畑を耕したいのにゴブリンがすぐ略奪してくる件
魔王として異世界に転生した野島。
ようやく畑が芽吹き始めた矢先、
ゴブリンたちが「収穫」と称して近隣の村を襲ってしまった!
ゴチが進化してから、野島の生活は随分と変わった。
「マスター、土……替エル。瘴気、下ヘ落トス」
ゴチの提案で、ゴブリンたちは森の中から岩を運び込み、
畑を一段高く盛り上げた。
地面から漂う瘴気が植物に触れぬよう、
土台ごと隔ててしまうのだ。
さらに井戸からため池を作り、
瘴気を希釈して逃がす仕組みも考えた。
「なるほどなぁ……お前ら頭ええやん。
俺より百倍農業知ってるやろ」
野島は感心するばかりだった。
やがて小さな畑には芽が育ち始めた。
前のように黒く腐ることはなく、
青々と葉を広げている。
「おおっ! 今度こそ行けるんちゃうか!」
野島は胸を躍らせた。
やっとまともな食事にありつける――そう思った矢先。
数日後、ふと畑を巡回していた野島は違和感に気づいた。
「ん? なんやこの苗……?」
見覚えがあった。
畑に並ぶ苗のいくつかは、
どう見ても森には存在しない種類。
形の良い豆苗、瑞々しい葉を持つ根菜、
まるで畑仕事を心得た農家が育てたような整った苗だった。
「おい、ゴチ……これ、どこから持ってきたんや?」
問いかけに、ゴチは僅かに目を逸らした。
野島の胸に嫌な予感が広がる。
その夜、
焚き火を囲むゴブリンたちのささやきを聞いてしまった。
「ムラ……襲ッタ。苗、トッタ。マスター、ヨロコブ」
野島の血の気が引いた。
「……は? お前ら……村を襲ったんか!?」
笑顔で「収穫だ」と報告してきた苗は、
実際には近隣の人間の村から奪ったものだったのだ。
野島は頭を抱え、焚き火の前でうめいた。
「いやいやいや……あかんやろ!
盗みやぞ! 襲撃やぞ! 犯罪やんけ!」
ゴブリンたちはきょとんとした顔をしている。
彼らにとっては狩りも略奪も生活の一部。
そこに罪悪感などなかった。
「マスター、ナゼ……怒ッタ?人間、弱イ。問題ナイ」
ゴチが真顔で言い放った。
かつての野蛮さを残しつつも、
彼なりに野島を助けたつもりなのだ。
「問題しかないわ!
俺は魔王やけど……いや、魔王やからこそ、
こんなことしてたら勇者に即バレやろ!」
声を荒げた野島に、ゴブリンたちは怯えたように身を縮めた。
気まずい沈黙が流れる。野島は大きく息を吐いた。
「……お前らに悪気はないんやろな。
でも、俺は人間として……これ以上、村を傷つけるんは嫌や」
その言葉にゴチが口を開いた。
「マスター……人間、守ル? ナゼ?」
「俺は……ただ飯を食いたいだけや。
でもな、それで誰かを犠牲にしたら、
また俺は“駄目なおっさん”に逆戻りやろ」
自嘲気味に笑った野島を、
ゴチは黙って見つめた。
やがて彼は膝をつき、仲間に命じる。
「……聞ケ。以後、村ヲ襲ウナ。マスター、望マヌ」
ゴブリンたちは不満げに唸ったが、
リーダーであるゴチの命令には逆らえない。
焚き火の赤い光に照らされ、
野島はようやく少し安堵した。
だが問題は残る。苗が必要だ。
しかし村から奪うのはもう許さない。
「どうするかなぁ……
やっぱ自分の足で手に入れるしかないんやろな」
野島は決意した。森を抜け、人間の集落に近づき、
交易の手段を探るしかない。
魔王の姿を隠し、ただの旅人として。
「勇者に見つかったら終わりやけど
……ま、なんとかなるやろ。おじさん、図太いしな」
襲撃された村、暴走するゴブリンたち、
そして自分を探しているであろう勇者達。
すべての狭間で、野島魔王の農業奮闘は続いていく。
農業が軌道に乗りかけたと思ったら、
ゴブリンたちの“暴走”で一転大問題に。
次回、交易の旅路がどうなるのかお楽しみに!




