がかかります。新規での製造を考える場合、今後の日本の状況によっては途中で頓挫してしまう危険もあります。そして、怖いのは原子力利権団体が「失敗しても構わない」と考えているかもしれない点です。建設が途中で頓挫しても、彼らはお金を稼げてしまえますから。

 もちろん、資源の無駄遣いをさせられるので、国民は困ってしまいますが……

 

 前述した通り、一部、太陽光発電を敵視している人達がいます。

 太陽光発電などの再生可能エネルギーは、化石エネルギーや原子力発電とライバル関係にあります。その為、ネガティブ・キャンペーンの被害に遭っているという側面もあるでしょうが(ドイツでロシアと繋がりのある政治家が太陽光発電に反対している…… なんて話も耳にした事があります)、知識不足からの勘違い…… 或いは、非合理的な思い込みで太陽光発電に反対している人も多いのではないでしょうか?

 もちろん、自然環境を必要以上に破壊していたり、中国系の企業が国の基幹産業であるエネルギー産業に関与しているとなれば問題視して当然なのですが、再生可能エネルギー全般に反対しているとなると、「もう少し冷静に判断して欲しい」と言わざる得ません。

 例えば、保守系の政党が“再エネ賦課金”に反対しています。もちろん、日本国民が損をしていると考えているからでしょう。では、本当にそうなのか、実際に計算式を観て確認してみましょう。

 GDPを求める計算式は、

 

 消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)

 

 ですが、“再エネ賦課金”はこのうち消費に当たります。説明するまでもなくGDPが増えます。そして、通貨は循環をしているので、これは収入も増える事を意味します(GDP 三面等価で検索すれば簡単に説明してくれている記事がヒットします)。

 要するに、支払った再エネ賦課金は我々の収入となって返って来るのです。だから、大きな問題にはなりません。

 ただし、再生可能エネルギーのインフラ設備の為には輸入をしなくてはなりません。その分は、マイナスになってしまいます。がしかし、再生可能エネルギーはエネルギーを生み出すので、エネルギー資源の輸入が減ります。その為、その差分を考慮に入れる必要があります。つまり、

 再エネ設備関連の輸入額 < エネルギー資源の輸入額

 ならば、再生可能エネルギーはGDPを増やす上で、何の問題もない事になります。

 そして、少なくとも太陽光発電に関しては間違いなくこれはプラスになるので、マクロ経済を考えると高い効果が期待できるのです。

 再エネ賦課金を批判している人達は、このマクロ経済の理屈を理解していないんです。

 ただし、公平を期す為に注釈を入れるのなら、経済成長して人件費が高くなった分、輸出産業に悪影響を与えはします。もっとも、それは他の分野で経済成長した場合でも同じで、再生可能エネルギーは、エネルギー資源の輸入が減る分、まだマシでしょう(因みに円安で輸出有利になったはずなのに、輸出量はほとんど変わっていないそうです。日本製品の需要は一定なのかもしれません。多少の価格上昇程度なら、日本の輸出産業に大きな影響は及ぼさない可能性もあります)。

 因みに、ペロブスカイト太陽電池が現在日本国内で注目を集めていますが、原料が日本で豊富に取れるので輸入依存度が低く、もし上手くいけば海外にも売れるので、更に期待値が高くなります。

 以上はビジネス上のメリットですが、再生可能エネルギーには前述した通り、“エネルギー自給率を上げる”というメリットも存在します。そしてこれには国際的に国の立場を強くする効果も期待できるのです。

 

 “エネルギー”は社会を支える根幹ですから、それを他国に依存しているというのは非常に脆弱な体制になります。ロシアのウクライナ侵攻時、ドイツがロシアに対して強気な姿勢に出られなかったのは、ロシアにエネルギー資源を依存していたからです。これはもちろんドイツにとってのウィークポイントで、ロシアと繋がりがあるとされるドイツの政治家が、太陽光発電に反対しているという話もだからこそ出て来るのです。

 当たり前ですが、このリスクは日本にもあります。

 エネルギー資源を他国に依存している状態では、もし仮に「言う通りにしないと、エネルギー資源を輸出しないぞ」と脅されたなら、日本は従わざるを得ません。

 現在は複数のエネルギー資源の輸入先があるので、リスクの分散ができていますが(と言っても、まだまだ不十分なのですが)、数十年のスパンで考えるのなら、何が起こるか分かりません。だからリスク対策をしておくべきなのです。

 そして、エネルギー自給率を充分に上げられれば、そのリスクを避けられます。もちろん、国際的な日本の立場も強くなります。

 保守系の人達にとって、これは充分過ぎるメリットではないでしょうか?

 

 世の中には様々な主張があります。

 サイエンスライターを名乗る人が、「太陽電池が失敗をした理由(なんと過去形です)」という動画を出していたのですが、その動画によると太陽光線は広い範囲に降り注ぐので、エネルギーがあったとしても有効利用できないのだそうです。その説明の際に植物が動けない理由はエネルギー節約の為だとかいった聞いた事もない話も披露していました(AIに質問したり、検索をかけてもらえば分かりますが、そんな説はありません)。

 もし、その話が本当だとするのなら、植物を育てる農業は成立しないはずですが、現に成立しています(因みに太陽光発電のエネルギー利用効率は、植物よりも遥かに上です)。熱力学第二法則を持ち出していたりするのですが、熱力学第二法則には“閉鎖系”という前提条件があるので、太陽光線が絶えず降り注ぐ地球には当て嵌まりません。多分、根本から何かを勘違いしています。

 この方が何をもって“太陽電池をが失敗した”と判断したのかは分かりませんが、オーストラリアなどの太陽光発電の適地では、わずかな年数で投資分を回収できます。関東にある我が家でも太陽光発電を導入していますが、円安による電気代の値上がりと日中の電気使用量が多いという条件下ではあるものの、現在、十分に投資分を回収できる見込みです。ペロブスカイト太陽電池には、弱光下での発電効率が下がらないという特性があるので、太陽光発電の適地は今後、広がっていく事が見込まれているので、利用は更に拡大していくでしょう。

 データセンターの建設や、AIの利用開発などで電力使用量が増えている要因もあって、太陽光発電の総電力に占める割合はそれほど増えていませんが、これをもって“失敗”と言うには無理があります。現在、電力使用量が極めて少ない半導体の開発が進んでおり(詳しくないので、間違っているかもしれませんが、“使用中の半導体のみに電力を使う技術”で、理論上は電力使用量が1億分の1になるのだとか。PS6では電力使用量が低くなると発表されているのですが、或いは、この技術を使っているのかもしれません)、実用化の目途も立っているらしいので、これで今後、電力使用量の常識が覆れば、状況は変わるかもしれません(そうなると、原子力発電計画にも影響を与えそうですが)。

 太陽光発電の普及があまり進んでいない理由は、政治的な問題やマクロ経済を政治家や官僚が理解していないからで、技術的な問題でもなければ、理論上の問題でもありません(資源は十分にある事が既に知られています)。

 どのようにすれば太陽光発電をもっと普及できるのか、漫画で描いたので載せておきます。

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)

 一応断っておくと、山林を切り崩しての太陽光発電の設置には僕も反対です。

 発電場所と電力使用場所をあまり離してしまうと、送電ロスによって電力が熱に化けて失われてしまいますし、太陽光発電で発電する直流電流をそのまま用いる事もできません。

 日本の送電網は、現在交流電流で送電しているので、太陽光発電で発電される直流電流を変換して交流電流にし、そしてまた使用する際に直流電流に変えるという面倒な事をしているのですが、太陽光発電を近くに設置しておけば、この変換処理が不要になり、その際に発生する電力ロスもなくせるのです。恐らく、10~15%のロスがなくせます。

 つまり、主な太陽光発電の設置場所は街中にするべきで、それでも足りなければ山林の活用を考えるべきなのです。優先順位が間違っています。

 

 余談ですが、動画などで完全に間違った知識を披露している人がたくさんいます。もちろん、多少は致し方ない面もあるのですが、流石に看過できない程に酷いものも中にはあります。例えば、

 「日本がインドに10兆円を寄付」

 などといった動画のタイトルを観た事があるのですが、これ、“寄付”じゃなくて、“投資”です。寄付と投資の区別も付いていないのか、それとも再生回数を増やす為にセンセーショナルなタイトルを付けたのかは分かりませんが、いずれにしろ酷いです。

 ちょっと難しい話になりますが、民間投資が増えると、実は国の借金が実質的に減る可能性があります。日銀当座預金は一種の国の借金と見做せるのですが、ここから民間企業がお金を引き出して投資に回せば、借金が減ったのと同じになるばかりではなく、投資で利益が出れば税収が増えて、国の借金を返せるからです。

 その動画はどうもこういった理屈をまったく分かっていないようでした。多分、国の財政と民間金融を混同しているのではないかと思われます。

 情報を仕入れる際は、十分に注意をしてください。

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