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追われる女魔王は39歳おっさん! 関西弁で村と共存すんねん   作者: ふりっぷ
第一章 女魔王編

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勇者の影、迫る

野島が築いた小さな平穏。

しかしその影に、かつての“勇者”が迫る。

畑で生きようとした魔王の行く末は――。

村での交流も上手くいき、

野島は、初めて心が安らいだ。


だが――


平穏は長く続かぬものだった。


ある日、村人の一人が耳打ちしてきた。


「なぁ、野島さん。

あんた……ほんまに、勇者に目を付けられとらんのか?」


胸の奥が凍りつく。


勇者――

女魔王を討ち滅ぼすために現れた存在。


もし今の自分が生きていると知られたなら、

村もろとも炎に包まれるのは必定だった。


その不安を裏付けるように、

ある晩、村の周囲に不審な影が現れる。


勇者の斥候か、それとも別の冒険者か。


息を切らし、ゴチが駆け戻ってきた。


「魔王様……

人間ドモが“黒い城跡”の方を探ってイタ、逃ゲルか?」


「俺が魔王だって……バレとるか」


野島は顔を覆った。


交易が広がれば広がるほど、

自分の存在は外へ漏れる。


恩を感じる村人たちを巻き込みたくはない。


だが、逃げればすべてを失う。


***


その夜、畑の端でコウが言った。


「俺は信じるよ、野島さん。

あんたが魔王かも知れないけど、

人として生き直そうとしてるんだって」


その“信じる”という一言が、

野島の背中をわずかに押した。


胸に温かな棘のように刺さる。


勇者の影は日増しに濃くなっていく。


村人の中には恐怖に耐えきれず、

「あらぬ疑いを掛けられる前に魔王追い出そう」

と囁く者もいた。


村長は悩みながらも告げる。


「……取引を続けるか、逃げるか。

決断はそなた次第じゃ」


野島は唇を噛んだ。


三十九歳のおじさんが魔王となり、

畑を耕し、村と共に食卓を囲む。


そんな奇跡を、手放せるわけがなかった。


「逃げるのが賢い。せやけど……もう逃げへん。

この畑も、ゴブリンらも、犠牲はたくさんや!」


野島は密かに魔王城に残した配下を気に病んでいた。

出会ったばっかりの俺にために戦って、

気が付いた主が城から逃げ出しとるんだもんな。


「ここが俺の居場所や!」


だが同時に――

それは勇者たちとの、避けられぬ衝突を告げるものでもあった。


***


野島は唇を噛んだ。


三十九歳のおじさんが魔王となり、

畑を耕し、村と共に食卓を囲む。


そんな奇跡を、手放せるわけがなかった。


「逃げるのが賢い。せやけど……もう逃げへん。

この畑も、ゴブリンらも、犠牲はたくさんや!」


野島は密かに、

魔王城に残した配下たちを気に病んでいた。


――出会ったばかりの俺のために戦って、

気が付いたら主が城から逃げ出しとるんだもんな。


「ここが、俺の居場所や!」


拳を握った。


だが同時に――

それは勇者たちとの、避けられぬ衝突を告げるものでもあった。


***


その日、村の朝は静かだった。


露が光る畑の端で、

野島――いや、女魔王となった彼は荷車の点検をしていた。


「今日は麦粉と干し肉。

これでまた一週間は持つやろ」


ゴチたちが整地した交易路は、

森の外れの小さな拠点へと続いている。


村人たちは最初こそ怯えたが、

誠実な取引の積み重ねで、

少しずつ信頼が芽生えていった。


「ほら見ろゴチ、これでゴブリンどもも冬越せるぞ」


「マスター、ヨカッタ。

人間タチニ、悪イコトシタ…」


「それがわかればええ」


野島は微笑み、

荷車を押して朝陽に向かって歩き出した。


――だが、その穏やかな時間は唐突に終わる。


その瞬間、村に“光”が降った。


天を裂くような聖光。


まばゆい輝きの中から現れたのは、

かつて彼を滅ぼした勇者一行だった。


白銀の鎧が朝陽を反射し、

聖剣の輝きが空気を震わせる。


若き勇者レイジが怒りを露わに叫ぶ。


「魔王! こんな辺境に潜伏しているとは――!」


野島が声を上げる間もなく、

聖女リディアが詠唱を開始し、

賢者クライが防御の加護を重ねた。


荷車に積んだばかりの農作物が吹き飛び、

土と光が舞い上がる。


彼らにとって“赤髪の女魔王”は、

災厄そのものだった。


「ちょ、待ってくれ!

俺は――いや、私は……違う、今は襲ってへん!」


若き勇者レイジの剣が、一瞬だけ下がった。


「魔王……お前は城を焼いた悪鬼だ。

だが、この村人の賑わいは……?」


勇者の瞳には、瘴気をまとう“魔王”しか映っていない。


だが、その背後にある――

人の営みと笑顔が、彼の心に迷いを生じさせていた。


しかし、その迷いは一つの叫びで断ち切られる。


「こいつがっ! 夜ごと森から現れ、

畑を荒らすゴブリンを率いてたんです――!」


村人の声。

恐怖と誤解が交じり合う叫びだった。


再び勇者の顔が強張る。

聖剣が構えられた。


「甘言でたぶらかすとは! 証言は十分だ。

魔王、貴様の最期だ!」


野島は静かに首を振る。


「村長に聞けばわかるー!

何も指示もしてへん!

なんなら魔王ですらないー! ほんまに違うんや!」


「俺達は魔王城攻略で、戦士バニングを失った!

今さら泣き言が通じると思うな!」


聖剣が閃光を放つ。


焼けるような痛みが胸を貫いた。

地に膝をつき、野島はかすかに笑う。


「……そっか。やっぱり、俺は人間の敵なんやな」


勇者が動きを止める。

胸から溢れた血が、地に落ちて花のように散った。


赤黒い雫が、露の残る畑の土を染める。


「……ほんま、これがオチか」


その笑みはどこか懐かしく、悲しげだった。


「けどな……

この村での生活は最高やったで。

俺はもう、誰も傷つけたくなかったんや……」


魔王の体は、まだ戦える。

今からでも勇者を道連れにできた。


(野島、このままでは死んでしまうぞ――!)


体の奥底から、

黒い炎のような意識が必死に叫ぶ。


だが、野島はその声に首を振った。


「もうええねん。……俺は、生き直せたんや」


指先に宿った黒炎をそっと消し、

ただの中年男として、静かに息を吐いた。


「あっけなさすぎる……」


勇者が眉をひそめ、聖剣を下ろした。

光が消え、静寂が戻る。


赤髪の魔王は、跪いたまま動かなかった。


「……マスター?」


森の端で見ていたゴチの声が震える。

誰も、彼女の笑みの意味を知らない。


ただその頬には、

満足そうな穏やかさが残っていた。


――おじさん魔王、ここに眠る。


戦わず、奪わず、

ただ“生きよう”とした者の最期だった。


だが、村の空に残る聖光の残滓は、

やがて優しい朝陽へと変わっていく。


ゴチの瞳に映るのは、守られた畑の緑。


野島の遺した芽は、きっと――また、芽吹く。

彼の選んだ“赦しの死”が、次の再生への布石となります。

――おじさん魔王、ここに眠る。

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